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「 同じ男にダカレルってどんな気分?」
「 え……?」
  頭の上から降ってきたその台詞には明らかに悪意が篭っていた。
  驚いて顔を上げると、僕を見下ろすようにして立っていたその子ともろに目があった。知らない顔だ。たった今終わった必修の教室にいるという事は同じ学部なのかもしれないけれど、少なくとも言葉を交わした事はないはずだった。
  そもそも僕に話しかけてくる女の子なんかいない。
「 水のカレシなんでしょ?」
  何も答えない僕に彼女は尚もそう訊いてきた。軽くカールされた明るい茶系の髪が肩にまで伸びている。もう9月だというのに袖のない服を上手に着こなした彼女は、すらりと背が高くスタイルの良い美人だった。
  ただ化粧の匂いがキツイ。水がつけてきた香りの中にこれはあっただろうか。
「 ねえ。好きなの?」
  名前も知らない彼女が訊いた。僕は次々と教室を出て行く他の学生たちを彼女の背中越しにちらと眺めながら「何が…」と小さく答えた。
  彼女はむっとしたようになって声を荒げた。
「 水の事好きなのかって聞いてんの」
「 君に…関係あるの?」
「 あるから聞いてんの。イライラさせないでくれる?」
「 ………」
「 あいつが男もイケるっていうのは私もみんなもよおく知ってる事だけど。それでもね、気持ち悪い。男がっていうんじゃなくて、相手の中にあんたみたいのがいるのが嫌」
「 は…?」
  彼女のその言葉に僕が思わず間の抜けた声を上げると、彼女はそんな僕をより蔑んだ目で見やってきた。
「 みんな言ってるよ。水のセフレはみんな言ってる。あんただけは勘弁って」
「 な、何なんだよ一体…」
「 あんたは本気っぽいじゃない」
「 ………」
  そのいやにきっぱりとした物言いに僕が思わず鼻白むと、彼女は余計に勢いづいたようになって細い眉を吊り上げた。
「 男のくせにウジウジしていつも1人でいて。何なの? 水が気紛れで相手しているのに本気になっていつも図々しくくっついてるし。水を自分の所には泊めないっていう皆の中の暗黙のルールも破ってるし。まあ今まで誰もあんたに教えなかったせいかもしれないけど」
「 ………泊めない?」
  半ば茫然として機械的にその単語を繰り返すと、彼女はよりキッと尖った目で僕の事を睨みつけてきた。
「 そうよ。水だっていつもそう言ってるでしょ。縛られるのは面倒だって」
「 ………」
「 それでもいいなら付き合う。そういう話でしょ」
  最後の方は僕にというより自分自身に言い聞かせているみたいに、彼女は足元を見つめながら吐き捨てるようにそう言った。ああ、この人は水の事が本当に好きなんだと思った。彼女から投げつけられた言葉に僕は確かに打ちのめされたはずなのに、僕は僕から視線を逸らし俯いたままの彼女にただそれだけを思った。
  彼女は水の事が好きなんだ、と。
「 本気になってるのはお前だろ?」
  その時、不意に彼女の背後からそう言う声がやってきた。僕たちが驚いて同時にそちらへ視線をやると、そこには周囲に疎い僕でさえ知っている人物が立っていた。
「 すげー八つ当たり。俺、女のこういうあからさまなの初めて見たかも」
「 ……なに? 涼一君には関係ないでしょ」
「 まあ、そうだけどさ」
  彼女から「涼一君」と言われたその人は、学内での超有名人だった。
  水も背が高くて二枚目で、実際こういう女の子が夢中になるくらにはよくモテるけれど、この人はまた別格だ。男連中から「どうしようもない奴」と言われる水とは違い、この人は男女を問わず皆から人気があった。
「 何かごちゃごちゃ他人責めても無駄なだけだし。お前はお前で頑張ればいいだろ」
「 何よ…分かった風に…」
「 悪い悪い。でも前から言ってるだろ? お前、普通に可愛いんだから、水みたいな外道はやめて他いけってさ」
「 ……じゃあ涼一君が相手してくれる?」
  ぶすくれながらも急に甘えた声を出す彼女に僕はびっくりして目を丸くした。たった今彼女の水への想いを実感したばかりだというのに、まるでいきなり天地が逆さまになったかのような気分だった。確かに、確かに彼女の本気を見たと思ったのに。
「 またな!」
  ワケも分からずに呆然としている僕の傍で2人はその後も何かを喋っていたようだけど、全く耳には入らなかった。ただ言える事は、彼女は教室を出て行く時には何だかもうご機嫌でさっぱりした顔をしていて、ここにいる「涼一君」に手なんか振っていて。
  彼もまた、そんな彼女に気さくに手を振り返していて。
「 俺、人間不信っていうか女不信になりそうだよ」
  彼女が完全に去っていってから彼は笑いながらそう言った。
  そうしてまたくるりと僕の方を顧みると、彼は実に気軽な口調で言った。
「 倉敷、だっけ?」
「 あ…うん…」
「 俺、剣涼一。涼一でいいよ」
  その人…剣涼一は僕にそう言ってからニコリと人懐こい笑顔を浮かべた。
  昼時だからか、僕たちがいる教室も大分人の数が少なくなってきている。それでも剣という有名人が普段は目立たない僕の隣に腰掛けるのを珍し気な視線で見やる者たちも何人かはいた。
  そんな周囲の状況にはまるで構う風もなく剣は屈託なく言った。
「 結構同じ講義受けてるけど、話した事はなかったよな」
「 うん」
「 さっきの奴も言ってたけどさ。水と仲いいんだろ?」
「 ………」
  警戒したように黙りこむ僕に剣は鼻だけで笑った。そしてさり気なく僕の背後に続く窓の方へと視線をやりながら続けた。
「 俺、あいつのこと高校の頃から知ってるけどロクな奴じゃないぜ。さっきみたいなトラブルはザラ。適当に付き合ってそれなりに楽しめればいいなんて、実際そんな相手ばっかじゃないだろ。今の奴みたいに、よせばいいのに本気になって。で、束縛嫌いなあいつにケムたがられて泣くパターン…結構見たな」
「 ………」
「 まあ今のあいつは…水ももう相手してないみたいだから、そのうち諦めて次いけると思うけどな」
  すいすいとよく喋る人だった。僕が何も発しない事もまるで気にする様子がない。
「 藤堂がさ」
  そして剣は唐突に言った。
「 あのバカが俺からも水の事お前に説明してやれって。お前が水につけこまれて大変そうだから何とかしてやりたいんだってさ。ワケ分かんねー奴だろ? あいつ。お節介が趣味なんだよな」
「 藤堂が…?」
  驚いて思わずその名前を口にすると剣は「そ」と頷いた。
「 けどさ、誰と付き合おうがそんなの人の勝手なわけだし。『お前はうぜえんだよっ』て蹴っといてやったから。あ、でもあいつに悪気はないんだよな、ホント。水がロクデナシってのは真実本当の事だし」
「 ………」
「 ただ藤堂の奴はよく分かってないみたいだな。お前らがあっちの関係だとかそういうの。……付き合ってんだろ?」
「 別に……」
  けれど言葉を出しかけた僕に剣は問答無用で先を続けた。 
「 あいつが他の奴に他人の話するなんて聞いた事ないよ」
「 え……」
「 勿論、誰かン家に泊まるなんて話も。居付くかないだろ、普通。あいつ、人間不信の猫だもん」
「 猫…」
「 そ!」
  剣は言ってからまた1人で笑った。
「 だから、ま、倉敷があんなのでも好きだって言うなら構ってやれば。あいつ、あれで実は結構な寂しがり屋なんだぜ。恥ずかしい奴」
「 寂し…」
「 それにお前らがくっついてくれりゃあ、俺も余計な心配しないで済む。あいつマジで時々俺に当たるからさ、俺の恋人とか分かったら本気で手ェつけてきそうでムカつくんだよ。まぁそんな事させないけど」
「 は…?」
「 じゃ、そういうわけだから。頼むぜ」
「 あ…っ」
  剣は自分が言いたい事だけ言えてすっきりしたのか、未だ途惑ったままの僕にはもう知らんフリで、立ち上がったと思うとそのままあっという間に教室を出て行ってしまった。僕はそんな彼の去っていった方向を見やりながらぐるぐると混乱する頭の中を整理しようと必死になった。
  けれどその中でぽっかりと突然湧いて出て来たのは剣の最後の言葉。
「 恥ずかしい奴……」
  僕はその台詞を無意識のうちに反芻し、そして急に居心地の悪さを感じてしまった。
  水の事じゃない、自分の事を言われたかのような気分だった。





  その日、水が珍しく夕方から僕のアパートへやってきた。
「 たまには俺が夕飯作ってやるよ」
  水はそう言って勝手に冷蔵庫を漁った後、「鍋でいいよな」なんて呟きながら、自分が買ってきた肉やうどん玉、それに僕が取り置きしていた野菜なんかをぽいぽいと大鍋の中に入れ、何やらぐつぐつとやり出した。
「 水、料理なんかできるんだ」
  僕の驚いたような言いように水は肩を揺らして笑った。
「 何だよ。まるでいつも作ってやんなかったみたいに。これくらいならできるよ」
  実際食事を作ってもらった事など1度としてないんだけれど。
  そんな事を思いながら、僕は僕に背中を向け鼻歌交じりに料理を作る水の事を、部屋にある卓袱台の前に座ったままじっと見つめやった。結局今日は剣に言われた事も気になって、また周囲の視線も痛くてすぐに帰ってきてしまったのだけれど、こうして水が来てくれたのなら家にいて良かったと思った。
  しかし水の方は突然どうしたのだろう。約束していたデートが面倒臭くなったのだろうか。
「 今日さ、涼一と喋ってただろ」
「 え…?」
  その時、菜箸で鍋の中をかき混ぜているらしい水が急にそんな事を訊いてきた。
  僕は意表をつかれてすぐに返事をする事ができなかった。
「 見たから」
「 え?」
「 教室で喋ってんの見た。廊下から」
「 ああ…そうなんだ」
「 涼一、イイ男だろ?」
  水が言った。
「 あいつって高校の頃から異様に女にモテんだよな。外面イイし…実際付き合いもいいしな。大学に入ってからあんま仲間とつるまなくなったって言うけど、こんな俺にも時々金貸してくれんの、あいつだけなんだ」
「 お金借りてるの?」
  多少驚いて聞き返すと、水は何でもない事のようにそれを認めた。
「 そう。あいつんちって金持ちだから」
「 ……ふうん」
  水は一体何が言いたいのだろう。何故だか不安な気持ちがして目を離せずにいると、水はそんな僕の視線を感じて鬱陶しかったのか、突然ふうっと1つ大きな息を吐いた。
  そして言った。
「 頭も顔も良くて金も持っててみんなの人気者。まったくよく出来てるよな。ひどい話だろ、世の中なんてさ」
「 ……どうしたの水?」
「 あいつ、会う度言うんだ。俺の事『お前ロクデナシだろ』ってさ。真実本当の事だから返す言葉もないけど」
「 ………」
  今日の剣と全く同じ事を言っている。急に水の背中が小さくなったような気がして、僕は身体を揺らした。けれど立ち上がるまではいかなかった。
「 でも、たとえ真実でもああいう出来た奴に言われるとすげえむかつくな。何かとんでもない嫌がらせしたくなるよ。……たとえばあいつの彼女に手を出すとか」
「 や…やめときなよ…」
  実際そこまではしないだろうと思ったけれど、僕の声はどこか震えた。水が僕以外の誰か別の人間にちょっかいを掛け、寝る事には慣れている。だからその事自体に震えたわけではなかった。水が剣という友人に対し、らしくもない暗い感情を抱いているのが嫌だったのだ。
  そんな僕の心意など知りようもなく、水は全く違う方に受け取ってまた笑った。
「 嘘々、安心しろって。あいつの女、学内の誰も知らないの有名なんだぜ。俺みたいのがいるから警戒してんのかね」
「 ……何か。今日の水、おかしいよ…?」
「 そうか? どこが?」
  平然と答え、それから水はぱちりとコンロの火を止めた。「できたぜ」、そう言って振り返った彼のその顔はどことなくやつれているように見えた。
  だから自然僕も眉をひそめてしまった。
「 どこがおかしい。キミ?」
  僕のそんな表情を見据えながら水が訊いた。静かな声だった。
「 どこがって…。よく分からないけど…。でも普段はそんな風に他人の事話したりしないじゃないか」
「 ………」
  そうだ。僕自身、水に言いながらその想いを強くした。
  水はいつでも他人に関心がなくて、いつでも誰かといるくせにその実その誰も見つめてはいない。だから僕は耐えられていた。彼が僕以外のどんな男女と身体を繋げていたとしても、結局彼はその誰にも自分を見せていないし、興味がない。
  どうでもいいんだ。


  ああ、それならどうして。


「 どうして…」
  思わず僕が口元で呟くと、水がぴくりと肩先を揺らした。
「 何だよ?」
「 ………」
「 何だよ、キミ」
「 ……どうして」
  だから僕はもう我慢できずに訊いてしまった。
「 どうしていつもは他人の話なんかしない水が…女の子たちに僕の話なんかしたの」
「 ………」
  何も答えない水の顔は見られない。僕は咄嗟に俯き、押し出すように言葉を続けた。
「 最初は…水は僕の事を突き放す為にみんなに話すんだろうって思ってた。自分が最低な奴なんだって僕に教える為に、僕の事をみんなに酷く話してるんだろうって。水は自分をロクデナシだなんて言うけど、僕はそうは思ってないから」
「 言っただろ、キミ」
  必死になっている僕の話など彼には迷惑なだけだろう。僕の声を掻き消すようにして水は言った。
「 やめろよ、そういう話。俺、言っただろ。俺は最低の奴だって。お前の言う通り、俺は他人の事なんかどうだっていい。興味ない。だからそいつらが不幸になろうがどうしようが知った事か。俺はやりたいようにする」
「 ……水」
「 お前の話、女とかにしたよ。お前の言う通り。お前は俺に惚れてるから俺の言う事きく便利な奴って、そういう話した。このことお前にもそのうち伝わるだろうって知っててした。お前の言う通りなんだよ。それ聞いたら、お前は俺には本気にならないだろ?」
「 ……意味ないよ、そんなの」
「 そうか? 実際そのお陰でお前は俺に対してブレーキ掛かってるだろ?」
「 ……ブレーキ?」
「 こんな俺には本気になりようがないだろ」
  水は怒ったようにそう言った。
  水のその声は下を向いている僕の頭にどんとやってきて、やがてじわじわと僕の脳内を侵食していった。僕は水のその声色を聞きながら、何故水にここまで言われて、それでも尚僕は彼の事を嫌いになれないのだろうと思った。
  嫌いどころか、僕はこんな事をムキになって言う水の事が本当に好きで好きで堪らなかった。きっとどうにかなってしまったんだという程に、僕はもう十分水に溺れてしまっていた。
「 ……水が何しようが僕には関係ないんだよ」
  だから僕は素直に言った。
「 水が何をどう言おうが…そんなのは僕の気持ちとは無関係だ。僕が水をどう思おうが、そんなのは僕の勝手だろ」
「 ………」
「 僕の部屋に来てくれる水が好きだ」
「 ……便利だからだよ」
「 うん」
「 お前は勘違いしてる。お前は俺の特別なんかじゃない」
「 うん」
「 俺に特別な奴なんかいない」
「 知ってるよ」
「 ………俺は」
「 水。重くて悪いけど…。駄目だ、止まらないよ」
「 ……お前に俺の何が分かる?」
「 ………」
  そう言われて僕はようやっともたげていた重い頭を上げた。 
  水はもうとっくに僕のことを見据えていた。やっぱり怒っている。不機嫌だ。それでも揺ぎの無いその瞳は綺麗で真っ直ぐで、水はやっぱり最低なんかじゃないと思った。
「 うん」
  だから僕は殆ど反射的に頷いていた。
「 分からないけど…。でも僕は水が好きだよ」
「 ………俺は言わない」
  水は頑なにそう言った。
「 俺はお前を好きじゃない」
「 ………」
  僕はそんな水を見つめながらようやく身体がふっと軽くなるのを感じた。知らない間に立ち上がっていた。
  おかしな気持ちだった。「お前を好きとは言わない」、そう言われてしまったのは紛れもないこの僕自身だというのに、この時はそう言っている水の方がひどく寂しく辛そうに見えた。
  僕は水の今までの生活や、彼が何故こうまで人と深く関わる事を避けようとするのか、その訳を知らない。訊いた事がないからだ。好きとか愛してる、そういうのはなしなと言った水に僕は「何故」と訊けなかった。そんな余計な事をして水が僕から離れてしまったら嫌だから。僕は水に嫌われるのが怖かったのだ。

  俺はお前を好きじゃない。

「 ……水」
  でも今は何だか逆だ。何となくそう感じた。
  水は事ある毎にすぐ言った。お前を好きじゃない、俺はお前を好きじゃないと。でも今その台詞を聞かされても僕は傷つかなかった。
  「それ」を言ってしまったら何かが変わってしまうと、そう怯えているのは水の方ではないのか。
  それほどにこの時の水はどこか弱気だった。東京に出て来たばかりの頃、右も左も分からずに見知らぬ人間に囲まれてただ不安で。誰かに縋りたいのにそれができない、そんなあの時の僕と今の水とがだぶって見えて仕方なかった。
  寂しがり屋。
  僕と同じ匂いを持つ人。
「 ……別にいいよ。僕もそんなの望んじゃいないから」
「 ………」
  だから僕は笑ってそう言った。水を困らせたくない。既に水を好きだと言って十分困らせているけれど、それくらいは許してもらおう。とことんまでは懐かない、その彼の理想のスタンスは崩さないでおくから。
  そう、僕は猫になるんだ。
  ああでも、それは……。
「 何だか…な。似てるな」
  水に聞こえないくらいの声で僕は小さくそう呟いた。そして後はこの気まずい空気が何て事ないものだというような顔をして、そ知らぬ風で彼の傍に歩み寄った。
「 これ、もう出来たの?」
  水の横に立って、僕は湯気がもうもうと立っている鍋の中身を覗き込んだ。急にお腹が空いたと感じた。思えば半年も一緒にいたのに、こうしてこんな時間に一緒に鍋をつつくなんてした事はなかった。
  その初めてが、僕は今信じられない程に嬉しかった。
「 美味しそう」
「 ……絶対美味いよ」
  僕の言葉にようやく水が返してくれた。
  そして本当に一瞬、水は僕の手の甲にちらと触れてきて、それに反応を返し顔を向けた僕の唇に自分のそれを重ねてきた。
「 あ……」
「 こんなの食べたら、キミ、また俺に惚れるかもな」
  キスした事には何も触れず、水は唇を離した後おどけたようにそう言った。そうやって僕を見る目はとびきり優しい光を発していた。
「 ……うん」
  だから僕も安心して笑い、自分もちょこんと水の手の甲に自分の手を触れさせた。
  水はそれを嫌がったりはしなかった。
「 飯、食おうぜ」
「 うん」
  僕は水の言葉にこくりと頷き、「食べる」と返した。


  水の方からくれなくてもいい。その分僕が水に言う。
  僕は水の事が好きで、だからずっと一緒にいたい。




 







雪が絡まない時の涼一ってえらく普通の人だと思います。
あ、でもキミに話しかけてんのは水が雪へちょっかい出さないようにする為だけど…。