変わらぬ2人 |
熱に浮かされ喘ぐ顔、快感に悶える白い裸体をいつでも視界に留めていたい。 だから涼一はセックスの時、大抵雪也にわざと苦しい体位を強いてしまう。 「あ…あ、あっ、ん…っ!」 「……っ!」 雪也のモノを絶えず愛撫しつつ、涼一が激しく抜き差しを繰り返し腰を揺らすと、それに呼応するように愛しい唇は荒い息を吐き出した。 「ん、んっ…。ひ、やぁ…ッ」 白い胸が苦しそうに上下に動き、苦痛と快感で混乱したようになった指先が何かに縋るようにぎゅっとベッドのシーツを掴んだ。 涼一はそんな雪也に眉をひそめる。 こんな風にあからさまに両足を開き俺を受け入れているくせに、何故その細腕をこちらに伸ばしてこないのか。 今夜の事に対する抗議のつもりだろうか? 「目…開けよ…っ」 「……ッ…」 「雪…!」 貪欲に、何かに急きたてられるように。 涼一はこの日、雪也を攻め続ける事をどうしてもやめられなかった。ギシギシとベッドを軋ませながら、既に大きく開脚している雪也の内腿を更に手でこじ開けるようにして、涼一は一旦出した自分のモノを再度ぎっちりと雪也の中へと埋め込んだ。 「ひ…んぅ…!」 「すっげ…。咥えこむ…」 「涼…っ」 「雪の中、凄いな…。本当…いつも…!」 「あ、んあぁっ!」 もう限界などとっくに過ぎていて呼吸をするのも困難なほど乱れているのに、涼一はそんな雪也を更に追い詰めるように腰を進め、中で更にめちゃくちゃ掻き回し煽ってやった。 「やあぁっ!」 「ふっ…く…!」 もうやめてと、雪也は懇願するように目を開いた。瞬間、ぽろりと頬を伝って落ちた涙は、まるでこの行為を強いている涼一を責めているように見えた。 「……っ」 涼一はそんな「被害妄想」に勝手にムキになり、雪也の涙で濡れた頬を片手で強く掴まえた。そうして枕に頭を押し付けるようにして黙らせると、最後の一振りとばかりに強く打ち立てて一人で果てた。 「ひぅっ…」 容赦なく中に精をぶちまけられて雪也は小さく泣いた。 「………」 そんな雪也を眺めながら涼一はゆっくりと手を離し、身体もずるりと引き抜いた。 「あっ…」 「……煩い」 意地悪く言ったものの、居た堪れない。 涼一は自分の発したその言葉に傷ついたような顔をしながら、それを誤魔化すようにすぐさま雪也の元へ向かい、その小さな唇に噛み付いた。 「ぐっ」 「……雪」 1度離して名前を呼ぶ。相手が涙で滲んだ目でこちらを見ているのが分かり、それを戒めるようにもう一度今度は押し付けるようなキスをした。何度も何度も角度を変えて唇を重ね、隙を見て中にも忍び込んだ。好きなように舌を絡めとり、雪也の唾液すら愛しくて涼一はそれをきゅっと吸い取った。 「あ…涼…涼一…っ」 「くっそ…」 「あ!」 その虚ろな顔を見ただけでもう我慢できず、涼一は再びすぐさま雪也の中へ自分の性器をねじ込んだ。熱を帯びるのが異様に早い。全部雪也のせいだと思った。 「や…!」 すると雪也が初めて抵抗するように首を振った。だらりと下げていた腕を涼一の肩先へ目指すように伸ばし、やめてと言うように顔を逸らした。 涼一の胸がどきんと高鳴った。 「何…だよ…?」 「…ハァ…んっ…」 何度か息を吐き出して呼吸を整えた雪也は、自分の中に挿入ったまま動きを止めている涼一を今度はしっかりと見つめてきた。潤んだその瞳に涼一が動揺している事に気づいているのかいないのか、雪也は暫し息だけして沈黙していた。 けれどやがてゆっくりと唇を動かすと。 「今日、どうか…した…?」 「………何で」 努めて冷静なフリをして、涼一はそう答えた。やっぱり勘付かれている。当たり前だ、今日は雪也をマンションに連れ込んだ途端、相手に何の猶予も与えずにベッドへ連れ込み事に及んだ。勿論、「そういう事」をしたのは今日が初めてではないし、少しでも気に食わない事があれば涼一は雪也を決して離さない。理由は色々だけれど、大抵は雪也が他の誰かと仲良くしたり、あの母親を自分との約束よりも優先しようとした時にやらかしてしまう。 というか、そんな事本当に日常茶飯事だ。 ただ今夜は雪也にも思い当たる事がないのだろう。荒れている涼一を心配しているようだった。 「俺…また何か…しちゃった…?」 「………」 「涼一を怒らせるような事…した?」 「してないよ」 すぐに答えたけれど、雪也は納得していないようだ。所在な気に涼一の差し出された指先を自らのものと絡めながら、雪也は伏し目がちに続けた。 「でも今日の涼一…。いつもより機嫌悪いよ…」 「………」 「教えて……」 「気持ちよくない?」 「え……」 自分の台詞に雪也が鈍く反応した事で涼一は途端きっとなり答えた。 「俺として気持ち良くない? だからそんな事訊くんだろ?」 「ちが…ちがう、よ?」 「………」 「涼一に抱いてもらうの…嬉しい…」 「俺…っ」 雪也の優しい言葉に涼一はがっくりと項垂れるとハアと息を吐き出した。 「……俺だって分かってる。こんな…」 涼一は言いながら叱られた子どものようにしゅんとし、直後雪也の中からずるりと身を引いた。 「あっ」 雪也はそれにもろに反応を示し、目を閉じた。 「………雪」 そんな雪也を涼一はじっと見つめながら呼んだ。 そう、いつも理由がある。雪也を乱暴に抱く日は。 母の待つ家へ帰りたがる。大学の連中と仲良く話す。護と連絡しあった事なんかを楽しそうに報告してくる。 全部気に食わない。 でも、今夜は。 「……雪。もう淦へは行くな」 「え…?」 雪也のぼんやりとした視線からわざと目を逸らし、涼一はぽつりと言った。 「行った通りの意味だ。もう創の奴とは会うな。喋るな」 「何で…?」 「あいつが…お前のこと好きだから」 「え?」 「本当だっ。あいつがそう言った!!」 「………」 きっとして声を荒げると雪也は心底驚いたようになり、口を閉じた。 それで涼一の胸はより一層昂ぶった。 何気なく言っただけの台詞。「お前、雪を狙っているんだろう」、いつもの決まりきった何てことのない台詞だ。いつものようにかわされるだけ。創の呆れたようなため息交じりの言葉を涼一は心のどこかで期待していたのに。 あの男はこともなげに言ったのだ。雪也が好きだと。雪也にひどい事をしたら自分が黙ってはいないと。 「あいつは…護より危険だ!」 涼一は叩きつけるようにそう言い、がばりと雪也に抱きついた。 「りょっ…」 仰向けになったまま未だ涼一から与えられた熱にぐったりしていた雪也は、自分に覆いかぶさってきた涼一を受け止めさせられて困惑したような声を出した。けれど涼一がびくとも動かず身体を重ねてくるので、やがて雪也は静かになった。 「涼一…」 そして雪也は言った。 「俺、涼一が一番だから…。本当だよ?」 「雪…?」 その言葉に嬉しくて涼一は思わず顔を上げる。 しかし、そう思った直後。 「だから…あの、俺、創と会うのが駄目なんて…嫌だよ…」 「!!!!!」 「できないよ、そんなの…だって…」 「雪……」 「りょ…? あの…」 「こんの………バカ野郎〜〜〜〜!!!」 「ひっ…」 結局のところ。 自分が情緒不安定になって雪也に酷いことをしてしまうのは、この鈍感な恋人自身にも責任があるのだと涼一は思う。 「涼一、今夜はもう……あっ!」 「煩いっ。今夜どころか! もうずっと! 一生このままヤり続けてやるー!!」 「……ッ!!!」 暗く重苦しい雰囲気だった部屋の色が、今度は妙にギラギラと殺気立った空気と切羽詰まったものにとって代わる。 2人の関係はまだまだ大いなる問題が山積しているようだった。 |
了 |
成長のない2人ですな…。
創にからわれてるって線が濃厚では。