逢坂康久(おおさか やすひさ)魂の叫び

7月5日 晴れ


絶対絶対絶対絶対間違いないって!!!!
………ゼーゼー。

俺は本来、人の噂話とか恋愛沙汰には全く興味がない。だって俺の事じゃないから。関係ない。
だからこの件も本当にもう忘れようと思っていた。気にするのはやめようと。
……しかし神様は俺にそうする事を許してはくれなかった。そう、これは神様が許してくれなかったんだ!!決して、断じて、これは俺の意思なんかではない!!……はず。
何の話かというと…ていうか、どうしてこれは単なる俺の心の中のつぶやきなのに誰かに語りかけるみたいに言ってんだ…まあ、いい。と、とにかく、何の話かというと、涼一と桐野の件だ。
その、「涼一は桐野に惚れている」疑惑。
ちなみにあいつらに一番近い存在である藤堂は俺のこの考えを頭から否定しやがったが、奴はアホなのであまり気にしないでおく。
しかしその後、電話で話した時の涼一の反応によって、俺はこの疑惑はもう自分の記憶から消し去ろうと思った。一度はそう思ったのだ。…さすがにあの恐ろしい口調で「殺すぞ」まで言われては、もうどんな疑問にも目をつむるしかないと。

しかし…しかししかししかし!!

俺は気づいてしまった。というか、その日を境に自覚してしまった。
つまり…桐野雪也は「結構いい」ってことに。
いいって言うのは…つまり、うまくは言えないが、とにかくイイんだって(焦)!!
前から桐野とは折角同じサークル仲間にもなったんだし、少しは話してみたいとか、そういったある種の欲求はあった。けど、あの日からはとにかく余計にあいつの事が気になって、涼一がいるところでもそれとなくあいつの事を盗み見…言葉悪いな、とにかく見てたりしたのだ。
その結論としては…その、何というか桐野は笑うと本当に可愛い。もうこの際開き直って言い切ってしまうが、あいつは可愛いという言葉が一番しっくりくる。確信した。顔立ちはどっちかっていうとその落ち着いた物腰に似合うしっとり美人系なんだけど、でも形容するなら可愛いだな、うん。しみじみ。この間物凄くむかつく、女だろうが何だろうが脳天から踵落しを決めてやりたい馬鹿オンナと飲みに行ったから余計にそう感じる。
結論、桐野は癒し系だ!!
本が好きで、よく図書館に1人でいるとは聞いていたが、この間はそこで何か小難しそうな物にひどく没頭してる姿を見て…こう、何というか、すっげえいいものを見てしまった〜みたいな、とにかくかなりシアワセな気分になったのだ。
こんな俺は変態なんだろうか…一瞬、そんな思いも脳裏をよぎったが、この間は桐野のストーカーを自認しているサヤから、桐野は菓子作りの本まで読んでいるらしいという話を聞き…!!
……それで更に1人で興奮している俺がいる事に気づいてしまった(汗)。

言っておくが俺は至って普通の男だ。ゲ○だ何だって人の事を差別する気持ちは全くないが、俺自身は男に欲情する性質は持っていないと思っている…思っていた…いや、今だってそういうのはないはず…!!…多分。
けど、遂に今日。あ、やっと今日の話になったか。とにかく今日。
涼一がいない、藤堂と2人で連れ立ってやってきた桐野には真面目に眩暈を感じた。
慣れない俺らの群れの中に突然放り込まれて困っているような顔。
それでも一生懸命俺らに笑いかける顔。
……凄すぎる。やばいほどイイと思ってしまった。
だからだろう、周りの奴らになんか全く意識が行かず、桐野にメシ持ってきてやろうか?なんて。
傍から見ても俺自身からも、「どう考えてもそれお前おかしいだろ!」な発言までしてしまった。みっともねえ…(汗)。桐野、あからさまに面食らってたし。
いやでもそんなところも…ああくそ!いや、今はそんな俺のおかしな思考回路の事はどうでもいいんだよ!

問題はあいつ!
そう、涼一のことだ!!剣涼一!!
冒頭の台詞に戻る。
絶対絶対絶対絶対間違いないって!あいつはアヤシイんだって〜〜!!!
あいつら絶対デキている〜〜!!!
……何なんだ、皆どうして気づかないんだ?涼一は俺らの所にやってくると真っ先に桐野の隣に座り、「電話したのに」とか何とか、少々僻みっぽい言い方をしていた。俺の知らない所で勝手してるなよって感じの言い方でさ!!あれ、そう思ったのは俺だけか?くそう、とにかくそんな感じだった!!
で、涼一はとにかく俺らの仲間内じゃ人気者だから、その時は色々な奴らが話しかけてきていて、あいつもそれなりに話を合わせてやっていた。
けど!!
桐野からは注意を外さねえ〜!!かなりすげえ!!桐野は全く気づいていないようだったが。
だから俺はあの時、もう涼一を怒らせたりするような事はすまいと誓っていたはずなのに、あいつが希美ちゃんたちと話しているところを見計らって「わざと」桐野に親しげに話してみたんだ。
ま…話したかったからなんだけど。
そしたらあの涼一の野郎は桐野のことを「雪」とか相変わらず甘ったるい呼び方したと思ったら、いきなりあいつの腕を引っつかんでもういなくなっちまった。俺らの事は無視かよって勢いで。
即行で。
よっぽど俺と…いや、自分以外の奴と桐野が話すのが気に食わないらしい。
これが怪しくなくて何なんだー!!
何も気づかない俺らの仲間は何なんだー!!どいつもこいつも藤堂(アホ)か?!

……それとも俺だから、だろうか。
今、桐野雪也という奴のことが気になって仕方ない、いつも見ている俺だから?
だからあの2人のタダ事じゃない空気を感じ取ってしまうのか……。
何にしても。


藤堂「それにしてもあいつらホント仲いいよな〜。何か微笑ましいよな!」


……いい年した野郎2人があんなべたべたして絶対不自然だろってところをだな!
あんな呑気な風に呟くアホ(藤堂)はホントマジおかしいって話なんだよ!
それ違うだろって話なんだよ!
だから、そのアホはとりあえず放っておいて。
俺は今後更に桐野に近づくべく、涼一の隙を狙いたいと考えている。証拠を掴んでやる!!あいつらは絶対にただのオトモダチなんかじゃないんだからな。
俺にはそれを探る権利がある。
何故なら…それは、その事は俺自身の事とも深く関係してくる事なんだから。
俺は自分の気持ちを確かめたいんだ。
このざわざわとした胸の中のものが一体何なのかって事を…。



【完】