幸福な王子
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昔むかし、ある国に、それはそれは美しく賢い王子がおりました。しかし王子はある日突然の病で亡くなってしまい、それを嘆いた王は王子に模した像を造らせ、それを城下町の中心に設置しました。国民が永遠に、この素敵な王子のことを忘れないようにするためです。 像はルビーやサファイア、ダイヤ等、色とりどりの宝石で彩られて見るからに豪華だったため、彼の生前の裕福さを羨む人々によって「幸福な王子」と呼ばれました。 また、この王子像の元へは、その身に着く宝石を狙う泥棒たちが次から次へとやって来るのに、どうあっても宝石を抜き取れず、さらにそれを狙う悪党には漏れなく災厄が降りかかったため、その不吉さから裏では「呪いの王子」と呼ばれるようにもなりました。 「ふー、疲れた。おぉ、これが噂の王子像か。丁度良い、この像の肩にとまって休ませてもらおう」 ある日、一羽のツバメが王子像のある町の広場へやって来ました。彼は何事にも鈍くさく、一緒に旅する仲間からも置いていかれて独りきりでしたが、何とか南の国へ移動しようと頑張っている最中でした。 「おい、デブツバメ。何を勝手に人の肩にとまっていやがる」 そのツバメに、石像であるはずの王子像が突然、声をかけてきました。ツバメは驚いて飛び上がりましたが、確かに自分に声をかけたのは王子像です。町行く人々は気が付いていませんが、王子のサファイアの瞳は怪しくツバメを捉えています。 「も、申し訳ありません、王子様。まさか王子様が生きていらっしゃるとはつゆ知らず…」 「ふん、俺は無敵だ。それよりツバメ。お前の名前は?」 「は…わたくしは、トードーと申します」 「そうか。俺の名はリョーイチだ。ところでトードー。偉大なる俺の肩を貸してやったんだ、お前にはひとつ、俺の言うことを聞いてもらうぞ」 「へ、へへーっ。何でございましょう?」 「あそこの家にユキという美人がいる。あいつに、俺のこの刀の鞘についている宝石を渡してくるんだ」 「は…それはまた何故に?」 「ユキの家は母親がアル中のロクデナシだから、いつも家の仕事を全部あいつがやっているんだ。それで、この間その無理が祟って風邪を引いたらしい。ユキの家は貧乏だし、医者を呼ぶにも金が要るだろう。だからこの宝石を届けてやるんだ」 「何と! 口の悪い王子様と思いましたが、実はとんでもなくお優しい方ではありませんか! そうと分かれば、喜んでお引き受けいたしましょう」 「ちゃんと俺からの贈り物だと言えよ」 「は…? は、はい、分かりました!」 ツバメのトードーは、口は乱暴ながら紛れもなく「善行」を積もうとする王子に感動し、勇んで宝石をユキなる青年の元へ運びました。不思議なことに、どんなに腕の良い泥棒でも取ることのできなかった宝石を、この時はあっさり外すことができたのです。 「コンコンコン。すみません、すみません」 宝石を口に咥えたトードーは、窓ガラスをコツコツと叩いて、傍で床掃除をしているユキ青年に話しかけました。 「ツバメさん…? どうしたの? 随分と季節外れだけど…早く南の国へ行かないとあっという間に寒くなってしまうよ?」 トードーに気づいたユキ青年は、優しくそう語りかけてにこりと微笑みました。なるほど、身なりは貧相でも、とても心が清いのが分かります。トードーはそんな青年に心が温かくなる思いでしたが、彼がコホコホと咳込んでいるのを見てハッとし、慌てて口にしていた宝石をコトリと窓辺に置きました。 「この宝石を使って、貴方の病気をきちんとお医者に診せて下さい。これはリョーイチ王子様の宝石です。王子様が貴方の為に、どうかこの宝石を使って欲しいと」 「リョーイチ王子様…? あの先日亡くなられた…? まさか…」 「本当です! 王子様は不死身だそうです。今はあの広場で石像になっておりますが、きちんと生きておられて、貴方のように困っている国民を助けたいと思っていらっしゃるのです! 私はその精神に感動して、そのお手伝いをさせて頂いております!」 「でもこんな高価な物、いきなり受け取れないよ…。ツバメさん、そのリョーイチさんという人の所へ連れて行ってくれる?」 「駄目です、貴方は風邪を召しておられるのですから! せめて風邪が治ったら! それまではこの王子様からのご厚意をどうか、どうか受け取って下さい!」 「あ、ツバメさん!」 ユキ青年が宝石を受け取ってくれなかったら大変です。トードーは早口で言い終えると、そのまま飛び退ってその場を離れました。 そうして王子の所へ戻ると、ハアハアと息を継ぎながら報告します。トードーはでぶっちょなので、ちょっと全力で飛ぶだけですぐに疲れてしまうのです。 「ゼエハア…お、王子様。宝石は無事、あの青年の元へ届けて参りました!」 「ああ…俺には千里眼の能力があるからな、ちゃんと見ていた。……てめえ、よくもユキにあんな可愛い顔で微笑まれやがって…!」 「え?」 「罰として、また俺の命令をひとつ聞いてもらう。次はユキの着る物を何とかしてやらないとな…。あいつはいつもボロボロの服を着ているから。ババアはあんな毎日着飾っているのによ。だから、トードー! 次はこの町一番の仕立て屋へ行って、俺のこのメモ通りの服を作るよう依頼するんだ。出来たらそれをユキの家へ届けろ」 「へ…? あ、あのう…」 「何だ?」 「またユキさんに…? 貧しい方は他にもいらっしゃいますし、今度は別の方になさったら…?」 「は? 何で俺がユキ以外の奴に施してやらなきゃならねー!? いいからやれ!」 「ひえぇっ、わ、わっかりましたー!」 一体いつの間にメモなど作ったのでしょうか。トードーはリョーイチ王子が渡してきたメモを足に掴み、口にはやっぱり貰った宝石を咥えて仕立て屋へ急ぎました。何やら思っていた奉仕活動とズレている気がしましたが、確かにあのユキ青年が貧しいのは本当ですし、服を直してあげたい王子の気持ちも分かります。 ユキ青年は、やがて出来上がった豪華な衣服を届けられると再び仰天し、やはり「こんなに高価な物は受け取れない!」と固辞しました。あの時の宝石は薬代として使ってくれたようですが、彼はきちんと働き、質屋に出していたあの宝石も取り戻して、トードーに「これも借りてしまったけれど、持ち主に返したい」と訴えます。 トードーはそれを聞いてすっかり困ってしまいました。 「王子様からのご厚意を返すなど、あの方が聞いたら、きっとお怒りになりますよ!」 「厚意は受け取ったよ。宝石を借りられたお陰でお金を作って、お医者にも行けた。感謝しているんだよ、本当に。勿論、ツバメさんにもね?」 ユキ青年から頭をナデナデされて、トードーはほっこりします。 「えへへ…何だか照れます…」 「でも今度はこんな服まで…。その王子様を名乗るリョーイチさんって、一体どういう方なの? もう元気になったし、今度こそ会わせてもらいたいんだ。駄目かな?」 「……分かりました。では、まず王子様にその旨お伺いして参ります。ですから、それまではお願いですから、この服は受け取って、しかもちゃんと着て下さい! でないと王子様がお怒りになられます!」 トードーの必死のお願いにユキ青年も了解してくれました。トードーはほっとして、急ぎ王子の元へ戻りました。 「王子様! ユキさんに、ご希望の品は間違いなく届けて参りました!」 「てめえ……」 しかし王子様はきらりと目を光らせてとても怖い顔をしています。石像なのに、今にも動いてトードーツバメを取って食べてしまいそうです。 トードーは思い切りびびって羽をばたばたさせました。 「ひえっ!? お、王子様、どうされましたか!?」 「どうされたかじゃ、ねえ! お前、よくも勝手にユキに頭ナデナデされやがったな!」 「え!?」 「俺は千里眼が使えると言っただろう! ちゃんと見たぞ! しかも撫でられて鼻の下伸ばしやがって!」 「ひえー、誤解です! 確かにちょっとは癒されましたけど、私はただ純粋な気持ちで王子様のお役に立ちたいとお使いを…!」 「……まぁいい。それで、何か報告があるのだろう」 「千里眼でご存じなのでは?」 「石の耳のせいで聴覚はあまりよくない。半径五百メートル圏内の声しか届かん」 「そ、それも結構スゴイような…」 「いいから、さっさと報告しろ!」 「ヒエッ! はいぃッ!」 トードーは急いで事の次第を伝えました。ユキ青年は王子様が生きていることを当然信じておらず、「リョーイチ」と名乗る誰か別の人間が自分に施してくれていると思っていること、そしてユキ青年はそのリョーイチに会いたいと言っていることを。 「いっそお会いになられては…? ユキさんは王子様にお礼が言いたいのですよ」 「駄目だ」 ところが王子はそう言いました。そして、その話はもう終わりだとばかりに、トードーを睨みつけます。 「それより、今度はあのみすぼらしいユキの家がちょっとは華やぐように、あそこの花屋でバラの花束を大量に作らせて届けてこい。宝石はベルトの部分につくルビーでいいだろう」 「ま、またですか!? しかも、またユキさん!?」 「俺はユキにしか貢がない」 当然だという風にリョーイチ王子は言い切りました。 トードーは段々と、これが奉仕活動ではなく、単なる王子の好みでユキ青年にだけ親切にしているのでは…?と思い始めました。普通ならすぐ気づきそうなものですが、トードーツバメは鈍いのです。 「わ、私もそろそろ南の国に向かって出発しないと…」 「てめえ…俺を差し置いてユキにナデナデされておいて、その借りを返さないまま行こうってのか?」 「な、何の借りなのか意味不明です!」 「いいからとっとと行ってこい!」 「ひえー! はっ、はいぃー!」 こうして、でぶっちょツバメのトードーは、リョーイチ王子の意のままにユキ青年にプレゼントを届ける奴隷と化してしまいました。そしてその度、ユキ青年には困った顔をされ、「誰とも知らない人からこんなに貰えない」と言われるのを必死に説得し、「受け取ってもらえないと自分が酷い目に遭わされるから」と最後には泣きついて品物を渡しました。 そうこうするうちに季節は秋を過ぎ、冬となり――。 リョーイチ王子の像からはすっかり宝石がなくなっていました。全ての宝石をユキ青年に貢いだからです。 「寒い…寒いなぁ…」 王子像の足元にくるまって、トードーツバメはぶるぶると震えて丸まりました。もう南の国へ行くだけの体力はありません。王子像にこき使われて身体はボロボロ、とても長旅などできる体力は残っていなかったのです。 みすぼらしい王子像を、今では誰も振り返りません。必然的に足元のトードーツバメを気にする人間もおりません。 「あぁ…もう死ぬのかなぁ…」 しかし、トードーツバメがそうぽつりと呟いた時です。宝石のない、ただの石像になってからは何故か一言も発していなかったリョーイチ王子から、「…やっと来たぞ」という声が聞こえました。 「王子様…? 一体何が…?」 トードーがその声に誘われて顔を上げると、王子像の頭上には小さな天使が黒い羽をばたつかせて王子像とトードーを見つめていました。何故天使なのに黒い羽なのかは謎ですが、もう一つ謎を付け加えると、その天使は頭に黒兎のような長い耳をぴょこんとつけてもいました。ややコスプレ気味です。 「おせーんだよ。お前は、あの神からの使いだろう?」 その天使に、王子像は実に横柄な態度で言いました。 「来たくて来たんじゃない」 すると黒うさぎの天使も、見た目は可愛いのに「チッ」などと汚い舌打ちをしながら、王子像を嫌そうに睨みつけました。 「あ、あのう…一体…?」 一人訳が分からずにトードーが口を挟むと、うさぎの天使はそんなトードーには柔らかい口調で答えました。 「俺はこの世界をハジメた神の使いだ。その神から、この町で1番の善行を積んだ者を選べと言われていた。…そして総合的に判断した結果、お前たち2名が選ばれた」 「え、えぇ…? 善行を…?」 「当然」 トードーは驚いて絶句しましたが、リョーイチ王子は鼻高々、胸を張ったように返します。 しかしトードーは納得できません。 「わ、私と王子様がこの町1番の善行を積んだ者だなんて…嘘でしょう? だってこの方、私情で私をこき使って、王様から頂いた宝石をユキさんに届けさせていただけですよ?」 「てめえ、トードー!」 「こ、こうなったら言わせてもらいますがねっ。私が今こうして死にそうなのも、全部貴方のせいっ! 貴方のせいですよ! ユキさんにアタックしたいなら自分でどうにかすればいいのに! か弱いツバメを酷使して、あんたには良心ってものがないんですか!?」 「んだとこの野郎〜! テメエ、そんな風に思っていたのかよ!?」 「思ってなかったからここまで巻き込まれたんですよっ! 今、死の間際にパッと思い立ったんです! あーもー死にたくない! こんな我がまま王子のせいで死にたくなーい!」 「めちゃくちゃ元気じゃねーか! 誰がか弱いツバメだ、誰が! そもそもお前みたいなデブは、その羽毛と中の肉とで凍死の心配なんざねーんだよ! 大体、ユキん家へ行く度にイイモン食わせてもらってブクブク太りやがって、すぐバテんのもそのせいなんだよ!」 「ひ、酷い、その言い方! 人のことデブデブって! いじめだ! パワハラだ!」 「るせえ、泣くなっ、うっとうしい!!」 ギャーギャーと醜い言い争いをしている2人を、うさぎ天使は黙って見つめます。データでは確かにこの2人がこの町1番の善行者のはずですが、何かを間違えたかと首を捻ります。 しかしその時です。広場に沢山の人がぞろぞろと集まってきました。その先頭には件のユキ青年がいて、何やら町の職人たちと設計図を片手にいろいろ話し合っています。天使はそれにハッとして、未だ言い争いをしている2人に言いました。 「おい、お前らの声はこの町の人間には聞こえないようにしているが、ちょっと黙れ」 「え!? あ! な、何ですか、この人だかりは!?」 「……俺を作り直す算段だろう」 「え。それは一体どういう…」 トードーが分からずにキョトンとすると、うさぎ天使が説明しました。 「町の連中はお人よしでイイ奴らが多いからな。皆、このリョーイチ王子像に感謝しているんだ。だから、ユキが持っている宝石を資金にして、前の綺麗な王子像に戻す計画を立てた」 「か、感謝? この極悪非道な王子様に…ってイテ! あ、あれ!? 王子様、貴方いつの間に…!?」 トードーツバメは頭を思い切り叩かれたのもさることながら、それをした人物にも驚きました。何と、トードーを叩いたのはリョーイチ王子です。王子は石の姿ではなく、いつの間にやら生身の人間の姿となってそこにいました。また、気づけば自分たちは天使と共に広場の端へ移動していて、人々に囲まれた石の王子像は遠くに見えます。石の王子像はちゃんと元ある場所に立っています。 「え、え、何で、どうして!? 王子様が2人に!?」 「あそこにあるのはもうただの石像だ。俺の本体はこれ。魂はこの生身の身体に移った」 「一体何がどうなっているのですか!? 私には何が何やらさっぱり…!」 トードーが混乱して目玉をぐるぐるさせると、王子は面倒くさそうな顔をしながらも答えました。 「俺はいっとき病でくたばりかけたが、どうしても死にたくなかった。死ねない理由があった。だから死の間際、俺は神と約束を交わした。神は言った。王子としては一度死ぬが、その後1年、石像となってこの町1番の善行を積めば、俺を普通の平民として生き返らせてやる≠ニ」 「か、神様と約束を…。でも善行なんて…貴方、なんにもしてなかったじゃないですか」 「……おい、もう一度殴るか?」 「ひえっ。て、天使様! 天使様から説明をお願いします!」 トードーが慌てて天使の方へ逃げると、うさぎ天使もこれまた気怠そうにはしていましたが、石像に群がる人々を指さし、言いました。 「王子の善行とは、町全体の犯罪率を格段に減らしたことだ。こいつが発していた呪いのお陰で、泥棒たちが無駄にびびって悪事を働かなくなった。呪いがあまりに百発百中だったんで、窃盗だけでなく、『悪いことをすると災いが起きる』と広く信じられて、結果的に悪人が消えた。だから町の人間たちも、この王子像のお陰で犯罪が減ったことを強く実感し、感謝しているというわけだ」 「な、なんと…。確かに、王子の身体の宝石は『ユキさんにあげる』という条件でなければ外せませんでしたし、それ以外に無理やり盗もうとした者たちには天罰が下っていました…」 「天罰じゃなくて俺の呪いな」 「――で、こんなとんでもない奴に滅私奉公していたトードー。お前は、我ら天使の同情票を集めて、晴れて、特別賞受賞となった」 「特別賞…」 ボー然とするトードーに、うさぎ天使は言いました。 「リョーイチの望みは平民になって生き返ることだった。トードー、お前の望みは何だ? 1つだけなら何でも叶えてやろう。お前が望んでいた南の国へワープさせることも可能だ」 「南の国へ! 本当ですか!」 「ああ。そうするか?」 「私は…」 しかしトードーが言いかけた時です。「ツバメさん!」と声をかけ、駆け寄ってくる者がおりました。あのユキ青年です。 「ユキさん!」 トードーが驚きながらも、すぐさま差し出された腕にとまると、ユキ青年は嬉しそうに笑いました。 「良かった、やっぱりここにいたね。寒くなってきたから、もう石像の近くで眠るのはやめて、うちで休むように言おうと思っていたんだ。それにね、あの王子像は元の綺麗な像に直す工事を始めるから、暫くねぐらには使えない」 「ユキさん…。あの貰った宝石を全て石像の改修費に使うのですか?」 「そうだよ? だってあの王子像から抜き取ったものでしょう、あれ。俺が貰う度に像から宝石が減っていくからさすがに気づくよ。でも、そのせいでリョーイチさんが噂の呪いにかかっていないか心配なんだけど…」 「あれは俺の宝石だから、俺が使って呪いを受けるわけはない」 「えっ…」 ユキ青年は突然話しかけられて驚き、視線を向けました。トードーツバメの傍で立っている青年が自分を見つめているのに、今の今まで気づかなかったのです。 「……もしかして、貴方がリョーイチさん?」 「リョーイチでいい。そうだ」 「どうして今まで会ってくれなかったんですか? 俺、ずっと貴方と話したいと思っていたんです」 「話したくても話せなかったんだよ。俺は1年間、神に試されていたからな」 「え? …何のことか分かりませんけど…石像から宝石を盗んでまで、どうしてあんなに俺に贈り物を?」 「だから、あれは盗んだものなんかじゃない。――まぁいい。とりあえず、積もる話はユキの家でしよう」 「え、俺の家で?」 「ああ、俺は人間に復活したばかりで住む家もないしな、当分ユキの家に厄介になる。けど、あそこはお前のババアが激しく邪魔だし、近いうちに引っ越そうな、2人で」 「あ、あの…ちょっ、一体何を…」 「何って、俺たちの未来の話だよ。俺はお前と一緒になる為に、一度死んで蘇った。ユキは俺の恋人になるんだ」 リョーイチ王子はぺらぺらと勝手にまくしたて、あまつさえ展開についていけないユキ青年の肩を抱いて家へ向かおうとしています。トードーツバメはあまりの素早さに唖然としてしまいましたが、やがてハッとなり、慌てて天使へ振り返りました。 「た、大変です、天使様! ユキさんのような良い人が、リョーイチ王子様みたいな横暴な人にいいようにされたら! あまりに可哀想です!」 「全く同意見だが、俺たち天使は人間界に干渉できない」 「そんな!」 「それで、お前の望みは何にする。俺はもうとっとと帰ってナチのおやつが喰いたい」 「か、神も仏もないとはこのことか…!」 投げやりな天使には何も期待できそうもありません。しかしそうこうしている間に、王子とユキ青年はどんどんと遠ざかっていきます。 そこでトードーツバメは言いました。 「天使様、どうか私を人間にして下さい。あの王子様を止められるのは私くらいしかいません。私が王子様の唯一の友として、傍でしっかり見張って、ユキ青年のことも傷つけないか見守りたいと思います」 「……それがお前の願いか。リョーイチとユキを引き離すことは考えないのか?」 天使の問いに、トードーはため息をつきながら苦笑しました。 「あの人、この1年、本当にユキさんだけを見て、ユキさんにばかり尽くして…ユキさんのことが本当に大好きなのは間違いないんです。だから、神様の力で無理やり引き離すのは、それはさすがに可哀想だと思います」 「お人よしだなトードーは。しかし分かった、願いは聞き届けよう。あの2人の良き友、良き隣人として、あの暴走王子が間違った行動をとらないよう、よくよく見張ってくれ」 「ははーっ!」 こうして、石像だったリョーイチ王子とツバメだったトードーは、共に人間界で生身の人間となり、新たな一生を送り直すことになりました。 一般人となったリョーイチは、その後猛然とユキ青年にアタックを繰り返し、その熱意にほだされたユキ青年もいつしかリョーイチ王子を好きになり……2人は、いつまでも幸せに暮らしました。 そして元ツバメのトードーもそんな2人を祝福しながら、心優しい、でもちょっとお人よしな人間として、末永く楽しく暮らすことができましたって。めでたし、めでたし。 |
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「幸福な王子」のリクエストを頂いたのと、「サイト内キャラでやってみても面白い」とのご意見から、
お2人のリクを1作でお応えしてみました。王子と言ったらこの方しか思い浮かばなかった…。
多分、「幸福な王子」をリクして下さった方は、王子×ツバメか、ツバメ×王子で…と思っていらしたはず。
すみません、こんな王子とツバメで…(笑)。