一房の風



  友之は自他共に認める動物好きだし、虫や花や、生きている物は何でも好きだ。
  それでも子どもの頃は、その気持ちを表に出す機会が圧倒的に少なかった。姉の夕実がしょっちゅう「動物なんて煩いし汚いから嫌い」と言うし、「トモちゃんもそうだよね?」と自分の気持ちを押し付けてくるものだから―…。何かを「嫌い」と言うことは許されても、「好き」と主張することは認められなかった。友之が好きなのは夕実だけであり、それ以外に目を向けること、心を揺さぶられることは、あってはならない罪だったのだ。

  「それ」が特にひどかった小学生時代のことを、友之はこの頃よく思い出す。





(暑い……かも)

  ジリジリした日差しを避けるように片手を当て、友之は太陽光ですっかり熱を帯びた灰色のコンクリート面を暫しじっと眺めていた。
  そこは駅から商店街の通りを抜けたアパートへ戻る道すがらで、人通りはほとんどない。
  誰だってこの炎天下、陽を避ける場所もない屋外にいつまでもいるのは気が進まないに違いない。友之とて「暑い」と感じているのならば、さっさと家へ帰れば良いのだ。
  けれどこの時の友之は何故か1つのものに視点を当てたまま、なかなかその場を離れることが出来なかった。
  大抵こんな時だ。消えていたはずの、或いは心の奥底に封印していたはずの記憶が蘇ってくるのは。
「あら、友之君。お帰りなさい」
「あ…」
  その時、買い物へ行くところだろうか、隣家の女性が友之を目に留め声をかけてきた。友之は慌てて頭を下げたが、「こんにちは」というたった一言が出てこない。意表をつかれたというのもあるし、彼女の奇異な視線が窮屈だったせいもある。
「今帰り? あらでも、学校はもう夏休みなんじゃないの?」
  隣人に「悪気がない」というのは、光一郎がよく言うフォローの一つである。
  一人暮らしで、且つ元々の性格がお節介というのもあるかもしれないが、彼女はよく「たぶんワケアリ」な友之のことを気遣い、折に触れいろいろと話しかけてくる。その優しさの裏には、「兄弟が2人だけで何故アパート暮らしを?」という好奇心もあるかもしれないが……それでも、光一郎は「あの人は悪い人じゃないぞ」と言う。光一郎がそう言うのならば、きっとそうなのだろうと友之も思う。
  けれど、気の利いた言葉を出すことは出来ない。最近ではそろそろ慣れたかなと思ってもいたのに。
「あのね、私のお友だちが野菜をたくさん送ってくれたの。だから後で友之君の家にもお裾分けするわね」
  自分の質問には答えてもらえないと察したのだろう、隣家の女性はさっさと話題を変えるとそう言って、「それじゃあね」と商店街の方へ歩いて行ってしまった。友之は焦ったようにそんな隣人のふくよかな背中を見つめたが、結局最後まで何も言えないまま、気まずさを抱えつつ家路へと急いだ。先刻まで立ち止まっていた理由に振り返ることも出来ないくらい、たったこれだけのやり取りにすっかり動揺していた。
(……何で言えないんだろ)
  ほんの少し口を動かせば良いのに。
  女性の指摘した通り、今は夏休み真っ盛りである。しかも別段多くの課題が出るわけでもない友之の高校では、部活動に従事していない生徒などは好きなことを思い切り満喫出来る自由の時だ。……が、元来より「真面目」が服を着て歩いているような友之は、本来の遅れもあって率先し勉学することを怠らない。だからこの時も英語と数学の教材を持って学校の図書室へ出かけていたのだった。終日部活であるはずの沢海が、「休憩時間になったら一緒にやるから」と協力を申し出てくれたことも大きかった。お陰で一通りやろうと思っていた範囲まで終わらすことが出来たので、一足早くに下校したところだ。
  こんな説明くらい、簡単じゃないか。
  頭ではそう思うのだけれど。
「お帰り」
  ところが、そんな風に自分を責めて落ち込んでいた友之に、ふっと声が掛かった。聞き慣れた優しい声。出迎えなどあるはずがないと思っていた部屋の奥からだ。
「コウ…?」
「早かったな。何か食べるか?」
  ちょうど俺も昼飯食おうと思っていたから、と。
  光一郎が思い切りリラックスした風に台所からひょいと顔を出してきた。手には菜箸。そう言えば何やら美味しそうな匂いが漂っている。玄関先にいても光一郎が何か作っていたらしいことはすぐに分かった。
  それにしても兄がこんな時間に家にいると思わなかったから、友之は暫しその場から動くことが出来なかった。たった今までがっくりと沈んでいたから、それは尚さらだ。
「どうした? 何かあったのか」
  鋭い光一郎はそんな友之の顔を改めて見るとすぐにそう訊いてきた。だから慌ててかぶりを振る。「何でもない」と言い添えもして、友之はすぐに靴を脱ぐとカバンを肩にかけ直しながら部屋へ駆け込むようにして足を速めた。
「コウ、いつ帰ってきたの」
「ホントに今さっきだな。やっぱな、こういう時に携帯あると便利だよな。お前の帰る時間がこうだって分かっていれば、駅で待ち合わせ出来たのに」
「うん…。でも携帯は」
  いつだったか、夏休みに入る直前。そう、橋本や沢海たちと涌井が働いている遊園地へ遊びに行った日の夜のことだ。何を思ったのか、光一郎が「携帯欲しいか」と訊いてきたから、友之はきょとんとしながらも「要らない」と即答した。実際必要ないと思った。友之が光一郎に連絡を取ることなどめったにないし、もし本当に緊急の用があれば家の電話でも公衆電話からでも掛けられるから。
  それを聞いた光一郎は「最近、公衆電話ってなくなっただろ」と何やら珍しく歯切れの悪い返しをしていたのだけれど、それでも友之は橋本や沢海が駆使するようにはああいう物を使いこなすのは無理だと思ったし、第一、光一郎が大学やバイトに勤しんでいる時に邪魔になるような連絡手段など持ちたくなかった。そういう物があるとどんどん際限がなくなりそうで逆に怖い。一時、修司が携帯電話を貸してくれたことがあったけれど、やはり自分には使いこなせないと感じたし、薄っすらと「これは自分が持っていてはいけない」と思ったものだ。
  そんな友之の気持ちを理解したのか、あれ以来、光一郎が携帯のことを口にすることはなかったのだが。
「中途半端な時間だとは思ったけど、何か腹減っちまってさ。今ならお前の分も作れるぞ」
「何作っているの」
「焼きそば」
  フライパンの中にはキャベツと豚肉が炒められていた。一瞬心が揺れたものの、友之は「いい」と首を振ってすぐに洗面所で手洗い・うがいを済ませ、部屋へ戻ってくるとそのまますとんといつもの隅に腰をおろした。
  窓側の角に当たるその席は友之の定位置だ。薄いカーテンをそっと開くと、網戸を通してささやかな風がほんの一握り流れこんできた。ただ、それも友之の髪の毛を揺らす程度にもなりはしない。ほぼ無風で、室内にはじっとりとした熱気が漂っている。
「暑くないか? 扇風機つけろよ」
  皿に盛られた焼きそばを手に、光一郎がやって来た。もう片方の手には麦茶の入ったコップと箸が握られている。時計の針は直15時になろうとしていた。友之は少し心配したように光一郎を見上げた。
「忙しくてご飯食べる暇なかったの」
「ちょっとな。お前はちゃんと食べたか」
「うん。学食で、拡と大塚君と」
「へえ、お前の学校って夏休みでも学食開いてるんだ?」
「うん。部活でいっぱい人、来てるし。普段とあんまり変わらない。あ…でも、教室は静かだった」
「教室で勉強したのか? 図書室?」
「図書室。寒かった」
  クーラーがガンガンに効いている図書室は、普段よりそういうものに耐性のない友之にはいっそ辛かった。けれど沢海や大塚は一時の休憩時間、ムシムシした体育館から解放されて図書室で涼を取れることを喜んでいるようだったから、そこで「寒い」とは言えなかった。友之がそんなことを考えていたと知れば、沢海などは「気を遣うな」と怒っただろうが、それを言うなら友之とて沢海たちに気を遣わせたくなかったのだから、これを悪かったとはさすがに思わなかった。
「お前って難儀な性格してるな」
  その話を黙って聞いていた光一郎は困ったような笑いを浮かべて一言そう感想を述べた。
「難儀?」
  友之はそれについてもっと深く聞きたいと思ったのだけれど、それを口にした後はふっと黙りこんだ。光一郎には会話より食事を優先して欲しかったし、それこそ「気を遣いたかった」から。
「あ、ごめん、扇風機」
  それでふとそのことも思い出し、友之は慌てて光一郎の方にそれを向けてスイッチを押した。
「お前つけたくないんだろ? なら俺もいいよ」
「扇風機は寒くないからいいよ」
「まぁな。ほぼ熱風だし」
  くっと笑った後、光一郎は「でも、正人もいいもんくれたよな」と気のいい友人の名前を出し、今度は害のない笑みを見せた。
  今時エアコンもない狭い部屋に住む「貧乏兄弟」を憐れに思ってか、いつだったか正人が「要らなくなったからやる」と持ってきたそれは、どう見ても最新式の新品だった。光一郎はそれに何事か言いたそうな顔をしていたものの、結局はその好意を受け取った。正人が問答無用な態度を取っていたからかもしれないし、友之がその品に目を輝かせていたせいかもしれない。
  そう、友之自身とて、この扇風機には大分世話になっているのだ。
  びゅんびゅん回るその羽の部分を見つめながら、友之は先刻道路で立ち尽くしていた時のことをまた思い出した。

  何やってんの。ばっかじゃないの、気持ち悪い!

  あの時の夕実はそう言って本当に気持ちの悪いモノを見るような目で友之を睨んだ。あの時も部屋の中で扇風機はぐるぐる回っていた。当時は今ほど暑さに耐性がなくて、暑くて暑くて、でもエアコンをつけることは夕実から「身体に悪いから」と禁じられていて。母親がそっと差し入れてくれた扇風機はあったけれど、それも殆ど使っていなかった、否、使えなかった。
  ただ、ベランダにぽとりと落ちた「それ」の為には風を送ろうとした、あれはそんな夏日のことだ。
「トモ?」
  不意に呼ばれて友之がハッと顔を上げると、いつの間にか食事を済ませていた光一郎が真面目な顔を向けてきていた。
「暑いからぼーっとしていたのか、何か考え事してどっかへ行っていたのか、どっちだ」
  こういう時、光一郎はいつだって敏かった。友之はどうしようか一瞬迷った後、「ちょっと思い出していただけ」と小声で答えた。
「何を?」
「……昔のこと」
「俺の知っていることか?」
「ううん」
「なら話せ」
  いやにきっぱりと言われたから友之は思わず目を丸くした。以前の光一郎なら、こんな風に無理やり話させることはしなかったと思う。友之自身もそうだが、光一郎は2人で暮らすようになってからも友之とは一定の距離を取っていたし、友之が黙っていればいつまでもそれを許容するような、或いは諦めているような態度を取っていたから。
  それがいつからだろう、「隠し事はするな」と言うようになって、「何かあればいつでも言え」と、半ば命令口調で強制するようにもなった。
  そうすることが弟の心を少しでも軽くすると、この兄はいつから理解するようになったのか。
「話すと…」
  それでも友之にはいつだって罪悪感が伴う。心が解放されることにも、申し訳ない気持ちが湧き立つから。
  それに「こんな話」、きっと面白くも何ともない。
「コウも嫌な気持ちになるよ」
  だから友之は前置きのようにそう言った。
「別にいい」
  けれど当然のように光一郎は動じなかった。友之はそれでまた惑ったが、それ以上に安心してふっと息を吐き出した。もう先刻の映像が頭を過ぎっても思考もきちんとクリアーになっていた。
「さっき………道で、セミが死んでて」
「セミ?」
「うん」
  不意に喉がからからになっている気がして友之はこくりと唾を飲み込んだ。
  無理やりのそれに光一郎がすかさず自分の麦茶を差し出す。それを一口貰って、大分楽になった。
「車とかにも轢かれてなかったし、まだ新しかったから死んだばっかりかも。アブラゼミ…かな。よく分からないけど」
「まぁ…夏だからな。セミの死骸なんかそこら中にあるだろ。あぁでも、最近街中じゃ減った方なのかな」
「うん…」
「……それがどうした?」
  光一郎が促すように先を進めたので、友之はちらりと回っている扇風機を見てから続けた。
「夕実は虫が嫌いでしょ」
「夕実?」
「うん。虫だけじゃないけど…よく、生きている物は気持ち悪いって。だから犬も猫も嫌いだって。裕子さんの所のテスだって触らないし」
  話の意図を掴み損ねているのだろう、すっかり黙り込んだ光一郎を前に、友之は少しだけ焦って俯いた。自分でも何が言いたいのか、分からなくなってくる気がした。
  ただあのセミを見た時に思い出したのだ、昔の記憶がモノトーンのフィルムの中で再上映されるようにカタカタと音を鳴らして蘇って。
「本当は、僕は…犬も猫も、嫌いじゃないし。虫、も。別に嫌いじゃないし」
「知ってるよ」
「でも……それ、夕実に言えなくて。でも本当は嫌いじゃなかったから…。ベランダで…し…死に、かけている、セミがいて」
「え?」
「あ、前の話。ずっと前の話。もうずっと忘れてた。何で思い出したのかも分かんない。思い出さなくても良かったと思う。でも、思い出して」
  光一郎に怪訝な反応をされたせいか、友之は自分でも驚くほど急に早口になった。頭に浮かぶ夕実の顔とも相俟ってますます混乱する。
「トモ」
  けれどそれを押しとどめるように、自分の元へとゆっくり手繰り寄せるように。
  光一郎が友之の腕を引いて「こっちへ来い」とごく自然に抱きしめてきた。前のめりに倒れるように抱きすくめられて一瞬声が止まったけれど、友之はその広い懐に反射的にしがみついた。
  すると驚くほどに安堵した。
「コウ兄…」
「悪いな。俺は急ぎ過ぎているよな」
「え…?」
  髪の毛にキスを一つ貰うともっと落ち着いた。だから光一郎がそう言って謝る声もよく聞こえて、友之は今度ははっきりと目を見開いて顔を上げた。優しくて大好きな視線とぶつかる。そしてその人が言った。
「お前が言いたくないなら言わなくていい」
「………そういう、わけじゃない」
「本当か?」
  確かめるように顔を寄せられて、友之は仄かに赤面しつつも慌てて頷いた。無意識に回した光一郎の背を、衣服越しにぎゅっと掴む。それからもう一度頷いた。
「夕実は馬鹿って言って……僕も、今思うと……本当に馬鹿だと思う。意味のないこと、したから」
  光一郎は何も言わなかったが、きゅっと抱きしめられたその腕の力で聞いてもらえているのは分かった。だから友之は思い切って最後まで言った。それで「本当に馬鹿だな」と、そう言われるのなら、それはそれで良いと思った。
「その日、凄く暑くて…。部屋も暑かったんだけど、でもお母さんが扇風機をくれたから、閉め切ったままでも風はあったから。それで僕、セミを……そ、その、ベランダにいたセミ、部屋に持って行って、扇風機当てた…」
  あの時の生温い空気まで思い出せそうなほどに、今では当時のことが酷くはっきりと浮かんでいた。
  どんなに暑くても「エアコンは身体に悪い」と友之につけることを許してくれなかった夕実。窓を開けたくとも、「外には悪い空気がたくさん充満している」からそれも駄目よと念を押された。何のことはない、それはいつもの夕実の意地悪で、友之にだけ向けられた純粋な悪意だった。勿論、あの頃の友之にそれが姉の病的ないじめだとは分からなかったから、言われたことは従順に守ったし、母親がこっそりくれた扇風機も、とても嬉しかったけれど、夕実に咎められるのが恐ろしかったから、部屋に置いていても殆ど使ったことはなかった。
  ただ、その日はその死にかけのセミの為に、どうしても一房の風を送りたかった。
  ほんの少しでも良いから。
「夕実が……帰ってきて、それ見て、凄くびっくりして…。それで、『ばか』って。き、き、気持ち悪いって…言って。扇風機も投げ捨てて。セミは……」
「友之」
  呼ばれたので顔を上げると、光一郎がどことなく怖い顔をしてこちらを見下ろしているものだから、友之はびくんと肩を揺らして「ごめんなさい」と謝った。
  光一郎はそれに眉をひそめて一瞬唇を開きかけ、けれど何故か言葉は出さずに、謝罪を紡いだ友之の口を塞ぐ方にそれを使った。
「……っ」
  柔らかく優しく唇を吸ってもらえたことで、友之は恐々とした気持ちをあっという間に氷解させて目を瞑った。光一郎はその後も何度となく友之の唇に軽いキスを落としたが、それは何だかいつものものとはどことなく種類の違うものだった。少なくとも友之にはそう感じられてそっと瞳を向けると、何故か光一郎はそんな友之の両目を手のひらで覆って、額にもキスを落とした。
「コウ…?」
「……悪い。今、見られたくない」
「え……?」
「俺も分からない。自分がどんな顔しているか分からない。だから見られたくない」
「何…? コウ、兄…?」
「……多分。多分、そうだ。今はお前の兄貴だ……多分」
  聞いたことがないような光一郎の狼狽えた声。友之はどうして良いか分からなくなって、そうは言われても余計に目を開けて光一郎の姿を確かめたくなった。しかも光一郎は友之の兄だと認めながらもキスを止めようとしないのだ。おかしい、どうしたんだろうと思いながら友之が再度強請るように服を引っ張ると、ここでようやく光一郎はぴたりと動きを止めて「ああ…クソッ!」と悪態をついた。
「コ……」
「違う、悪い。お前じゃない。夕実のことでもない、俺のことだから。ごめんな、思わず言っちまった。でもお前が悪いんじゃないから。これだけは言える。お前は悪くないし、バカでもない。おかしくないんだから」
  今度は光一郎が早口になる番だった。やはり友之に自分の顔を見られるのが嫌なのか、キスをやめてもぎゅっと抱きしめたまま顔を上げようとしない。友之はともすれば光一郎に抱き殺されるのではないかと思うほど息を詰まらせられて、でもそれが決して苦痛ではなくて。目をぱちぱちと何度も瞬かせて、光一郎の抱擁を甘んじて受けた。
  じりじりとした暑い部屋のはずなのに。
  こんな風にしていれば互いの体温はさらに上昇し、もっと熱くなるはずなのに。
  何事もないように回る扇風機の温い風と、外からそよぐ僅かな風。それが今はこの心地良い時間をさらに心地良くしてくれるように友之たちの周りで流れている。
「コウ兄…」
  それで友之はとても穏やかな気持ちになれて、再び目を閉じた。言って良かったのかな、そう思ったから、光一郎が「お前は悪くない」と返してくれたのが嬉しかった。
  そして、こうして変わらず受けとめてくれるのが堪らなく苦しく、幸せだった。
「コウ兄……好き……」
  だから友之は思わずと言った風に呟いた。
  光一郎はそれには何も応えなかった。けれど友之は構わなかった。あの日と同じ暑い夏の日なのに、今は明らかにあの時とは違う。それが分かり過ぎるほどに、今はよく分かっていたから。
  友之は光一郎に強く強くしがみついて、もう一度「好き」と告げた。






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2001年の連載当初は今ほど高校生も携帯持ってなかったと思いますよ…たぶん。
しかも今や携帯すら古くて、スマホの時代でしょ…困るんですよねこういう時代の流れ(汗)。
何となくごまかしごかまし書いていきますが(時代設定固定されてないので・爆)。