君がボクにくれた



  香坂家の朝は早い。
  特に家族全員が揃う日曜日は殊のほか早起きが強要された。それは香坂家の昔からある「決められたルール」の一つだった。
「お兄ちゃん、もう7時過ぎているわよ。いい加減起きてくれない?」
「んー? もうとっくに起きているよ?」
「だったら早く下に来て。みんなに迷惑でしょ」
「君やみんなが迷惑だろうが困ろうが、基本的に僕は全然構わないんだけどねえ」
「……ホント、最低」
「フフ…分かったよ、妹君」
  数馬は自分の部屋にノックもせずに押し入り、極めて面倒臭そうな顔をしている妹に楽しそうな目を向けた。
  数馬の妹である和衛(かずえ)は栗色の癖毛に明るいブラウン系の瞳を有した小柄な少女だったが、その凛とした表情はどことなく異国の上流貴族を思わせた。長い髪の毛をくるくると指でかき回しながら、その「小さな貴婦人」和衛は自分の兄である数馬にいつもの呆れたような顔を見せた。ベッドの上にはいるものの、数馬がまた夜を徹して何やら小難しい本を読んでいた事を察したらしい。和衛はそんな数馬に何故だか面白くなさそうな顔をしてから、無言で階段を下りて行った。
  その妹が完全に姿を消してから、数馬もようやくゆったりとした動作で自室を出た。

「数馬さん、また貴方がビリっけつね」
「おはようございます、峰子さん」
  朝の光にも負けないくらいの白くピカピカの高い天井、幅の広い階段を通り抜けて数馬が食卓へ向かうと、既に家族は豪華な朝食が並べられた長テーブルの席にきちんと座っていた。そして彼らは扉を開いてやってきた数馬に一斉に各々の視線を向けた。
「数馬、お前また徹夜か」
「おはようございます、和樹兄さん」
「お兄ちゃんはね、あたし達と違って暗いおうちの中で引き篭もっているのが好きなのよね」
「そうかもね、和衛さん」
「数馬」
「おはようございます、お父さん」
「ああ……」
  唯一自分に挨拶のような相槌を返した父親を数馬は目を細めて見やった後、薄い笑みを貼り付けたまま食卓についた。傍の使用人がすかさずそんな数馬のカップにコーヒーを淹れる。また別の年若い女中が温めたスープを数馬の前に差し出した。数馬はフイとその女性に目をやってから、にっこりと笑って明るい声を出した。
「おはよう、ヨシノさん。今日も綺麗だね」
「あ…っ! い、いえそんな…!」
「お兄ちゃん! ガキのくせにそうやって毎度ヨシノを口説かないの!」
  バンッと勢いよくテーブルを叩き、向かいの席に座っている和衛が立ち上がって激昂した。白いテーブルクロスの上に清楚に飾られていた花がそれでぐらぐらと揺れた。
「僕は君よりはガキじゃないつもりなんだけどなあ、和衛さん」
「いいえ、お兄ちゃんの方がよっぽど子供よ! あたしより子供! まったくねえ…!」
「よせ和衛」
「だって和樹兄さん!」
「まあまあいいじゃないの。もう朝食の時間を15分もオーバーしちゃったわ。早く頂きましょう。折角の日曜日でしょう?」
「そうそう」
  数馬がしれっとしてコーヒーを口に入れると、和衛はぐぐと何事か堪えるように唇をかみ締めた後、それでも黙って席に着いた。
  日曜日の朝は、とかく揉める事が多い。
  いつもバラバラな家族が休みの日だけは大抵全員揃うからというのもある。和衛が数馬につっかかり、軽い口喧嘩のような事をするのは香坂家のこれまた一つの決まりごとと言って良かった。
  数馬の一家は六人家族。その他、数馬の家には…というよりも「豪邸」には、家の事を取り仕切る執事と料理人も含めた使用人が数名いる。通いの掃除夫や植木職人もいる。
  香坂数馬の家は所謂「大金持ち」だった。その家族構成は、両親に長男の和樹、次男の数馬、それに長女で末娘の和衛である。それから離れに現在の香坂家を築いたという父方の祖父がいたが、「信じられないほどの変わり者」として家族から煙たがられ、本人も「 独りにしてくれ」とあまり屋敷の中には入って来なかった。
  そんな祖父に代わって一家を取りまとめるようになった現在の大黒柱・数馬の父親は、根っからの起業人であった。そして人を使う事にかけては天賦の才を持ち合わせている…と、少なくとも数馬は思っていた。事業を立ち上げるという誰にでも出来る、それでいて「おいしい」ところは自分がやり、それを維持させるという「1番難しいこと」は他人にやらせる。それでいて人々の尊敬は全て自分1人のものにしてしまい、あらゆる分野での人脈にも広く精通していた。頭もいい、言う事もいちいちソツがない。家族との関係も良好で、こうして暇さえあれば休みの日には皆と朝食を共にする。妻にも子供にも愛されている、完璧な父親だと数馬は思っていた。
  けれど一方で。
  こんな人間にだけは死んでもなりたくないと数馬は思っていた。
「ねえねえ、お父さん。今日、お父さんと一緒に須磨の研究所に行ってもいい?」
  ひとしきり食事が済んだ後、和衛が目を輝かせながら言った。
「和樹兄さんも行くんでしょ? あたしも行きたい!」
「退屈じゃないか?」
  和樹が妹を気遣う風な優しい笑みで控え目にそう言った。
  長男の和樹は黒い髪を短く綺麗にまとめた、如何にも「良いところの坊ちゃん」という風貌をした青年だった。そんな和樹は香坂家の中で1番の常識人というか、「普通の人」だと数馬は思っていた。成績も普通(数馬の視点からだが。一般には優秀といえる)、人間関係も普通、顔も普通。両親や自分、妹に対する態度も至って問題のない「無難なもの」だ。現在はまだ大学に入ったばかりだが、卒業した暁には父の経営する系列会社で次期社長になるための修行をする事になっている。そしてその事について本人は何の異議もないようであった。
  つまらない奴。
  それが数馬の兄に対する評価だった。
「退屈じゃないよ。和樹兄さんが行くならあたしだって行かなくちゃ! だってあたしだって将来香坂家を盛り立てていく有望な社長候補だもの!」
  和衛が皿に残ったソーセージをフォークでぶすりと突き刺しながら言った。それに対して母親の峰子が「はしたない」と叱っていたが、堪えた様子は和衛にはない。
「ね、いいでしょう? それとも和樹兄さんは嫌?」
「僕は嫌じゃないよ。父さんに訊きなよ」
「お父さん、いいでしょう?」
「静かにしているのならな」
「あなた」
「やったー!」
  4人の会話を数馬は黙って眺めやりながら聞いていた。
  天然風味のお嬢様育ちな母親に対し、和衛はひどい野心家だ。自分と2つしか離れていないくせに、いつもひどく大人ぶった態度を取る。こいつはそのうち空恐ろしい人間になるのではないかと、数馬は常日頃から思っていた。
  そんな和衛は家族の中で「黒い羊」的な数馬のことが鬱陶しいのか、やたらと突っかかる事が多く、反面素直な長男の和樹には比較的懐いていた。しかしそれでも「男だから、長男だから和樹が跡目になるのはおかしい」と頑迷に思っているところがあり、「自分こそが香坂家の跡を継ぐのにふさわしい」と口にして憚らなかった。だからなのか、勉強もスポーツも、決して誰にも負けたくないといつも歯を食いしばって無理をしているようなところがあった。特に数馬に対する対抗意識は凄まじかった。
  不幸な事にその和衛が数馬に敵うものは、今のところ何もなかったのであるが。

「数馬」
  その時、父親が自分から1番遠い位置に座している数馬に声をかけてきた。
「お前も来るか?」
  父は普段通りの平然とした威厳のある表情をしていた。それに対して数馬が反応を返そうとすると、和衛がいきなり声を荒げて突然そんな事を言ってきた父親を責めた。
「どうして! お兄ちゃんはこういうの興味ないよ!」
「………」
「何でいつも数馬お兄ちゃんは連れて行きたがるの! あたしは駄目って言ってばかりなのに!」
「お前は黙っていなさい」
「何で!」
「数馬、どうだ?」
  父親は和衛を無視して再び訊いてきた。数馬はひどく迷惑そうな顔を父に向けた後、「悪いけど」とだけ答えた。

  あんたの会社を継ぎたいと言っている子供は2人もいるんだよ。それでいいだろ。

  心の中だけでそれだけを思い、数馬は席を立った。悔しそうな和衛の声がそんな数馬の背中にかかる。
「ちょっとお兄ちゃん、どこへ行くの。またヘンな不良たちと遊びに行くの?」
「和衛」
  母親が困ったように和衛をたしなめた。数馬が学校外の「ヘンな不良たち」と交流があるらしいという事は、父親には内緒の事だった。気紛れで加入しているらしい草野球チームの事も、当初知っていたのは母親と兄の和樹だけだった。
  数馬は振り返ってギンとした眼を向ける妹に余裕の笑みを返すと、うーんと首をかしげてから軽い口調で言った。

「デートだよ。横恋慕。割と面白いのがいて、ずっとハマッてるんだ」


*


  数馬は中原正人と自分が知り合った時の経緯を、もう覚えていない。
  とりあえず1番頭の良いと評判の私立中学に入学したまでは良かったが、そこがどうにも退屈で仕方なかった。家で大人しく本を読んでいる反動からか、外ではせかせかと動き回らずにはいられなかった。そんな数馬にとって「面白い」と感じられる人間がいない場所に毎日通うのは苦痛以外の何物でもなかった。
  だから学校へ行く時間は、大抵街を練り歩くのに使った。そこで色々な若者たちと知り合いになり、色々な事を語り合った。女とヤる事しか考えていないと公言する連中や、男とヤる事しか考えていないという女子高生。「高校の時の先輩に頼まれた」と言っては、そんな彼女たちにクスリを売り歩く青年など。数馬はとりあえず自分と同年代と思われる様々な人間たちと気さくに話をし続けた。一緒に遊んでみた。そうしていつしか数馬はそういったグループ内での信望や憧れを得て、意図せず自らの名を広めていった。
  けれど結局、そこも数馬の本当の居場所にはなり得なかった。つまらないと思った。所詮そういった連中も真面目に学校に通っている学生たちと同じで、一つの「枠」の中に収まって群れをなして安心している集まりにしか見えなかった。
  退屈だった。
「生意気なガキ」
  そんな時、正人と出会った。どうして出会ったのか、話すようになったのか、思い出せない。それでも正人は今まで出会った他の人間と「どこかが違う」気がした。
「俺はな、お前みたいな屈折したガキが大嫌いなんだよ」
  正人はそう言って数馬に煙草の火を吹きかけた。そうしてそっぽを向くと、「俺はお前くらいの年でまともな奴を見た事ねえんだ」と、まるで中年男のような僻みっぽい言い方をして傍にあったビールをあおった。正人の説教臭い恩着せがましい言い方を時にうざったく思う事もあったが、それでも数馬は正人との付き合いを深めていった。
  だから正人が不意に今までの人間関係を全て断って、「町内のおっさんに頼まれて」草野球チームのキャプテンをやると言い出した時は、自分も参加すると言った。正人は意外だという顔をしたが、特に何も言わなかった。また今までの仲間たちからは「何故そんなダサい事をするのか」と言われたが、数馬はそんな連中に対して全て黙殺で通した。



「おい数馬」
  そうして、チームの人数もそれなりに揃ってきたある日。
  正人と一緒にやってきた小さな少年を目の前に突き出された時、数馬はきょとんとした顔で正人を見やった。
「コイツ、お前とタメなんだよ。俺の親友の弟だからよ。コイツにイラついても虐めんじゃねェぞ」
「はあ?」
「トモ、挨拶くらいしろよ」
  目深に帽子を被った少年の頭をばしりと叩いた後、正人はそのまま先に歩いて行ってしまった。数馬は自分よりも数段小さな存在を見下ろしたまま、向こうが声を発してくるのを待った。
  しかし相手は何も言わなかった。俯いたまま、顔も上げない。
「……ねえ、君。トモ君って言うの?」
  仕方なく声をかけると、相手は名前を呼ばれたからか、びくんと肩を揺らして恐る恐るという風に顔を上げた。
  瞬間、その怯えたような瞳が数馬の目に突き刺さった。
「……何、君」
  思わず声を失って、しかし平静を装って、数馬は目の前の少年を見つめた。
  向こうはやはり何も言わない。けれど視線を逸らす事もしなかった。
(この僕がこんなに見ているのに、視線を逸らさないとは良い度胸だね)
  数馬は心の中でそう思ってから、ようやく落ち着いたようになってすうと息を吐き出した。それからバカにしたように、第一声。
「なに、君。女の子かと思った」
「………」
  やはり返答はなかった。多少驚いたような雰囲気は伝わってきたが、基本的に無表情のままだ。それでも「トモ」と呼ばれた少年は微動だにせず、数馬を見つめていた。
「中原先輩の親友の弟…って言っていたよね。君のお兄さんって、先輩と同じ暴走族出身の人?」
「………」
「君、口きけないの?」
「………」
「……あ、分かった」
  心の中で正人の「イラついても虐めるな」という言葉をなるほどと思い返しながら、数馬はそれでも普段通りの人当たりの良い笑顔のまま思いついたという風にぽんと手を叩いて言った。
「君のお兄さん、中原先輩の親友ってだけあってすっごく恐ろしい人なんでしょ。それで毎日毎日君の事を虐め続けた。だから君は人間不信のこんな無口なコになっちゃったわけだ? どう、当たり?」
「……が…」
「え、何? ごめん、僕耳遠いのかなあ。よく聞こえないよ、何て言ったの?」
「違う」
「………」
  数馬は物珍しそうに目の前の少年を見下ろしながら、(その口は飾りじゃなかったのか)と厭味たらしく思った。それからふうとため息をついてからくるりと相手に背中を向けた。
「僕の予想のどの部分が違うのかよく分からないけど。まあ、そんな事どうでもいいや。これ以上君と一緒にいると先輩の言いつけ守れそうにもないから行くね。君さ、もっとちゃんと喋った方がいいよ。暗いの損だよ」
「………」
  予想していた事とはいえ、声が返ってこないことに多少むっとして数馬が振り返ると、相手はもう数馬の方を見ていなかった。
「………?」
  少年の視線の先へ自分も目をやると、そこには正人と見慣れない青年の姿があった。
「誰、あれ?」
  数馬の問いに答える者はなかった。
「……見ない顔だなあ。あ、もしかしてあれが君のお兄さん?」
  返事も首を縦に振られる事もなかった。数馬は不快な顔を全面に押し出して少年を見つめた後、再び視線を中原と見知らぬ青年に向けた。端整な顔だちをした背の高い青年は、何事か正人と会話を交わした後、ちらとだけ少年の方を向いた。
  ひどく冷たい視線だと数馬は思った。
「……怖そうなお兄さんだね」
「………」
  しかし相手はやはり何も言わなかった。数馬はハアとため息をついた後、無口過ぎる少年に張りのある声を上げた。
「君がさ、僕と喋りたくないならそれでも構わないけどね。そういう態度ってはっきり言ってむかつくよ? 君、敵多いでしょ。一体何考えて生きているわけ?」
  思わずまくしたてると、少年はさっと蒼褪めてぐっと堪えるように下を向いた。数馬がはっとして「マズイ」と瞬間的に思うと、2人の様子に気づいたのか、正人がダダッともの凄い勢いで駆けてきて、鬼のような形相で数馬の事を睨みつけた。
「おい、数馬! テメエ、トモに何言った!?」
「何にも…」
「嘘つけ、今何か言っていただろうがよ! お前、コイツはな――」
「あー! はいはい、ゴメンナサイ! つい思わず勝手に無意識にこの口が動いちゃったの。でも僕はこの人の為を思ってだね……」
「うるせえ! ったく、テメエなんかに任せるんじゃなかったぜ」
「テメエなんかって何ですか、テメエなんかって」
「友之」
  その時、後からやって来た青年が中原の背後から声をかけた。毅然としたその表情と様子に数馬は思わず口を閉じたが、その瞬間すっとその青年の傍に寄って行った「友之」にぎょっとした。
  小さな子供が母親を頼って縋りに行くような姿だと思った。
「あー…数馬。こっちはこの友之の兄貴で光一郎。こいつ怒らせると怖いからな、気をつけろよ」
「何言ってんだよ」
  光一郎は苦笑しつつ中原の言葉をやんわりと否定してから数馬に人の良い顔を見せた…が、数馬はこんな胡散臭い人間を見たのは自分の父親以来だと密かに思った。
  けれどその日を境に。
  数馬の日常が少しだけ楽しくなったのも、また確かな事だった。


*


「あ、トモ君。早いじゃない」
  待ち合わせの時刻よりもかなり早く着いたというのに、駅の改札付近でじっと立っている友之を見つけ、数馬は驚いたような声と共に笑顔を閃かせた。
「待っちゃった? ごめんね、僕の家って日曜日は家族と朝ご飯食べないといけないって決まりでさ」
「別に……待ってないよ」
  友之は首を振りながらそう言い、それから数馬のことを不思議そうに眺めた。
「何?」
「あ…数馬から家族の話聞いたの…初めてだから」
  戸惑う風に言う友之に、数馬は可笑しそうに目を細めた。
「だって君が訊かないから」
「………」
「まあいいじゃない、そんな事。あ、それよりね、今日は自転車じゃないんだよね。せっかくの久々友君とのデートでしょう。ちょっと電車乗って遠出でもしようかなって」
「どこ行くの…?」
「それは行ってからのお楽しみだよ。大丈夫、別に怖い所ってわけじゃないから」
  数馬はイタズラっぽい笑みを浮かべてからそう言い、ぽんぽんと友之の頭を叩いた。
  高校も1年の後半になろうというのに、友之の背丈は変わらず小さなままだった。自分は更にどんどん大きくなっていくというのに。
  それでもこれだけ話せるようになった分、上等かなとも思う。
「光一郎さんにちゃんと言ってきた? 僕とデートだって」
「そん…な、事は言わない」
「何で。ちゃんと言わないと後であの人や中原先輩、それに裕子さんや優等生にも怒られるのは僕なんだからね」
  数馬はわざと困ったような顔をしてから、けれどすぐに「ま、いいか」と軽く言ってからけらけらと笑った。
  何を言っても困惑し、どうして良いか分からないという顔をする友之。去年の暮れあたりから随分マシな態度を取るようになったが、それでもこの友之という人間にはまだまだ分からない事が多い。
  それでも数馬はこの友之の事をひどく気に入っていた。
  現時点では、自分の1番。
  つまらない家族、つまらない学校、つまらない日常。それを変えてくれたのは、このちっぽけで何も持たない「つまらない」少年だから。…そんな風に思える人間が自分の目の前に現れるとは思っていなかったのだけれど。そしてその折角の相手には、どうやらたくさんの「強敵」がいるらしいのだけれど。
「さ、行こうトモ君。せっかくの日曜日なんだから楽しまないとね」
  数馬は再びにっこり笑ってから、友之の髪の毛をぐしゃりとかきまぜた。
  それでも、強敵が多いほどこの香坂数馬は燃えるのだ。
  せっかく手に入れた退屈を紛らわせてくれる存在。せいぜいしつこく粘ってやろうと数馬は友之に意味深な笑みを閃かせながら、そんな事を考えていた。





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