第10話「そのニブさは罪」



幸村「うわわわ…うわわわ…!?」(目がチカチカ)
政宗「幸村、小十郎がこの香置いとけってよ……って、どうした? んな扉の前に立ってたら邪魔。早く中入れって」
幸村「ま、政宗殿っ。ほ、本当に某、こちらに泊まっても宜しいのですか!?」
政宗「いいっていうか…。元就には違う部屋貸してるし、あとここしか空いてねーんだよ。何だ、気に入らなかったか?」
幸村「ち、違うでござるっ。そ、某には勿体ないくらい立派でっ! な、何やら、何もかもがピカピカしていて、眩しいでござる!」
政宗「はぁ…? はは、そうか? お前ん家はこんな感じじゃねーんだ?」
幸村「全然違うでござるよっ。そ、そもそもあれは何でござるか!? 部屋の中に部屋があるみたいでござる!」
政宗「あん? ああ、ありゃ天幕付きのベッドだ。あそこで寝るんだよ。行ってみ」
幸村「あ、あれが寝所でござるか!? お、おおお、何でござるかこの弾力! ふ、布団がっ! 何やらもふもふしてるでござるよー!!!」(ぼふんぼふんとトランポリン状態)
政宗「はは…跳ねるな跳ねるな。こっちの小十郎が妙な気の遣い方して俺用に作らせたらしいんだが、俺もここまで西洋カブレしてるわけじゃねえから落ち着かなくてな。お前も布団派なんだな? やっぱベッドは嫌か?」
幸村「嫌だなどと、とんでもござらん! 某は是非ここで休みたいでござるッ!!」(ぎゅううと傍にあるでかい枕を抱きしめる小熊幸村)←何やら感動しているらしい
政宗「ふかふか具合ならお前も負けてないと思うんだが…」
幸村「…? 何か言ったでござるか?」
政宗「いんや、何でもねえ。んじゃ、香はここに置くぞ」
幸村「それは何でござるか?」
政宗「気持ちが落ち着くアイテムだな。匂い、好みじゃねーか?」
幸村「いやっ! これまた凄く心地良い感じでござるよ。何やら…フルーティな、すっとした海の風のような…」(ふんふんと鼻を上向かせる)
政宗「小十郎はお前はこういうのが好みだって言うから。何であいつはそういうのが分かるのか不思議なんだが」
幸村「至れり尽くせりでござるっ。政宗殿、本当にかたじけないっ!!」
政宗「いいや、喜んでもらえて嬉しいぜ。――ところで」(自分もベッドの端に腰を下ろす政宗)
幸村「…? 何でござるか?」
政宗「…ま、飯の時点で機嫌も十分復活していたみたいだが、やっぱりここはハッキリさせておかなくちゃな。……昼間は何で俺のことを『キライ』だなんて言って出てったんだよ?」
幸村「!」
政宗「こう見えても俺は繊細なんでね。それなりに傷ついたぜ? こっちの勝手な思い込みだが、気が合うと思っていたし…実際俺の方は、アンタと一緒にいるのが楽しい」
幸村「ほ…本当でござるか…?」
政宗「ん?」
幸村「政宗殿は、幸村と一緒にいるのが楽しいんでござるか?」
政宗「そうでなきゃ、こんな雨の中追いかけたりしねえし。こうして泊めたりもしねえ。そうだろ?」
幸村「で…ですが。それなら、元就殿の事もそうなんでござるな…」(しょぼーんとなって枕を噛む)
政宗「んん?」←怪訝な顔
幸村「元就殿とも、一緒にいて楽しいんでござろう?」
政宗「まぁ…気難しい奴だが、面白い奴だとは思うぜ? 頭のキレる男は嫌いじゃない」
幸村「某は……いつもお館様から未熟者とお叱りを受けますし、従者である佐助からも容赦なくバカなどと暴言を放たれます」
政宗「……それで?」
幸村「そ……それだけでござる。実際その通りで…某は未熟者のバカ者でござる」
政宗「………」
幸村「………いつも気持ちだけ先走って失敗ばかり」
政宗「別に、それでもいいんじゃねえの?」
幸村「なっ…何がでござるか?」
政宗「自分のことを未熟じゃねえとかバカじゃねえとか言っていいのは、やっぱり元就くらいの奴じゃなきゃ様になんねーし。それこそバカだからな。お前は自分ってもんをちゃんと知ってる。それは本当のバカじゃねえって証拠だろ?」
幸村「?? 某はバカでござるよ」
政宗「ははっ。バカじゃねえよ。お前はスゲー奴だと思うぜ」
幸村「ど、どこがでござるか!? 政宗殿はまだ某の事など…よく分からぬくせに…!」
政宗「俺は人を見る目があるんでね。…おっと、ここでは動物、か?」
幸村「……?」
政宗「俺がお前をスゲーって認識してんだからお前はスゲー奴なんだよ。誰にも否定はさせねえ。俺の言う事に間違いはない」(ニヤリ)
幸村「そ、そういう自信はどこから出てくるんでござるか…」
政宗「んー? さあな。気づいたらこういう性格だった! ハハハッ!」
幸村「………」
政宗「ところでテメエ、俺の質問に答えてねーじゃねーか。誤魔化すんじゃねえよ。何で昼間逃げたんだって話をしてんだよ、俺は」
幸村「あ…」
政宗「ちゃんと教えるまで寝かさねーぞ、こら…」(枕を取り上げてこちょこちょの刑)
幸村「ぷっ…ひゃっ! わは、あは、ぎゃあっ! ははは、政宗殿、くすぐっ……ひゃああっ」(じたばた)
政宗「参ったかコイツ! オラ、とっとと白状しろっ!」(がっつりと抱え込むようにして後ろから抱きしめる)←本人単にじゃれてるだけ
幸村「……っ!!」←でもこっちは意識しまくり
政宗「こら幸村。聞いてんのか、お前? 答えろって言ってんだろ?」(ぐりぐりと髪の毛に顔を埋めちゃう政宗)←やっぱりじゃれてるだけ
幸村「ぎゃ! ま、ままま政宗殿、放して下さ……っ」←真っ赤
政宗「言うまで放さねえ」(ぎゅうう)←小熊って抱き心地いいんだなーと感動し始めてる
幸村「……っ!!」
政宗「幸村?」
幸村「ま、ま……政宗、殿が……っ」
政宗「俺がどうした?」
幸村「わ、分からないんでござる! 某も分からないんでござる! さ、されどっ。政宗殿が酷いんでござるっ!!」
政宗「あん…?」(ちょっと不審に思って顔を上げた)
幸村「そ、某、某も、政宗殿と一緒にいられるのが楽しいんでござるっ。だ、だから…だから、今日もお伺いしたのに…! そうしたら政宗殿、慶次殿や元親殿、元就殿と親しくされていて…!」
政宗「だから?」
幸村「だ、だから…某も分からないんでござるがっ! カ、カーッときたんでござる!」
政宗「………そういえば」
幸村「………?」
政宗「小十郎もそういうこと言っていたな。アンタ、ホントにヤキモチ妬いていたのか」
幸村「はっ…?」
政宗「ふーん。小熊でもヤキモチって妬くんだな。……そうかそうか」
幸村「な、何でござる…?」
政宗「……ん? ああ、いいや。まあ、はっきり分かったから俺はすっきりした。つまりは、幸村。アンタも俺の事が好きってこったろ」
幸村「は…は!?」
政宗「俺も好きだぜ? んじゃ、今日は一緒に寝るか?」(いそいそとそのまま隣に潜り込んでくる政宗)
幸村「ま、まま政宗殿?!」
政宗「いくら広いっても、そんな真ん中陣取るなって。あと動くな。抱きづらい」←それでも先刻の体勢のまま後ろから抱きしめ状態
幸村「ちょっ…ま、まさかこのまま!? そ、某、このような…! だ、駄目でござる政宗殿っ!」
政宗「なあにが? あー…今日はマジで疲れた。俺はもう寝るぞ。もう騒ぐな」
幸村「ま、政宗殿〜!!」(顔が恥ずかしさで噴火状態)
政宗「Zzzzz……」←寝た


「お互い好き同士」という結論まで出しておいて、そのまま仲良く添い寝!それはヒドイ殿!!
……幸村を翻弄するだけのその夜は、シトシトとした雨と共に無情にも過ぎ去って行くのでありました。

佐助「旦那…気の毒に」
W小十郎「全く、政宗様も……」




つづく



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