第12話「ばさら森武闘会!」



政宗がばさらの森に来てから、そろそろ一ヶ月が経とうとしていた。
今では人間の政宗と小熊の幸村は森中の誰もが認めるほどの「親友」となっている。
そんなある日。


政宗「あん…? 何だその怪しげな名前の大会は…」(優雅なお茶タイム。珈琲を楽しむ政宗)
幸村「その名の通りでござる! “ばさら天下一武闘会”! 己の技を駆使し! 強い者と一対一の死闘を繰り広げる、まさに1年に1度、1番燃え上がる大会なんでござるあぁ〜【炎】!!」(ぐっと拳を振り上げて立ち上がる幸村。目も燃えている)
政宗「熱い。ただでさえ暑いのに燃えるな」
小十郎「政宗様、どうぞ。フルーツゼリーです」
佐助「わー、涼しそーッ! 何それ、中に金魚が入ってるーっ」
小十郎「ふふ。金魚を象ったお菓子です。甘さ控え目、向こうの世界でも大人気なんですよ」
佐助「凄いねー、俺サマも1度は人間界へ観光旅行してみたいもんだ。給料さえ上がればなぁ」
政宗「…と、こっちはマイペースでほのぼのしているが。話が先に進まねえ。おい、パンダの小十郎、幸村の補足を頼む」
パンダ小十郎「承知! 政宗様もこの森に来て一月です。住民の事も大分お分かり頂けたかと思いますが…そのいずれもが、腕に覚えのある猛者共だとはお気づきでしょう?」
政宗「気づきたくなくとも、毎日入れ代わり立ち代わりで喧嘩売ってくる輩がいればな。徳川のガキみたいに、自分の傘下に入れって言ってくる奴もいるし」
パンダ小十郎「ええ。ご承知の通り、ここにはこのばさら森を文字通り己の力で一つに統べてしまおうと言う野心家がたくさんいるのです。西は魔王と称する獅子・信長に、巨大ゴリラの秀吉。中央はここの真田と猿飛が師事している大虎・信玄公、それに対峙する白豹の上杉。東は例の徳川、あとは…ロバの老体・北条公もまだまだ息災。更に北には新勢力と危ぶまれるワニの――」
政宗「ああ、ああ、もういい。色々変な奴が多いのはもう分かってる」
幸村「まっ…政宗殿! お館様は変な奴ではないでござる! それは取り消してもらいたいっ!!」
政宗「……アンタ、いつも話聞いてないようでいて、お館様の事となると反応が早いよな」
佐助「それだけは、まあね」
政宗「sorry、悪かった。アンタんとこのお館様だけは別格という事で話を続けよう。で?」
パンダ小十郎「はっ。要はですな、そんな勢力争いが拡大する昨今、何とか穏便に事を収められないかと、森の住民たちが考えあぐね…結論として生まれたのが、この“天下一武闘会”なのです。ルールは単純、四角い石のリングで一対一の無制限1本勝負。トーナメント方式。武器持ち込みは一切自由、ただし! 相手を殺したらその場で失格です」
政宗「ふぅん。で、優勝したら森の支配者になれんのか?」
パンダ小十郎「それを願う事も可能です。最後までリングに立っていた唯一の勝者には、現在の村長が叶えられる限り、何でも自由に1つだけ己が望みを申し出る事が出来るのです」
政宗「この森って村長がいたのか…」
佐助「ツッコむところってそこじゃないような気がするんだけど」
幸村「昨年の優勝者は島津義弘公でござった! 我らがお館様は…くっ! 決勝を前に鰻を食べ過ぎて…くくっ…!」
佐助「旦那と男の勝負とか言って夜通し食べ比べなんか続けるからお腹壊しちゃったんじゃない。あん時は大変だったなぁ、一晩中鰻焼かされてさぁ…」
幸村「うう…反省しているでござる」
政宗「へ、へえ、そうか。ところでその島津って…男? 知らねェなあ、どんな動物?」
小十郎「それは見事なカバさんですよ。ただ放浪癖がおありで、現在はお留守のようです」
政宗「あー、どうりで見た事ねーと思ったぜ。一度手合わせ願いたいねえ」
幸村「なら! それなら、政宗殿も大会に出るでござる!」(キラキラ)
政宗「あん…?」
幸村「政宗殿も今はばさら森の住民でござるから問題ないでござる! 某も今年こそ優勝を目指して出場しますし、そ、それに…っ! 実は某も、以前から政宗殿とはお手合わせ願いたいと思っていたでござる!」
政宗「はぁ…? そうなのか?」
幸村「いつも色々な者たちが勝負を挑みに来ているようだったので遠慮していたでござる。…特に政宗殿は……元親殿や元就殿、そ、それに慶次殿とも親しいでござるから…」
佐助「お、出たよ。旦那のひがみモード」
パンダ小十郎「昨日も政宗様が毛利と出掛けて留守をしていたからつまらなかったようだな」
幸村「! そ、そそそ、そのような…っ。某は別に…【焦】!」
政宗「手合わせしたいならそう言えばいいじゃねえか。いつでも歓迎だぜ、アンタなら」
幸村「ほ、本当でござるか!?」
政宗「俺もアンタがしょっちゅう鍛錬鍛錬ってお館様との修行の話ばかりするから、実際の腕前が気になってたんだ。会えばいつもティータイム突入でまったりしちまってたがな」
佐助「主に旦那がおやつ目当てで独眼竜の旦那ん家に来るしね」
幸村「さ、佐助! 何も俺は政宗殿宅のおやつだけが目当てでは…!」
佐助「へーほー、じゃあ一体何が目当てなのー?」
幸村「それは勿論! 政宗殿に会いたいから伺うんでござるよ!!」(きっぱり)
佐助「……ごめん、旦那をからかうのは無理だった」
政宗「ふ…Thanks、幸村。俺もアンタに会えるのが毎日楽しみなんだぜ?」
幸村「!! そ、それは誠でござろうか!?」←カーッとたちまち赤面の幸村
政宗「ああ、勿論だぜ」←優しく微笑む政宗
佐助「あーあ、暑い。暑いなー。小十郎さん、今のお菓子もう1個ー」
小十郎「はいはい。ちょっと待っていて下さいね」
パンダ小十郎「それで。政宗様、真田との手合わせはともかく。大会の方は如何なされますか」
政宗「あ…? えーっと、まあ、面白そうではあるけどな。けど、面倒そうだよなぁ」
幸村「ま、政宗殿!? ぜ、是非ご一緒に…!!」
政宗「――っていう懇願がなければスルーなんだが。小十郎、俺の分申し込んでおいてくれるか」
幸村「え…!」
パンダ小十郎「承知致しました。では、この小十郎も同じくエントリーして参ります。政宗様だけに危険な真似をさせるわけには参りませんから」
政宗「危険なのか? だって殺しはなしなんだろ?」
パンダ小十郎「しかし面子が面子ですからな。人間の小十郎の方も念の為出場させておきます」
政宗「そんな大事な大会なのか。こんなほのぼのとした森のイベントなのによ」
佐助「『ばさらの森を制する者は世界を制す』って言うからねえ」
政宗「嘘だろ?」
佐助「これマジだよ? たまたま去年までの優勝者は欲に走らないお方だったから良かったけどさ。でも島津公もいい加減お年を召してますからねえ」
政宗「因みにそいつが願った事って?」
佐助「確か『美味い酒をくれ!』とかだったような」
政宗「…欲がねえな」
佐助「ネ。実はこの森って何でもアリな世界だから。願おうと思えば本当に何でも叶えられるんだけどねー。何なら独眼竜の旦那も、もし優勝したら人間界での天下統一をお願いすれば? 多分叶えられると思うよ?」
政宗「はっ…いらねーよ。俺は自分の力で治める」
佐助「左様で」
政宗「まあ…いい加減引きこもり生活にも飽きてきた事だしな。一つ、楽しんでみるとするかな?」
幸村「うおお、ますますやる気が漲ってきたでござるあぁー!!」(ゴオオオオ【燃】)


政宗「………ちょっと暑そうだけどな」



つづく



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