第18話「不吉な予感」


ばさらの森武闘会。Aブロックの第ニ戦が始まろうという頃。
政宗に探されまくっていた幸村は、会場から大分離れた森の中で1人うずくまっていた。

幸村「うぅ…胸が痛い…。どこか悪いのだろうか…? これから大事な大会が始まろうというのに…」
???「おや、どうしました。そのような所でお1人で…。くっくっく……」
幸村「!!? き、貴様は…ッ!?」(慌てて立ち上がり警戒態勢を取る幸村)
???「おやおや…可愛らしい小熊と思いきや、実は立派な爪がおありなんですねぇ…? そのニ槍はただのお飾りではないようだ…」
幸村「あ、当たり前だッ! 明智、光秀ッ! 貴様、このような所で何をしている! 某に何の用だ!」
明智「ふふふ…そう邪険にしないで下さいよ。同じ森に住む動物同士…仲良くしましょう?」
幸村「断るッ! 貴殿は以前から意味もなく森の動物たちを殺生する無法者…! お館様からのお許しさえあれば、いつでもこの幸村が退治してくれようものを…!」
明智「くっくっく…。貴方の敬愛するそのお館様もよく分かっているのでしょう。貴方の力ではこの私には敵わないという事を、ね…?」
幸村「な、何をッ!!」
明智「退屈していたんですよ。この大会は信長様とお手合わせさせて頂くには良い機会かと思いましたが…何せ殺しは駄目でしょう? お目当ての方との対戦まで、そんなおままごとな大会に付き合わされるなど、いい加減ストレスが溜まるというものです」
幸村「き、貴様…!」
明智「で、ね。考えたんですよ。面倒な大会で1人1人手ぬるく倒すよりは――…こうして外でこっそり殺してしまえばいいんだって…ね?」(言いながら長い鎌を振り上げる明智)
幸村「は……ッ!? くっ…!」(間一髪で避けるものの、頬に掠り傷を負う幸村)
明智「ほう…私の一撃を避けるとはやりますねえ…。小熊さんですから、動きは鈍いのかと思いきや…これは楽しめそうだ…!」
幸村「貴様ごときにこの幸村は討ち取れぬ! それに某は、政宗殿と戦うまでは誰にも負けはせぬ!」
明智「ん……? ああ……あの人間の男ですね。ふふ……そうですか」
幸村「な、何だっ!?」
明智「いいえ…。あの人間は私も面白そうだと思っていたのですよ。小熊さん、貴方に食べさせるわけにはいきませんねえ…」(再度の攻撃!)
幸村「くっ…! (は、速い…こいつ…!)」
明智「さあさあ、急いで逃げないとあっという間にシチューにされてしまいますよ…?」(ニヤニヤしながら余裕の攻撃を繰り返す明智)
幸村「だ、誰がシチューになど…!」
明智「クマと言ったらシチューでしょう? ふふふ…そして、そうですねえ…あの人間の男は串刺しにしましょうか? それとも、砂糖をまぶしてデザートにしますか…?」
幸村「ま……政宗殿を、デザートになど…!!」
明智「フフフフ……クククク……面白い! 貴方最高に面白いですねえ、あの男の話をすると動きが速くなっていきますよ…! 槍の力も上がっていく…!」
幸村「許さんッ! 政宗殿は某の大切な友人…! 貴様になど―…!」
明智「友人…? おや……御友達、なんですか?」(不意にぴたりと動きを止める明智)
幸村「……? そ、そうだ! それが何だッ!」
明智「…それは予想外、でした。ただの御友達、ですか。ただの」
幸村「ぐっ…。な、何だというのだ、それが!(お、おかしい…また胸が痛くなって…?)」
明智「まあ事実なのか単なる無自覚なのかは分かりかねますがね。その程度の関係なら、見せしめに痛めつけるといってもあまり面白くはないですねえ。……そう、それならターゲットを替えますか。――貴方の敬愛するお館様に」
幸村「!!」
明智「ちょうどあの大虎さん、邪魔だと思っていたのですよ。私の信長様を倒さんといつも鼻息荒いですから。……目障りなんです」
幸村「き、貴様…! あろうことか、お館様を…!」
明智「……ふふ。そうです、その眼…! その闘志…! いいですねえ、ゾクゾクします! フフフアハハハ…! さあ、あらん限りの力で挑みかかってきなさい…! 八つ裂きにしてあげますから…!」
幸村「明智光秀ェーッ! 貴様を倒すー!!」(ゴウッ【燃】)
明智「さぁ、ディナーショーの始まりですよ…!」

――その頃、会場武舞台を少し出たところで――

佐助「あれえ? 独眼竜の旦那。どうしたの、真田の旦那見つかった!?」
政宗「お前こそ、アイツ探しに行ったんじゃなかったのかよ」
佐助「そうだったんだけど、俺サマこの試合の後出番だから。それに真田の旦那の事だから、大将の試合になったら駆けつけると思ってさぁ」
政宗「俺もそう思って戻ってきた。そろそろ始まんだろ? 武田のオッサンの試合」
佐助「もう始まってるよ。相手がなかなかすばしっこいみたいでちょっと苦労してるみたい」(背後の会場を後ろ手に指し示す佐助。観客席は大盛り上がりで沸いている)
政宗「スゲー歓声だな。さすが表の森を治めてる大将の出番ってだけあるな」
佐助「まぁ、大虎と忍コンドルとの戦いなんて滅多に見られるもんじゃないしねぇ? 知ってる? 俺サマとは宗派違いなんだけど、風魔の小太郎っていやあ、巷じゃかなり名の通ってる強い忍なのよ」
政宗「生憎だが、殆ど半引きこもりだった俺には何の事かさっぱりだ。それより、その見物の試合、幸村来てねえの?」
佐助「あ、そうそう。そうなのよ。だから俺サマもここで旦那が来ないか待ってたんだけど」
政宗「っかしいな…。何かあったのか……ん」

一際高い観客たちのどよめき声――。

政宗「何だ…?」
佐助「ホント、どうしたんだろ? まさか大将が負けるわけもないと思うんだけど…?」
小十郎「あ! 政宗様、いらしていたのですね、良かった!」(会場内から慌てたように出て来た人間の方の小十郎)
政宗「よう小十郎。どうした、中の様子は? スゲー沸いてたみたいだけどよ」
小十郎「はい、それはもう。何せ優勝候補の武田信玄公が北条の忍に敗退してしまったのですから」
佐助「ええッ!? 本当に!? ホントに、大将が負けちゃったの??」
小十郎「あ、佐助殿…。ええ、そうなんですよ、全体的には信玄公が常に押し気味のように見えたのですが…」
佐助「あっちゃ〜…。どういう事よ? 信じられないよ、そんなのって…」
政宗「小十郎。何かあったのか?」
小十郎「ええ…。常に攻撃の主導権を握っていた信玄公だったのですが……その、戦闘の途中で、突然武器の大斧にヒビが入ったのです」
政宗「ヒビ?」
佐助「そんなわけないよッ! 武器の手入れは試合前に入念に行ってたんだから! そんじょそこらの攻撃くらいじゃ…!」
小十郎「ええ。少し不自然な感じでした。しかも、それだけではありません。戦闘服の紐帯もことごとく引きちぎれて…」
政宗「何だって?」
小十郎「信玄公もご自分の負けうんぬんよりも、その事自体に面食らっておられるようでした。…私も嫌な予感がして…何か不吉な事の前触れでないと良いのですが」
佐助「ま…まさか、それって。今ここにいない真田の旦那の事、言ってる?」
小十郎「え…? い、いえ、私は別に。幸村殿、いらっしゃらないのですか? 政宗様?」
政宗「………」


――大虎信玄公の敗退と共に、真田幸村vs明智光秀の死闘の行方は!?
次号に続く。




つづく



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