第22話「脱皮」


ばさらの森武闘会。Aブロックの第三戦が始まろうという頃。

政宗「幸村ッ! 一体どうし―…!?」(バンッと勢いよく扉を開いて室内に駆け込む政宗)
小十郎「政宗様…。たった今薬が効いて眠ったところですから」
政宗「!? だ……」
小十郎「…?」
政宗「誰だ、コイツ……?」(ベッドに横たわる包帯ぐるぐる男に途惑う政宗)
小十郎「は……?」
政宗「おい小十郎! こりゃどういう事だ!? 俺は真田幸村が大怪我してお前に運ばれたって聞いたぞ!?」
小十郎「は…? 真田なら…まさに、ここにおりますが…?」(包帯ぐるぐる男を指し示して怪訝な顔をする小十郎)
政宗「はぁっ?」
小十郎「いえ…。ですから、そこで寝かせている男が真田です」
政宗「何言ってんだ、ふざけるのはやめろ小十郎! そこで寝てるのはッ! に…人間だろうがっ!」
小十郎「あぁ…」
政宗「何が『あぁ』なんだよ!? どう見ても人間だろ!? そりゃ……“顔”は、確かに……幸村、だがよ…。あの! あのもふもふふわふわな毛皮がねえッ! 小熊のまるっこい耳もねえ! ほら、肉球もなくなってんぞっ!?」(寝ている幸村の手を持ってその手のひらを乱暴に小十郎に見せ付ける政宗)
小十郎「ま、政宗様、落ち着かれて下さい。それに、真田が起きてしまいます。奴はこう見えて怪我人なんですから」
政宗「怪我人なのは分かる! けど、こいつは幸村じゃ――」
小十郎「いえ、この者は真田です。間違いなく、あの真田幸村ですよ。政宗様はご存知ではなかったのですな。片倉の奴、何も話していなかったのか…」
政宗「What!? 何をだ!?」

小十郎「脱皮です」

政宗「………………は?」
小十郎「いや、そういう言い方もまた語弊があるのでしょうが…。うちの森の奴らはみんなそうですよ。一度とんでもない生死の境を彷徨うと、これまでの獣の姿を打ち捨て、このように……つまり、人間の姿に“戻る”わけです」
政宗「………っっっ!!!!!」←ほとんど呆気
小十郎「いやまさか、政宗様がその事をご存知ないとは。この小十郎とて、政宗様が幼少の頃はそちらの世界へ行っていましたから、てっきり」
政宗「はっ!? いや…た、確かに。確かに、薄らぼんやりとした記憶の中にお前はいた。……けど、何つーか。その、その時は、お前、今の姿じゃ…なかったか?」
小十郎「はは、ご冗談を。あちらの世界でこのパンダの姿でしたら、即狩猟に遭って見世物小屋行きですよ。ははははっ」←呑気に笑う小十郎
政宗「はは…は…」(やや顔を引きつらせる政宗。呆れて言葉もない)
小十郎「まぁこの小十郎の場合は、ここにいる真田とは逆です。一度あちらの戦で瀕死の重傷を負ったものですから、こちらでパンダの姿となり、身体を癒していたわけです。お陰でこちらの畑仕事がすっかり板につきましたが…今回の政宗様のりふれっしゅ休暇とやらが終わりましたら、共に向こうの世界へ帰還する予定でおりました。あの片倉だけでは、何とも心許ないですからな」
政宗「幸村……こいつが……あの、幸村、なのか……」(小十郎の話は聞いておらず、ただひたすらベッドに横たわる人間・幸村を凝視する政宗)
小十郎「左様です。まぁあの小熊の姿もこの男には似合いでしたが、本来の力を発揮出来るとしたら俄然こちらの方が都合が良いでしょう。復帰には時間がかかるでしょうが……こいつをこれだけの目に遭わせた野郎を打ち砕くには、人間の姿の方がいい」
政宗「あ……そうだ、小十郎ッ! 幸村に怪我負わせた奴の見当はついてんのか!?」
小十郎「は…。はっきりとした証拠はありませんが、恐らく。あの鋭い鎌の斬撃痕は……あの男しかいないかと」
政宗「鎌…!? 明智か…!!」


――その頃、武闘会、会場では。


浅井「覚悟しろ、今川義元! この浅井長政の剣の錆となるがいいッ!」
今川「おじゃ!? ままま麿が何をしたと言うのじゃ、麿は魔王やあのでかゴリラと違ってこの森の征服なぞ考えておらぬじょ!? ただ麿はこの大会に優勝して、目立ちたいだけなんじゃおじゃあ〜!」
浅井「黙れ外道ッ! 自己顕示欲の塊、それ即ちこの世の悪の中でも最も醜きものッ!」
今川「ひいっ! ななな何じゃおじゃ、無駄に力みよっておじゃじゃ〜…! 暑苦しいでおじゃ!」
浅井「何をッ! 貴様のその顔こそが暑苦しいわッ! 否、貴様のその顔! それそのものが悪!」
今川「む、無茶苦茶な事を言うでないでおじゃ! 失礼でおじゃ【怒】!」←さすがにキレた
浅井「ならばかかってくるが良い! 一瞬で斬り刻んでくれるッ!」
今川「むむむぅ〜…! その自信満々な態度も許せないでおじゃ! 1回戦から使いたくはなかったが……必殺技を出すでおじゃ!」
浅井「必殺技だと!?」
今川「むむむぅ…!」(何やら手を合わせて念力を出すような構え)

市「長政さま……頑張って……」(観客席から小さい声で応援)

今川「むむむぅ……! 喰らうでおじゃ! 分身の術う〜!!!!」
浅井「……ッ!?」
今川「おじゃじゃじゃじゃ! どうじゃおじゃ!? 麿の必殺、分身の術! どれがホンモノか分かるかな〜?」(何と浅井の周りに5人の麿が現れた!!)
浅井「…………」
審判「…………」
市「…………」
今川「「「「「じゃじゃじゃ!!! 本体を掴めず混乱したでおじゃ!? そのまま怯えて立ち往生するでおじゃ! その隙に麿の華麗なる攻撃―…!!」」」」」
浅井「愚かな…」

審判「ストップ、ストーップ!!」

今川「「「「「おじゃ!?」」」」」
浅井「ふん…」(既に剣を収め、退場しようとする浅井)
審判「助っ人依頼は禁止! 反則です、反則! 今川義元選手、反則負け! よって勝者は浅井長政!」
今川「何じゃおじゃああ!?」
浅井「当然だ。複数で戦おうとするなど愚の骨頂。即ち悪!」
今川「ななな…何で麿の完璧な分身術が…! こりゃ審判! 何でこれらの麿が別人だと言えるんじゃおじゃ!? どこに他の麿がニセモノだという証拠があるんじゃおじゃ〜!!」
審判「いや、だって。他のアンタ、全然違うじゃん」
今川「おじゃ?!」
審判「デブだのノッポだのガリガリだのって。もちっとマシな影武者揃えなさいね」
今川「おじゃあああ!!!」(ショックでバタリと倒れる麿)

市「良かった長政様…。まずは1回戦突破だね…市といっしょ……」


半兵衛(……僕と秀吉は何だってこんな間の抜けた大会に出ているんだろう)



半兵衛にほんのりとした悔恨を植えつけながらもトーナメントは進む…!
そして人間になった幸村に政宗は…!? しょーもない展開にしながら、以下次回!!




つづく



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