第25話「不戦敗」


ばさらの森武闘会。Dブロックの第三戦が始まろうという頃。

小十郎「政宗様。Dブロックの第三戦はやはり少々遅れが出るらしいです」
政宗「そりゃ、あの騒ぎと崩壊っぷりじゃな…。けど、次の試合のお前はどうしてろって?」
小十郎「とりあえず控え室で待機していろと言われていますが、まぁ問題はないでしょう。逆に危険ですしね。何やらこの大会、既に多くの謀略が張り巡らされているようですし」←でも所詮は丸の蝋塗り作戦とかそんなもん
政宗「ん? そうなのか? …けどまぁ、次の試合はお前の不戦勝で決まりだ。幸村が試合に出られるわけはないからな」
小十郎「そうですね…。いささか残念ではありますが」

パンダ小十郎「政宗様ッ!」

政宗「動物の方の小十郎。どうした―…、まさか、幸村に何かあったのか!?」
パンダ「も、申し訳ありません! 真田の奴、窓から脱走しまして…!」
政宗「はぁ!? あの怪我でか!? 窓からって…どういう事だ!?」
パンダ「政宗様が出られた後、ほどなくして真田は意識を取り戻したのですが…。己の試合を酷く気にしていました。無茶はするなと言い聞かせたのですが、この小十郎がカブ売りのガブリバーさんから赤カブを購入している隙に…!」(そんな理由か)
政宗「あいつらしいな…。けど、あの怪我だ。試合になんぞなるわけがねェ」
パンダ「それが…。真田の奴、松永が置いていったあの薬を持っていったようなのです」
政宗「!」
パンダ「どこから話を聞いていたのやら…。気付けばあの袋ごと消えていたので、奴は薬を飲む気でしょう。本当に良薬ならば良いのですが、もし…」
政宗「……ち。とにかく、この周辺にはいるはずだ。小十郎、武田の忍にもこの事を伝えて、幸村を探させろ」
パンダ「はっ!」

佐助「もう探したよー」(突然現れる猿飛佐助)

政宗「お前…!」
佐助「やー、お館様に報告した後、そっちに行ったらちょうど真田の旦那が無茶しようとしてるところにバッタリ出くわしてさぁ。いやぁ、タイミング良かったわ。まったく、我が主ながら、ホント抑えどころを知らないって言うかねー」
小十郎「それでも、既に佐助殿が見つけられたのなら良かったです。もしまた明智などに出くわしていたら」
政宗「それで、幸村の奴はどうした?」
佐助「うん。とりあえず『どうしても試合に出る〜!』って駄々こねてたから、ふん縛って選手控え室に閉じ込めておいた。今から不戦敗を大会主催者に告げてくるよ」
政宗「そうか…。まぁ、それがいいだろうな」
小十郎「それでは、とりあえず私は武舞台に行って参ります」
政宗「あぁ…分かった」
佐助「それじゃ、俺サマもッ!」(言って姿を消す佐助)
パンダ「……ふぅ。何はともあれ、ほっと致しました。人間に戻ったくせに、動物並のすばしっこさです」
政宗「そうだな…」(何事か考えるように遠くを見つめる政宗)


しかし。人間・小十郎の不戦勝を告げるだけだったはずの武舞台では。


審判「それではこれより! Dブロック第三戦! 真田幸村VS片倉小十郎の試合を始める!!」
観衆「わーわーわー!!!」
審判「はじめえッ!!!」(どーんと大きな太鼓の音が辺りに鳴り響く)


政宗「……どうなってんだ。幸村……」(半ばボー然と大会場に現れた二槍姿の人間・幸村を凝視する政宗)
パンダ「まさか。何故真田が試合に…!?」
政宗「おい! 武田の忍! いんだろうが、出てこいッ!!」
佐助「……そんなに怒らないでよー…もう…」(渋々という風に席上に現れる佐助)
政宗「何で幸村が試合に出てんだッ! テメエ、不戦敗告げに行ったんじゃなかったのか!?」
佐助「行ったよ、行きました。けど……旦那に先手を取られてたんだ。旦那ってば俺サマがきつ〜く縛っていた縄からも自力で脱出していてさぁ、もう審判団に試合に出る事は告げてて、気づいた時にはもう武装してあそこにいたってわけ」
政宗「ったく、何考えてんだ、あいつ……」
佐助「まぁねー、真田の旦那だからね。闘わずして負ける、なんて、1番旦那にゃ我慢できない事だろうし」
パンダ「それにしたって、あの怪我は尋常じゃなかったんだ。お前も真田の従者なら、時には心を鬼にして主を止めるべきじゃないのか」
佐助「だから縄でふん縛って閉じ込めたって言ったじゃない! それでも逃げちゃったの! しょーがないでしょが! 大体、片倉の旦那だってさぁ、この独眼竜の旦那が同じ立場だったらどうなのさ!? ちゃんと止められた!?」
パンダ「無論だ。何を置いても、政宗様の御身体が第一」
佐助「どうだか〜」
パンダ「何だと!」

2人の家臣がそんな不毛な言い合いを続ける中、政宗はただ黙って闘技場を見つめる。
試合開始の合図はされたものの、舞台中央において、両者は黙ったまま睨み合いを続けている。

政宗(立っているだけでも辛いって顔してるじゃねーか。何でそうまでしてあいつ…)

小十郎「幸村殿。この闘技場に出られた以上、私も力を抜く事は出来ません。よろしいですか?」
幸村「………っ」
小十郎「……幸村殿?」
幸村「…っ! む、無論だ…! 手加減など無用! 来られよ…片倉殿…!」(ぜえぜえと息を荒くしている。確かに立っているだけで既に限界のようだ)
小十郎「……脱皮されたばかりの時は体力も酷く消耗しているはず。何より貴方は怪我人なのですよ。何故そうまでしてこの大会にこだわるのですか」
幸村「……大会にこだわっているわけではござらん……。ただ……」
小十郎「貴方をその様な目に遭わせた明智は、私たちで何とかします。憤るお気持ちも分からないではありませんが、ここは政宗様に任されては如何ですか」
幸村「! そ、そんな事は……断じて、出来ぬ……!」(ゴウッと身体全身から炎を纏う幸村)
小十郎「何故です…?」(その炎に焼かれまいと剣を構える小十郎)
幸村「政宗殿と某は、対等な関係で……ここで、闘おうと約束、したのだから……!」
小十郎(何という気迫……!)
幸村「某の問題は某自身で解決致す…! そして、この大会にも負けはしない…! 政宗殿と、戦う為にも…!」
小十郎「むっ…!?」
幸村「うおおおおぉ―ッ!! 火焔車あぁッ!!」
小十郎「……ッ!!」(真っ直ぐにその槍を迎え撃った小十郎。槍と剣が激しくぶつかり合う)
幸村「ぐおおおぉ―…! 我が炎、消えること、なし……!」
小十郎「………く!」

カッキ―ン、と。小十郎の剣が真っ二つに折られる。小十郎、ニ、三歩後退した後、息も絶え絶えの幸村を凝視する。幸村は今にも倒れそうだ。

小十郎「面白い…。貴方のような方と合い間見えれば我が殿も……」
真田「はぁ、はぁ…っ…。ぐう…」
小十郎「審判。愛刀がこれでは、私はもう戦えません。――私の負けを認めます」
真田「!」

審判「……試合、終了! 片倉小十郎ギブアップ! 勝者! 真田、幸村!!」

真田「………片倉殿……な、ぜ……」(ぐらりとその場に倒れかける幸村。しかし小十郎に受け留められる)
小十郎「どうしてでしょうか。でも、この方がきっと面白いでしょう?」


パンダ「……あの野郎、政宗様からは全力でやれと命じられていたはず。戻ってきたら、同じ片倉としてこの小十郎がこってりと絞っておきます」
政宗「……そうだな。まったく、とんだ家臣を持ったもんだ」


それでも政宗の顔は穏やかである。そうして、ただ気絶してしまった幸村へと視線は注がれる。
全ての三回戦が終わり、以下、次号…!




つづく



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