第26話「兆し」


ばさらの森武闘会。Aブロックの第四戦が始まろうという頃。
選手控え室横、医療室にて。

政宗「幸村!」
幸村「ま、政宗、殿…」
政宗「起き上がらなくていい。身体、きついんだろうが?」
幸村「大丈夫でござる…! こ、これしきの怪我…ッ」
佐助「無理しないの。思いっきり脂汗出てるよ?」(呆れたように溜息)
小十郎「ともかくは横になられて下さい。今、何か滋養に良い物を用意してきましょう」
幸村「………か、かたじけない」←物凄く小さな声
政宗「…………」
佐助「まーったく、旦那はいつだって心配ばっかしかけるんだから! お館様は放っておけって言ってたけどさぁ、何もこんな無茶しなくたって」
幸村「う、煩い…!」
佐助「そんなに独眼竜の旦那と闘いたいなら、傷が癒えた後に改めて頼めばいいじゃない。お互い知らない仲じゃないんだしさぁ。ねえ、独眼竜の旦那?」
政宗「………」
佐助「? 独眼竜の旦那ってば。どしたの、そんな真面目な顔して」
政宗「…はっ? ……あ、あぁ、別に…何でも、ねェよ」
佐助「はぁ? (何だろ、ぼーっとしちゃって)」
幸村「………ま、政宗、殿」(布団から半分顔を出しただけの幸村。熱のせいか仄かに顔が赤い)
政宗「…っ。何だ?」
幸村「!! なっ……何でも! やはり、何でも、ござらんっ!!」(何故か突然焦った風になり、布団の中に隠れてしまう幸村)
政宗「………」←どこか唖然
佐助「??? 何なの? 一体??」
政宗(こういう挙動不審なところは、あのもこもこしてた熊の時と変わらないように見えるが…)

パンダ「おぉ、政宗様。やはりここでしたか。大分予定を押しているとの事で、早速4戦目を執り行うとの事です。武舞台へお急ぎ下さい」

政宗「あ…? あぁ、分かった……。そういや、俺の出番か……」
佐助「相手はあの島津のおじいちゃんでしょ。気をつけてね〜。あのでっかい口は、何でも飲み込んじゃうブラックホールだって噂だよ♪」
政宗「ハッ…何だそりゃ。まぁ、とにかく行ってくるぜ。…何でも、勝ってこなくちゃな」
佐助「行ってらっしゃ〜い」(ひらひらと手を振って見送る佐助)
幸村「あ……!」(何か言いかけ、布団から顔を出すも、扉は閉められてしまった)
佐助「行っちゃった。俺サマも試合観てきたいけど…真田の旦那、ここでおとなしく寝てられる? もうすぐ小十郎さんも戻ってきてくれるかもしれないけど、あの人だってどうせ独眼竜の試合は観に行っちゃうだろうし」
幸村「お、俺も行くぞ…! 政宗殿の、試合――!」(ガバリと上体を起こしかけ、また痛みで顔を歪める幸村)
佐助「だから、アンタは無理しないで寝てなさいって」
幸村「い、嫌だ…! 政宗殿の試合を見るのだ…!」
佐助「……小十郎さんが手加減してくれたお陰で相手から受けた傷はないのに、自分が繰り出した技の衝撃だけでそんなに消耗してるんだよ? まだ安静にしてなきゃ無理って事だよ。ここで大人しくしてなきゃ、それこそ独眼竜との試合なんて無理だよ。そこまで辿りつけっこないって」
幸村「嫌だ!!」
佐助「だ、旦那…?」←あまりに駄々をこねるのでちょっとびっくり

小十郎「お待たせ致しました。……おや?」(どこか様子のおかしい2人に何かを感じ取って動きを止める小十郎)

幸村「俺は……俺は、政宗殿の、試合を……」


その頃、武道大会武舞台では。


審判「これより! Aブロック第4戦! 島津義弘VS伊達政宗の試合を執り行う!!」
観客「わーわーわー!!」
審判「はじめいっ!!」(どーんと大きな太鼓の音と観客の歓声により、試合スタート!!)


政宗「よう、島津のオッサン。最初に会った時より酒臭ェな」
島津「うい〜っ…。んん…? そうか? わっははは! 若ェもんが、そげなこまかこつ、気にするでなか!! うい〜っ。ぐびぐびぐび……」←試合が始まっているのに酒をかっくらうカバ島津じいちゃん
政宗「俺も嫌いじゃねェ方だが、アンタみたいな飲み方は好かねェなぁ……」(抜いた剣の切れ味を確かめながらぼそりと呟く政宗)
島津「うい〜っ。じゃ、なぁ…。そら、そうかもしれん。何せ、今のおいのこれは、自棄酒じゃからな」
政宗「自棄酒…?」
島津「……おいが暫く離れている間に、こん森も変わった。まぁだ、ゆっくりゆっくりな歩みじゃからな…こん闇が見えるもんも、そうはおらんようじゃが……」
政宗「闇が…? 一体何の話だい?」
島津「他所から来たおまはんには分からんこったろう。じゃが、そいでよか。おまはんは、元々ここで生きる漢じゃなか。おまはんには、おまはんの生きる場所がちゃんとあったい。ここは、おいが守るでな」(言いながらのっそりとした動作で濁酒を置き、傍にあった巨大な斧を持ち上げる)
政宗(む……!)
島津「おまはんには何の恨みもなか。じゃっどん、ここで去ね。この先はまさしく、修羅の道よ…!」(言うと同時に斧を真っ直ぐに振り下ろしてくる。それだけで竜巻のような強風が辺りに巻き起こり、観客が次々にその風に煽られ飛んでいく)
政宗「くっ…。すげぇ、バカ力だな…! ブラックホールってなぁ、これの事か!」
島津「ほりゃあぁっ!! 示現流、一の太刀…! 立ってられるかの? カーッ!!」
政宗「……!!」

巨大な砂嵐に囲まれたようになり、視界が全く閉ざされる。唯一影が見えるのは巨体なカバ島津おじいちゃんだけ。

島津「これで終わりよ……」
審判「…!? 伊達選手は…!?」(闘技場の陰に避難し、試合を見守っている審判。きょろきょろと見回すが政宗の姿が見えない)
島津「探しても無駄よ…。大方、おいの放った技で場外へ飛んで……むぅっ!?」
政宗「どこ見てんだ、オッサン!」(突然島津の頭上、遥か上空から下りてきた政宗)
島津「!!」
政宗「遅いぜ! Hell、dragon…!!」
島津「ぐ…ぐあああああッ…!!」

観客A「見えない…砂嵐で何も見えないぞ…!?」
観客B「一体中で何が起きてるんだ〜!!」

佐助「あ、小十郎サン! どうなってんの、一体!?」(まばらになる観客席に現れた佐助…と、幸村)
パンダ小十郎「……見ての通りだ。勝負は決まった」
佐助「え?」
幸村「あ……!」

審判「勝負ありッ! 島津選手戦闘不能状態により、伊達政宗選手の勝―利ですッ!!」(どーんと太鼓の音と共に、徐々に砂嵐が解けて行く)

幸村「政宗、殿…!」
政宗「……幸村」(闘技場から逸早く幸村の存在に気付いた政宗)
島津「ぐぅ……」(その傍でのびてしまった島津おじいちゃん)

佐助「なになに、一体何があったのさ〜? 試合、始まったばっかなんでしょ? 俺サマたち、独眼竜の旦那が闘ってるところって実は1度も見た事ないし。それで急いで来たってのに〜」
小十郎「幸村殿は絶対安静なんですがね」
パンダ「……まぁ、これから嫌でも見る機会はあるさ。何せ政宗様はこれからも負けやしない。この大会を制するお方なのだからな」
佐助「おっ。すっごい勝ち誇った顔〜」
幸村「………」
佐助「真田の旦那?」
真田(政宗殿……)


黙って政宗を見つめる幸村。政宗も然り。2人の関係はどうなるのか!?
大会も進みつつ、以下次号…!!




つづく



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