第27話「政宗の好きなひと」


ばさらの森武闘会。Bブロックの第四戦が始まろうという頃。
場所は、怪我をした選手が休む為の救護室。

小十郎「とりあえず、再び闘技場が壊れたという事で、修復の為小休止だそうです」
佐助「さっきから中断してばっかで、無事終わるのかね〜この大会」
政宗「そういえば今さらなんだが、今日は一体何試合やる予定なんだ?」←ホントだよ
佐助「えっとね。一応日没までって規定はあるけど。試合が始まったら勝敗が決するまではやるという決まりもあるんで、その1試合が夜中まで続けば、夜だろーと明け方だろうと続行するカンジ」
政宗「へ〜え」
パンダ「まだ日没までには数時間あります。今のところ1試合自体の試合時間は然程長くないですから、大会主催者ももう何試合かは出来ると踏んでいるんでしょうな」
佐助「真田の旦那とそこの小十郎さんとの試合は5分だし、独眼竜の旦那とカバの島津ジーサンの試合だって10分経ってないもんね」
小十郎「まあ、とりあえずはお茶にしませんか? 皆さん、お昼はお召し上がりになりましたか? 政宗様は――」
政宗「あ〜、俺はいい。何か食欲ねぇ」(ひらひらと片手を振ってそっぽを向く政宗)
幸村「………」(1人ベッドにいながら、上体を起こした格好でじっとそんな政宗を見つめている)
佐助「真田の旦那は何か食べなくちゃ駄目だよ? 何かお腹に入れて、その後痛み止めの薬飲もう」
幸村「お……俺も、別に、いい………」
政宗「……」(幸村の発言に再びくるりと体勢を戻し、ベッドに向き合う)
佐助「だーめ! さっきだって駄々こねて独眼竜の旦那の試合観に行ってさ、案の定、もう疲れちゃってるし。脱皮を舐めてるでしょ、旦那? 旦那は生死の境を彷徨ったんだよ?」
幸村「だ、大丈夫だと言っているだろう! 佐助はいつもいつも俺を子ども扱いし過ぎだ…!」
佐助「だーってお子様だもん」
幸村「なっ…」
佐助「自分の体調管理もちゃんと出来ないお子サマ。違う?」
幸村「佐助!」
小十郎「ま、まあまあ…落ち着いて下さい、お2人とも。それでも、幸村殿。佐助殿の仰る事ももっともですよ。食欲はなくとも、少しでも何か食べて下さい。貴方は政宗様と闘いたいとお望みなのでしょう?」
幸村「そ、それは……」
小十郎「それでしたら。貴方に負けた私の分まで、万全のお姿で臨んで頂かなくては困ります」
パンダ「わざと力を抜いておいて、よく言う…」(限りなく小さな声。傍にいる政宗にしか聞こえていない模様)
小十郎「私はお茶を入れてきますね」
パンダ「では、私も一旦家に戻ります。…実はこの真田が突然脱走したもんで、勢いのまま出てきてしまい…鍵を掛け忘れてきてしまったもので」
佐助「あら。どう森はお出掛けの時はみんな鍵掛けて、他の動物が入れないようにしてんのにね〜」
パンダ「この小十郎、一生の不覚だ。それでは政宗様。この小十郎もすぐにまた戻りますが―…どうぞお気をつけて」
政宗「あぁ? 心配すんな。それより、お前はこの次の次が出番だろう。遅れるなよ」
パンダ「承知!」
佐助「………あ! そういえば俺サマもちょっと用事があったんだッ!」(唐突にぽんと手を叩いて)
幸村「さ、佐助…?」
佐助「悪いね、旦那! 俺サマもちーっとばかし席を外すけど! ちゃんと独眼竜の旦那の言う事きーて、お薬飲むんだよ!? じゃあねえ!!」
幸村「ちょっ…おい、佐助!」
佐助「御免っ!」(言った瞬間、すちゃっと消える佐助)
幸村「………っ」
政宗「何だあいつ。急に」


W小十郎と佐助が部屋を出て行き、部屋には政宗と幸村、2人だけが残された。


幸村「あ…ああああ、あの…! あの…!」
政宗「……あぁ?(何か妙な感じだな…やっぱり。これがあのもふもふの小熊だった幸村…)」
幸村「そ、そそ、その! 政宗殿、先ほどは素晴らしい闘いでござった!」
政宗「あ? あぁ……けどお前、そんな見てなかったろ?」
幸村「見ておりました! しっかと! そ、それに政宗殿のお姿があの粉塵ではっきりと捉えられなくとも! 政宗殿のあの尋常ならざる覇気は! 闘志は! 某の熱き胸にもしっかと伝わって参りましたから!」
政宗「は…そうか。けど、どうでもいいが、あんまり力むなよ。傷に響くだろ?」(言いながら近づき、幸村の髪の毛にそっと触れてみる政宗)
幸村「……っ! だだだだ、大丈夫で、ござる…!」(それだけでカーッと赤面してしまう幸村)
政宗「なぁ……幸村……」
幸村「は…!?」(顔を近づけられてびびりまくる幸村)
政宗「さっきから気になってたんだが…結局あの薬、飲んだのか?」
幸村「は…?」
政宗「松永とかいうワニ野郎が持ってきた薬だ。お前が持ち出したって聞いた」
幸村「あ…あれでござるか…。ここに……」
政宗「! まだ飲んでなかったか」
幸村「よほど傷が痛むようであれば、試合前にいちかばちか飲んでみようと思いましたが…。気迫が勝ったのか立って槍を持つ事も叶いました故…やはり手をつけるのはやめたのです」
政宗「そうか…。まぁ、それがいいだろうな。何が入っているか分かんねーし」
幸村「……ま、政宗殿。この度は無用なご心配を御掛け致しまして…誠に、かたじけない」
政宗「ん…? あぁ…まったくだぜ。アンタが怪我したって聞いた時は、マジで心臓が冷えたからな」
幸村「な…何故……それほどまでに…?」
政宗「そりゃ…アンタは俺の大切な………ダチだから、だろ?」
幸村「!」
政宗「……? 幸村…?」
幸村「そ、某…。某、実は、あの森であの明智と対峙した時……」
政宗「…!」
幸村「某…あの者が突然吹いた戯言に心の隙を突かれ……それで……」
政宗「戯言…?」
幸村「あの明智は……明智光秀は、某が……某が政宗殿のことを……」(これ以上ないという程真っ赤になっている幸村)
政宗「幸村……?」


元親「うおおおいッ!! 政宗、ここかーッ!?」(バーンとドアを蹴破らさん程の勢いで現れた元親)


政宗「な…!」
幸村「!!」
元親「ハッハー! やあっと見つけたぜい! そんでもって、スゲー久しぶりの登場だぜえ! 読者もこの俺の存在忘れちまうぜ、こんだけ登場回数ねーと!!」
政宗「……テメエ」
元親「おいおいおいおい、そんでもって、さっきの試合はなかなか魅せてくれたじゃあねえか! さすが俺と元就を争っている男なだけはあるな! けどなぁ! 次はこの俺! 鬼の元親があの豊臣の野郎をぶん殴って勝ってやるからよう! それまでその首洗って待ってな!」
政宗「……それを告げる為だけにやってきたのか、お前?」
元親「あん? そうだが? ……そういやあ、ここ救護室だけどよ、お前、怪我でもしてたのか? んん? あー、何だ幸村か! お前が怪我してたのか? 確かあの片倉って人間を一撃でギブアップさせたはずだったのに」
幸村「………元親殿」
元親「それにしても…カーッ! 可愛い小熊だと思ったら、今度は人間かよ…! このばさ森の住民共はこれだからずりぃぜ! 俺なんか…俺なんか、ずーっとこの鬼の姿だってのに…!」
幸村「元親殿!」
元親「うおっ…び、びびらせるな。何だよ、急に…?」
幸村「……ま、政宗殿と元就殿を争う、というのは…?」(物凄く沈んだ顔で俯く幸村)
元親「はぁ? あれ、お前知らなかったか? ここにいる政宗はなぁ、俺が長い事ずーっと! 狙っていた元就にちょっかい出しやがって、横からぶん獲ろうなんて卑怯なこと考えてやがるからよう! この俺様が直々懲らしめてやろうと思っているとこだ! かっかっか!」
政宗「黙りやがれこのバカ鬼【殴】!!」
元親「痛ェ! テ、テメエ、何しやがる、俺は本当の事を…!」
政宗「何が本当の事だ! 適当なこと吹いてんじゃねえ!!」
元親「いてえ! イテテテ、テメ、殴るなって、おい…痛ェ、痛ェって〜ッ!!」


幸村「………政宗殿は元就殿のことを………」



そうこうしているうちに、Bブロック第四戦が始まったのだが――。



審判「これより! Bブロックの第四戦! 豊臣秀吉vs長曾我部元親の試合を始め――!?」
秀吉「フン……ッ」(いきなりむんずと元親の頭を掴み上げた秀吉)
元親「!? がっ……テ、テメ……」(じたばた!)
秀吉「ホウアアアアアア―ッ!!!」(ブンッ!と力任せに投げ上げる秀吉)
元親「うぎゃあああああ!!!!!」(ピューッ!!と、遠くのお空へひとっ飛び。キランと星のように光って消える)
審判「………ッ! と、豊臣選手! まだ開始の合図を……!」
秀吉「むぅ……」(ぎろりと百人くらい一気に殺しそうな目で睨みつける大ゴリラ)
審判「ひいっ! しゅ、終了! 試合終了〜! 長曾我部選手、場外アウト! 勝者! 豊臣秀吉!」
観衆「……どわああああああああ!!!!!」



小十郎「そろそろ元親殿の試合が始まる頃でしょうか。政宗様、ご覧になられないのですか?」
政宗「どうでもいいぜ、あんな奴…【怒】」(ふいとそっぽを向いていじけた様子の政宗)
幸村「しょぼーん……」(依然として項垂れ気味)
小十郎「???」



ページの都合上、ゴリラ秀吉に瞬殺されたチカちゃん。すまん。
また、そんなチカちゃんのせいで微妙に気まずい空気になる2人。以下、次号…!!




つづく



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