第31話「人間の方が、何かイイ」


ばさらの森武闘会。ほんの束の間の休息――。

けれどパンダ小十郎宅もとい伊達軍本拠地内は大わらわ。

小十郎「薬が効いたのでしょう。熱に浮かされていましたが、今は大分落ち着いています」
政宗「そうか…。しかし、うちの小十郎をここまで追い詰めるとは明智の野郎…」
佐助「一体どんな小ズルイ手を使ったんだろね。あの風魔がどう関わってパンダの旦那を連れて来たのか、引きとめて訊けば良かったかな?」
政宗「あいつ、口きけんのか?」
佐助「誰も喋ってるとこ見た事ないみたいだけど?」
政宗「んじゃ、駄目じゃねーかっ。まあいい。明智の事はパンダ小十郎が目を覚ましたら話を聞くさ。とりあえず、もう今夜は休もうぜ。色々考えててもしょうがねえ」
佐助「意外に楽観的なんだ?」
政宗「あん? 意外か?」
佐助「うん、まあね? だって一国を担うボスなわけでしょ? もっと色々深刻に考える人なのかと思ってサ」
小十郎「政宗様はとても思慮深いお方ですよ」
元就「フン…どうだかな」
幸村「……………」←何となく置いてけぼり
政宗「とにかく、話は終わりだ。俺も疲れた。明日に備えて寝るぜ。じゃーな」
小十郎「お休みなさいませ。パンダの看病はこの小十郎にお任せを」
佐助「あ、俺サマも交代で看てあげるよ。徹夜とか慣れてるんで」
幸村「そ、それなら某も――」
政宗「アンタは休め」
佐助「旦那は寝るのが仕事!」
小十郎「幸村殿はお休み下さい」
幸村「み、皆でそうまくしたてずとも…!」(3人のあまりの迫力にオロオロする幸村)
元就「くだらぬ」←ふいとそっぽを向いて一人さっさと客室へ消える


その夜。


幸村(眠れぬ…目が冴えてどうしようもない…。身体は疲れているはずなのに…)
政宗「ん…? 幸村?」
幸村「はっ…!? ま、政宗殿!?」(突然背後に現れた政宗に驚く幸)
政宗「どうした? 喉でも乾いたか?」
幸村「は…はい。申し訳ござらん。勝手にこちらに……」
政宗「べっつに、水道の水飲むくらい勝手にやってくれ。つーか、そんなんじゃなくて、何か淹れてやろうか? HotMilkでも飲むか?」(言いながら自分もキッチンに入り込み、棚からカップを出す政宗)
幸村「そ、そのような…! 政宗殿のお手を煩わせるなど…っ」
政宗「別にこのくらい大した事じゃねェよ。俺もどうにも寝付けなかったから、パンダ小十郎の様子見てこっちへ来たんだ。コーヒーでも飲もうかと思ってな。ついでだから気にすんな」
幸村「……か、かたじけない」
政宗「そっち行って座ってろよ。湯はさっき沸かしたのがあるって小十郎が言ってたし、すぐ出してやれるから」
幸村「はい……」←何となくそわそわしつつ、それでも大人しくリビングのソファへ行く
政宗「今日は長い1日だったな。お互いによ」
幸村「は……」
政宗「色々あったし、疲れてるからすぐ眠れるかとも思ったが、全然眠れねェ。まったく、ここにはリフレッシュで来たって言うのに、とんでもない戦いに巻き込まれたもんだぜ」
幸村「………」
政宗「アンタもな。とんだ目に遭っちまったな」
幸村「そ、某は……」
政宗「ほら。熱いから気をつけて飲めよ?」(言って幸村にはミルクの入ったカップを、自分はコーヒーの入ったそれを持って自らもソファに腰をおろす)
幸村「か、かたじけない…。頂くでござる」
政宗「おう」
幸村「……っ」(フーフーやってから慎重な手つきでミルクの入ったカップを傾ける幸村)
政宗「どうだ? 美味いか?」
幸村「とても……とても、美味しいでござる」
政宗「そっか。良かったぜ」
幸村「……某、このように美味な物は初めて飲んだでござる」
政宗「はぁ? ハハッ。ったく、大袈裟な奴だな。けど、そこまで言ってもらえたら淹れた俺も甲斐あったってもんだ。嬉しいぜ」
幸村「………政宗殿」
政宗「ん」
幸村「片倉殿の事がありました故、すっかり改めて侘びを入れる機会を逸しておりましたが。今日は本当に申し訳なかったでござる」
政宗「何の話だ?」
幸村「その……政宗殿のことを、嫌いなどと申して……」
政宗「ああ…。けど、本気じゃねーんだろ?」
幸村「勿論でござる」
政宗「なら、それでいいさ。俺も何かお前の気に障るようなこと言っちまったんだろうし」
幸村「そのようなっ。政宗殿は何も悪くござらん! た、ただ、ただ某が――…!」
政宗「お前が……? 何だってんだ?」
幸村「そ、某が……その、……醜い感情を抱いてしまって……」
政宗「……何だよそれ?」
幸村「某、政宗殿がこの森に来て下さった事、とても嬉しかったのでござる! そうして、某と仲良くして下さった事も! 一緒に今回の大会に出て下さって、剣を交える約束もして下さった! とても……とても、嬉しかったのでござる!」
政宗「そりゃ……俺だってそうだぜ? お前はイイ奴だし。一緒にいて凄ェ気持ちの良い男だ。その、いきなり人間になったのにはびびったけどな?」
幸村ですから某……某はこれからも政宗殿の良き……ゆ、友人として、政宗殿の今後を応援するでござる」
政宗「は?」
幸村「もう…もう、某、己の勝手な感情に惑わされて、政宗殿の気持ちを乱すような真似は致さん! 元就殿は美しいお方。政宗殿が惹かれるのも道理でござる…! おっ…お、お2人は、とてもお似合いでござるからして…」
政宗「……おい、幸村。お前、一体何の話を――」
幸村「飲み物、美味しかったでござる! 明日もまたお互いに頑張りましょう! 某も政宗殿のらいばるとして、明日も頑張るでござるよ! そして片倉殿の敵もきちんと取るでござる! 明智打倒は、某の目的でもあります故!」
政宗「だからお前、ちょっと、それはいいんだが、ちょっと待てって…」
幸村「それでは政宗殿、良い夢を!」
政宗「幸村っ。だから待てって!」(強引に話をまとめて去ろうとする幸村を慌てて掴み、引きとめようとする政宗)
幸村「あ…っ?」(フェイントで手首を捕まれた為、体勢を崩す幸村)
政宗「うおっ!?」(そんな幸村がもろに自分の方に倒れてきて面食らう政宗)
幸村「いっ……あ……」
政宗「いってえ…。幸村、大丈夫か?」
幸村「あ…あ……」(みるみる赤面する幸村。事故とはいえ、政宗の身体に抱きかかえられるような体勢で倒れてしまった為)
政宗「いきなり引っ張って悪かったな。けど、あんまり訳分からない話をするからよ」
幸村「ま、政宗殿っ。離して下されっ(焦)!」
政宗「ちょっ…、おい暴れるなって。大人しくしてろ」
幸村「は、破廉恥な…っ。このような…これでは、まるで……」
政宗「いーじゃねーか、ちっとくらい大人しく抱っこされてな? 元々ちっこい小熊だったんだしよ。抱き心地は前より良くはねえがな」
幸村「は、離して下され!」
政宗「だがよ。小熊より……、やっぱり人間の方が、いいかも…な?」
幸村「は…?」
政宗「最初は実感なかったけど、やっぱお前はあの幸村なんだな。ホント、途惑ったがな。けど、経緯はどうあれ、何か嬉しいぜ。俺と同じヒトとして、お前と相対せることが」
幸村「それは…某も、勿論……」
政宗「何でだろうな? 何か…アンタとこうしていると…離したくない気持ちがしてくるぜ…」
幸村「ま…っ」
政宗「よく分かんねーけど。けど、これだけはハッキリ言っておくぜ? よく分かんねェ理由で、お前、勝手に俺から離れようとすんな」
幸村「政宗殿……」
政宗「な。分かったかよ真田幸村?」
幸村「わ……」
政宗「ん?」
幸村「分かったで…ござる…」
政宗「Good!」


佐助(フー、やれやれ。ちょっとは前進してるのかしてないのか)


佐助のそんな溜息をよそに、ばさ森の夜は更けていく――。
次号へ続く!!




つづく



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