第35話「平和な森の祭りじゃないのか」


ばさらの森武闘会。Dブロック準決勝が始まろうという頃。


元親「とんでもねェ試合だったな。黄泉の世界が垣間見えたと思いきや、その遣い手はいつの間にか竹中半兵衛の野郎にやられてやがった」
政宗「………」←黙って立ち上がる政宗
幸村「…っ? 政宗殿? どちらへ行かれるのでござるか!?」
政宗「医務室だ。あの市って奴がどうなったのか気になる」
幸村「は……?」
元親「何でお前が魔王の妹なんざ気にするんだよ。知り合いでも何でもねーだろ」
政宗「まぁな…。けど、あいつとは一度森で話した事がある。全く知らない間柄ってわけでもねェ」
元親「ハァン? ハハッ、何だぁ、怪しいぜえ! まぁ、不気味な女ではあるが、見目は悪くねえ。もしや、お前。あの黒獅子女に惚れたとかぁ!?」
幸村「な…っ!」
政宗「けっ。バカバカしくて反論する気も起きねーぜ」
元親「おい、ちょっと待てよ。ところで、元就の奴は何処だぁ? 来てねーのか?」
政宗「まだうちで寝てるんだろ。俺は知らねーよ」
元親「はぁ!? なな、何で元就がお前んちに…ッ! ま、またアイツ、お前ん所に泊まりやがったのか!?」
政宗「俺が泊まってけって言ったんだよ」
幸村「……っ」
政宗「どうでもいいが、俺はもう行くぜ?」(そう言いながら会場を後にしてしまう政宗)
元親「ちょっと待てゴラア! お前が泊めたってなぁ、どういう事だあ!!」(ムキーッ)
幸村「政宗殿……」←ショボーン


医務室までの通りで。

政宗「……!」
???「……おや。貴方は」←不気味な長い白髪の男がゆらりとした佇まいで目の前にいる
政宗「人間……。誰だ、テメエ……」
???「ああ……そうでした。この姿でお目にかかるのは初めてでしたねえ…。私もどうにも慣れません。そもそもこの森でヒトの姿というのがいけない……身体にも違和感ありまくりですよ…ふふふ……」
政宗「その喋り……!? テメエ、まさか…ッ!?」
???「初めまして、独眼竜。私は、人間の明智光秀…。以後、お見知りおきを……」
政宗「明智っ…!?」
明智「まったく……あのハイエナの姿、随分と気に入っていましたのに……。貴方のところのパンダさんにはまんまとやられてしまいました。お陰でここまで復活するのにも大分時間を掛けてしまった…。その間に帰蝶も負けてしまったようですし……織田軍はもう信長様しか残っていませんねえ…ククク……」
政宗「テメエ…! やっぱりテメエが、小十郎を…!」(殺気立ち、刀の鞘に手を掛ける政宗)
明智「おっと、このような場所で無粋な真似はおやめ下さい。それに申し上げましたでしょう、酷い目に遭ったのはむしろ私の方ですよ。私が片倉殿に重症を負わされ、脱皮せざるを得ないところにまで追い詰められたのですから…ね? ……もっとも、その後、片倉殿もとんだ災禍に見舞われたようですが……フッフッフ」
政宗「明智ィ…!」
明智「ですから、そのような殺気はお納め下さい。幾ら温和な私でも怒りますよ…?」
政宗「上等だ…! 小十郎の代わりに俺がテメエにとどめを刺してやるよ…! その前に話してもらう、昨日何が起きたのかを!」
明智「ですから、お話しましたよ。私は被害者。そうして、片倉殿も被害者です」
政宗「……ッ!?」
明智「ですがね……。もうそんな事、どうでも良いんです。遅かれ早かれこの姿には戻ろうと思っておりましたし。考えようによっては、私の一番大切なお方を食い殺すのには、やはりこの世で一番醜い生き物…ヒトである方が似つかわしい…」
政宗「何だと……?」
明智「くくく……それに……味方を失った魔界の王が、どのようにして現世(うつつよ)の獣どもを葬っていくのか見物するのも面白い……。その為には、彼らに少しばかり良い目を見せてあげるのも悪くはありません……そうでしょう、そこの高貴な仔猫さん……?」
政宗「……っ!?」(ぎくりとして振り返る。そこには気配なく背後に立っていたペルシャ猫が)
竹中「君は意外とお喋りな男だったんだね、明智君。それにまだ生きていたとは。随分としぶとく頑丈に出来ているようだ」
明智「お褒めに預かり恐縮ですよ…。おや、いけない。もう試合が始まっていますねえ……私の信長様の応援に行かなくては…。そろそろ失礼しますよ……フフフアハハハハ!」(不気味に高笑いしながらゆらゆらと去っていく明智」
竹中「……さて、あの死神の鎌を最後に味わうのは誰かな?」
政宗「………」
竹中「或いは、死にぞこないの死神なぞ誰も相手にしないかもしれない。そうだろう、政宗君?」
政宗「テメエ……」
竹中「そう殺気立たないでくれたまえ。それにしても、今日は君とよく出会う。そういう巡り合わせらしい」
政宗「別に会いたくなんざなかったけどな」
竹中「気が合うね、僕もだよ。君のような人間はどうにも好かない。……僕はただ薬を貰いに来ただけだ。もう行くよ」
政宗「薬だ…?」
竹中「今の試合で少しばかり怪我をしてしまってね。そうそう、中には君が気にしている織田の姫君もいるよ。今はまだ意識のない状態で夫君が傍にいるから、無駄に近づいていらぬ誤解を招かない方がいいんじゃないか? ……君自身にとっても」
政宗「はぁ? 何の話を――…」

幸村「政宗殿っ!」

政宗「! 幸村!」
竹中「……では僕は失礼する。君たちとは両ブロックの決勝にでもいかない限り会う事はないが…せいぜい頑張ってくれたまえ」
幸村「竹中半兵衛…!」
竹中「幸村君も、己のくだらぬ感情で前が見えなくなるような事態にならぬよう、気をつけるといい」
幸村「なっ…!」
竹中「ふふ……では」
政宗「チッ。いちいち癇に障る野郎だ…!」
幸村「ま、政宗殿……」
政宗「悪い幸村。俺を追ってきてくれたのか?」
幸村「はい…。その、お市殿のご様子は?」
政宗「奴の話じゃまだ意識は戻ってねえらしい。……まぁ俺が見舞ったところでどうにもならねえな。旦那もいるようだし、会うのはやめるぜ」
幸村「そ、そうでござる…。良くないですぞ、伴侶がいるお相手というのは…!」
政宗「……あん?」
幸村「そ、それにっ。政宗殿には元就殿がおられるのですから、あまり他の女人を気に掛けては、元就殿も面白くないでしょう…!」
政宗「幸村。お前は一体何の話をしてるんだ?」

けれど政宗が訳が分からないという風に首をかしげた瞬間だ。
突然、頭上から轟音が鳴り響き、ガラガラと天井の一部が崩れ出した!!

政宗「な…っ?」
幸村「何だ!? 何が起きたのだ!?」
政宗「外の闘技場だ! 凄ェ破壊音だ、一体…!?」

更に周囲は観客の怒号や悲鳴、建物の崩れる音で騒然となっている。どうやら現在試合が行われている闘技場がその元凶らしい。
恐らくは激しい戦いが繰り広げられているが故の騒動なのだとは、場所を離れた政宗たちのいる位置からも分かった。

政宗「おい幸村! 大丈夫か!?」
幸村「平気でござる! しかし、一体…!? 今の試合は、確か…!?」
政宗「ああ、織田信長の野郎と、確か……【徳川軍】の本田忠勝って奴が相手だ!」


審判「観客の皆様! 落ち着いて! 落ち着いて避難を始めて下さい!」
観客「どわああ、ぎゃああ、うわあああああ!!!!」←殆どパニック状態。観客席から我先にと外へ逃げようとする人々…否、動物たち
審判「落ち着いて! 落ち着いて下さーい!!」


政宗「とんでもねえ騒ぎだな…!」(闘技場一番上のスタンド席から階下を見下ろして)
幸村「あれを! 忠勝殿と、織田信長が!」


忠勝「…………ッ!」」(激しい金属音を立てながら巨大な槍で信長に激しい連続攻撃)
信長「ふぬうっ! 是非もなしッ!!」(それを自らの刀で受け留めながらショットガンを放つ信長)
家康「忠勝ーっ! 行け、忠勝ーっ!!」(逃げ惑う観客の中、一人最前線で応援を続けている家康)


元親「おい、政宗、幸村! お前らもう逃げたのかと思ったぜ! 戻ってきやがったのか!」
幸村「元親殿!」
元親「まったく、あの化け物ども、むちゃくちゃやりやがるぜえ! 試合もクソもあったもんじゃねえ! 闘技場も無茶苦茶だぁ! こりゃあ、俺らもさっさととんずら決めた方が利口だぜえ!」
幸村「しかし試合は…」
元親「こんなバケモン、どっちが勝っても関係ねえだろ! ……あ。って事は、ねえのか。確かこいつらの勝者が、幸村と元就の勝った方の相手だったな……」
幸村「は!? そ、そそ、某の次の対戦相手は、元就殿なのですかあ!?」
元親「知らなかったのかよ……」
幸村「そそ、某が元就殿と…!!」(あわあわと妙に動揺する幸村)
政宗「……おい見ろ!」(闘技場を見やっていた政宗が大きな声を上げる)
元親&幸村「!?」


信長「消えろデカ物……!」(巨大な魔の氣を放ち、剣を振り下ろす信長)
忠勝「………!?」(それを受け留めながら、何故か身体から無数の火花を散らす忠勝)
家康「はっ!? しまったショートか…!? た、忠勝、忠勝ーっ!!」
信長「消えろ!!」(とどめのショットガンを放つ信長)
忠勝「……………!?」
家康「ウワアアー!! 忠勝ー!!!!!」





その数十分後。闘技場の外へ出た政宗たち3人は。

政宗「相手殺したら失格になるんじゃねえのか?」
元親「忠勝はロボットだから死なねーよ。また家康が復活させんだろ……」
幸村「しかし……最後の一撃はあまりに無用のもの。最早勝負はついていたというのに」
元親「まあな。けど、これでますますあの魔王のオッサンの力がとんでもねえもんだってのが森中に広まっただろうよ。何せあの本田忠勝の野郎を数度の剣交で倒しちまったんだからな」
政宗「………とんでもねえ森だな」
元親「何だよ、今さら気付いたのか?」
政宗「もしもあの魔王が脱皮して人間になったら……今よりもっと力が増すのか?」
元親「あん?」
政宗「いや…。何でもねえ……」
幸村「政宗殿…?」


魔王・信長と本田忠勝の死闘により、武闘会会場はほぼ壊滅状態。
そして勝利は魔王のものに。
以下、次号…!!!




つづく



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