第39話「恋のらいばる」


ばさらの森武闘会。Dブロック準決勝第2試合が始まる頃。


佐助「おや。お2人サンお揃いで。お昼はもう食べた?」
元親「俺ァ、こいつん所の小十郎にラザニアこさえてもらったぜえ。元就も食ってからこっち来た」
佐助「それはそれは。独眼竜の旦那は?」
政宗「家戻ろうとしたらこいつに引き留められたから、何も食ってねえ」(観客席の一つに腰をおろした政宗、迷惑そうな顔で元親を指さす)
元親「あったりまえだろーが! こいつ、元就と幸村の試合の事も忘れて呑気に家帰ろうとしてたからよー。引っ張ってきたんだ!」
佐助「ありゃ。そんなの、真田の旦那が聞いたらがっかりするよー。ホント、冷たいよね、独眼竜の旦那って!」
政宗「あぁ…!? しょ、しょーがねーだろ、小十郎の事も心配だったしよ! それに、この大会はぐだぐだ感が半端ねえから、いちいち次の対戦カードなんかも覚えてらんねーんだ!」
佐助「あ、それでチカちゃん。パンダの旦那はどうだった? 大丈夫そう?」←言い訳する政宗を無視する佐助。幸村に同情している為当たりが厳しい
元親「誰がチカちゃんだ誰がッ! ったく。あぁ、まあ、意識もしっかりしてたし、今すぐにでもこいつん所来そうな勢いではあったぜ? けどまぁ、傷口も塞いだばっかりだし、脱皮か? それをしたってんで、もう1人の小十郎が今日は休ませるっつってたぜ」
政宗「それでいい。……しかし脱皮したばかりって、幸村もそうだろ。あいつ、本当に大丈夫なのか?」
佐助「…心配?」
政宗「は? 当たり前だろ?」
佐助「んじゃ、これから始まる準決勝。どっちの応援するわけ?」
政宗「あん?」
元親「それは俺も大いに興味があるぜ! お前! 幸村とも大層仲がイイみたいだけどよ、元就のことも惚れてんだろ!? 一体どっちの側につく気だあ!?」
政宗「……まずお前のそのどうしようもねえ妄想から何とかしろよ」
元親「何が妄想だあ!?」
政宗「何で俺が元就に惚れてんだよ!!」
佐助「違うの?」
政宗「はあ!? テメ、猿! お前まで一体何言って――」
佐助「要は八方美人なんだ、独眼竜の旦那はサ! そういうのって、何つーか、こっちは激しく迷惑なんだよね!」
元親「おう、俺も迷惑だッ!!」
政宗「な、何だあ…!? テメエら、訳分かんねェ因縁つけやがって〜!」


審判「皆様お待たせ致しました!!」


政宗「!」
元親「お」
佐助「始まるみたい」


審判「これより! Dブロック準決勝第2試合! 真田幸村vs毛利元就の試合を開始します!」
観客「どわあああああ!!!!!!!」
審判「始めえッ!!」(ドーンと大きな鐘を打ち鳴らす音が響き渡る)


元就「ふん……。真田。我は手加減などせぬぞ。半端な姿で現れよって、そのような状態で我に敵うと思っているのか?」
幸村「……ッ! 心配無用…! 某…! この闘技場に立ったからには、全力で元就殿のお相手を致す! 決して怯みはしない…負けも…ありえぬッ!」
元就「ふ……!」(不敵に笑みながら、円刀を翻し飛びかかる元就)
幸村「くっ…!」(それを二槍で真っ向から受け止める幸村)


元親「ひょう! ハナッから飛ばしてやがるなぁ、元就の奴! 幸村は怪我人だってのに、ちっとも容赦ねえ!」
佐助「まぁ試合だからね、手抜きなしってのは当然だけど…。ホントえげつないわ、あの旦那。真田の旦那の傷口付近狙いまくり」
元親「ばあか! 敵の弱点突くのは戦の定石だろう!?」
佐助「分かってるさ。けどなぁ……真田の旦那の場合、メンタル面がこれまた心配で」
政宗「……幸村」(幸村の槍さばきに怪訝なものを感じて眉をひそめる政宗)


幸村(くっ…! イカン、このままでは防戦一方! 何とか活路を見出して元就殿の攻撃の手を止めなければ…!)
元就「ふふ…やはり所詮は単細胞な熊。知恵者である狐の我に敵うわけもないわ…!」
幸村「も、元就、殿…!」
元就「無駄口を叩くと舌を噛むぞ…!」
幸村「も、元就殿ッ! 貴殿の攻撃には迷いがない…淀みがない…! 某とは、違う…!」
元就「……フン。迷いなどあろうはずもない。我の目的は明瞭。人間の男にうつつを抜かし、己が道を見失った貴様などとは比べるべくもないわ…!」
幸村「……ッ! な、何を、某は…!」
元就「黙れ。貴様、本来はこの森に棲息する事を許された崇高な獣であったというのに、下劣な人間に成り下がり、政宗に懸想してあるべき力をも失ってしまった。虎の若熊子と言わしめたあの頃とでは見る影もない」
幸村「元就殿…?」
元就「近頃では人間が獣に化けてこの森に棲みつく事も増えた。政宗はまだ偽らぬ分、マシだとは思ったが…我がこの大会に優勝した暁には、全ての人間を駆逐してやる」
幸村「な…!? お、お待ち下されっ。元就殿は、政宗殿のことを好いているのではないのですか!?」
元就「……そのおぞましい想像は一体どこから湧いて出た」(ぴくりと怒筋を浮かべる元就)
幸村「す、少なくとも政宗殿は! 元就殿のことをとても大切に思っております! 人間だからとて、誰もが恐ろしい下劣な生き物というわけでは! 政宗殿は、むしろ――」
元就「むしろ、何だ?」


元親「あいつら、剣交が思いっきり鈍ってるけど、どうしたんだ?」
佐助「何か話してるみたいねえ?」
政宗「………」


幸村「ま、政宗殿は素晴らしいお方でござる…。だから某は…政宗殿の、ことを……」
元就「フン、そんな事は知っている。だがその貴様の気持ちを我にも当てはめるとはどういう了見だ」
幸村「つ、つまり……元就殿は、政宗殿の事を何とも思っていないと…?」
元就「しつこい」
幸村「で、では、政宗殿の片想い…!?」←また勘違いしてる
元就「……フン。奴が我をどう思っているかなどは知らぬが…。では、こうしてやるか。我は無駄な戦いで体力を消耗するのが本意ではない。この先もあるからな。もしも貴様がここでこの試合を降りるのならば、我自ら、政宗との縁は切ってやろう」
幸村「なっ」
元就「貴様にとってもそれはありがたい事ではないか? それで安心を得られるのであろう?」
幸村「そ……そんな、事は……」
元就「……5秒やる。考えろ」


元親「……? どうしたんだ、あいつら。睨み合ったまま完全に動きが止まったぜ」
佐助「真田の旦那……何か苦悶してる?」
政宗「……ち。あいつ、何やってやがんだ…!」(イラついたように舌打ちする政宗)


幸村「……元就殿」
元就「答えは出たか」
幸村「はい…。某は……」(ゆらりと槍を構える)
元就「む…!」(それを察知し、素早く剣を構える)
幸村「某は! 正々堂々と勝負し! 貴殿に勝つッ!!」(ごうっと気合の炎を燃やす幸村)
元就「フン…! 愚かな…!」
幸村「うおおおおお! 漲るあああああ!!!!」
元就「……ッ!?」

  幸村の咆哮と同時、闘技場全体が炎に彩られるように激しく燃えたち、全体が赤に染まる。そしてそのあまりの熱気に観客席からは悲鳴が起こる!!
  と、激しい金属のぶつかり合う音が、その火の轟音の隙間から高く高く響き渡った!!


  ――それから暫くして。


佐助「いやあ、凄い試合だったねえ。また闘技場、ぶっ壊れ」
元親「お陰で今日の試合はここまでか。まだ日が沈んでねーのに、大会主催者も大変だな」
幸村「か、かたじけない…。修理代を請求されたりはしないだろうか(汗)?」(闘技場を出る佐助たちの後をトボトボとついて歩く幸村)
佐助「んなコト心配しなくていいって。それより旦那、怪我は? 大丈夫?」
幸村「俺は平気だ。それより元就殿は…?」(一緒に帰るものと思っていたのに姿が見えず困惑する幸村)
元親「放っておいてやろうぜ。プライドの高いあいつのこった、今は誰にも会いたくないだろうよ」
佐助「だね。まさか自分が真田の旦那に負かされるって思ってなかっただろうし?」
幸村「う……いや、某が勝利出来たのは運も味方していたでござる…」(ちらちらと政宗を見る)
佐助「いやあ、まぁあの狐サンも油断はしてたと思うけど。旦那の気迫勝ちっしょ」
元親「そういやあ、お前ら試合中、何か言い合ってなかったか? 何話してたんだよ?」
幸村「え!? い、いえ、その……」
政宗「……幸村」
幸村「は?」(突然呼ばれてびくりと肩を震わせる幸村)
政宗「ちょっといいか。2人だけで話がしたい」
幸村「……!」

真面目な顔の政宗。幸村はごくりと唾を飲みこんだ。
次回に続く…!!




つづく



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