第43話「黒い粉」


ばさらの森武闘会。引き続き、大会は小休止中。
幸村たちがいる小十郎の家では――。


佐助「う〜〜〜〜ん」
小十郎「おや。佐助殿、どうされました、難しい顔をされて」
佐助「あ。ごめん、勝手にキッチン借りてました。何せ色々調べるのに便利だったもんで」
小十郎「別に構いませんよ? それより、幸村殿は食事の後、また客室で苦悶されているようなのですが…、見て見ぬフリで宜しいですか?」
佐助「あ〜、いいのいいの、放っておいてあげて。下手に絡むと変な愚痴聞かされちゃうよ? それより小十郎サンも少し休んだら? パンダの旦那の看病でも疲れているだろうし…って、その旦那、結局独眼竜の旦那を追って行ったみたいだけど、あの人も体調大丈夫なのかな」
小十郎「まあ頑丈な男ですから心配は無用でしょう。……それより、佐助殿は何をされておいでなのですか? これは……何かの薬の調合、ですか?」
佐助「ああ、これは俺サマが作ったやつじゃない。松永がうちの旦那に寄越した液体。あんまり怪しいんで、成分を調べてみたんだよ」
小十郎「!? それで、結果は?」
佐助「んー。無害。別に飲んでも死んだりしない」
小十郎「そう…ですか。でも佐助殿、何やら浮かない顔ですが」
佐助「ん〜〜〜。何というか。まあ、何と言ったらいいか。つか、あの松永の野郎が何考えてんだって問い詰めたい気分なんだけどね」
小十郎「はあ…?」
佐助「問題は、これがどんなものだったのか、うちの旦那に正直に話すべきなのか、それとも適当言ってごまかした方がいいかって事なんだけど」
小十郎「隠す? 無害だったのでしょう? 何故隠す必要が?」
佐助「つまりね、これは――」
幸村「佐助っ!」
小十郎「幸村殿」
佐助「うわっちゃ、タイミング最悪」
幸村「どういう事だ!? 聞こえたぞ、今の話! 俺に隠した方が良いかとは、一体どういう意味だ!? お前が俺に隠し事など!!」
佐助「いや〜、何というか、別に隠さなくてもいいんだろうけど、旦那にゃまだ色々早い話かなあと思ってサ」
幸村「何だ!? 意味が分からん、一体何なのだ! 松永久秀が寄越したそれ! 一体何だったのだ!?」
佐助「だからー…、媚薬だよ、媚薬」
小十郎「何と……」
幸村「……びやく?」
佐助「全くさぁ、なーに考えてんだろね? しかも相当精力つく系だよ、これ。つか、ドーピングもいいとこ! 確かに、弱っている時にこんなん飲んだたら凄いパワーがついちゃうかもね! でもって積極的にガンガン相手攻めちゃったりして?」
小十郎「……確かに、珍しい物を愛でるのが好きなあの男なら、幸村殿のそういう姿を酒の肴に…と、下種な事を考えたやもしれません」
佐助「でしょ? しかも、相手は人間界からやってきた人間! こりゃ珍しいってとこじゃないの? ま〜ったく、イイ趣味してるよ! もしかして、あちこちに飛んでるあのミニメカスパイザビーも、それの為に飛ばしてたりして」
小十郎「あれは豊臣側のスパイかと思っていましたが……怪しくなってきましたね」
幸村「な、何なのだ、2人で勝手に話を進めないでもらいたい! 佐助! その、何なのだ、そのびやくというのは!!」
小十郎「は?」
佐助「ほらね〜。聞いた? 小十郎さん、こう聞き返されるのが分かってたから、説明するのどうしようか悩んでいたワケですよ〜」
小十郎「よく分かりました(苦笑)」
佐助「も〜、面倒なんだよねえ、色々」
幸村「め、面倒!? 佐助! 何だその態度は! た、確かにそのびやくなるものを知らぬ俺も勉強不足なのかもしれん! しかし、主が知らない事を説明するのも、またお前の役目なのではないのか!?」
佐助「こんなの給料外だよ〜。大将だって別にいいって言うよ〜」
幸村「とにかく説明しろ! それは一体何なのだ!!」
佐助「だ〜から〜」


そんなこんなで、佐助が幸村に遅過ぎる(?)性教育を開始した頃――。
所変わって、謙信公の元から自宅へ引き返す政宗と慶次。


政宗「あ〜……真面目に腹減ったぜ……」
慶次「だから謙信ところで飯貰って行こうって言ったのによ〜」
政宗「るせえっ。あんなピンクの薔薇が四方八方飛び散っているような場所にいつまでもいられるか!」
慶次「はははは! 目覚めた時のかすがちゃん、凄かったなぁ! 謙信の奴に抱っこされてるって分かったらきゅんきゅんしまくりで館全体が桃色! いやー、やっぱり恋ってなあ、いいねえ!」
政宗「けっ! ………ん?」(不意に何かを見咎め、足を止める政宗)
慶次「どうした政――…あいつは……誰だ? 人間? この森に、政宗たち以外で人間なんていたのか?」
政宗「あれは脱皮した明智光秀だ……」
慶次「明智!? あのハイエナの!? あいつも脱皮してたのか!」
政宗「つい最近な。あ〜…しっかし、どうするかな…」
慶次「? 何が」
政宗「俺は今スゲー腹が減ってる。お前のせいで」
慶次「ん?」
政宗「だから一刻も早く帰りてえ! けど、あいつはうちの小十郎の敵だ。ここで出会っておいて、そのままスル―ってのもかなりの抵抗がある!」
慶次「何? それで明智に喧嘩売りに行くって?」
政宗「ああ……だが、本心はかなり面倒臭ェ」(きっぱり)
慶次「はぁ? はは…なら知らんフリすりゃいいじゃない。喧嘩なんてもんはさ、やりてえ時にやらなくちゃ。しかも腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ?」
政宗「けどなぁ……ん!? って、何だ、あいつ!? いきなり消えたぞ!?」
慶次「え? あ!? ほ、本当だ!? 何で? どうして??」
パンダ小十郎「政宗様っ!!」(違う方向から走ってきた元パンダ小十郎)
政宗「小十郎!? 何でここに!」
パンダ「政宗様、ご無事でしたか! この前田の野郎に無理やり連行されてどうされたかと心配しておりました!」
慶次「人聞き悪いなぁ、けど、お陰でこっちは一件落着だよ♪」
政宗「わざわざ後を追ってきたのか。悪かったな、確かにこっちは大丈夫だ。それより…」
パンダ「はっ…もしや政宗様もご覧になられましたか!? この方向に明智の野郎が…!」
政宗「やっぱお前も見つけたか。だが急に消えやがった」
パンダ「消えた!? 確かに気配が…。実は、政宗様の後を追ってすぐに、明智の奴が森の中で何者かと密談を交わしているのを目撃したのです。相手の男はマントに覆われてよくは見えなかったのですが…。それで、独断ではありましたが、奴の後を尾けてここへ」
政宗「そうか。まぁ、お前は明智とのリベンジを望んでいたしな。結果的に俺が出しゃばらなくて良かったというところか。それより、あいつはあっちの方で急に消えた」(言いながら明智の後を辿る政宗たち)
慶次「あの向こうは確か相当きついガケのはずだぜ。誤って落ちでもしたらイチコロだよ」
政宗「ひゅう、確かに…! こいつは絶景だな」
パンダ「私もこの森に長くいますが……このような場所があったとは」

3人が見下ろす先は鋭利な岩があちこち突出している下の見えない断崖である。

慶次「うっわ、風も強い! こんな所にいつまでも立ってたら、煽られて落ちたくなくても落ちちまう! 政宗たちもちょっと下がった方がいいぜ!」
政宗「……落ちたと思うか?」
パンダ「無闇に命を捨てる奴ではありません。この下に何かがあると考えた方が妥当かと」
政宗「下は川か? それすらよく見えねぇ。そもそも、こんな高い所まで登ってきてたのかよ俺ら!」(改めて腹が立ってきて慶次の頭をポカリと殴る政宗)
慶次「ははは…謙信は寒い所が好きだからなあ」(頭を擦りながら苦笑する慶次)
パンダ「ん? 政宗様、これは…?」
政宗「どうした? これは…土……?」
パンダ「いえ、これは土ではありません。帰って詳しく調べてみなければ分かりませんが、匂いからして……恐らくこれは何か火薬の類かと。明智が残していった跡かもしれません」
政宗「確かにこりゃ、土というよりは粉かもな。……ん? 黒い……粉?」
パンダ「どうされましたか、政宗様?」
政宗「そういや……」(言いながら懐からある物を取り出す政宗)
慶次「あ! その黒い粉! ここにあるやつと同じじゃないか! 何で政宗がそんな物を持ってるんだ!?」
政宗「こりゃ……貰ったんだ。あのコンドルの忍から」
慶次「コンドルの忍? それって北条の所の…風魔小太郎かい?」
パンダ「政宗様…」
政宗「……いよいよきな臭くなってきやがった」


以下、次号…!!




つづく



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