第45話「黒いバナナ」


ばさらの森武闘会。……どころじゃありません(爆)。


政宗「しっかし、探すっても幸村の奴、猛烈な勢いで走って行っちまったからなぁ。俺も未だにこの森の構造理解してねーし……ん?」
蘭丸「くそお〜! 抜けられない〜!!」(じたばた)
政宗「……木にガキが生っていやがる。珍しいな」(目前の大きな木の上でじたばたもがいているリスの蘭丸を発見。「生っている」というか、罠に掛かって網状の袋に閉じ込められているだけなのだが…)
蘭丸「あ! お、お前はっ! 独眼竜!」
政宗「よう、楽しく遊んでるとこ悪ィが、ちょっと訊きたい事があんだ。ここを幸村が通らなかったか?」
蘭丸「これのど・こ・が!? 楽しく遊んでいるように見えるんだよ! バカッ!!」
政宗「幸村は見てない、と」←そのまま通り過ぎようとする政宗
蘭丸「ちょっ…! おいコラ待て! こんな状態の俺を置いて行くのか!? この罠を解いていけよ!」
政宗「ああん? それが人に物を頼む態度かぁ? ったく、最近のガキは躾がなってねえぜ」
蘭丸「いいから早く俺を助けろ〜! 俺は! こんな所で時間を無駄にしているわけにはいかないんだッ!」(じたばた)
政宗「俺だってそうだ。そんじゃーな」
蘭丸「こっ、こら! 独眼竜! 政宗! お前、俺を助けないと後でどうなるか分かってるのか!? お前なんか、お前なんか、大会で信長様に滅多打ちのボコボコのぐっちゃぐちゃにされちゃうんだからな!」
政宗「ああ? 信長だあ?」
蘭丸「そうだ! 俺はな、その凄ーい信長様の一番の家来なんだぞ!? へへ…その俺を助けてみろ、今度の試合で手を抜いてもらえるかもしれないぞ? 俺が直々信長様に頼んでやってもいい!」
政宗「そりゃー、ありがたい申し出だな」
蘭丸「だろ!? だから早くこの網を切れ〜!」
政宗「しかし、一番の家来だか何だか知らねーが、あんな動物を動物とも思わねー眼をしたオッサンが、お前みたいなガキの言うことを聞くとも思えねェ」
蘭丸「そ、そんな事ない! 信長様はなぁ、俺にはすっごーく優しいんだからなッ! この間も、こんぺいとうを3粒も下されたんだ! 3粒だぞ! 凄いだろう!?」
政宗「せこ……」
蘭丸「何か言ったか!?」
政宗「あーあー、分かった、分かったからキーキー喚くな、耳が痛ェ。大体お前、そんな凄い魔王の一軍だってんなら、テメエでンな罠くらいどうにかしろよ。つか、罠自体に掛かんな」
蘭丸「う、煩い!」
政宗「それにしても、動物だけが棲む森に、こんな動物捕獲用の罠が仕掛けてあるってのも変な話だな。この森には人間の猟師でもいるのか?」
蘭丸「これを作ったのはあの性格の悪い竹中半兵衛だ! 正確に言うと、あいつの部下があいつの命令で、森にあちこちこういう罠を仕掛けてるんだよ!」
政宗「は? 何で?」

半兵衛「この辺りは僕たち豊臣軍の領地だからさ」

政宗「竹中半兵衛…」
蘭丸「ぎゃ、出た! 陰険ペルシャ男!」(網の中でじたばたもがく。でも出られない)
半兵衛「やれやれ、煩い子リス君だ。僕だって自分たちの土地に、こんな景観を損ねるような真似はしたくないんだよ? けれど君のようにヒトの土地に土足で分け入って、こそこそ良からぬ真似を企む輩がいるからね。こちらとしては当然の防御策ってワケさ」
政宗「アンタらの土地? そうなのか?」
半兵衛「そうだよ、政宗君。僕たち豊臣方は正当な手続きを経て、この辺りの森を買い取っている。証文だってある」
政宗「はーあ。この森も人間と同じようなコトしてんだな…」
半兵衛「動物もヒトも同じさ。皆、自分たちのテリトリーが大事だから、それを守る為に決まりも作る。特に近年は武闘会の噂を聞きつけて様々な種類の生き物がこの森にやって来るからね。君の所のパンダ君だって、僕たちと同じような手続きを踏んであの畑の土地を手に入れたんじゃないか」
政宗「へえ〜、そうだったのか」←無知
蘭丸「こら独眼竜! 感心して頷いてんじゃねえっ! 騙されるな! こいつは、この豊臣軍は、このばさらの森をこうやって少しずつ手に入れて、やがては全部を自分たちの物にしようとしてるんだ! こいつは、人間だった時の悪知恵で、どんどんこの森を悪くしてるんだぞ!」
半兵衛「全く人聞きの悪い。傍若無人な行為で動物たちに恐怖を与え、この美しい森を破壊せんと動いているのは、それこそ君ら織田軍の方じゃないか」
蘭丸「な、何を〜!?」
政宗「俺も第一印象で言うと、秀吉よりお前んとこの魔王の方が悪どく見えるな。(この竹中の野郎はまた別だが…)」←( )だけ心の中の声
蘭丸「信長様は悪のヒーローだから、それは間違ってない! 信長様がこの森を支配するのはいいんだ!」
政宗「おいおい…」
半兵衛「この通りだよ政宗君。だから我々は警戒を怠れないのさ。子どもとは言え、魔王・織田軍の一員を僕たちの土地で野放しにはしておけない。分かってくれるかい?」
政宗「ま、人んちの庭に勝手に入るのは確かに良くねーよな。…って、理屈だと、俺もお前んとこの土地に無断で入り込んだ事になるわけだが」
半兵衛「君はこの土地に来てまだ間もない。知らなかったのなら仕方がないさ。それに、私有地とは言っても、秀吉はこの辺りを散策するくらいならどの動物にも許している。彼は寛大なんだ。どうも誤解されがちだけれどね」
政宗「へえ…」
蘭丸「寛大な奴がこんな姑息な罠を仕掛けるかよっ!」
半兵衛「……こんな物騒な物を持ちこんできた君に言われたくはないね」(すっとある物を掲げて見せる半兵衛)
蘭丸「あ! お、お前、それ返せ〜!」
政宗「何だそれ? 黒い……バナナ?」(政宗は怪訝な顔でその半兵衛の手元に握られた謎の物体を見る)
蘭丸「返せ〜! 俺のバナナだそれは〜!!」(じたばた)
政宗「腐ったバナナなんて持ち歩いてんじゃねえよ。何だ、お前? あれで秀吉の腹でも壊させるつもりだったか? ゴリラだから腐ったバナナでも食うと思って?」
半兵衛「秀吉を愚弄するような発言は控えてもらおうか政宗君。……それに、バナナに見えるけれど、これは爆弾だよ。この辺り一帯を軽く吹き飛ばせるくらいのね」
政宗「何ッ!?」
蘭丸「いっ!?」
政宗「お、お前、ガキのくせに爆弾持ち込むとは…性質悪ィにも程があるぞ…?」
蘭丸「ちがっ! お、俺はそんなの知らない! 俺は、本当にバナナだと思って――!」
半兵衛「君がどう言おうが、これは間違いなく爆弾だよ。さて、どうするか」
蘭丸「俺は知らないって言ってんだろ!? 離せ、離せよ〜!」
政宗「……おい竹中。それでこのガキ、どうするつもりだ?」
半兵衛「さて、どうしようかな。仮にも僕たちの大切な豊臣軍総大将・秀吉の暗殺を謀った重罪動物だ。勿論、タダで帰せるわけはない」
蘭丸「お、俺は知らないっ。光秀がっ!」
政宗「光秀…? 明智の野郎か?」
半兵衛「…………」
蘭丸「そうだよっ。あいつが、これは一口食べただけで地獄のトイレ行きバナナだって言うから! だから、バナナの大好きなゴリラ秀吉に食べさせようと思って! それだけだ!」
政宗「……さっき俺が適当に言った話、本当だったのかよ【呆】」
半兵衛「……どのみち彼も織田軍の一党。君たちが卑怯な手を使って秀吉を陥れようとした事実に変わりはない」(スチャッと武器を取り出す半兵衛)
蘭丸「ひいっ!?」
政宗「……おい待て。まさか、殺すのか?」
半兵衛「政宗君には関係ない事だよ。見ていたくなければ、早々にこの場を立ち去りたまえ」
政宗「……ったく、ここは平和な森じゃなかったのか。殺生のないのんびりどうぶつ村だって言うから来たってのによ……」
半兵衛「そんな時代はとうに終わったのさ。……姫が月に帰ってしまってからね」
政宗「姫……?」
半兵衛「……いや。余計な事を口にしてしまった。忘れてくれ」
政宗「………?」
半兵衛「………」
蘭丸「離せ、離せよ〜!」
政宗「……ま、何にせよ、ここで何かが起きるのは俺としても看過出来ねーな。損な性質なんでね」
半兵衛「……ふう。全く運の良い子リス君だ」(意外やあっさり武器を収める半兵衛)
政宗「………」
半兵衛「政宗君、どうも君には色々予定を狂わされる。僕が今ここでこの剣を振るおうとしても、それを邪魔する君と戦うのは骨が折れそうだ。君に免じて、今日だけはその子どもも見逃してあげよう。……あの騒がしい小熊も、早く引き取ってもらいたいしね」
政宗「小熊…? 幸村か!?」
半兵衛「全く騒がしい午後さ。良い迷惑だよ。それじゃ……」(言いながらくるりと踵を返し去って行く半兵衛)
政宗「お、おい、ちょっと待て! 幸村が来たのか!? あいつは何処に――」

幸村「ぬおおおおおお。ぬおおおおお、抜けないでござるああああああ!!!」←遥か彼方から何やら聞こえてくる幸村の雄叫び

政宗「幸村!?」
蘭丸「お、おい!? ちょっ…政宗、俺の罠を解いていけ〜!!」(じたばた)
政宗「幸村、どこだ!?」(声のする方向へ急いで駆け出す政宗)
幸村「抜けないでござるあああ、抜けないでござるああああ!」(声が段々大きくなる)
政宗「幸村ッ!?」
幸村「抜けないでござるあああ、悔しいでござるあああ!」
政宗「…………お前」(目的の場所に辿り着き、政宗はその場に立ち尽くす)
幸村「……ハアハア。やっぱり…やっぱり駄目でござる……うう。幸村一生の不覚……ん!? まっ、まままま、政宗殿!?」
政宗「お前は……一体、何してるんだよ……」(がっくり脱力)
幸村「そそそそ、それは…ななな、何でも……!」←カーッと赤面
政宗「何でもって事はないだろうが。何だそのザマは」
幸村「ええええーっと、それはそのっ。これは事故と言うか、突発的な不運と言うか……。とにかく、何でもないんでござる!!」
政宗「何でもない奴がガキと同じ罠に掛かってんじゃねえっ!!」
幸村「ぎゃっ!」
政宗「……心配……かけてんじゃねえっての……」(ハア…とため息)
幸村「め、面目ないでござる……」(ショボーン)

半兵衛の仕掛けた罠にまんまと掛かって木に吊る下げられていた幸村。

以下次号…!!




つづく



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