第57話「神とヒトと動物と」


ばさらの森深く、どうぶつ知れず輝き放つバナナの樹木あり。
しかしその秘密の森は現在煌々と赤い炎に包まれている!!

政宗「松永の野郎、無茶苦茶な真似しやがって…! あの女は――!?」
元パンダ「政宗様、お怪我は!?」
政宗「No problem! それより松永仕留めるぞ!!」
元パンダ「承知! ――む!?」
政宗「……の、野郎〜!!」
松永「フフフ……。貴公らはヒトにしては異端。己が眼前で死する者がいるのを看過するのは不快であろう? ……それ以上近づけばこの女の命の灯火は瞬時に消えよう。既に虫の息のようではあるが」
濃姫「ううぅ……」(松永に盾にされるように引っ立てられているが、既に爆弾攻撃で重傷の様子)
政宗「テメエ……そこまでゲスな野郎だったとはな」
松永「言葉は選んでもらいたいものだ。私はただ私の領地を侵犯し、且つ理不尽な攻撃を仕掛けてきた者に対して当然の反撃を加えたに過ぎない。動物であろうがヒトであろうが、何者も皆、物の道理というものを弁えた上で行動するべきだ。違うかね?」
政宗「テメエの屁理屈なんざどうでもいい。そいつを放せ」
松永「ふ…やはりな。本来この女狼は織田軍の手の者。卿等には何ら関わり合いのない輩であるはずだが、そうまで躍起になるとはやはり面白い。私の興味をそそる存在だよ。実にね」
政宗「聞こえなかったのか…。そいつを放せと言ってんだ…」(ゆっくりと剣を掲げる政宗)
元パンダ「松永……女の盾如きで政宗様を止められるとはよもや思っちゃいねェな?」(そう言いつつ自らも剣を構えるこじゅ)
松永「………」
政宗「………」
松永「……確かに。このままでは私も私のこの樹木すら余計な火の粉を浴びかねん」
政宗「炎なら今テメエがたっぷり浴びせたろうがあッ!」(飛びかかるように松永に瞬時向かう政宗)
松永「私の炎などでは――」
政宗「!?」
元パンダ「政宗様!?」
松永「燃え尽きるわけがないのだよ……。この樹木はまさに神の所業。選ばれし者が作りし奇跡の具現なのだから」
政宗「くっ……てめ……!」


呟くように話す松永の姿は突如として浮き上がった火炎と白煙と共に徐々に消え失せていく。
政宗は、一度は太刀を振るったものの、それらに巻き込まれる形で松永の姿を見失った。


元パンダ「政宗様!」
政宗「……受け取れ小十郎ッ!」(しかしその煙の中から政宗は倒れた濃姫を力任せに放り投げた!!)
元パンダ「むぅっ!」(それを見事キャッチするこじゅ!!)
濃姫「……ッ」(息荒く意識を失っているようだが無事である)
元パンダ「政宗様!!」
政宗「ああ……大丈夫だ」(自らも遅れて白煙から脱出した政宗)
元パンダ「……」(ほっと息を吐くこじゅ)
政宗「……の野郎。どんな奇術を使っていやがる。一瞬で炎を出して消えやがった……」
元パンダ「しかし無傷ではいられないでしょう。この小十郎の目は冴えております」
政宗「あ…?」
元パンダ「政宗様の一瞬の斬り込み、あれをあの者が完全に避けられたとは思えません。力の差を感じたからこそ、奴も早々の撤退を決めたのでしょうし。――手応えもあったはずでは?」
政宗「……多分な」
元パンダ「多分、ですか…」
政宗「野郎の眼……。確かに、己の命を惜しいと思わねェ奴なんざ俺の敵じゃねえ。だが、そういうのが却ってヤバイ時もある」
元パンダ「………」
政宗「そして、そのヤバイ男があそこまで執着したこの樹……」
元パンダ「はい…。あの業火の中でも全く焼けた様子がありません」
政宗「神が作ったとか言ってやがったな。神って言うと、あれか。任天様って奴か?」
元パンダ「この世界を作った神はこの土地に過剰な干渉を加えません。それは任天の神自らがこの土地に住む我ら住民に課した決まりでもあります。無論、どうぶつ達にこのような樹木を作る力などあろうはずもありませんが」
政宗「そうだな…。だとしたら…」
元パンダ「作れる者がいるとすれば、唯一人……ねね姫なら、或いは」
政宗「ねね姫……? この土地と神を結びつけていたっていう巫女か」
元パンダ「はい。政宗様も既にご存知かとは思いますが、ある時を境にふつりとその姿を消してしまった者です」
政宗「……慶次はそのねね姫を豊臣秀吉の奴が殺したと言っていた」
元パンダ「……確かに、ねね姫暗殺の噂は以前からも森で囁かれていた疑惑の一つではあります」
政宗「とりあえず地上へ上がるぞ、小十郎。まだ夜明けまで間がある。開戦までに豊臣秀吉の奴を探す」
元パンダ「は…。この女にも爆弾の事を訊ねましょう」
政宗「だな。素直に口を割るとは思えねーが…」


――その頃、武田軍領地周辺では。


幸村「ずーん………」
島津「どげんした、武田の若虎子。信玄公にも随分とお灸を据えられておったようじゃが」
幸村「あ……島津殿。い、いえ、某は……」
島津「こん中央の先陣を切るんはおはんとおいとこの島津軍じゃ。こん森ば守る戦が迫ってきとる時に、無用な雑念は命ば縮める事になっぞい。いやあ、それだけじゃなか。味方をも危険に晒すことになりかねん」
幸村「も、申し訳ござらん! 某、気を引き締めて――!」
島津「独眼竜のことば気にしとっとか?」
幸村「なっ!? なななな……そ、そのような…!」
島津「だっはっは! そげん顔ば赤くして、ごまかしても無駄じゃあ! 確かにあん男は面白い! 人間にしておくのは勿体なか男じゃ!」
幸村「そ、某ももう人間ですが……」
島津「おぉ、ほうじゃったほうじゃった。んなら、この戦が終わったら、おはんも独眼竜と行くんか?」
幸村「は…?」
島津「人間の世界じゃ。こんばさらの森を出て、ヒトの住む世に帰るんかという事じゃ」
幸村「ひ、人の世に…!? そ、そんな、某は…! そ、それに帰るなどと、某の故郷はこの森で――」
島津「いやあ、そうじゃなか」
幸村「え」
島津「ヒトはヒトの世に帰るもんじゃ。おはんはもうあの小熊の真田幸村ではなか。ヒトの真田幸村じゃ。独眼竜と同じな」
幸村「政宗殿と……同じ……」
島津「そいに、あん男が帰ってしもうたら、おはんも寂しかろう?」
幸村「……帰る。政宗殿が………」


悶々とさらに考え込む幸村であった。
以下次号…!!




つづく



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