第8話「やっと午後が終わるよ」



政宗「はー、やっと人心地ついたぜ…」(ガシガシと濡れた髪をタオルで拭きつつ浴室から出てくる政宗)
小十郎「政宗様、どうぞ」(さっとコーヒーを差し出すコミックス版小十郎)
政宗「サンキュ。…お、幸村。お前も髪、ちゃんと乾かしたか?」(※今さらですが注意書き。ばさ森の動物達は基本的に人型で、耳とか手とか尻尾の部分だけがその動物の姿だと想像して下さい・笑)
幸村「………」(ぶす)
小十郎「ご安心下さい。この小十郎自ら、先ほど巨大ドライヤーですっかりと」
政宗「巨大……」
小十郎「動物の毛並は一筋縄ではいきませんからね」
政宗「ふぅん。……で」
幸村「びくぅっ!」(近づかれて妙に警戒)
政宗「お前は何飲んでんだ? コーヒーじゃねえな」
幸村「あ…あ…」
小十郎「ミルクティーですよ。蜂蜜たっぷり入りの」
政宗「げ……すっげ甘そうだな」
小十郎「幸村殿は何と言っても小熊さんですから。蜂蜜は外せませんよね」(にっこり)
政宗「熊って蜂蜜好きなんだっけか? ……おい幸村。うまいか?」
幸村「う……」
政宗「おいおい、お前まだ膨れてんのかよ? いい加減にしろよなー。わざわざ手当てまでしてやってんのに―」
幸村「だ、誰も! そのような事、頼んでおらぬっ」
政宗「………」
幸村「そ、某が蜂とああして戯れるのは…い、一種の修行でござるから!」
政宗「修行?」
幸村「そうでござる! す、素早い蜂の動きを察知し、避け…! あれの習性を読みながら走るのはとてもいいトレーニングになる故!」
政宗「けど結局捕まって刺されまくってんじゃねえか」
幸村「た、たまに、そういう事もあるんでござる!」
政宗「正直に蜂蜜食いたかったから狙ったけど失敗したって言えよ」
幸村「ちっ…! 違うでござる、それは違うでござるぅ〜!!」
政宗「あ、そ。じゃ、その蜂蜜たっぷり紅茶返せ。俺のコーヒーと交換しようぜ」
幸村「なっ!」(思わずぎゅっとカップを両手で抱えて背中を向ける幸村)
小十郎「…政宗様。そのへんでお止め下さいませ。幸村殿が可哀想ですよ」
政宗「何が可哀想なんだよ」
小十郎「お分かりでしょう? 片倉がこの場にいても、やはり同じように言うと思いますよ」
政宗「チッ…わーったよ。んで、そのもう一人の小十郎はどうした? まさかこの雨の中、畑仕事でもないだろ?」
小十郎「ええ、一旦は戻って来たのですが。風が思いのほか強いので、支柱を見に行ってくると」
政宗「マメだなー。お、そういや、慶次はどうした?」
小十郎「つい先刻帰られましたよ。…というか、追い出されたというか…」
政宗「は? 誰に?」

元就「政宗」

幸村「…!!」(元就の登場にびくんと身体を揺らす幸村)
政宗「お。お前まだいたのか」
元就「貴様、この雨の中を我に歩けと申すか。我に濡れて遠路を歩けと」
政宗「あーあー、悪かった。別に他意はねえよ。……それより、もしかしなくてもお前か? 慶次を追い出したのは」
元就「慶次? 誰の事だ。我は知らぬ」
政宗「はぁ? いただろ、ここに。でっけーの。お前だって話してたじゃねーかよ」
元就「……あの犬か。政宗、今後二度とあれをここへ入れるな。目障りだ」
政宗「何があったか大体想像がつくが…。しっかし、ここはお前ン家かよって突っこんでいいか?」
元就「ならば貴様はあの愚鈍な犬がこの家を我が物顔で歩くのが平気だと申すか。…我はあのように騒がしい獣が最も嫌いだ。轡が必要だな」
政宗「あのなぁ…きついなお前。まあいいけどよ。……ん、幸村どうした?」
幸村「……っ」(元就を睨んで顔真っ赤)
元就「……何だ、貴様」
幸村「け、慶次殿は某の友人でござる! そのように悪し様に罵るなど…許せぬ!」
元就「…フン。騒がしい獣がまだいたか」
幸村「な、何…っ」
元就「寄るな暑苦しい。貴様など、この日輪の力でいつでも消炭にしてやるぞ」
幸村「や、やれるものなら…!」(ガバリと立ち上がり、臨戦態勢)
政宗「だーっ、やめろお前ら! ここは俺ン家だ、喧嘩なら外でやれ!」
幸村「…っ!」
政宗「――…と、言いてェとこだが。今のは元就、どー考えてもお前のが酷くねえ?」
元就「我に非があると申すか。貴様も消えるか」
政宗「だからお前はいちいち物騒過ぎるんだって。…ま、けど実はそんなヤな奴でもねーってのは分かってるからよ。幸村もあんま本気に取るなよ」
幸村「!」←「元就殿を庇っている!ガーン」って感じの心境
元就「政宗。貴様いつから我に対してその様に偉そうな口がきける身になったのだ」
政宗「さっきから」
元就「何…」
政宗「お前って、そうやって冷たいフリしてるけど、実はスゲー優しい奴なんだってな。元親がそう言ってたぜ」←「スゲー」とまでは言ってないが、誇張してみた
元就「………」
政宗「だからまあ…とりあえず手紙くらい読んでやれよ」
元就「………」←何か考えてる
幸村「………」←まだショック持続中
政宗「…? 何だこの空気…」

小十郎(政宗様……もしかして、天然なんでしょうか……)


意図せず恋のキューピッド&自分は幸村にまだまだ誤解され続ける政宗様。
サーサーと降りしきる雨のばさら村。その午後はゆっくりゆっくりと過ぎていくのでした。




つづく



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