だってばかだから3


―1―



  バカな奴ほどやたら高い所へ行きたがるって意味のことわざがあるらしい。実際、俺も高い所は大好きだ。もしも人間以外の生き物になれるなら鳥になりたいし、子どもの頃は飛行機やロケットの写真を眺めたり、それらの絵を描くのが好きだった。
  昔、家族旅行で1度だけ飛行機に乗った時も、俺は待合室のガラス窓にへばりついて、ずっとジャンボジェットが飛び立って行くのを見続けていたらしい。

  ……まぁ、そんな話はともかく。

「今さら進路希望調査か……」
  学校で配られたぺらい藁半紙を前に俺は思わず呟いた。
  可愛い生徒の将来を訊くのに、今どき藁半紙って何だよ。予備校で使われている上質紙も、あれはあれで「こんなところに金かけなくていいから、授業料をもっと安くしてくれればいいのに」って思うけど。
「エイ」
  そんなくだらない文句を唱えつつ頭を捻っていたら、いつの間にか前の席にヨシヒトが座っていて、俺の顔を見つめていた。俺のこと好きって言って俺と付き合っていたのに、夏休みの間に同じクラスのカナメと浮気をして、「カナメのことが好きになったから別れてくれ」って、平気で俺を捨てた男。
  その上、「別れても、俺たち良い友だちではいような?」なんて言って、その後も何かと絡んでくる、はっきり言って酷過ぎるなんてもんじゃない罪な奴だ。
  でもあんまり憎めない。ヨシヒトはバカだから仕方ない、なんて思っちゃう。
  それに、あーあ。このイイ顔がな。くそ、イイ顔が憎らしい。好みだ。もう好きじゃないけど。でもこの顔が間近にくるのって、俺にはまだちょっとキツイ。
「何?」
  でも何だかんだで、ヨシヒトがこうしてやたらと話しかけてくるのにも慣れきってしまって、俺はついつい律儀に返事してしまう。無視出来ればいいのに出来ない。
  ついこの間、あまりにしつこいヨシヒトに「もうお前とは関係ない!」と啖呵まで切ったのに、あの俺の決死の宣言は全くなかったことにされている。ヨシヒトは今でも普通に俺に話しかけてくる。
  こんなのってダメダメだよな。
「進路表、書いたか?」
  そんなこんなですっかり自己嫌悪中の俺に、しかしヨシヒトは平然として訊いてきた。
「今日中に提出だろ。何だ、まだ白紙じゃないか」
「今考え中」
「大学、どこ受けるんだよ」
「だから、まだ考え中」
  LHR(ロングホームルーム)という名の、要は自習に近い午後の時間。クラス内はざわざわしていて結構煩かった。みんな担任から渡された進路の紙を前に、「お前進路どうするの? 大学? それとも専門?」……そんな感じで、今の俺たちのような会話をしている。
「でも、大体の目星はついてるんだろ?」
  未だ無記入のプリントを指で突つきながらヨシヒトは眉をひそめた。何かこうやって面と向かっていると、まるでヨシヒトが俺の担任みたいだ。奴も自分のプリントを持っているけど、俺の位置からその用紙の内容は見えない。まぁどうせヨシヒトは来月頭から始まる指定校推薦でどっかの大学に行くのだろうし、こんなものいちいち書く必要はないのだろう。
「模試の時だって何校か書いているだろ? そこは?」
「まぁ幾つか絞ってはいるけど。でも、第一希望とか学部はまだ悩んでいるから、どう書こうかと思ってたとこ」
「その幾つかってどこだよ?」
「何で教えないといけないんだ?」
  ヨシヒトに教えたくないという気持ちもあるけど、俺は自分のプライドの問題でそれを言い渋った。
  ヨシヒトと疎遠になった夏休みから別れるまでの約二か月間。俺の中ではあまりに辛いことが目白押しで、正直勉強なんてまるで身に入らなかった。言い訳はみっともないし、全部をヨシヒトのせいにはしたくないけど、問題の半分はこいつのせいだという気持ちをどうしても消せない。乱れまくったあの精神状態で受けた模試は散々な結果で、俺は「行けたらいいな」と思っていた大学の合格率を軒並みD判定にまで落としていた。
「どこだっていいだろっ」
  だから、受けたい所は確かにあるけど、それをここに書くのは担任からも「あんな成績で?」とバカにされそうで、どうしたものかと躊躇していたのだ(予備校模試の結果は担任にもばっちり知られている…。「見せろ」って言われて拒否出来ない弱気な俺)。
  あと、「将来就きたい職業」って欄もあって、俺はこれもどう書こうか悩んでいた。考えが全くないわけではないんだけど、「それ」をまともに書いたら、こっちは嘲笑を通り越して失笑されるような気がして。
「何で教えたくないんだ」
  ところで、今俺の目の前にいるのはヨシヒトだ。こいつはいくら俺が「教えたくない」と言ったところで、「分かった」とすぐ引き下がるような奴じゃない。
  それどころかそんな俺に対し、「お前って凄く冷たい奴だな」と言わんばかりの顔で、あのイイ顔を更にぬうっと近づけてくる。うわっと、そんな至近距離じゃ、おでこ同士がくっついちゃうよ。
「どこを受けようと思っているかくらい言ったっていいだろ? エイ、何で隠すんだ」
「隠すって言うか…。ちょっと恥ずかしいから!」
「何が? 何言ってんだよ、全くエイは…。ほら、ちゃっちゃと言ってみろって。別に減るもんじゃなし」
  そう言いながらヨシヒトは俺の髪の毛をわしゃわしゃと掻き混ぜた。何するんだ、折角朝ちゃんと梳かしてびしっと決めてきたのに!
  それにどうも最近のヨシヒトは俺へのスキンシップが激しい。やたらと触ってくるんだもんなー、もう。セクハラだよ。ホント勘弁して欲しいよ。
  でもはっきりヤダって言えない駄目な俺。
「とにかく言いたくないの!」
  それでもこれだけは譲れなくて、俺は少しだけ口調を強めた。
「大体、減るもんじゃなしって言うけど、減りまくりだっつの! 言いたくない事を無理やり言わされたら、俺の精神が消耗して身が削れるだろっ」
「エイ、お前なぁ…」
  しかしヨシヒトは必死の抵抗を試みる俺に深い深いため息をつき、小さな子どもを叱るみたいな目を向けた。
「あのな、たかだか大学名を言うくらい、何がそんなに嫌なんだ? それに大体は分かっているんだぞ、前に言っていたもんな? アオガクか? メイジか? 前にそんなこと言っていたよな」
「えっ、エイちゃん、すげえ! そんな頭イイとこ受けんのかよー!」
「え、ナニナニ!? エイちゃん、どこ受けるんだって?」
「も〜! ヨシヒト、そんな大きな声で言うなよ〜!」
  他のクラスメイトにまで話を聞かれて騒がれた為、俺は真剣に泣きそうになった。
  それらはあくまでも《希望》であって、実際本当に入れる保証なんてない。というか、その確率はD判定(20%以下)だ。受けるところなんてそんなの、受験料さえ払えば誰だって受けられるだろうが! ……それなのに、全然親しくもないクラスメイトにそんな如何にも頭イイみたいな反応されて……もうがっくりショボンと項垂れるよりない。高望みだって分かっていたから、誰にも知られたくなかったのに。ヨシヒトのこういう無神経なところ、ホントどうにかして欲しいよ。

「みんな〜、エイちゃんはワセダとケイオー受けるんだってよ〜!」
「え〜、エイちゃん凄ェな!」
「うちのガッコでそんな所入れる奴、あんまいないぜ!」
「まあエイちゃんは年明けから塾にも行って頑張っていたからなぁ」
「え、なになに!? エイちゃん、国立受けんの? マジ、トーダイ!? すげ〜、チョー頭いいじゃん! 知らなかった〜!」

  ………そうこうしているうちに、俺の間違った情報はクラス中、隅から隅まで伝達された。
  因みに、みんな馴れ馴れしく俺のこと「エイちゃん」なんて、あのあだ名で呼んでいるけど、どいつもこいつも友だちなんかじゃないんだからな! みんなそれなりに気は良いけど、ここぞって時にはスルッと他人事なんだ。だっていっつも俺とヨシヒトのことは苦笑いして傍観しているだけだし、カナメとのゴタゴタがあった時だって、みんなカナメの味方だったんだから。誰一人、俺のこと「可哀想」って言ってくれる奴はいなかった。別にそんな同情されても、結局頭にきただけかもしれないけどっ。
「はあ…。まあもういいや、何でも…」
  何だか面倒臭くなってそう零すと、不意にヨシヒトが俺の頭をがっつり掴んで、また髪の毛をぐしゃぐしゃにしてきた。も〜何するんだよ〜!
「エイ、何でも良くないだろ? ほら、余所ばっかり向いていないで、ちゃんとこっち見ろ。それで、結局第一希望は?」
「お…お前なぁ…」
  こいつは、俺のこのげっそりした顔を見てもホントに何も感じないのか。
  ただひたすら自分の欲求を満たそうとするヨシヒトに、俺は心底呆れた眼差しを向けた。……まぁ当たり前に、そんな無言の訴えもヨシヒトには通じないけど。
  だからもう仕方ないので、俺は適当な所を幾つか見繕い、それを汚い字で書き殴った。
  それでやっとヨシヒトも俺の用紙を覗きこんで静かになる。
「ふうん。これなら、前に言っていたところと大体同じだな。学部は?」
「学部は未定。これは本当!」
「『これ』は? 何だよ、『これは本当』って。じゃあ今ここに書いた大学名は嘘なのか?」
「うっ…」
  変なところで鋭いんだからなあ、もう。俺もバカ正直に詰まっちゃダメだけど。
「エイ」
  で、ヨシヒトはそれによってやっぱりむっとしてしまって、あの怖い目で俺を睨みつけた。
「どういうつもりだよ。どうして嘘なんかつく? エイ、ふざけるのもいい加減にしろ」
「ふざけてないよ……」
「だったら、ちゃんと考えているところ書けよ。この時期に進路が決まってないわけないだろ? 学部だって、本当は考えているところあるんじゃないのか?」
「あるけど、まだ考え中なんだって。複数学科受験するかも」
「じゃあ学部よりも行きたい大学重視で併願するって事だな?」
「多分ね……。っていうか、何でそんなにしつこく訊くんだよ」
  だって俺がどこの大学へ進もうが、ヨシヒトには関係ないじゃないか。あ、因みに俺はお前が推薦で決めた大学だけは、絶対に何があっても受けないから!
「多分って何だよ。それはいつはっきり決まるんだ」
  俺が心の中でだけ文句を言っていたら、ヨシヒトがこれまた俺の質問は無視して問い詰めるように迫ってきた。こ、こいつ、しつこ過ぎる〜。
  でも、その時。
「あのさ、ヨシヒト。いい加減にしたら?」
  矢継早に責めたてられて小さくなっている俺を憐れと思ったのだろうか、突然そう言いながらカナメが俺たちの傍にやって来た。……ついこの間までヨシヒトと付き合っていたカナメ。俺とヨシヒトの仲を裂いて、それなのにあっさり「もう別れたから」とヨシヒトを切り捨てたカナメ。いや、ヨシヒトが振ったんだっけ? まあ今さらそんなの、どっちでもいいけど。
「何だよ」
  カナメが傍に寄ってきたことで、ヨシヒトがさっきよりも不機嫌な顔をして物騒な声を上げた。ヨシヒトって怒るとホントに怖いよな。イイ顔が余計キリッとなって迫力が増すんだもん。
  でもカナメはそんなヨシヒトにまるで動じる様子がない。こっちはこっちで、綺麗どころの無敵の女王だ。
「エイちゃんが可哀想で見てらんないよ。普通、気づくよね? エイちゃんはヨシヒトに自分が受ける大学を教えたくないんだよ」
「お前がエイのこと、分かった風に言うなよ」
  ヨシヒトの声が一層低く暗くなった。俺はごくりと唾を飲みこみ、ただならぬ雰囲気になった2人をちらちらと交互に見やった。
  けれどそんな落ち着かない俺に対し、カナメはあくまでも余裕な態度だ。
「分かるよ、エイちゃんの顔見ていれば分かる。大体、今日だけじゃないだろ。毎日毎日、エイちゃんが迷惑そうにしているのにしつこく絡んでさ。お前、一体何なわけ? エイちゃんがどこの大学受けようと、何をしようと、ヨシヒトには関係ないはずだろ? だって2人はもう恋人どころか友だちでもない、全くの無関係なんだから。いや、ただの無関係ってだけならいいけど、お前の場合はエイちゃんの害にしかなってないじゃないか」
「カナメ!」
  ガタンと椅子を蹴って立ち上がったヨシヒトに、言われているカナメじゃなくて俺の方が「ひっ」と情けない悲鳴を漏らしてしまった。
  でも幸いにして2人は互いしか見ていない。俺のみっともない顔は見られずに済んだ。
「お前、本当にむかつくな…!」
「僕は真実を言っているだけだよ! お前が信じらんない程のバカで、全っ然分かってないからね!」
「何だと!」
「はあ!? やんのかコラ!?」
  うおおぉ……!
  ヨシヒトもだけど、可愛い顔のカナメがこんな喧嘩腰で乱暴な口調になると、これはこれでびびってしまう。どうしようどうしよう、何だこの変な展開はっ。俺のことで喧嘩はやめて……って、何で2人が俺をネタに言い争いするんだよ。こいつら、やっぱり互いに未練があって、それで何だかんだで、こうやっていちゃつきたいだけなんじゃないの? 
「あ、あのさ。ちょっと、やめたら?」
  それでも、自分が原因でこんな風に気まずい空気が流れるのは絶対的に嫌だ。
  俺は放っておくことも出来ずに仕方なくそう口を挟んだ。俺のことでなかったら絶対知らんフリだけど、一応好意的にとってみたら、カナメが俺の気持ちを代弁してくれたのは確かだから。っていうか、傍目で見ていたカナメにだって俺が迷惑そうにしているのが分かったんだから、結局はヨシヒトがちゃんと気づいてくれれば何も問題は起きなかったんだよな。そうだよ、やっぱ元凶はヨシヒトなんだよ。
  でも俺がそんな風にしてカナメを見直しかけていたら、その女王様からも結局ダメだしされてしまった。
「エイちゃん! エイちゃんだってね、悪いんだよ? ヨシヒトにはっきり言わないから、だからいつまでもこのバカが調子に乗るんだろ!?」
「えっ? あ、はい…」
「はぁ? ……もうっ! エイちゃん、それホントに分かってそう返事してんの!? エイちゃんがねえ、心ン中でこいつに色々文句言っているのはダダ漏れだから! でもね、このバカにはそれが分かんないわけ! だからちゃんと面と向かって口で言ってやんなきゃさあ!」
「だからお前が勝手に憶測でエイのこと話すんじゃねーよ! エイのことは、お前より俺の方が遥かに分かっているんだ!」
「ハッ! なーに言ってんだか! ホンット、ヨシヒトってアホだよなぁ! 何でこんな奴、一瞬でも好きだった時期があったんだか、自分でも全っ然分かんない!」
「俺だって分かんねーよ!」
「あ、あのう……」
  おいおい、また俺は置いてけぼりで夫婦喧嘩か?
  それにカナメ、何だよ、俺の「心の声がダダ漏れ」って。俺ってそんなに分かりやすいかな? ヨシヒトにはこんなに分かってもらえてないのに。
  ……うん、そうなんだ。
  ヨシヒトって俺のこと、本当に分かっていないんだよな。
  そんな事を考えながら2人の喧嘩を何となくぼーっと眺めていたら、ちょいちょいと後ろの奴が俺の背中を突ついてきた。何だよと思って振り向くと、そいつは実にノーテンキな笑いを浮かべながら言った。
「エイちゃんってさ。結構、可哀想だよな」
「………はあぁ?」
  その時の俺は、多分顔面の筋肉をばっしばしにひきつらせていたと思う。
「エイ」
  しかも授業終了と共にカナメがぷりぷりしながら去って行った後も、俺はヨシヒトに肩を掴まれ拘束された。
「な、何だよ…?」
  その凄味が怖くて、こいつはやっぱりカナメじゃなく俺に怒っていたのかと怯む。俺は自慢じゃないがとても小心者だ。ヨシヒトはただでさえ身体がでかいし、普通に立っていると俺は完全に見下ろされてしまう。
  びくびくしていると、ヨシヒトはようやく俺が萎縮しているのが分かったのか、ちょっとだけ肩に置いていた手の力を緩めてくれた。
「エイ」
  でもヨシヒトはきっぱりと言った。
「俺はお前が心配なんだよ。お前は放っておくとホント危なっかしいし…、今だってまだあの田神との縁も切っていないだろう?」
「いや、だって別に、縁切る気とかないし」
「エイ!」
「はいっ」
  あまりに力強く呼ばれて俺はぴんと背筋を伸ばした。な、情けねえ…。でも長くヨシヒトに馴らされた俺の身は、まだ完全にこいつの呪縛から解放されていないみたい。
  そういう意味では俺ってやっぱり可哀想なのか。
「田神のことが好きなのか」
「え」
「付き合っているのか。本当に」
「う、うん……」
  本当は付き合ってなんかいないけど、いつかヨシヒトがそう訊いてきたら絶対そう答えろ、それを貫き通せって田神から言われていた。俺もその方がいいと思ったから、嘘をつくのは気が引けたけど、とりあえず頷いた。
「……くそ!」
  けれどヨシヒトはそれが如何にも気に食わないって感じで舌打ちすると、またまた俺の肩をぎゅって掴んだ。あの、痛いんですけど。しかも、何なのこれ? これ、見る人が見たら、まるでヨシヒトが俺を好きで、それで田神とのことをヤキモチ妬いているように見えちゃうよ。
  俺、知ってるよ。お前はバカだけど一度決めたことは翻さない。幾らカナメと別れたからって、一度俺を切るって決めたお前が、また俺と付き合うなんてありえない。今さら「やっぱりお前の方が好きだった」なんて、口が裂けても言えないだろう?
  お前の性格からいっても、そんなの絶対ありえないよな。
  それに俺ももう、今さらそんなこと言ってもらいたくないし。
「エイ」
  でもヨシヒトは俺を恋人にしたいとは言わないけど、それでも俺をこうして構う。
  それって本当酷いことだと思うんだけど、でもヨシヒトはそういうことに全然考えが回らないみたい。
「大学、教えろよ」
「……決まったらね」
「受ける前に教えろよ。……俺、推薦貰うの辞める」
「え?」
「お前と同じ所を受けるから」
「ちょっ……」
  けれどヨシヒトはそれだけ言うと、いきなり踵を返して教室を出て行ってしまった。
  俺はそれをぽかんと見送っていたけど、遠目で俺たちのやり取りを見ていたカナメはあからさまに「呆れるね」と大きな声を出し、さっき俺のことを突いた奴はまた軽く肘打ちしてきて、からかうように繰り返した。
「やっぱりエイちゃん可哀想だわ。望まず騒動の渦中に入っちゃうタイプ?」
「……うっせえ!」
  俺はヤケクソになって怒鳴り、そいつのことを肘打ちし返した。普段は暴力反対だけど、いいんだ。こいつは肘打ちしても許される。たぶん。
  ああもう、何て日なんだ!




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