だってばかだから4
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―1― そんな大したことを考えているわけじゃないんだけど、俺は物思いに耽ることが結構多い。 たとえば教室の窓際の席で、予備校の自習室で、はたまた自室のベッドの上で。 ガラス窓の向こうに見える空を何となく眺めて、「今日はいい天気だなあ」とか、「あの鳥こっちに来ないかな」とか。ん、ちょっと待てよ、これって何も考えていないってことか? いやいや、他にも学校のこととか受験のこととか、日常のことも勿論考えているさ。うん、そうだ、何も考えてないってことはない。大海を漂うエイだって悩みの一コや二コやヒャッコくらいはフツーにあるのだ。……百個はないか。 で、そんな俺の最近の悩みは……というか、ストレスなんだけど。それは、田神に会えないことだ。 ここ何日かの俺はずっと「早く冬期講習が始まらないかな」って、そればっかり考えている。普通だったらいよいよ迫り来る受験シーズンに戦々恐々、時間よ止まれ、心の準備も出来てません!ってな風に焦りまくるのが普通なのかもしれないけど。でも、これが始まらないと田神に会えないんだ。俺が通っている予備校は学校みたいに1学期、2学期って区切りがあって、2学期はちょうど学校の期末テスト期間に被る12月の初旬に終わる。で、冬期講習はその一週間後、12月の半ばに始まるんだけど、今はちょうどその谷間。俺自身は自習室利用で予備校へは毎日通っているけど、田神は授業がない日は予備校へは来ないから、冬期講習が始まらないといつもみたいに一緒に帰ったり、その帰り道で買い食いしたりっていうのが出来ない。 だから凄くつまらない。凄くさみしい。これって何なんだろうな、≪田神飢餓症候群≫ってやつか? 自分で言っていて訳が分からないけど。 田神のことは、知り合う前までただ周りから漏れ聞く「物凄い噂」を鵜呑みにして、「よく知らないけど、とりあえずめちゃめちゃ怖い奴」としか思っていなかった。まぁ現にあいつ、すげー目つき悪いし。おまけに予備校で煙草は吸うわ、女の子とエッチなことしているわ……そう、事実としても全くもって「ありえねえ」場面も目撃してきたし、そんなこんなだから、俺としてはもう「やっぱりこいつはとんでもない不良だ!」、「絶対関わっちゃいけねえー!」って、警戒感丸出しだった。 でも、今は違う。 田神がいい奴だってことを俺は知っている。 それと、田神が通っている秀陽館が、割合と普通な連中の通う学校だってことも知っている。ホント、噂なんてものは当てにならない。そもそも、スゴイ不良の大番長様が予備校なんかに通って勉強するわけがない。しかも学校じゃあ、あいつ生徒会長なんて面倒な仕事までしていたし。そう、ちょっとよく見て考えれば分かることだったんだ。つまり、何が言いたいかっていうと、田神はごくごく普通の奴。俺と同じ、至って普通の高校生なんだ! ……って、いうには、まぁちょっと、モヒカンぺロピアスな不良とか、黒塗りベンツのホンモノさんみたいな家来を従えていたりとか……、まだまだ謎な部分も多いんだけどね。 でもとにかく、そんな田神深夜のことを、俺は最近とてもよく考える。 「あーあ…」 「どうしたの、エイちゃん」 「えっ!」 その時、ふとため息をついてしまった俺に突然カナメが話しかけてきた。 カナメは数か月前まで俺の恋人だったヨシヒトを……まぁ言葉は悪いけど寝取った奴だ。 そんでもって見事ヨシヒトと両想いになって、俺とヨシヒトが別れるきっかけを作った、俺にとっては何とも気まず過ぎるクラスメイト。 しかも、俺にあれだけ辛い想いをさせたくせに、当の2人は何故だか付き合い始めてすぐに「もう好きじゃなくなった」ってソッコー別れて、今じゃ嫌味を言い合う時こそ口をきくけど、あの時のラブラブっぷりは何だったんだって程に険悪な仲になり果てている。 それで、だからってことなのか何だかは知らないけど、そうなってからのカナメは、バカで図々しいヨシヒト同様、こうして全く何事もなかったかのように俺にも普通に話しかけてくる。ホントさ、それってどうなんだ?って感じだよな。普通に口きいちゃう俺もどうかとは思うけど。ここ最近の俺は、世間の常識ってやつがどうにもよく分からない。 そんなことを考えている間に、カナメは俺の前の席にどっかり座って、放課後になったばかりでざわついている教室内でも実によく通る綺麗な声で言った。 「エイちゃん、HRの時からずっとぼんやり窓の外見ていたでしょ。何か悩み事?」 「えぇ…別に……」 そんな心配そうな顔して窺い見られても知らないぞ。大体、たとえ俺に悩みがあったとして、それをお前に相談するとでも思っているのか? カナメはヨシヒトよりはよく気もつくし、俺のこともそれなりに分かっているはずなんだけどなぁ、最近ヨシヒトばりに俺にちょっかい掛けてくるんだよな。一体何なんだろ。 第一、別に思い悩んでいたわけじゃない。俺は「田神のことを考えていた」だけだ。 そしてそんなこと、カナメにいちいち伝える義理はない。というか、そんなこと恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないよ。 「早く帰らないとヨシヒト戻ってきちゃうよ? また一緒に帰ろうって言われていたでしょ」 そんな俺に向かってカナメは物凄く思い出したくないことを口にした。俺だって早く帰りたいよ。でも帰れない理由があるんだ。ヨシヒトじゃないぞ!? 「相変わらずエイちゃんにしつこ過ぎるよね、あいつ。全くいい加減嫌われていることに気づけっての。ねえ?」 「はあ」 確かにヨシヒトは……今や俺にとってはこのカナメ以上の天敵、厄介な存在だ。そりゃあもう色々な意味で。 そのヨシヒトだけど、今は何でか知らないが担任に呼び出しを喰らって職員室へ行っている。で、そこへ行く前にいつものエラそうな態度で「エイ、一緒に帰るんだから待っていろよ!」なーんて命令していた。まったくさ、何で俺がお前と一緒に帰らなきゃならないんだって。意味が分かんないよ。もちろん、俺はしっかりきっかりそのことをヨシヒトに告げたんだけど、でも相変わらずあいつは俺の言うことなんて完全スル―で、職員室へ行ってしまった。 そう、だから確かにこの状況はまずい。俺は早く帰らなければいけない。下手したらヨシヒトを待っているとも思われかねない。 「あれ、それって進路希望調査? エイちゃん、まだ出してなかったの?」 焦って机に向かい出した俺にカナメが言った。俺の手元にあるぐしゃぐしゃプリントの正体に気づいたらしい。 「えー、なになに?」 そしてカナメの無駄に高い声のせいで、近くにいた別のクラスメイトまでもが俺の席にやってきて、その何にも書かれていない紙を覗きこんできた。 「あれー、エイちゃん、本当だ。まだ出してなかったの? こんなのずっと前のヤツじゃん。エイちゃんはトーダイを受けるんだろ?」 「誰が受けるかっ」 俺が唾を飛ばしてそいつのアホな発言を否定すると、今度はまた別の奴が乗り出してきてにへらと腑抜けた笑みを浮かべた。 「えー、でもエイちゃん、実は見かけより大分頭いいらしいって既に学年中の噂になってるぜ! うちの学校きっての期待の星ってよ!」 「そうそ。エイちゃんって普段ぼへーっとしているから気づかなかったけどさぁ、こんなんで頭イイって結構ポイント高いぜ!」 「何だそりゃ! っていうか、お前! 見かけよりって何だ見かけよりって! お前もだ、『こんなんで』ってのは一体何だ!?」 こいつら好き勝手言いやがって…。いやしかし、そもそもこんな“エイちゃんは天才”的なデマが広まったのも、元をただせばヨシヒトのせいなんだよ。 「それはいいけど、ホントにエイちゃん、これ前に1回出していたじゃない? 何でまた?」 カナメが不思議そうに首をかしげる。可愛い仕草だなあ、根は悪魔だけど。 「担任からボツを喰らったんだ。将来の夢のところがふざけているから書き直せって」 「えー? 何それ。何て書いたのー?」 「………言わない」 俺はふいと横を向いて口を噤んだ。 田神がくれた凧で田神と一緒に凧揚げをした後、俺はテンションが上がりに上がって、その勢いのまま嬉々として将来の夢欄に「凧職人」と書いてあの藁半紙を提出した。 そうしたら今朝になって担任が「この時期にどんな悪ふざけだ」って俺に拳骨してプリントを突き返してきたんだ。提出してから今日まで随分間があったように思うけど、単に担任があれにまともに目を通したのが最近だったんだろう。職務怠慢な上、生徒の夢を冗談扱いするなんて教師の風上にも置けないぜ。 ……でも、何だかその時は「違います! 僕の夢は本当に凧職人なんです!」って言えなかった。言いかけて開いた口もそのまんま中途半端に動いて止まった。俺は俺の夢を恥じているのか。その事実に愕然としながら、かと言ってあれ以外のことが適当でも書けなくて。 つまりだから、俺はこんな所でいつまでもうだうだとしちゃっているわけなのだ。いつまでもこんな所にいたらヨシヒトが戻ってきちゃうのに。あいつとなんか一緒に帰りたくないから、早く帰らなきゃいけないのに。 しかし、それにしても何でヨシヒトは担任に呼び出しなんか喰らったんだろう。一応、学校では優等生の部類に入るのに。 「ヨシヒトねえ、推薦蹴った上に、エイちゃんと同じ大学受けるって言ったから、担任とか学年主任に絞られてんだよ」 「えっ」 お、恐ろしい。カナメは俺の「ダダ漏れ」な心を読んだのか、すかさずそう言ってニヤリと笑った。しかも俺があまりの驚きで口をぱくぱくさせていると、尚もこの小悪魔は訳知り顔で口元を緩め、俺の机の上で頬杖をついた。 「本当にバカだよねぇ。折角黙っていてもいいトコ入れてもらえるはずだったのにさ、わざわざ一般受験するって言うんだから。しかもエイちゃんが受ける所を受ける、なんて言ったら、そりゃあ先生たちだって怒るでしょ。『お前は大学へ何しに行くつもりなんだー!』ってさ。もう連日みたいよ、この手の説教」 「そ、そうなのか……」 「知らなかった?」 カナメの探るような視線を避けるように俺は思わず俯いた。 「うん…。あいつからは、早く受ける所全部教えろってそればっかりだったし。あいつの話なんて……」 「そりゃあ聞く義理ないよねえ」 「………」 カナメの発言に俺は何となく傷ついた。そうだ、実際俺があいつの話を聞いてやる義理なんてない。あいつの進路なんて俺には関係ない。俺たちはもう恋人同士でもなければ、友だちでもないんだから。絶交したんだから。………たぶん。 「ヨシヒトって行きたい学部とかないの?」 こらちょっと待て俺。何であいつの進路なんてカナメに訊いているんだ。どうでもいいことのはずなのに。 でも俺は気づけば顔を上げてカナメに問い質していた。 カナメは肩を竦めながらあっさりと答えてくれた。 「あるから問題なんだよ。あいつは前からやりたい勉強も決めていたし……だから、それが出来る大学の指定校も取れるって分かって早々に推薦も決めていたし。……エイちゃんは、前とかも、ヨシヒトの進路や将来の夢、訊いたことなかったの?」 「………うん」 そんな話、したことなかった。交際期間(実質)たったの2か月だけど。俺たちって一体お互いの何を知り得ていたんだろう。 ヨシヒトは俺のことが何にも分かっていなかったけど、俺もヨシヒトのことを全然知らなかったんだ。 俺はヨシヒトと付き合っている時は、とにかくヨシヒトに嫌われたくないってそればっかりだったから常に気を遣って、何を話すのもいちいち躊躇われて口数も少なかったと思う。ただ唯々諾々とヨシヒトに従っていただけって言うか。変な遠慮だよな、今にして思えば。推薦で大学に行くって話だけ聞いて、どういう学部なのとか、将来どんな仕事がしたいの、とか。俺は何も尋ねなかった。 よく考えなくても、恋人同士でそんなのっておかし過ぎるよ。 「うわ、何だあれ!?」 「どうした?…って、うおぉっ、こえぇ〜!」 その時、がっくりと落ち込みかけた俺のまさに前方にいた奴らが、窓の外を見下ろしながら口々に何やら騒ぎ出した。校庭の先にある校門の方を見ているようだ。 「なになにどうしたの?」 途端カナメが興味を持ったように自らも身体を乗り出して窓側に寄った。俺も一瞬何だろうと思ったけど、胸がモヤモヤしていたし、みんなの注意が逸れたことも幸いに、とりあえずこの場から脱出しようと腰を浮かした。 「エイちゃんっ!」 「わ!」 けれどあっさり玉砕、現行犯逮捕だ。カナメの怒声にも近い大声に俺はひゃっとなって首をすくめた。 「ちょっとちょっと、エイちゃんっ! 何を呑気に座っているのさ! エイちゃんも見てみなってあれ!」 「ぐえ」 カナメはその細腕のどこにそんな力があるんだって勢いで俺の襟首を掴んで無理やりひった立たせ、そのまま窓の外を指差した。俺は首絞め状態で強引に引っ張られたせいで目眩すらしたけど、殆ど反射的にカナメの指の先へ目を向けた。 するとそこには。 その先の、学校の校門付近には。 「こ、こええぇ〜!」 俺は思わずそう発してから、目に入ってきたものが現実かどうかと、無駄にぱちぱち瞬きした。 けれど、見間違えようがない。そこには遠目からもよく見える、デカくて派手な改造バイク数台と、それに負けず劣らずな華やかさを誇る色とりどりの髪色をした方々がぞろっと大量にたむろしていたのだ。 「何あれ、暴走族ってやつか!?」 「めちゃめちゃ派手だよ! けど、間違っても笑えねぇ…それがバレた瞬間殺されそ〜!」 「コエーよ何だよ! あんなのにいられたら帰れねーよ! 裏門から出るしかねーな!」 「おい大変だぞ、裏手にもあれと同じ奴らがたむろしているって!」 「げえぇ〜!」 「何だよそれえ!」 教室内は一気に騒然となった。 うちの学校はそんな頭イイわけじゃないけど、何て言うか、凄く平和ボケしていて、とりあえず「ああいうの」に免疫がない≪のほほん系≫が多い。そういう校風なんだ。悪く言えばみんなドライでマイウェイなところがあって勝手。けどその分、例えば暴走族みたいに徒党を組んでつるんだりしないし、いじめとかも、多分陰湿なのはないんじゃないかと思う。だってみんな、基本的に自分の事にしか興味ないから。 まぁそんなだからこそ、俺がゲイだってバレてもこうして安穏としていられるわけだけど。……一方で、ヨシヒトから結構可哀想な目(だと俺は思うんだけど)に遭っても、みんな何も言ってこなかったわけだけど。 まぁつまりは、俺の高校も結構変な奴らの集まりって事だな。田神の秀陽を好き勝手言えない。 「あ、あの1人だけ制服の奴! あれって秀陽のじゃねえ?」 その時、こそこそと窓の外を見ていた奴が凄い発見をしたって感じで言った。 「あー、そうだよ! 大体あんなカッコの不良なんて、ここらじゃ秀陽か無所属以外ありえねえって!」 「無所属?」 「ガッコー行ってない奴ってこと」 ポカンとして尋ねた俺にカナメが答えた。俺がそれにへーと納得したように頷くと、不意にカナメが俺の背中をバンと叩いた。 「いっ…!」 「秀陽って分かれば話は早いよっ。ほらエイちゃん、早く行ってきて!」 「は、はあぁ!?」 「あんなコワモテに校門塞がれちゃったらみんな怖くて帰れないじゃん。ここはエイちゃんからビシッと、『お前らもっと端っこに寄ってろ!』って言ってもらわないと!」 「な、何で俺がそんな怖いこと…殺される!」 「はぁ? も〜何言ってんの! だってあいつらエイちゃんを迎えに来たんでしょ?」 「俺を!? 何で!?」 「な、何で!?」 俺が心底びびりながら素で問い返したのを、訊かれたカナメの方はもっと驚いた顔をして目を見開いた。 それからいつもヨシヒトを「バカだなコイツは」ってバカにする時とおんなじ顔でハァッてため息までついて見せた。 「エイちゃん、何でじゃないでしょ。僕らみたいな一般人の中にあの秀陽と知り合いだったりトラブル起こしたりする奴がいると思う? 秀陽関係に知り合い持っている奴なんてエイちゃん以外いないじゃない!」 「う」 「何と言ってもエイちゃんは、あいつらを仕切っている田神深夜のカノジョなんだからさ!」 「か…違うッ! あっ!」 「カノジョ」って言葉に自分でも信じられないくらい反応してしまい、俺は思わず思いっ切り否定した。 否定して、ソッコーで「やべえ!」と慌てた。だってヨシヒトの手前、俺は田神とは付き合っている事にしていたし、田神も絶対そうしろって言ってくれていたから…。 「エイちゃん…」 けど俺がどうしようどうしようと半ばパニくっていると、カナメがややボー然としながら口に手を当てた。 そして。 「知らなかった…。エイちゃんってネコじゃなかったの?」 「……は?」 「だってそれに、田神深夜って言ったらそこらの女喰いまくりのモテ男で、本来はノーマルだって聞いていたし……。まさかエイちゃんたちの関係が、そんな、そんなだったなんて。だってそれって、逆じゃん? あ、え? じゃあヨシヒトとも? え、でも待って、だって僕ん時は…」 「公衆の面前でどんな話だぁッ!」 いつもはカナメに言われっ放しの俺も、思わずお笑い芸人も顔負けの速さでバシンとツッコミを入れた。もう入れざるを得ない。まったく、いくらクラスの奴らみんなに知られている事とは言え、とんでもねえよ……。 俺はぜえはあと荒く息を継ぎ、再びちらりと窓の外へ目をやりながら努めて冷静に言った。 「とにかくだな…。田神とつ、付き合っているのは 本…ゴホッ! ホホ、ホントだぞ!? け、けど、けど、あいつはわざわざ人を使って俺を迎えになんか来ないしっ。大体、あそこにいる連中なんて、俺は1人も知らないんだから!」 俺が田神以外で知っている秀陽の奴って言ったら、あの無駄にでかいモヒカンベロピアスくらいだ。けど、見たところあいつはいな――……。 ……似たようなモヒカンはいっぱいいるようだ。あの学校じゃあ、モヒカンがブームなんだろうか。無駄に怖い……。 「え〜でもさ」 俺がフリーズ気味なのにも気づかずカナメは言った。 「別に知らない奴らだったとしても、俺は田神のカノ…ああ、彼氏? ま、どっちでもいいか。とにかく、『俺が田神の恋人だけど、お前ら何だ!?』って一言恫喝すればいい話じゃないの? っていうか、絶対あの人たちってエイちゃんに用があって張っているんだと思うなあ」 「そうそう。しかも、裏門にまで待機しているって、どっちみちもう袋のネズミじゃん。エイちゃん、諦めてさっさと行ってきてよ。そんで、俺らを無事に帰宅させてくれ!」 「お、お前ら……」 カナメだけでなく、他のクラスメイトまで「ほら、さっさと行け」って俺をけしかける。要は早く帰りたいから、あの物騒な連中を何とかしてくれってことなんだろうけど……俺だって凄く怖いのに! 幾ら俺が田神の知り合いだって言っても、実際どこまであの学校であいつの権力が及んでいるのかは分からないじゃないか。だってあいつは何気に生徒会長なんてやっていたし、もしかしたら大番長っていうのは完全なデマで、田神自体はああいう暴走系の生徒さんとは繋がってないかもしれない。うん、そうだ。あいつ自身、俺に大番長って言われると凄く嫌がっていたし。 「あ! ヨシヒトが!」 その時、俺がうだうだ悶々としている間に、未だ窓の下に隠れながら外の様子を探っていた奴が不意に立ち上がって声を上げた。 「あ、ホントだ! あ、あいつ何してんだ!?」 「ヨシヒト!?」 カナメもその名前で窓際へ身体を向け、ぎょっとしたような声を出す。俺もそれで嫌な予感がしてだっと窓際へへばりついた。 「ばっ……」 俺の視界には、ヨシヒトが誰の目にも明らかな怒りオーラを振りまきながら、ずんずんと勢いよく表門へ向かって歩いて行っているのが見えた。 しかも遠くからでも分かる、如何にも「売られた喧嘩は買う」って感じで(誰も仕掛けてないけど)、あのモヒカン軍団さんに何やら怒鳴りつけているのが分かった。もう失神しそうだ。何なんだあいつは。 「あのバカ、バカだから、『エイは俺が守る!』とかって先走ってんじゃないの?」 カナメがぼそりと言った言葉に俺はもろ反応してばっとカナメを見やった。カナメは窓の外へ目をやったままだが、さすがに頬を引きつらせながらそのボー然とした声を続ける。 「だって前にも言っていたし。『いつまでも田神がエイに近づくのをやめないなら、俺の方から秀陽でもどこでも乗り込んで行って話をつけてやる』って」 「い、意味分かんないよっ。何だよそれ!」 俺が半ば上擦った声でそう叫ぶと、カナメは何か可哀想なものでも見るような目をして首を振った。 「エイちゃん、あいつの意味の分からなさ加減は前からでしょ。それはしょうがないよ、だってあいつ――」 カナメの言葉を俺は最後まで聞かなかった。 「だってばかだから」 俺は全力ダッシュして教室を飛び出した。 |
中編へ… |
ヨシヒト嫌いな人が多いこのお話でこんな展開、すみません…^^;
中編は田神が出ます!ちょっとだけど(爆)。
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