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別荘へ戻ってからの俊史は歩遊にとても優しかった。 労わりや思いやりの言葉をくれるというわけではないが、歩遊の世話を甲斐甲斐しく焼いたという点では、歩遊が普段から感じる「優しい時の俊史」そのものだ。 「あっ…んぅ、あぁっ…」 ただ、戻ってからも俊史は歩遊の身体を一時も離さず抱き続けた。 何度も歩遊の後ろを突いては揺さぶり。 おまけに中に吐精する。 「や、ん、んっ…」 だからもしこの状況をまっとうな第三者が見たのなら、こんな事を強いる俊史を優しいなどと思うわけがなかった。そんな風に捉えるなどどうかしていると憤りさえするだろう。 「あん、あっ…」 けれど当の歩遊は、ぐったりした自分を別荘までおぶって、尚且つ風呂にまで入れてくれた俊史を「優しい」と思った。例えこんな風に無理に抱かれていたとしても、一度目より二度目の方が、そして三度目の今の方が紛れもなく優しいと感じるのだ。 「あっ、あ…俊ちゃ、俊ちゃんっ…」 後ろから激しく突かれる度、歩遊はきゅっとシーツを掴みながら俊史を呼んだ。最初こそ声を殺そうと努力したが、中を抉ってくる俊史が同時に歩遊のモノも扱いてくるものだから、途中でもう無駄な抵抗だと諦めた。 「あぅ、あん、あっ…!」 背後から攻められているせいで俊史の顔は見えない…が、その動きは嫌というほど分かった。初めの時こそ痛くて堪らなかった箇所も、何度も擦られて大分ならされたのか、今はじわりとした鈍い感覚があるだけだ。 しかもベッドで事に及び始めてからの俊史は、そんな物を一体いつ用意したのか、歩遊の深奥に僅かな香料を含んだラブローションを懇切丁寧に塗りつけた。当然、歩遊はその得体の知れない物体に恐怖したが、俊史は「こういう時に使う物なんだから心配しなくていい」と平然と言い放ったものだ。 「はっ…あ、あぁッ」 そして確かに、それによって歩遊の痛みは確実に緩和された。粘着質な水音が増した事だけどうしても慣れなかったが、歩遊を犯す俊史の性器がスムーズに快感を与えてくれるようになったのは間違いない。 「あんっ…」 意図せず甘い声が漏れてしまい、歩遊は羞恥で目を潤ませた。俊史の顔が見られないのは不安だったが、逆にこの恥ずかしい表情を見られずに済む事だけは助かった。 四つん這いで、無理に尻を突き上げたようなみっともない格好。そこへ俊史が猛りきった自身の雄を容赦なく挿し込み、激しく中を突いてくる。ズンと力強く腰を進める。 「俊ちゃっ……や、あんっ、あんっ!」 望まず尻を揺さぶられ、声が止まらない。歩遊は自分が叫ぶことによってより早くなる俊史の動きに翻弄されながら、ただ従順に事が終わるのを待った。 「ああぁっ…!」 そうして、ようやく。 「はぁ……はぁ……はっ……」 体内にじんとした熱さが迸り、歩遊は俊史が三回目の吐精をした事を知った。 「ふっ…」 息を吐いて自然と膝から崩折れそうになる。腰を掴まれているせいでそのまま倒れ伏す事はなかったが、俊史が残りの白濁すら中に振り落としていこうとするのを感じて、歩遊は涙で滲んだ目をそっと閉じた。 「歩遊…っ…」 すると荒く息を継いだ俊史が後ろから歩遊の身体に近づき、「寝るな…」と囁くような小声で命令した。 「また風呂行くぞ。だから、まだ寝るな…」 「……うん」 「……大丈夫か?」 「……っ……うん……」 気遣ってもらえて嬉しかったので歩遊は何とか返事をしたが、身体は俊史と繋がったままなので身動きのしようがない。 歩遊はちらと後ろを振り返りながら「…あの」と口ごもった。 「俊ちゃ……あの…あの、もう……」 「……ああ」 「ひぁっ!」 俊史がすぐに身体を引いた事で歩遊は驚きからもろに声を出してしまい、そのせいでまたカッと赤面した。 「……っ」 それでも自由になった身体にほっとし、うつ伏せになったまま暫しその場で目を瞑る。寝るなと言われたけれど、だるくて疲れてどうしようもなかった。今すぐ意識を失ってしまいたい、何もかも忘れて眠りたい。本音はそれだけだった。 「歩遊」 それでも俊史に呼ばれて、歩遊は目を開けられないまでも「うん」と律儀に返事をした。 俊史の声は柔らかいから、怒ってはいない。このまま怒らせたくはない。折角「優しい」のだから、そのままでいて欲しい。身体にこれだけの理不尽を強いた俊史だから、せめて言葉の部分だけでも穏やかでいてもらいたかった。 「歩遊」 その俊史は別段返答を期待した風でもない呼びかけをもう一度した後、ゆっくりと歩遊の髪の毛を梳き、それからそっと口づけを落とした。歩遊がそれに呼応するように目を開けると、そうせずとも良いという風に瞼へも静かなキスが降る。 「ん…」 それで歩遊は再び目を閉じた。 「身体…辛いか?」 髪を梳かれながらそう訊かれて、歩遊は素直に「うん…」と返した。 「あ…でも、ちょっとだるいだけだから…」 その上、こんな状態になっても尚、歩遊は自分の返事のせいで黙り込んでしまった俊史を気遣うように付け足した。 俊史を怒らせたくない。そればかりが頭の中を占めている。 「……いや、ならもういい。寝てろ」 「え? あっ!」 けれど俊史は歩遊を急に抱え上げるとそう言って、さっさと浴室へ向かい始めた。 「俊ちゃ…」 「風呂なら入れてやる。目、瞑ってろ」 「でも…」 「寝てろ」 「……っ」 一度目の時もしてもらったのに、またあんなところまで洗われてしまうのだろうか。そう考えると歩遊はただ恥ずかしくて、かと言って抱え上げられたのを逆らう事も出来なくて、ぎゅっと俊史の首に縋りついた。 「……ずっとそうしてろ」 すると俊史は低い声でそれだけ言い、歩遊をバスルームへ入れた。 「あ……?」 ――と、不意にライムのような清涼感ある香りに包まれて、歩遊は思わず目を見張った。 先刻の浴室とは明らかに様子が違う。 「………?」 知らぬ間に沸かし直された湯にはグリーンがかった綺麗な色がついていた。香りの源はこれだ。歩遊がそれをぼんやり見つめていると、「これを入れたかったんだろう?」と俊史が言った。 「え…?」 不思議そうに首をかしげると、そんな歩遊に俊史は「入浴剤」と言葉を足した。 「入浴剤…?」 確かそれはないと言っていたはずだけれど。 どうしてと歩遊が再び尋ねるような瞳を向けると、俊史は「これじゃ嫌だったか?」と違う方に解釈して眉をひそめた。 歩遊はそれに慌てて首を振った。 「違う…でも、ないんじゃなかったの?」 「買った」 「買った…? いつ? どこで?」 「コンビニで」 「でも……」 確かにこの別荘へやってきた初日、歩遊はこんなに綺麗なお風呂なら柚か入浴剤を入れたいと俊史にねだった。でもあの時にはそんな物はないと突っぱねられ、歩遊自身この事はすっかり忘れていた。それに、俊史とは殆どずっと行動を共にしていたし、母たちを見送り帰りに寄ったコンビニでも、俊史がこれを買った形跡はなかったはずだ。 とすると、俊史は歩遊の知らないところで、一人で買い物へ行った事になる。 そんな時間があっただろうかと考えていると、俊史は真面目な顔で歩遊の身体を清め始めながら淡々と告げた。 「大晦日の時。……お前、泣かせた夜」 「……え?」 「コンビニだからロクなのなかったけど、家帰ったらまた良いの買ってやるから。今はこれで我慢しろ」 「………」 「さっきは入れるの忘れたから…。沸かし直した後、入れた」 俊史の機械的に紡ぐ言葉を心底妙なもののように受け止めながら、歩遊は黙って身体を洗われ続けた。こんな事をさせるなど全くもっておかしい。本来なら自分でやると言うなり抵抗するなりすべきだったのだろうが、これももう2度目で、歩遊の一般常識は完全に麻痺していた。しかも身体は信じられないくらいにだるい。それに俊史が黙っていろと命令する。 だから歩遊は人形のように俊史に身を任せ、ただじっとしていた。心地よいライムの香りを傍で感じながら。 「熱くなったら言えよ」 「うん……」 そして一緒に湯船にも浸かる。 俊史と対面するような格好で歩遊は当たり前のように抱きしめられ、互いに密着するような形で浴槽に身を沈めた。 エメラルドグリーンの湯がゆらゆらと時折静かに揺れて、白い湯気が上がる以外、そこには何の動きもない。 何だろうこれはと、歩遊は思った。 「俊ちゃん…」 俊史の首筋に顔を埋めながら、試しに歩遊は呼んでみた。俊史はすぐに「何だ」と返事をくれた。歩遊はそれがまた不思議で少しだけ顔を上げたものの、すぐに恥ずかしくなり、再び無言のまま俊史に縋りついた。 「熱くないか」 「うん…」 熱いのかと問われれば全てが熱い。湯に浸かっているせいだけではない。こんな風に向き合ってぴたりと身体を寄せ合い風呂に入るなど、した事がない。一緒には何度も入ったけれど、こんなのはおかしいと思う。否、けれど「おかしい」事ならもうとっくに何度もしてしまったから、今さらおかしいも何もないのかもしれない。 俊史とセックスしたのだ。それを考えるだけで歩遊の頭は沸騰しそうになる。しかもあんな屋外で、そして帰ってからも二度、三度と。 俊史は好きだとは決して言ってくれないのに。 好きなんかではないのに。 「俊ちゃん……熱い……」 急に辛くなって呟いた。風呂のせいではなかった。けれど何もかもが居た堪れなくて歩遊は訴えた。 「分かった」 すると俊史はその言葉をまんま受け取って歩遊を抱え上げ浴室を出ると、手際よく身体を拭き、その後はリビングのソファまでも歩遊を抱いて連れて行った。 「ベッドのシーツ替えてくるから、ちょっとここで待ってろ」 自分たちの精液でとんでもない事になっていたあの場所を思い出し、歩遊は目元を赤らめながら静かに頷いた。 俊史の階段を上って行く音を聞きながらほっとして目を瞑る。ごろりとその場で横になると、途端に酷い疲労を感じた。 「ふ……」 今は何時なのだろう、窓の外は真っ暗だから夜には違いない。けれど時間に対する感覚が完全にない。歩遊に分かる事と言えば自身の下半身がやたらとじんじんしていて、未だじくりとした痛みをあそこの奥に感じるくらい。いやでも、それを意識すると今度はそこだけでなく、顔から全身にかけてが猛烈に熱くなる。熱があるのじゃないかと思う程だ。冬なのにちっとも寒くない、むしろ燃えるようだと思った。 「歩遊」 やがて二階から戻ってきた俊史が呼んだので、歩遊は億劫ながら目を開けた。けれど視界はぐらぐらしていた。 歩遊はそんな自分が少し怖くて、不安そうに俊史を見上げた。 「……大丈夫か?」 俊史はその異変を察知してすぐにそう訊いた。歩遊はそれだけで安心する思いがして、黙って頷いた。俊史に好かれていない、その事をとうに知っているのに、こうして傍にいて優しくしてもらえると無性に甘えたくなり、「フラれた」事実にはつい知らぬフリをしたくなった。 だから「俊ちゃん」と、懇願するように腕を伸ばした。 俊史はすぐにその手を取った。 「ベッド、行くだろ?」 握った歩遊の指先にキスをして俊史はそう言った。「そんな事をするなんて、まるで恋人同士みたいだ」と歩遊は思ったが、その後もそれだけではない、寝室に上がって横になってからも、俊史は暫く傍に腰を下ろしたまま、歩遊の手を握り、じっとした視線を落とし続けた。 歩遊は自身も熱っぽく潤んだ目でそんな俊史を見上げていたが、ようやく気持ちも落ち着いてきた頃、ふっと「もう十分だ」と思った。 何故俊史が好きでもない自分にあんな真似をしたかは分からないが、自分の方は俊史を好きなのだから、余計な泣き言はもう言うまい。 それに俊史は「お前は俺のものだ」と言った。きっと俊史にとって相羽歩遊という人間は幼い頃からずっと当たり前に傍にあったおもちゃみたいなものなのだ。「好き」ではないけれど、こうする事くらいは出来る相手、だ。歩遊は俊史の物だから、こんな風に俊史が歩遊を好きにするのは当たり前だし、何という事もない行為に違いない。今こうして優しくしてくれているのは、きっと乱暴に抱いた事を少しは悔いているのだろう、それくらいには大事に想ってくれているのだ。 だからもう十分だ。 ただ、もう好きとは言わない。 だって俊史がそれを望んでいないのだから。 「俊ちゃん…」 本格的にとろんと瞼が落ちてきて、歩遊は意識が途切れがちになりながら俊史に何事か言いかけ、けれど言葉を消した。とにかく猛烈に眠かった。 「俊ちゃ……」 「歩遊……」 だから意識の消える瞬間、俊史が顔を近づけて唇に触れてきた事が夢なのか現実なのかも、歩遊にはもうはっきりしなかった。 それからどれくらいの時が経ったのか。 目覚めた時にまだ室内は薄暗く、実は大して眠らなかったのか、それともたくさん時間が経過しているのかが歩遊には分からなかった。 「あ……」 ただ間近には俊史がいた。歩遊を腕枕するように横抱きした格好で、どうやら眠っているようだ。 歩遊はそんな俊史の姿をじっと見やった後、ふと自分たちがどちらも裸である事に気づき、仄かに血流を騒がせた。もう散々身体を重ねたくせに、実は歩遊が俊史の身体をまともに直視したのはこの時が初めてだった。 (同じ年なのに……) 遠慮がちにそっと俊史の胸を触ってみて、歩遊は小さくため息を漏らした。 逞しい俊史の身体は一体いつ鍛えたのだろうかと言う程均整がとれていて綺麗だ。 (それに……全然違う。……大きい……) 布団の中をちらりと見て、歩遊は視線を泳がせた。自分の貧相なものと向き合っている俊史の性器がとても立派で、何だか無性に惨めな気持ちになる。居た堪れなくて、歩遊はむくりと身体を起こした。 「…どうした」 「あっ…」 けれどそのせいで俊史も目が覚めてしまったらしい。俊史は一瞬だけ目を窄め、直後すぐに歩遊の手首を掴んだ。 歩遊はそれにぎくりとしながら、ただ首を横に振った。 「どうした。どこに行く」 「あの…」 「……寝てろよ」 すぐに答えない歩遊に俊史は眉をひそめ、掴んだ手を強引にぐいと引っ張ると再び歩遊を布団の中へ引きこんだ。 「あっ…」 そのまま強く抱きこまれて歩遊は狼狽した。そんな風にされると互いが密着してまた俊史のモノを意識してしまう。歩遊は焦って俊史から距離を取ろうと身体を捩じらせた。 「何だ。じっとしてろ」 けれど俊史にはそれが面白くなかったらしい。逆らわれたと思ったのか、より拘束をきつくして、歩遊の後頭部ごとすっぽりと包み込んでしまう。 「俊ちゃん…や……」 下半身が熱くなる。悟られまいと歩遊は再度拒絶の意を吐いた。互いに身体が擦れるともう駄目だ。 「あ…」 けれど、気づけば俊史の方も既に硬くなり始めていて、歩遊はびくんと身を震わせた。 「……お前のせいだろ」 「う…」 「逆らうなって言っただろ。勝手に動くな」 「……うん」 そうだ、言われていた。 あの森で命令された事を如実に思い出し、歩遊は表情を沈みこませながらも律儀に頷いた。 でもあそこでも散々嫌だと言い、逆らうような所作を示してしまった。やはり俊史は怒っているのだろうか。帰ってからは大分優しかったけれど、思えばその言いつけは全く守っていない。 そんな奴を好きになれという方が無理なのか。 歩遊は落ち込んだまま俊史の身体にぴたりと頭をつけ、息を吐いた。 「…痛いか?」 しかしその無意識の行為はかなり効果があったのか、俊史は途端穏やかな口調になってそう訊いた。歩遊がそれに「え」と顔を上げるのにも、珍しくバツの悪い顔で「だから」と惑う風な仕草を見せる。 「身体。痛いかって訊いてるんだ」 「あ……うん。ちょっとだけ……お尻のとこ……」 正直に答えると俊史はぐっと詰まったようになったが、すぐに歩遊の髪の毛を荒く撫でつけながら、そこへ乱暴なキスを何度も落とした。 「俊ちゃんは、痛くなかった?」 それで歩遊も戸惑いながら訊いてみた。 俊史は何も答えない。それを肯定と受け取って、歩遊は余計にしょぼくれた。 「ごめん…僕あ、あんなの……初めてだったし。変だったと思う…」 「…何を」 「バカなこと言ったのも、ごめん。もう言わないから」 「は……? ……何の話だ?」 「ううん、何でもない。もう言わないから」 「だから、何を」 「え……だから……。もう、俊ちゃんのこと、好きって言わない……」 俊史がさっと蒼褪めて目を見開いたことに歩遊は気づかなかった。 ただ俊史の喉元辺りを見つめながら歩遊はぽつぽつと続けた。 「僕、今日のこと誰にも言わない…。だから、俊ちゃんも忘れて…」 歩遊にとってそれは当然の発言だった。 今日の事は何かの間違いで、俊史にしてみたらちょっとしたお遊びみたいなものだ。俊史は歩遊の告白を「スル―」して、ただ身体だけ無理に繋げた。歩遊の意思などお構いなしに。 悲しいけれど、しかし要はそれが俊史の答えなのだろう、歩遊はそう解釈した。だから先刻意識が途絶える前に導き出した、「もう十分だから」という気持ちが脳裏を過ぎり、そう言った。 当然の台詞なのだ。歩遊にとっては。 「何言ってんだ……お前……」 けれどその「当たり前」に対し、俊史がこれまでにない程の殺伐とした声を出した。 「え」 歩遊は驚いて改めてそんな俊史を見つめやった。 瞬間、ぞくりと身体が震える。 あんなに怒らせたくないと思っていた相手が。 「言っただろ……お前は俺のものだって。やっと……ようやく完全に俺のものになったのに、何言ってんだ、お前……」 ぎゅっと手を掴まれて歩遊は痛みで顔を歪めた。けれど俊史は止めてくれない、歩遊はドキドキと心臓の音を速めながら必死に口を継いだ。 「でも……でも僕は、こんなの……嫌だから」 「嫌…? ……何が」 「だって好きじゃないのに……俊ちゃんは僕を好きじゃないのに、こんなの……それは、や……嫌、だから」 「……歩遊」 「俊ちゃん、迷惑だって分かったから。だから僕は……言わないって…」 「お前……もう、喋るな……」 「でも、俊ちゃん……ぼ、僕は…もう……」 「……っ。分…からないなら、分かるまでだ。歩遊…っ!」 俊史のものが再び昂ぶり始めたのはそのすぐ後だった。 「しゅ――…!」 歩遊がそれに気づいて目を見開いた時にはもう遅い、すぐにそれは始まる。 「俊ちゃん…!?」 俊史は突然覆い被さるようにして歩遊を捉え、その両足を掴み開くといきなりの挿入を試みた。歩遊は驚いてもがこうとしたが、俊史の動きの方が早かった。 強引にぐいと嵌められて、歩遊はその痛みと衝撃で悲鳴を上げた。 「やあぁ―っ!」 何の躊躇もなく入れられたせいで背中が引きつけを起こしたようにひくと反らされ、脳天にもガンと重石をぶつけられたようなショックが走る。両足をがっちり押さえつけられているせいでロクな身動きも取れない。奥に突き刺された俊史のモノを否応もなく感じさせられる。 「うあ……はっ……ひぅ…!」 おまけに俊史はまるで容赦せず早急に腰を振り、己の凶器のようなそれを乱暴に何度も抜き差しした。 「ゃうっ、あっ、あぁッ…ああぁ―ッ!」 「歩遊っ」 「いやっ、あぁっ……ああぁ!」 あまりの事に歩遊の思考は完全にストップした。最早俊史を呼ぶ事も出来ない。ただ分かるのは俊史の怒り昂ぶった性器だけで、それが幾度となく歩遊の中を抉り、掻き回す。 「は…、やっ…!」 しかも俊史はいきなり歩遊を抱き起こし自らの正面へと向けさせ座らせると、がくがくと身体を揺らす歩遊をそのまま突き上げるように攻め始めた。 「やぁっ…あぁ、あぁんッ」 歩遊は俊史の首筋に捕まりながら声を上げた。 それでも俊史に「もっと尻を浮かせ」と命令されれば言う通りにしたし、「お前も動け」と言われれば、恐る恐るながらも身体を沈め、自ら俊史のモノを己の奥へと誘った。俊史が怖かったから、いつもの習性で機械的に与えられた指示に従ったのだ。 それでも感情は追いつかない。バカみたいに涙が零れ落ちた。 「んんっ、んんっ…!」 対面した姿勢になってから二人は何度も口づけをした。俊史の舌が執拗に絡まってくる。歩遊は涙を流しながらそれを受け止めた。奥まで挿し込まれた俊史の雄が蠢く。連続した突き上げに息も絶え絶えになりながら、歩遊は混濁する意識の中で俊史とのキスを繰り返した。 「…っ」 そのキスの合間、俊史が歩遊の乳首に触れた。 「やぁ…んっ」 痺れるような感覚に我慢出来ず、歩遊は俊史のキスから逃れて非難するような声を出した。それでも俊史はその行為を止めてくれず、歩遊の小さな胸の粒は俊史の指先に捻り潰された。 「いぁっ…」 痛いから止めて欲しいと言いたかった。それでもそれが言えず、ただ無機的に開いた視線の先、ふいに俊史と目があったのが分かり、歩遊はまたぽろりと涙を零した。 「どうして」と、言いたかった。 「俊ちゃ…」 「胸……かなり感じるな、お前」 「違う……」 「今さら恥ずかしがるな……。お前は俺に感じてる。こんなに……こんなやらしい身体を見せておいて、俺に縋っておいて……もう言わないだと? 笑わせんなよ…!」 「違う…だって…だって……」 「まだ逆らうのか…。言っただろ、歩遊……分かるまで、続けるぞ…!」 「あ…あぁっ!」 責めるように下からの揺さぶりがくる。歩遊は俊史の首筋に腕を絡め、顔を埋めた。 分かるまでって、何を分かればいいのか。 「あんっ…俊っ…やめっ…んっ、や、あぁっ、あん!」 「駄目だ…!」 「ああ、あんっ、あんっ……俊ちゃあっ」 永遠に続くかのようなそれに歩遊は嬌声が止まらず、次第にその声自体を枯らしていった。やめて欲しい。そう訴えても、俊史は「それは違う」と言う。そして歩遊に「言え」と繰り返し、分かるまで続けると復唱するだけだ。 「いっ…あん、あ、あっ、あっ!」 歩遊は俊史が好きだ。でも、こんなのは違うと思う。でももう俊史を止める術がない。自分にはその力がないと感じる。 もう何だっていい、そんな投げやりな気持ちにすらなってくる。 その時、いやに透き通った美しい音がリンと鳴り響いた。 一度鳴ると二度、三度。 ちりりん、と。 それは外の扉に付いていた、来訪者を告げる鈴の音だった。 「あ…?」 歩遊はそれにびくんとして身体を揺らめかせた。まだ後ろは俊史のものが挿入されたままだ。 けれど外の世界で誰かが自分たちを呼んだ。それはこうして禁忌を犯している自分たちを責めているような、現実へ呼び戻す音でもあった。 チリリン。 鈴はまた鳴った。夜のはずなのに。何だろう、誰だろう。 その想いを抱きながら歩遊は不安そうに俊史を見つめた。 「……気にするな」 「でも……や、ぅん…!」 けれど諌めるように俊史からまた一突きされて歩遊は声を上げた。それから再び身体を倒され、足を高く抱え上げられながらまた深く貫かれる。 「逃げられないからな、歩遊…!」 逃げる気もない歩遊に俊史はそう言った。 「お前は…俺の、もの、なんだから、な…!」 「しゅ…やぁっ…やっ、あぁッ!」 「歩遊! 答えろ…!」 「ぁんっ! う……うん…!」 揺さぶられながらも歩遊は何とか頷いた。もう何も考えられないのに。俊史が自分に何を求めているか、考えたくともその余裕がない。 それでも歩遊は必死に俊史を見つめ、ぜいぜいとする息の中でやっと言った。 もうそれしか思い浮かばなかった。 「僕…あっ…僕は、俊っ…俊ちゃんの、もの…!」 「……歩遊。お前には、俺だけだろ? ……言え!」 「うんっ…あ、あっ…! 俊、ちゃん、だけ…! 僕、俊、ちゃんの…っ」 「歩遊…!」 「俊ちゃんの……もの…!」 チリ、リン――……。 玄関のベルは何度か急かすように鳴り響いていたが、歩遊が発したその台詞の直後、突然ぴたりと静まった。 「俊ちゃん…俊……」 その後も歩遊は助けを請うように呼び続けた。 欲しい言葉は結局貰えないまま。 |
To be continued… |
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