―8―



「ね、ねえ……戸辺君」
「何?」
「さっき、このプリンスの人、主人公のこと、嫌いって言ってなかった?」
「言ってたねえ」
「じゃ、じゃあ何で……」
  アニメってよく分からない。
  いや、このアニメがよく分からないのか?
  歩遊は呆気に取られながら、今や隣に戸辺がいる事もすっかり気にならなくなりながらテレビ画面を眺めていた。
  『桜色プリンス』という、タイトルからして少女漫画的なアニメは、歩遊が集中しきれていないうちに早々と佳境に入りつつあった。主人公である引っ込み思案な少女は、転校先の王子的存在の美形男子に一目惚れ。何とか告白しようと勇気を出そうとするのだが、その直前で当の王子より、「あいつの事など好きではない」との発言を聞いてしまった。意気消沈し、やはり自分など駄目なのだと落ち込む主人公少女。告白を諦め、トボトボと家路へ向かう寂しげな後ろ姿。歩遊はこれまで大した感情移入もせず見ていたくせに、少女のことを「可哀想だな」と思った。
  ――が。だがしかし。
「な、何でさ…。この人、いきなり主人公のこと、押し倒してるの?」
  歩遊の質問に戸辺は軽く噴き出し笑っただけで、まともに答えようとしてくれない。やはりバカにされている。そう感じてしまい、歩遊は居心地が悪そうに身体を揺らした。
  けれど、そうなのだ。
  確かに少し前の場面で主人公少女のことなど好きではないと吐き捨てていた王子が、何を思ったのか自分のことを避け始めた少女を乱暴に押し倒してしまった。場所は人気のない、放課後の生徒会室。金持ち学校とでもいう設定なのか、いやに煌びやかな生徒会室で異様な雰囲気だが、歩遊にしてみればこの話の展開自体がかなり唐突に見えたから、途惑いは先の疑問が優先された。
  嫌いな少女が自分を避け始めた事に何故イラつき、そして乱暴に押し倒したりしているのか? しかもこれは、どんなに鈍感な歩遊でも「やばい方向にいくんじゃないか」と不安になるようなシチュエーションだ。
  アニメという事で油断していたが、元々耀は歩遊に「エッチなビデオを貸してやる」と言っていた。とするとつまり、このアニメもその手のものだったのかと、今さらながらに思い至る。
「と、戸辺君っ!」
  戸辺と一緒にアダルト(?)なアニメを鑑賞するなどとんでもない。歩遊の声は思わず裏返った。既に顔だけでなく身体中が熱くて自分が汗までかきはじめている事を自覚した歩遊だが、今は赤面している己を隠している暇すらない。咄嗟にテレビを消そうと思ったが、いつの間にやらリモコンは戸辺の手の中。がばりと立ち上がりながら、しかしどうしたって気になる画面にもちらちらとした視線をやりながら、歩遊は戸辺に向かって大声を上げた。
「こ、これっ! もう消そう! 観るのやめよっ!?」
「え〜何で?」
  一方、焦る歩遊に対して戸辺は至って静かなものだ。逆に歩遊の狼狽を加速させるかのようにのんびりとした口調を放ち、ニヤニヤとした笑みを消さない。
「こっからが面白いとこなんじゃん。ほらほら歩遊ちゃん。主人公、脱がされ始めたよ〜。ちゃんと観ないとオイシイとこ見逃しちゃうよ〜」
「戸辺君っ! こ、これ、どんな話か知ってたの!?」
「うん、知ってた。俺、アニメオタクだから」
  嘘か本当か戸辺はさらりとそんな事を言い放った後、「いいから見ろよ」と手にしたリモコンをちょいちょいと画面の方へやりながら歩遊に脅しの視線を向けた。
  歩遊は戸辺の一睨みだけで震え上がってしまう。観たくない。独りきりだったら、もしかしてちょっとくらいは観たいと思ったかもしれないが、今はとにかく、すぐ側に戸辺がいるのだ。そんな状況で呑気に《エッチなアニメ》など観ていられない。しかも何となくその気恥ずかしさは、《普通のアダルトビデオ》より数十倍もの威力があると感じる。
「歩遊! 早くそこに座れ!」
「……っ」
  しかし戸辺は容赦ない。ある意味拷問である。
  再びぴしゃりと命じ、歩遊がそれに怯えきったように言う事を聞くと、戸辺はそのまま身体を寄せてがっつりと歩遊の顔を己が両拳で挟み込んだ。
「いっ!?」
「はい、もう逃げらんない」
「ちょっ……いっ…痛! イテテテテ! イテ!」
「早く観なさい、ほらほら」
  戸辺は小柄な割に物凄いバカ力だ。
  歩遊は両サイドから頭をぐりぐりと拳で弄られて、殆ど涙目状態だった。しかも無理矢理顔をテレビ画面の方に向けさせられているので、先刻から展開されている、主人公の抵抗するような恥らうようなか細い啼き声と「居た堪れない場面」まで直視する羽目に陥っている。
「わ…っ」

《いや…っ。やめてやめて…!》

  主人公少女は王子から制服を剥ぎ取られ、ソファの上で上半身を露にした状態ですっかり泣きが入っている。少女の裸が思いきり目に入り、歩遊はただでさえ赤くしていた頬を更にカアッと熱くさせた。少女の桃色の乳房は気のせいかいやに貧弱ではあったが……というより、胸は全然「ない」と言って差し支えなかったが……、それでも歩遊にとって今はそんな事はどうでも良く、今はただただこの状況からどうやって脱出したものかと、頭の中はそれだけだった。
  そもそも、耀は何だってこんなビデオを貸してくれたのか。
  初めて友人に対して恨みがましい気持ちが沸き起こる。確かに興味はあったけれど、何だかこのアニメはストーリーもおかしいし、いやらしいうんぬん以前の問題で猛烈に恥ずかしい。折角貸してくれたと思わないでもないが、正直耀の趣味を疑ってしまう程だ。
「歩遊っ!」
  しかし歩遊がそんな違う事を考えながら、どうにかこの辛過ぎる場面を乗り越えようともがいていた時だった。
「歩遊、ごめんっ!!」
  まさに歩遊が恨み言を並べ立てていた耀が、突然リビングのドアを押し開いてその場に現れた。ハアハアと荒く息を継がせ、ここまで全力で走ってきたのだろう事が容易に分かるほど、すっかり汗をかいてしまっている。そして今は真冬だというのに、耀自身も歩遊と同様、顔が真っ赤だ。
  もっとも、戸辺に雁字搦め状態の歩遊はそんな耀の顔を見る事は叶わなかったが。
「おーや、太刀川耀君。お早いお着きですね〜」
「戸辺っ! テメ、何やってんだよ! 歩遊を放せ! な、何こんな……うわっ」
  しかし耀の勢いこんだ声もあっという間に尻すぼみ状態になってしまう。最初こそ歩遊を拘束して無理矢理テレビを見せているような戸辺の姿に怒り心頭の耀だったが、自らもその画面を見てしまった瞬間、殆どフリーズ状態となる。……もっともそれも当然だろう、アニメは今まさに「如何にも」なシーンが展開中で、恥じらい涙する美少女が画面いっぱいにその裸体を晒し、殺気立つ美形青年によって色々イタされていたのだから。
  部活仲間からその手のビデオを借りて時折観ていた耀も、さすがに「アニメもの」の耐性はなかったらしい。
「こーゆーのって、ナマモノより破壊力あるんだよね。違う意味で」
  戸辺が呑気な声でそう言った。
「いやあ、しかしサッカー部のエース様にまさかこの手の趣味があったとは知らなかったよ。実に良い事知っちゃったなあ、ふふっ。しかもそれをこのいたいけな歩遊ちゃんに貸しちゃうとはね」
「違っ! それは、姉貴がっ!」
  耀が思わず口走ったその台詞に戸辺は一瞬だけ「はあ?」と眉をひそめたものの、すぐに立ち直ると最早そんな事はどうでもいいとばかりに再び視線を歩遊へとやった。
  先ほどまで暴れに暴れまくっていた歩遊は、しかし何故か今はいやに静かだ。ボー然として画面に魅入っている。すっかり諦めたのだろうかと戸辺はふっと唇に笑みを浮かべ、それから再びちらりと蒼白状態の耀を見やった。
「まあ、お陰で歩遊ちゃんには良い勉強になってると思うよ? ホントは俺がやろうと思っていた事を君がやってくれて助かったよ」
「何で……お前が……」
「だーって、この人が早くどうにかなってくれないと、俊がやばくて面倒なんだもん。あれを抑えるのも結構な重労働なわけよ。分かる?」
「お前……やっぱり、そういう性格だったんだな……」
  ようやく呼吸を落ち着けたような耀が酷く低い声でぼそりとそう言った。驚き半分、予想通りだと言う気持ち半分。耀の中で戸辺という人物はいつもあやふやだった。学園ではアイドル並に人気があって、可憐でおしとやかで、少女のような雰囲気も併せ持つ美少年だと、男女共に濃いファンを持つ男だ。けれど歩遊と同じクラスとなり、瀬能俊史という、同じく学園での人気を誇るあの男が実はとんでもない裏を持った人物だと分かって以来、耀はその俊史の親友である戸辺に対しても、どこか不穏なものを感じ取っていた。ちらほらと、戸辺に対する黒い噂も耳にするようになっていたし。
  そして今の、この態度。
「……とにかく、歩遊を放してやれよ。それにこんなの、あいつが知ったら如何にお前でもタダじゃ済まないんじゃないのか?」
「は? 俊のこと言ってるの? まあ怒るかもしれないけど、タダで済むと思うよ。だってこのビデオを貸したのはアンタだし、このビデオを自分から再生したのも歩遊ちゃんだよ。俺は隣にいただけ。それにほら。今や歩遊ちゃんも自分から観てるでしょ? ふふ、何歩遊ちゃん? エッチな場面になってすっかりおとなしくなっちゃったけど?」
「と……」
「ん?」
  すっかり黙り込んでいた歩遊が、ここで初めて声らしきものを発した。
  戸辺がそれを不審に思い、ようやく両方の手を放して歩遊に視線を送る。歩遊は未だ固まったように、それでも画面だけはしっかりと見て、そうして唇を戦慄かせた。
「戸辺、君」
「何?」
「あ、あの子……あの子、さ」
「は?」
  歩遊がわなわなとひとさし指を動かしてテレビ画面の2人を指し示す。恐らく「あの子」と言っているのは主人公少女の事だろう。いつの間にか全裸状態になっているその主人公は、今や王子の愛撫にすっかり溺れて、「イヤ、イヤ」台詞がいつの間にやら「イイ、イイ」台詞に変化している。元々両思いだったせいか、無理矢理が合意展開に変化したようだ。
  しかし歩遊の関心はそこにはないらしい。
  歩遊は半ば蒼白になりながら掠れ声で言った。
「あの子……男だ……」
「………は?」
  戸辺が一拍置いた後、ようやくの反応を返した。耀は2人がいるソファの真後ろで眉をひそめたまま、そんな歩遊の後頭部を凝視している。
「男……女の子じゃ、ない…っ」
「えぇ? もしかして、気付かなかったの?」
  戸辺が呆れたように言った。すると歩遊はそんな戸辺の反応にこそぎょっとしたようになり、目をむき出さんばかりの驚愕な顔でまじまじとした視線を投げつけてきた。
「戸辺君、男って知ってたの?」
「知ってたよ。だって名前が小太郎じゃん」
  戸辺の反応をよそに、画面ではその小太郎「君」が確実に女性声優だと分かる甘い声で喘ぎながら王子の荒淫に酔い知れている。
 そう、いかな歩遊でもさすがに気付かざるを得なかった。上着に続いて制服のズボンを脱がされた主人公は、少女キャラには決してありえないモノを剥き出しにし、あろう事かそれを王子に握られ擦られた後は、遂に口でのご奉仕までされ始めたのだ。
  主人公少女は「少女」ではなく、「少年」だった。
「コタロウ……? そ、そんな事言ってたっ…け……」
  あんあん喘ぐ主人公少年にボー然となりながら歩遊がぽつりと呟いた。
  戸辺はそれにこっくりと強く頷いて見せる。
「言ってたよ。転校してきた時、教室かどっかで…って、歩遊ちゃん、そういや最初の方全然観てなかったでしょ。だからだよ。けど、脱いだ瞬間、分かるでしょフツー?  気付くの遅過ぎ。このぺしゃんこな胸で気付けって」
「だって! す、凄くその……綺麗だったしっ」
「あー、あー、そうなの。だってアニメだし。お肌はすべすべツヤツヤが基本なの。いちいち脇毛だすね毛だなんて描くわけないっしょ? 夢のあるアニメなんだから、そういう男のキタナイものは一切排除! ボーイズラブってそういうもんなの」
  ぽかりと軽く頭を叩かれて歩遊はそのまま項垂れた。するとすかさず耀が戸辺に怒声を浴びせる。
「戸辺っ、やめろ! あと、歩遊に変な事教えんなよっ!」
「はあぁ? これ貸してきたのお前だし!」
「う、煩ェな! もう消せよ!」
「駄目だよ、まだ挿入してないじゃん」
「そうにゅう……?」
  あうあうと更に身体を捩らせる主人公は王子の奉仕によってあっけなく己の精を放っていた。けれどこれで終わりかと思いきや、まだアニメはエンドロールへと突入しない。歩遊は何やら嫌な予感がしながらどきどきと高鳴る心臓の鼓動が気になって、もう戸辺と耀の言い争いが耳に入ってこなかった。
  何だろう、何だか怖くなる。色々な事が怖くなる。

《好きだ……初めて会った時から、お前のこと、好きだった……》

  王子がうっとりとしたように主人公少年に告白する。主人公少年の驚きの反応とまるでリンクするように、歩遊も同時に驚いた。元々この急激な展開にも驚いていたが、そもそも両想いかと思わせつつ大嫌いと言っていて、少年がそれでがっくりきて諦めようとしたところを「やっぱり好き」だなんて。この王子キャラは意味不明過ぎる。ついでに、何が「桜色」なのかもさっぱりだ。
「誰もがストレートに好きって言えるわけじゃないんだよ」
  その時、戸辺が歩遊の反応を窺い見るようにしながらそう言った。
「でも、言葉で言わなくても分かるでしょ? この王子、ところどころで少年助けたり。好意示してたでしょ? 歩遊ちゃん、気付かなかった?」
「え……それは……最初は……そうなのかな、とも、思ったけど」
  もごもごと口篭る。戸辺の言い方はまるで気付けなかった歩遊が悪者だと責めているように感じた。
  けれどこの主人公がすぐさま王子の好意に気付けなかったのと同様、歩遊も同じように彼の真意は測りかねた。こういう展開になってからようやっと、「やっぱりそうだったのか」とは思ったけれど。――否、正確に言えば、歩遊は王子が少年を押し倒したあのシーンを見た時でさえ、すぐには分からなかったのだ。嫌いだと言っていたくせに、何故押し倒すのか。嫌がらせか意地悪かと穿ってしまったくらいだ。少年も嫌がっていたし。

《僕……嫌われてると、思ってました……》

  少年が熱っぽく潤んだ目で王子キャラにそう言った。思わずうんうんと頷く歩遊に戸辺は噴き出し、耀はやや引きつって唇の端を上げている。異様なムードが薄暗い部屋の中に漂っていた。

「寄越せ」

  けれどその空気にバシャリと冷水を浴びせかける一際鋭い声。

「あっ…!」
  一番最初に反応を返したのは歩遊だった。2人が驚く程の俊敏な動作で振り返った歩遊は、音も立てずにリビングの中、耀のすぐ後ろで立ち尽くしていた人物に硬直した。続いて耀、そして戸辺が、心底嫌そうな顔をして「うわあ」という唇の形をしたまま同じく動きを止めている。
「優、寄越せ」
  そんな3人に対し、俊史は苛烈な声で更にそう繰り返した。戸辺は歩遊の時とは違い、すぐさま己が手にしていたテレビのリモコンを差し出した。
  俊史は黙ってソファに近寄るとそれを受け取り、プツリと電源を消した。これまで絶えずアンアンな声を出し続けていた少年の姿がテレビから消え、真っ黒になった画面が一気にしんと沈黙する。まるでテレビすら、この突如として現れた俊史の存在に恐れ戦いているようだ。
「歩遊」
「えっ……」
「二階、行ってろ」
「え? でも……」
「行ってろ」
「うんっ」
  慌てて返事をし、歩遊は飛び上がるようにして立ち上がった。俊史がこれ以上なく恐ろしい。いや、恐ろしいのはいつもの事だが、自分だけでなく自分以外の人間に対しても「恐ろしい」ところはあまり見ない。普段耀を怒鳴ったり睨みつけたりしている時の怒りでさえ、ここまで怖くはない。静かだから余計迫力があるのか。とにかく俊史の顔をまともには見られなかった。
「よ…」
  耀は大丈夫だろうかと思わず声を掛けようとしたが、入口近くの彼と擦れ違う瞬間、「やめとけ」と耀が目配せしたのが分かって歩遊は咄嗟に口を閉じた。確かに今耀に声を掛けるのは逆効果な気がする。歩遊はちらちらとリビングにいる3人の姿を見ながらも、やはり俊史の顔だけは直視出来ず、ただ無力にその場を離れた。
  あんな変なアニメを見ていたから。
  しかも戸辺と2人で見ていたから、俊史は怒っている? 耀もいたから、もしかすると3人で観ていたと思ったかもしれないが、そこは2人だろうが3人だろうが問題ではないだろう。
  しかし今回のこれは、歩遊が観ようと言って観始めたわけではない。むしろ戸辺が無理矢理歩遊に観せようとしただけなのだが……。
  それでも俊史はこのアニメを貸した耀を怒り、後で自分のことも叱るんだろうか? 戸辺の事も責めるんだろうか。確か喧嘩していたはずだし。
  ――そんな事を考え、歩遊は一気に憂鬱になった。

(でもあんなに怒ってる俊ちゃんは初めてだ……何で……?)

  確かにあの手のものはもう観ないと、アダルトビデオの方は俊史に渡した。
  興味はないと言ったばかりの成人指定の作品を、アニメとは言え歩遊がこっそり観ていたとしたら。それは俊史が怒るのも無理はないとも思うけれど。余計な事をするなと、耀や戸辺にも何かを言うのかもしれないけれど。
  俊史の本当の怒りの出所がイマイチ分からない。
  歩遊はここで初めて俊史の怒りに疑問を抱いた。

(俊ちゃんは時々よく分からない……)

  けれど、それでも。
  俊史が歩遊にとって正しい存在である事は間違いがない。とにもかくにも、俊史が2人を帰して次に自分を叱ってきたら、ここは素直に謝っておこうと歩遊は心に決めた。部屋のドアを閉めたものの、そこにぴたりと耳をつけて階下の様子が探れないかと期待したが、俊史はいつもの怒鳴り声を上げていないのか、至って静かなものだった。物音一つ聞こえない。
「はあ……今日はお説教コース何時間かな……」
  ドアから張り付くのをやめて溜息をついた歩遊は、くるりと体勢を変えてドアに己の背を寄り掛からせた。
「そういえば……」
  そうして、ふと今さらながら、「ある事」について思い至る。それが外見なのか中身なのか、或いは両方ともなのかは、はっきりしないまま。

「あの強引な王子キャラ、俊ちゃんにちょっと似ていたな……」



To be continued…




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