第26話「普通の関係」

元親「スゲー! これ小十郎が作ったのかよ?」
元就「……月餅か。先ほどの茶菓子と言い、悪くはない」
佐助「うひょーおいしそー! 俺サマもお1つ頂きますよっと」
政宗「お前らホント、よくそんな食えるよな。さっきだって散々何か食い散らかしてたくせによ」
佐助「俺サマはそれ食べてないよー」
元就「フン、このくらい序の口だ」
元親「政宗、ごちゃごちゃ言ってっと、お前の分まで食っちまうぞ」
幸村「………」
元親「んあ? おら幸村、お前もさっさと食わねえとなくなっちまうぜ?」
佐助「そうだよ旦那! 旦那、甘い物大好きでショ? 絶対旦那の口にあうよコレ! もうめっちゃ美味しいしー」
幸村「さ、佐助……少しは遠慮しろ……」
佐助「なーに言ってんの。出された物食べない方が失礼だって。ね、独眼竜の旦那?」
政宗「別に食いたくなきゃ食わなくてもいいぜ」
幸村「……っ」
佐助「またまたそんな事言う。ほらチカちゃんも何かフォローして!」
元親「んあ? 何のフォローだよ?」
元就「単細胞が…」
元親「は!? お、おい元就! もしかしてそりゃ、俺の事か!?」
元就「貴様以外に誰がいる」
元親「カーッ! ったく、何だってお前はいつもいつもンな言い方しか出来ねェんだよ!?」
元就「知らん」
元親「〜ッ【怒】!」
佐助「はいはい、そんな話はどうでもいいから! ったく、もう。……ねえ、独眼竜の旦那」
政宗「何だよ」
佐助「真田の旦那と仲直りしてくんない?」
幸村「さ…佐助…」
政宗「………」
佐助「絶ッ対! お互い仲良くしたいはずなんだからサ。そんなの見てるコッチは容易に分かりますっての。ねえチカちゃん、ナりさん?」
元親「あぁ? そりゃそうだろ。お前等、どう見ても不自然な感じだからなぁ。こう、無視しあってる具合がな」
元就「猿。貴様、我を気安く呼ぶな」
佐助「またまた。もうナりさんはきついんだから〜」
元就「じろ」
佐助「ごーめんなさいって! でもナリさんだって思うでしょ? どう思うの、このおかしな意地張る2人をさ」
政宗「おい、誰が意地張ってるって―」
佐助「いいから、ちょっと黙ってて!」
元就「……まぁ確かに。餓鬼の喧嘩の域は出まいな」
政宗「………」←物凄く嫌そうな顔
幸村「………」←どことなく蒼白
佐助「そんなわけで。ね、ここらでお互い休戦協定って事で。そ、何もさ、最初からすっごい仲良しになれとは言わないから。普通〜から! 普通のクラスメイトって関係から始めましょうよ。駄目?」
幸村「………」
佐助「旦那」
幸村「………」
佐助「旦那ってば!」
幸村「なっ…何だ?」
佐助「旦那からも言いなって。独眼竜の旦那と仲良くなりたいんでしょ、本当は? 普通に話したいんだよね?」
幸村「あ……」←ちらりと政宗を見る
政宗「………」←眉をひそめたまま幸村を見返す
幸村「は…………話したい、で………ござる」
政宗「……お前」
佐助「エライッ! よく言った! んじゃ、次は独眼竜の旦那の番。真田の旦那と仲直りしてくれるよね?」
政宗「………」
佐助「独眼竜の旦那?」
政宗「……さあな」(くるりと踵を返す)
佐助「えっ…!? ちょっ…待ってよ旦那、何処行くのさ!」
政宗「るせェ。俺の家で何処へ行こうが俺の勝手だ。お前ら、それ食ったらさっさと帰れ」
佐助「それはないでしょ。真田の旦那の事は―」
政宗「だから煩ェってんだよ。……言っただろ。俺は至って普通にしてるぜ。別にそいつと喧嘩してるつもりもねえ。……普通でいろってんなら、普通でいてやるよ。《普通》のクラスメイトとしてな」
幸村「……!」
佐助「それってどういう―……って、行っちゃったよ。ったく、あの人も相当頑固だね…」



第27話「改めて…!」

―自室のベッドで仰向けになったまま、何やら物思いに耽る政宗―

小十郎「政宗様」
政宗「……何だ」
小十郎「あの者達は帰りました」
政宗「そうか」
小十郎「………」
政宗「……何だよ。まだ何か用か」
小十郎「いえ。まぁ客人も引き上げた事ですし。夕餉は何時頃になさいますか」
政宗「別に適当でいい。準備が出来たら呼べよ」
小十郎「そうですか。………しかし、政宗様」(部屋を出ようと後ろを向きかけて、しかしまた振り返る小十郎)
政宗「………」
小十郎「何故あの真田とは打ち合ってやらぬのですか」
政宗「あぁ? ……どうでもいいだろ」
小十郎「されど勝負を挑まれ背を向けるなど、いつもの政宗様らしくはありませんな」
政宗「煩ェな……。気に入らねーんだよ。んな相手にわざわざ時間割いてやるほど、俺は暇人じゃねえって事だ」
小十郎「気に入りませんか」
政宗「………」
小十郎「真田幸村は気に入らない男ですか」
政宗「小十郎。テメエは俺に喧嘩売ってんのか」
小十郎「……政宗様」(僅かに眉をひそめる小十郎)
政宗「チッ! あぁ〜、ったく悪かったよ! これ以上俺に当たられたくなかったらとっとと出てけ! 俺ァ、考え事の最中だ!」
小十郎「……承知致しました。では、この男を置いていきます」
政宗「は……?」
小十郎「夕餉の支度が整い次第、またお迎えに上がりますので」
政宗「おい、小十郎…?」

幸村「ま、政宗殿……」(小十郎が去った直後、ドアの前に立っていたらしい幸村がヌーボーと姿を現す)

政宗「わっ!」←かなり意表をつかれ、驚き起き上がる政宗
幸村「………」
政宗「テ、テメエ…。帰ったんじゃなかったのかよ…?」
幸村「帰ったのは元親殿達だけでござる…。某は……政宗殿に一言、申し上げたき事がありましたので…」
政宗「な……何だよ?」(不審気な目を向ける政宗)
幸村「………」(部屋の入口に立ち尽くしたまま俯いている幸村)
政宗「……言いたい事ってなぁ、何だ」
幸村「その……某、あの時…政宗殿を初めて怒らせてしまった時の事を…あの無礼を、お詫びしたい」
政宗「!」
幸村「政宗殿を愚弄しようと思ったわけでは…それだけは断じてありませぬ…。ですが某が己の力に慢心していた事は事実。某は……あの時、政宗殿と立ち合いをして己が負けるとは露ほども思わなかったのです」
政宗「……お前」
幸村「このような心根を我が師である御館様が聞いたなら、さぞ某をお怒りになるでしょう。否、某自身とてあの時の思い上がった発言は…穴があったら入りたい」
政宗「………」
幸村「ですから、あの時のご無礼はお侘び致します。この通り」(深々と頭を下げる幸村)
政宗「………」
幸村「そして今一度、改めて政宗殿に某との決闘をお願い致したい」
政宗「…決闘?」
幸村「そうでござる。元親殿や元就殿と同じように…某とも、一戦交えて頂きたい…!」
政宗「………」
幸村「そ、そして某と……某と、と、とと、ともだ、友……!」
政宗「あ?」(何を言われているのか分からず、途端怪訝そうな顔をする政宗)
幸村「〜〜ッ」(でもあと一歩が言えない)

―そして数秒後―

政宗「……分かった」
幸村「え!」
政宗「そこまで言うなら、いいぜ。やってやろうじゃねえか。真田幸村。アンタからの決闘、受けて立つぜ」
幸村「ほ、本当でござるか…!?」
政宗「ああ。その代わり、俺は本気でいくぜ?」
幸村「む、無論…!」
政宗「よぉし。外出な」(さっと立ち上がり、着ていた上着を脱ぎ捨てる政宗)
幸村「……おう!!」(頬を紅潮させて頷く幸村)

小十郎(……夕餉はもう少し後になりそうだな)←部屋の外で聞いていた



第28話「勝負が……」

―政宗宅・道場にて―

政宗「ニ槍使いかよ。……何だかな」
幸村「……? それが何か……」
政宗「いや。アンタにぴったりだと思っただけだ」
幸村「よく…分かりませんが…。某、幼き頃からお館様の師事の下、常に精進を重ねて参った。……これは自惚れではなく―……この槍では誰にも負けるつもりはござらん」
政宗「ハッ…。アンタ相当な負けず嫌いだな。まぁ、それは俺もだけど」
幸村「ん?! 政宗殿は…何故そのように剣を?」
政宗「安心しろ。最初は1本でやってやっから」
幸村「…二刀流…?」
政宗「見えねーのかよ、6本あるだろ。…―俺は六刀流だ」
幸村「は…?」
政宗「いくぜ真田幸村!? Are you ready!?」(言ったと同時に駆け寄る政宗)
幸村「な…ッ!」(意表をつかれつつもすかさず槍を構える幸村)

しかし。

???「ちょーっと、待ったあぁ―ッ!!」

政宗&幸村「「!?」」
???「こらこら。何をそんな目ん玉血走らせてんのかなぁ!? 駄目だよ、人生楽しく生きなきゃ!!」
政宗「……何だぁ……?」
幸村「ま、前田殿? 何故ここに?」
政宗「誰だよ?」
幸村「隣のクラスの前田慶次殿です。…政宗殿は知り合いでは…?」
政宗「俺が知るかよ。隣のクラスどころか、同じクラスの奴だって名前知らねえ奴いんのに」
幸村「政宗殿は知り合いがたくさんおられるので、てっきり前田殿とも…」
政宗「……おい。その恨めしそうな顔は何だ」
幸村「べ、別に……」(慌てて横を向く幸村)
慶次「ねえねえちょっと! そんでそんで俺の話っ!」
幸村「わっ」
政宗「何なんだよテメエは! 割って入ってくんじゃねえ! つか、テメエ誰だ! 人ん家勝手に入ってきてんじゃねーよッ!!」
慶次「誰って、今この真田幸村が紹介してくれただろう。俺は前田慶次! 好きな事は喧嘩と祭り! 趣味は恋に迷い悩む女の子達の助っ人をする事かなッ」
政宗「は…?」←物凄く胡散臭そう
幸村「恋…ッ」←その単語だけで無駄に赤面
慶次「独眼竜こと、伊達政宗! アンタの噂は隣のクラスの俺らんとこにもよくよく知れ渡ってるよ? 転校してからこっち、その甘いマスクと文武両道に秀でてるパーフェクトマンって事で、女の子達のハートを独り占めだもんなぁ!」
政宗「……俺は今忙しい。お前の用は何だ?」
慶次「うおっ!? んな怖い顔しないでくれよ。別に悪い話を持ってきたわけじゃないんだからさ。つまり、アンタの事を好いてる女の子達がうちのクラスにもいっぱいいてさ。ここは一つ、そん中からアンタの気に入った子とデートとかする気はない?」
幸村「デ! ででででえと!?」
慶次「そ。って、何で幸村の方が照れてんの。俺は政宗に言ってんの。まあ、幸村にもオイオイな、そっちの話持ってきてやるから。アンタはアンタで、初心な男の子が好きって年上のお姉さん達からラブコールきてっから」
幸村「な! ななな何を!? ま、前田殿、貴殿は前々から勉学をすべき学び舎で何をしているのだ!? いつもいつも、暇があればそのような話ばかり…!」
慶次「暇だからしてるんじゃなくて、それが俺のメインなんだって。学校は恋をするには絶好の場所だからな」
幸村「……ッ」←呆れて何も言えない。でもって照れてる
政宗「……用はそれだけか」
慶次「んん?」
政宗「さっさと出て行け。今は忙しいと言ったはずだぜ」
慶次「んー…。あぁ、そういや2人、何か物騒なもん握ってるもんなぁ。何? こんな時間から喧嘩でもおっ始めようっての? 審判してやろうか? 2人だけだと色々気詰まりするところもあるだろ?」
政宗「…出て行けっつってんだろうが…」
幸村「! ま、政宗殿…?」
慶次「……あら。もしかして真面目に怒ってる?」
政宗「怒っちゃいねえよ。むかついてんだよッ!!」(言いながら慶次に振り上げた剣を叩きつける政宗)

―2つの金属が高い音を立てて重なりあう―

慶次「……あ、あのさ。怒るもむかつくも同じじゃないかな」(ひきつった笑いを浮かべつつ、政宗の剣を己の大剣で受けとめている慶次)
政宗「よく止めたな」
慶次「手加減、感謝するよ。アンタの剣の腕は元親から聞いて知ってる。今度俺とも喧嘩してくれな」
政宗「フン…」(少しだけ笑いながら剣を引っ込める政宗)
慶次「けど、喧嘩の前に合コンしない!? 俺が可愛い子達きっちり揃えておくからさ! 政宗呼ぶと女の子達の集まりもいいと思うんだなぁ」
政宗「知るか。馴れ馴れしく呼んでんじゃねえ」(くるりと背を向けて道場を出て行く政宗。どうやらすっかり毒気を抜かれて戦う気をなくしたらしい)
慶次「えー、そうつれない事言わないで頼むよ。俺、今日中に連絡しなくちゃいけない子達がいっぱいいてさぁー!」(言いながら後をつける慶次)
幸村「………」

ぽっつーんと独り取り残されてしまった幸村……結局勝負はうやむやに。
慶次をすんごい悪者にしてしまいながら、次回へ続く(汗)。




つづく



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