第29話「数学」


―翌日。学校にて―

元親「おい、猿飛佐助」
佐助「何さ。てか、そのフルネーム呼びはそもそも何?」
元親「意味なんざねェよ。それより、そこの放心してる奴。幸村。結局昨日どうだったんだよ? 俺ら、わざわざ遠慮して先帰ったのに」
佐助「んー、結局失敗しちゃってねえ」(ちらりと幸村に視線をやるも、当の主はぼけーとしたまま微動だにしない。どこか違う世界に行ってしまっているらしい)
元親「んだよ、まぁだ仲直りできてねーのか? しょーがねえなあ、おい政宗!」
政宗「……んぁ?」←こちらも頬杖をついた状態でやや放心
元親「オメー、いい加減大人げねーぞ。さっさと折れてやれや!」
政宗「あぁ…? …また何バカ言ってんだこのバカは…」
元親「あんだぁ!? 俺のどっこがバカだ、どこが!? つか、バカバカ連呼すんじゃねえッ」
元就「ありとあらゆるところが莫迦であろう」
元親「うぐっ! も、元就、お前なぁ…(汗)」
佐助「あぁ、いやいや。何か今回悪かったのは隣のクラスのエロ男で…」

―おじゃああああああ!!! そこの不良ども〜!!!―

佐助「あん?」
元親「ああん?」
担任・おじゃる「さっきから! なぁにをぺちゃくちゃと雑談してるんでおじゃるぁ〜【怒】! 麿の授業が聞けないのでおじゃるかおじゃ〜!!」
佐助「はいはい、ごめんなさいっと」←素直に前を向いてシャーペンをくるりと回す佐助
元親「あぁ!? ハンッ! テメエのふざけた授業なんざまともに聞いてられるかってんだよ! つーかテメー、授業やってたのかよ!?」←確かに…
おじゃる「にゃ、にゃにおう!? ここ、この不良は、一番の不良でおじゃ! 担任の麿に向かっていつもいつも生意気な口をきくでおじゃ〜! 我慢出来んでおじゃ〜!」
元親「あぁ!? 何だぁ!? やんのかコラー!!」
おじゃる「ヒイッ! 怖いでおじゃる、いじめでおじゃる! 今流行りの学級崩壊でおじゃるおじゃ〜!!」(ササッと教壇の陰に隠れてヒーヒーと叫ぶ)
元親「チッ! うぜえな、あいつは…!」(イライラしながらどっかと再び椅子に腰を落ち着ける元親)
佐助「まぁまぁ。チカちゃんもそんなしょっちゅうキレてると血管切れますよっと」
元親「フン…知るか。あーもー寝る!」
おじゃる「ううう…。よくもよくも麿を愚弄しおって…! こうなったら、当ててやる! この中で1番むっずかしい問題を当ててやるでおじゃ〜」(メラメラ)
元親「あ?」(ジロリ)
おじゃる「ヒッ! よ、よおし……そちがその気なら……むむうっ! そこのチミイ! 真田幸村ッ! 次のこの問題の答えを言うでおじゃ〜!!」(ビシイッと大袈裟なアクションで幸村を指差すおじゃる)
佐助「はぁ…?」
幸村「………」←当てられた事に気づいていない。相変わらずボーっとしている
元親「ハ…ハアアァ!? ちょっと待て、何でそこで幸村を当てるんだよお前はぁッ!!」(ガタリと席を立って抗議するチカ)
おじゃる「ツーン!で、おじゃ! 知らんでおじゃ! 麿はセンセイでおじゃ! センセイの権力は絶対なんでおじゃ! 決して、そちがコワイから、仲間の真田の方を当てたわけじゃないんでおじゃ!」
佐助「本音バリバリ出てますけど…」
元親「てんめぇ……マジでぶっ飛ばされてえらしいなぁ…!」
おじゃる「おじゃ!? ちちち違うでおじゃ! ちゃんと真田にも恨みはあるんでおじゃ(焦)! な、何故なら真田は昨日の補習時、急な腹痛に見舞われてのたうち回っていた麿を見捨ててさっさと帰ったんでおじゃ! 冷たいでおじゃったおじゃ〜」
元親「あん…? 急な腹痛…?」
元就「……フン。猿。何かしたな」
佐助「俺サマは何も知りませーん」
幸村「………」
おじゃる「と、とにかくッ! 真田ァ! こりゃ! いい加減立つでおじゃ! 何を無視してるんでごじゃるおじゃ〜!!」
幸村「………」
おじゃる「おじゃ〜! 優等生まで麿を麿を無視してるでおじゃ〜【泣】。酷いでおじゃ〜おじゃおじゃ〜!!」←煩い

政宗「……おい」

幸村「え!?」←すぐさま反応
政宗「呼ばれてるぜ」
幸村「え!? え、な、何でござるか政宗殿…!? ……え、当てられ…!?」
おじゃる「呼んでるのはそっちじゃなあいッ! 麿でごじゃる【怒】!」
幸村「あ! あ、あぁ…。な、何でござろうか、担任殿…」
佐助(まったくねえ…独眼竜のこと、意識しまくりだし。やっぱ見てらんないわ)
おじゃる「この問題を解くでごじゃる! そちの大好きな数学の問題でごじゃるよ〜ほほほ!」
幸村「うぐっ! い、いつの間に授業が…! しかも某の1番の大敵、数学…!」
政宗「………」
おじゃる「ほほほ、ほれ解け、はよ解け。出来ねば今日こそ居残り特訓3時間の刑に処すでおじゃ〜」
幸村「え、ええと、そ、その…!」(オロオロと教科書を開くも、頭がパニック状態でとても考える余裕はないようだ)
元親「お、おい猿! お前答教えてやれよ!」
佐助「無理言わないで。俺サマもあの問題は分からなかったの。そもそもチカちゃんのせいでしょーが」
元親「な、何で俺のせいなんだよ!」
幸村「う、うう……」

―その時、コツンと白い消しゴムが幸村の机の上に転がってきた―

幸村「……? あ……」
おじゃる「ほれほれ早く答えよ〜。分からんのかおじゃ〜?」(パタパタと扇子を仰ぐ麿)
幸村「そ、その! その答えは……2(a + 1) でござる!」
おじゃる「お、おじゃ!?」(驚きでポロリと扇を落とす麿)
佐助「……へ?」
元親「あん??」
元就「……フン」
おじゃる「あ、あ、当たってるで……おじゃる……」
元親「幸村! テメエ、スゲーじゃねーかよー!!」
幸村「え…? い、いや、某は……そ、その……」(ちらちらと政宗の方を見るも、政宗は知らんフリで外を見ている)
佐助(うん…? 旦那が持ってるの、独眼竜の消しゴム…?)

こっそり答えを教えてくれた政宗。その意図や如何に!?



第30話「弁当」

―昼休み。屋上にて―

幸村「ま、政宗殿…。ここにおられたのか」
政宗「………」(独りごろんと寝転んでいる政宗)
幸村「あ…あの…その。みっ…、皆、探していたでござるよ。元親殿や元就殿も…!」
政宗「アンタだろ」
幸村「え」
政宗「探していたのは、アンタだろ?」(目を瞑ったままどうでも良い事のように答える)
幸村「……っ」
政宗「何の用だ?」
幸村「そ、その……。先ほどは……かたじけない。助かったでござる」
政宗「………」
幸村「こ、これを…お返しするでござる」(近づいてぐっと握り締めていた消しゴムを政宗に見せる)
政宗「………」
幸村「何故……助けてくれたのでござるか?」
政宗「助ける?」
幸村「で、ですから…! 数学の時間、この消しゴムに答えを書いて某に投げてくれたではござらんかっ。そ、そのお陰で……某、居残りをさせられずに済みました…」
政宗「別にアンタの為じゃねェよ」
幸村「え…」
政宗「あのセンセイが凄ェ煩かったからよ。アンタが答えれば静かになると思って、な」
幸村「な……」
政宗「つまりは俺の為にやった事だ。別に礼なんかいらねェし…こんな気紛れ、早々あるもんじゃねーから。次を期待するなよ?」
幸村「そ…そのような事、当たり前でござる! 本来学問とは己の為に行うもので、誰かに頼っていては―」
政宗「だよな? つまりは、俺はアンタの為にならない事をしたってこった。だから尚の事、礼なんか必要ねーんだよ」
幸村「う…」
政宗「話は終わりだろ? もう行けよ。それこそあの佐助の奴がアンタが何処へ行ったのかって探してるんじゃねェ? ホント、あいつって呆れる程の保護者体質な」
幸村「さ…佐助は……幼い頃から一緒でしたから……」
政宗「ガキん頃から何でもしてもらってたってわけだ」
幸村「むっ! そ、そのような事…っ!」
政宗「別にバカにしてないからな。俺だって似たようなもんだぜ。いつも小十郎の奴に世話掛けてるし」
幸村「あ…片倉殿…?」
政宗「あぁ。あいつは俺の家族みたいなもんだからな」
幸村(そういえば……政宗殿のご自宅でご家族の姿をお見かけした事は…)
政宗「……なぁ。それで、アンタはいつまで俺の目の前で立ち尽くしてる気だよ?」
幸村「あ…」
政宗「もう行けっつったろ。…たく、あーもう、目が冴えた。んな風に上から見下ろされ続けたら、寝られるもんも寝られねーよ」
幸村「か、かたじけない…。某は…」
政宗「アンタ、飯は?」
幸村「え…っ。あ、まだでござるが…。政宗殿をお探ししていたので……」
政宗「じゃあアンタが昼を抜いちまったら俺のせいになるわけか。全く夢見が悪ィ。……ほら、これ食えよ」
幸村「………これは?」(政宗が鞄から出した物に目を見張る)
政宗「見れば分かるだろ。弁当だよ弁当。一眠りしてから食おうとも思ってたが、どうせ食欲ねえしな。もう帰るし」
幸村「そ、早退するんでござるか? 何故……」
政宗「いちいち煩ェな。………気分が悪いんだよ」
幸村「え、ええ…っ!? き、気分が…!? ね、熱は!? 腹痛!? それとも、頭痛とか…!?」
政宗「………違う。煩い。とにかく座れ」
幸村「は、はい…」(シュンとして言う通りその場に正座)
政宗「………」(じいと幸村を見つめる政宗)
幸村「あ、あの……?」(見つめられてたちまち赤面する幸村)
政宗「……チッ。ホント、訳分かんねェ。色々考えてたら頭が痛くなってきやがった」(がりがりと黒髪を片手でまさぐる政宗。どこかイラついているようだ)
幸村「や、やはり、頭痛が! か、帰られる前に保健室で熱を計っていっては…!?」
政宗「何でもねーよ。そういう頭痛じゃねえ。いいから、これ食えって言ってんだろ」(言いながら乱暴に幸村へ弁当箱を押し付ける政宗)
幸村「し、しかし…!(ぐうううぅうう)」←腹の虫が鳴った
政宗「………」(きょとん)
幸村「あ……」(カーッとますます顔を赤くする幸村)
政宗「……遠慮するなって。残したら勿体ねーし。別にそれほど不味くはないと思うぜ?」
幸村「……こ、これ……片倉殿がこしらえたんでござるか…?」
政宗「いや。俺」
幸村「………」
政宗「……?」
幸村「……え」
政宗「は?」

―暫し、一瞬の沈黙―

幸村「え、えええええええ!?」(弁当をしっかと持ったまま立ち上がり叫ぶ幸村)
政宗「……ッ!?」(驚きで逆に声が出ない)
幸村「ま、政宗殿の、政宗殿の…! 手料理…!(あの時以来でござる!怒らせてしまって、口をきいてくれなくなった、あの時以来…!)」
政宗「何だよ、いらないなら―」
幸村「いるでござる! 絶対に食べるでござる! 遠慮なく、頂いてしまうでござるッ!!」(両手で抱え込んだまま政宗に向かって力一杯言う幸村)
政宗「そ、そうかよ…?」
幸村「……!!」(キラキラ感動モード)
政宗「……本ッ当、理解不能…ッ!」(やはりイライラしたように吐き捨てる政宗)



第31話「弁当2」

幸村「凄く美味いでござる(ばくばくもくもく)!!」←政宗の弁当ほうばり中
政宗「そう…か。良かったな…」←ちょっと呆れ気味
幸村「政宗殿は料理の天才でござるなぁ! このように美味な物を作ってしまわれるなど! 某など、米をとぐのも一苦労で…」
政宗「そりゃやべえな…。しかし、よっぽど腹が減ってたんだな」
幸村「違うでござる! 政宗殿の弁当が美味いから食が進むのでござるよッ!!」
政宗「わ…分かったから、米粒飛ばしてんじゃねーよ(汗)。行儀悪ィな…」
幸村「は…っ。し、失礼した…!」(赤面)
政宗「………」
幸村「……っ」←何となく恥ずかしいので、尚ばくばくもりもり食べる
政宗「……なぁ」
幸村「ひゃいっ!?」
政宗「な…っ。何だよ…!」
幸村「い、いや! そ、その…政宗殿が突然声を出されるから…っ」
政宗「そ、そうか? 悪い…」
幸村「い、いえ…」
政宗「………」
幸村「そ…それで、何でござるか?」
政宗「ん……あぁ。昨日の、な」
幸村「昨日の…?」
政宗「悪かったな。手合わせ、何かうやむやになっちまって」
幸村「あ…」
政宗「何かスゲーやる気を削がれてよ…。あの前田慶次…って言ったか? ノーテンキな奴だよな。あの軽い空気に毒気抜かれたって言うかな……どうにも、気分じゃなくなっちまって」
幸村「………」
政宗「アンタ置いて、道場出ちまって」
幸村「別に……気にしてないでござるよ!」
政宗「………」
幸村「政宗殿が悪いわけではござらん! 前田殿が無神経だったのでござる! 気持ちは分かります!」
政宗「気持ち…?」
幸村「勝負をしようという直前に、あのような形で出鼻を挫かれては堪りません。それは某とて同じ事。あの場はあれで打ち止めにするより他なかった」
政宗「……だが俺はアンタを―」
幸村「気にしてないでござる! 全然大丈夫でござるよ!」
政宗「………」
幸村「ま…政宗殿がそのように責任を感じずとも…」
政宗「……いや、やっぱり俺が悪かった。どうかしてたんだな。俺は最近、本当にどうかしてんだよ」
幸村「政宗殿…?」
政宗「こんなのはらしくねーってのは分かってるつもりだ。けど、どうにもアンタを前にすると…調子が狂うし、承知したあの勝負も……」
幸村「え…?」
政宗「……事によると、俺はあいつが来なくても、どのみちアンタとまともに打ち合う事は出来なかったかもしれねェ」
幸村「な…何故でござるか…?」
政宗「分からねェ。ただ…そういうモードでなかったのは確かだ」
幸村「そ、それは…」
政宗「……?」
幸村「それはやはり…。やはり、某の事が気に入らないからでござろうか…?」
政宗「は……?」
幸村「気に入らない人間と太刀を合わせるなど、某とて御免だと思います…。けれど某があまりにしつこいので、政宗殿も仕方なく―」←すっかりションボリモード幸
政宗「ば…っ。バカ、そんなんじゃねェ!」
幸村「しかしっ! これまでずっと、政宗殿は某を見ないようにしておられた! そ、某が働いた無礼のせいで…政宗殿を不快に…!」
政宗「幸―……」
幸村「やはり政宗殿は某の事を許せないとお思いだろうか!?」
政宗「幸村」
幸村「そう思われるのももっともでござる。まだ1度も手合わせをしていない相手に、手を抜くからなどと言われて―」
政宗「幸村! いいから、ちょっと待て。聞け。あのな、普通に考えろよ。許せない相手に弁当やるか?」
幸村「政宗殿は優しいのです! 数学の時が良い証拠です! 弁当の事とて、例え憎い相手でも、飢え死にしそうな者を前にしたら飯を差し出さずにはおれない性質なのでしょう!?」
政宗「あ、あのなぁ!? アンタ、今別に飢え死にしそうなラインにまではいってねーだろ!?」
幸村「ですが! 某とて、やはり無礼者とまともに打ち合おうなどとは―!」
政宗「Shut up! 煩ェ! アンタは、無礼者なんかじゃねーだろッ!!」
幸村「……え」
政宗「アンタは……ちゃんとした奴じゃねえかよ…。周りの奴にも信頼されてるし…真面目で……嘘のつけない男だ」
幸村「ま…政宗殿…?」
政宗「違うか?」
幸村「そ……それは……某には……」
政宗「……そうだな。そう言われても、自分の事は分からないもんだよな。けど」

―不意に幸村の腕をぐいと掴み、自らの顔近くにまで引き寄せる政宗―

幸村「ま…政…ッ」
政宗「俺がそう思うんだから、そうなんだよ。……真田幸村。アンタは無礼者なんかじゃない。勿論、嫌な奴でもねェ」
幸村「………ッ」
政宗「……俺の誤解なんだな。途中で薄々感じてはいたんだが…今さら後にも引けなくてよ。―……悪かった」
幸村「………」
政宗「お…おい? 幸村…?」
幸村「……う……」(じわり)←泣きそう
政宗「おい幸村ッ!? 待っ…んな事で、泣―…!」
幸村「う、う、うぅ〜ッ!!!!」←でも何とか泣き出さないように堪えてるの図
政宗「……ッ!!」




つづく



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