第32話「その夜、自宅にメール音が」
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時間は経過して、その夜。真田幸村の屋敷。 佐助「良かったじゃない、仲直りできて」←幸村の自室入口にて腕組をしたまま立ち尽くす佐助 幸村「………」←枕を抱っこしたままうつ伏せで動かない幸村 佐助「だーんーな? 真田の旦那ってば。なのに、どうしたってのよ、帰ってくるなりそんな着替えもしないまま寝ちゃって。せめて着替えてご飯食べてくれない?」 幸村「……食欲がない」 佐助「ちゃんと食べないと、今日勝手に午後の授業出ないで早退した事、お館様に言っちゃうよ?」 幸村「な…っ。さ、佐助!!」←がばりと起き上がる幸村。仄かに赤面している。 佐助「俺サマだって一応心配してたんだからね? 昼休み、独眼竜を探したままどっか行っちゃってサ。気づいたら勝手に帰ってるし? 何があったのかと思えば、『政宗殿と和解した』ってしか教えてくれないし」 幸村「う……」(項垂れ) 佐助「だから、良かったねって言ってるんじゃない。それなのに、そんな格好でずーっと動かないで寝てるし。何があったのさ、一体」 幸村「べ…別に……何も……」 佐助「独眼竜と仲直りしたってのは本当なの?」 幸村「ほ、本当だ。そんな事、嘘をついてどうする!」 佐助「でも、何か態度が変だからさ」 幸村「……変、ではない。た、ただ……」 佐助「ただ?」 幸村「お…思わず気が緩んだとはいえ、あのような…っ。あのような失態を政宗殿に見られて…その…。あ、穴があったら入りたいっ!!」←再びがばりと枕を抱えてうつ伏せになる幸村。耳まで真っ赤。 佐助「んー…? 何よ失態って?」 幸村「煩い煩い! 幾らお前でも、これ以上は一言も喋らなんからなっ! いい加減出て行け!」 佐助「そもそもお部屋には一歩も入ってないでしょーが。ドアの前で寸止めしてますって」 幸村「同じ事だ! お、お前は、最近人のプ、プ、プラ、プラ…ッ」 佐助「プライバシー」 幸村「それだっ! それを侵し過ぎるんだ! お節介が過ぎるぞ!」 佐助「ふんだ、そもそも俺サマのそういうののお陰で、独眼竜とだって修復の道に向かえたんでしょうがっ。ちっとは感謝してよね! そんで、お給金上げて!」 幸村「とにかく、出て行け! 飯は後で食う!」 佐助「はーあ。どうせ、独眼竜と仲直り出来た嬉しさで感極まって泣いちゃった…とかなんでしょ?」 幸村「!!?」 佐助「独眼竜の旦那も、さぞかしびっくりしただろーねえ。さすがに相手が泣くとは思わないもんねえ?」 幸村「さ、佐助……お前……見ていたのかッ!?」←ガバリと起き上がって枕を投げつける幸村 佐助「ほいっと、ナイスキャッチ! 見てないよ。そうかなあって思っただけ」←余裕の体で枕を受け留め、肩を竦める佐助 幸村「う…!」 佐助「真田の旦那の行動なんて、見てなくても容易に想像できますよ。アンタ、単純だからね」 幸村「佐助〜!!」 佐助「まあまあ、今さらそんな己の行為を恥じ入っても、今さらしょーがないでショ。それに、やっぱりどうでもいいじゃない。仲直りできたコト、これが1番ですって」 幸村「ま…まあ…」 佐助「で? 昼の授業にも出ないで帰ってきたのは、一緒に仲良く下校したから? 独眼竜の旦那も出てなかったからさ、午後の授業」 幸村「そ、そうなのだ…。政宗殿は昼の頃、具合が悪かったらしく」 佐助「ん?」 幸村「別れ際はもう大丈夫だと仰られていたが…。心配だ…」 佐助「ふーん? 具合が、ねえ?」 幸村「………」 佐助「……で?」 幸村「ん…?」 佐助「もう1つの、寝込んでた理由は?」 幸村「も、もう1つとは…!?」(ぎくり) 佐助「なーんか、他にもまだ隠してる事があるような気がしてさー」 幸村「な、何を、別に隠し事など…っ」 ―ユキムラアァ―ッ!! メールガナッテオルゾォ―ッ!!― 幸村「はっ!?」(慌てて立ち上がり、意味もなくきょろきょろする幸村) 佐助「あ。旦那の携帯。珍しいねー、メールが来るなんて。普段は持ってても宝の持ち腐れなのに。っていうか、使い方知ってる?」 幸村「ば、バカにするな、それくらい知っているッ!!」(元々傍に置いていた携帯を何度も取り落としながら手にする幸村) 佐助「……どうでもいいけど、そのメール着信音。幾らお館様オリジナルの音声ゲットできたからって、ちょっとねえ…いい加減変えたら?」 幸村「……っ!」←聞いてない 佐助「…? 旦那?」 幸村(あ、明日……11時…!)←食い入るように携帯を見つめる幸村 佐助「どうしたの? デートの時間、向こうさんが言ってきたの?」 幸村「なっ!? そそそそのようなものではないッ! 政宗殿が、某を誘って下さっただけだ! ……あ!!!」←思い切り「しまった」という顔 佐助(ホント、分かりやすいんだから…)←半ば呆れを通り越して苦笑気味 |
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第33話「初デート」
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翌日。よく晴れた日和。 幸村「そわそわ…うろうろ……」←落ち着かず、あちこちに視線をやっている 政宗「幸村」 幸村「わっ! ま、政宗殿、いつからそこに…!?」(背後を振り返ってぎょっとする幸村) 政宗「たった今だよ。悪いな。待たせたか」 幸村「い、いえ! 某が早く来てしまっただけで…。ま、まだ約束の時間にはなっておりませんし! 政宗殿は時間に正確ですな!」 政宗「アンタもな」(ちらと時計を見やってから何気なく辺りを見回す) 幸村「あ、あの。ところで政宗殿…」 政宗「あ?」 幸村「その…。今日は、何故某を…? そ、それにこの待ち合わせ場所は…ちょっと…(汗)」 2人が待ち合わせた場所は鬱蒼とした茂みが辺りに広がる、昼でも暗い古びた寺社の鳥居前。 近所の子どもらの肝試しスポットとして、夜にのみ時々人の入りがある(しかし昼間は誰も来ない)。 幸村「……地元の者でもあまり近寄らぬ寂れた寺社です。住職も数年前に亡くなったきり空き寺ですし。よく越されたばかりの政宗殿がこのような場所を……」 政宗「俺もこういう場所とは知らなかった。スゲー雰囲気だな」 幸村「は…?」 政宗「元親の奴がな」 幸村「も、元親殿が!?」 政宗「ああ。俺はまだこの辺りの事に詳しくねえからな、どっか面白い所あるかって訊いたら、『名所巡りならまずここにしろ』ってよ。…ま、別に期待はしてなかったが」 幸村「な、何という悪ふざけを…! 地元の名跡地巡りならばもっとふさわしい場所が幾つもあります! 某が案内を…!」 政宗「そうだな。じゃ、まずはここから頼む」 幸村「は? し、しかしここは……」 政宗「俺、寺とか見るの結構好きだからよ。行こうぜ」(言って先にどんどんと石階段を上って行く政宗) 幸村「え? は、はいっ…」(慌てて政宗の後を追う幸村) 境内の中も薄暗い。すっかり荒れ果てた石畳は緑の苔が生え広がり、辺りを覆う木々も陽の光を遮断している。 幸村「暫く見ないうちに荒れきってるでござる…(汗)」 政宗「この寺には仏さんはいないんだろ?」(境内をぐるりと見て回って戻ってきた政宗が尋ねる) 幸村「え? あ、は、はい(政宗殿、見るのが早いな…)。数年前に住職が病に伏した折、もうこの寺は後継がいないからと、お預かりしていた仏様は皆近隣の姉妹寺へお移り願ったと聞きました」 政宗「そうか。そりゃ良かった」 幸村「……!」 政宗「こんな暗い所に置き去りじゃ、さすがに可哀想だろ?」 幸村「………」 政宗「ん…どうした?」 幸村「い、いえ…。そうで…ござるな……」 政宗「だろ」(初めてニッとした笑みを見せる政宗) 幸村「! は、はい…っ」←意図せず赤面の幸村 政宗「なあ」 幸村「はいっ!?」 政宗「…何だよ変な声出しやがって。この後どうする?」 幸村「は…。あ、いえ、それは…。某は、政宗殿が行かれたいと思われる所へならば、何処でも…」 政宗「そうだな…。それじゃ今度は、アンタのお気に入りスポットってやつが見たいな」 幸村「某の…?」 政宗「ああ。別に何処でも構わないぜ。俺は元々何の考えもなかったし、な」 幸村「そ、そうでござるか…っ。で、では何処が宜しいでしょうな! 甲斐は素晴らしい土地故、紹介したい場所はたくさんあるのですが、ああ、それならオススメの団子屋が―」 政宗「……幸村」 幸村「は?」 政宗「……俺はきっと、アンタの事が知りたいんだな」 幸村「え?」 政宗「分かんねーけど。多分、な」 幸村「ま……政宗、殿?」 政宗「さっき、アンタが先に待っててくれたのを見た時……単純に嬉しかった。やっぱり俺は頭がおかしくなってるらしい」 幸村「な、何がおかしいのでござるか?」 政宗「ん? 分かんねーよ。けど、多分…俺はアンタと、ずっとこうして歩きたかった。心霊スポットだろうが何だろうが全然構わねーぜ。ははっ。そういうのも、嫌いじゃねーしな」 幸村「政宗殿…」 政宗「あ、アンタは嫌だったか?」 幸村「い! いえ! そのような事は! 決して! 某も政宗殿とここに来られてとても嬉しいでござる! ここで良かったでござるよ! その、人もおりませんし、たくさん…政宗殿と話が出来るでござる! 政宗殿の事もまた1つ知る事が出来ましたし!」 政宗「俺の事?」 幸村「はいっ。元々知っていた事ではござったが! しかし、政宗殿はやっぱりとてもお優しい方だという事が分かりました!」 政宗「何だそりゃ。俺は別に優しくなんかねーよ」 幸村「いいやっ! とても優しいでござるよ! 某は、そんな政宗殿が大好きでござる!」 政宗「は?」 幸村「え? ……って、うわああああ! い、いやっ、その、つまり、そのっ! い、い、今のは…【焦】! その、何というか、言葉のアヤというかっ!!」←顔面茹蛸状態 政宗「……いや。別にいいんだけどよ……」(困ったように俯きがちに髪の毛をまさぐる政宗) 幸村「あわ、あわわわ…いや、某は、ただ…っ」←あたふた 政宗「だから別にいいって。俺も幸村、アンタの事は嫌いじゃねえし。……むしろ、好きだし」 幸村「へ……」 政宗「全く…くだらねェ事で喧嘩しちまったよな、俺たち。けど、良かったぜ。アンタと仲直り出来て、な」 幸村「………」 政宗「色々悪かったな、幸村」 幸村「……う」 政宗「! お、おい、ちょっと待て、お前、また…っ」 幸村「う、ううううぅ、うう、うぅぅぅ〜!!!」(立ったまままたボロボロと涙と鼻水を流し始める幸村) 政宗「だ、だから、お前は…! こら、んなトコで泣くなって【焦】!!」←今度は政宗があたふた 佐助(う〜〜〜ん。何なんだかなぁ、この人たち……【呆】) |
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つづく |