第9話「誤解」

幸村「政宗殿…」
政宗「ん? どうした。飯…口にあわなかったか?」
幸村「そっ! そうではありませぬ! とんでもないッ! どれもこれも美味なものばかり! 政宗殿は本当に料理の腕が良いでござるな!」
政宗「そっか、そんなら良かったぜ。急に手ェ止めて深刻な顔するから何かと思ったろ」
幸村「す、すみませぬ。い、いえ…本当に宜しいのかと…。昨日も夕食を馳走になったというのに」
政宗「何だそんな事かよ。いいに決まってんだろ? 俺が誘ってんだぜ」
幸村「そ、それはそうですが。そ、そのう……」
政宗「? 何だ?」
幸村「じ、実は某っ。政宗殿に申し上げたき議が!」
政宗「……ん? 何だよそんな改まって?」
幸村「そ、そのう……某…と…け……決闘……」←ものすっごい小声
政宗「は? 何だって?」
幸村「ですからッ! ―け、」
政宗「け?」
幸村「………っとう(汗)。(ま、政宗殿が真っ直ぐこちらを見ていると…動悸がッ…)」
政宗「は? トウ? 一体何言ってんだ、全然分かんねェ」
幸村「〜〜〜!」
政宗「はっきり言えって。それにアンタ顔赤いぜ? 大丈夫か、熱でもあんじゃねーのか?」
幸村「な、何でもないでござる!」
政宗「そうか? やっぱ師匠との無茶な修行ってやつが響いてんじゃねえの。あ、今夜どうする。泊まってくか」
幸村「と、泊まる!?」
政宗「ああ。部屋余りまくってっからさ。確か余分の布団もあったと思うぜ? 今から帰るのも億劫だろ?」
幸村「それは駄目でござる!」
政宗「は? 何で?」
幸村「ま、まだ友達になっていないのに、そんな、自宅に泊まるなど…!」
政宗「……何だって?」
幸村「はっ!」(慌てて口を塞ぐ)
政宗「……俺はアンタとはダチになった気でいたんだが。アンタは違ったのかい?」
幸村「えっ! い、いえ…それは…っ。た、ただ、我が武田流の―…」
政宗「……ち。何だ、浮かれてたのは俺だけらしいな? アンタには迷惑だってかい?」
幸村「え…政宗、殿?」
政宗「俺はアンタとは気が合いそうだと思ってたんだがな。どうやら俺の一方的な思い込みだったようだ。こういうの、迷惑だって言いたかったんだろ」
幸村「ち、違いますッ! ただ、ただ某は、政宗殿と決闘を―!」
政宗「………は?」
幸村「某と戦って下されっ!」
政宗「………」
幸村「闘っ…! そ、その……某も……少しは手を抜きます故……」
政宗「What!? 一体何言ってんだ、お前!」
幸村「えっ…い、いや! と、とにかく、そうでなければ、貴公と友達にはなれないのでござる!」
政宗「……ったく。訳分かンねェよ。つまり何か? アンタ、俺の事をぶちのめしたいのか。けど、それなりには手を抜いてやるって?」
幸村「そ………」
政宗「はっ…スゲー失礼。俺も舐められたもんだぜ」
幸村「ま…政宗殿…?」
政宗「出てけ」
幸村「…ッ!」
政宗「俺が悪かった、会ったばかりのアンタに色々煩くしたな。もう関わらねーよ。アンタもここには来るなよ」(ガタリと席を立って先にその場を去る政宗)
幸村「………!」(ボー然)



第10話「闘いたくない」


佐助「…旦那が口下手なのは知ってたけどサ。まさかそこまでとは」
幸村「煩い…ッ」(目を真っ赤にしながらクッション持ってソファに倒れ込む幸村)
佐助「泣いたってしょーがないじゃん、そうなっちゃったもんは」
幸村「煩い佐助! 俺は泣いてなどいない!」
佐助「ほぼ半泣きじゃん」
幸村「佐助!」
佐助「まーったく。まあ、こんなくだらない誤解すぐ解けるって。旦那がちゃんと【武田流友情の証】ってやつの説明をサ、あの人にすれば済む話なんだから」
幸村「……き…ない、のだ」
佐助「は?」
幸村「何故かッ。政宗殿の前でだと、うまく言葉が出てこない!」
佐助「……はあ。それって何故なんだろうねえ?」
幸村「分からん。そ、それに…」
佐助「それに?」
幸村「俺は…その、決闘自体に躊躇いがあるのかもしれん…」
佐助「戦バカの旦那が? まさか!」
幸村「バ、バカとは何だ! だが……自分でも、よく分からん。ただ多分…仮に政宗殿に決闘の話をして、それを了承してもらっても……俺は、政宗殿を倒したくない」
佐助「ハハ。自惚れ〜。はじめっから勝つの前提で悩んでるんだ? 向こうさんだって強いかもしれないじゃない」
幸村「バカを言うな。お館様をお支えする真田隊隊長として、そのような間違いは万に一つもない! あってはならない!」
佐助「ふうん。で、何であの旦那に勝ちたくないの?」
幸村「……分からん。何もかもわからん…! 政宗殿の事を考えると〜!」(うがーと呻いてクッションに再び顔をうずめる幸村)


佐助(どうしようもないオニブさんだわ…。ま、これが初恋じゃ、無理もないのかな?)




つづく



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