「雨」 〜本日の訪問客・御門晴明〜 |
御門「お邪魔しますよ、龍麻さん」 龍麻「あ、御門」 御門「……ひどい有様ですね。何事ですか」(散らかった部屋を見渡して呆れたように) 龍麻「あ〜昨日、コスモの連中がご飯作ってくれるってなってさ…。何だか鍋一つやるのに大騒ぎで、気づいたらこんなんなってたんだよ」 御門「まったく。ゲームも出しっぱなしですね。少しは片付けたらどうですか」 龍麻「え、ヤだよ。だってこれは随時やるんだから。いいんだよ、だしっぱでも」 御門「芙蓉から聞きましたよ。阿師谷のバカ息子もここへ来たそうですね」 龍麻「あ、そうそう。アイツすごいんだよ、式神全種類コンプリートだぜ? ちょっと尊敬した。あ、それと芙蓉は無事に帰ったんだな。俺、駅まで送ってけば良かったかなって後でちょっと思ってさ」 御門「そんな気遣いは無用です。芙蓉こそ貴方をここまで送る事が使命だったのですから」 龍麻「まあ、そうだったのかもしれないけど。でも外こんな暗いしさ。芙蓉も女の子なんだし」 御門「芙蓉は私の式神ですよ」 龍麻「分かってるよ。でも俺の中では女の子なの」 御門「……………」 龍麻「それはともかく。今日は御門なんだね。御門も俺を叱りに来たの?」 御門「……さあ、どうでしょうね」 龍麻「あ、その顔。もう既に怒っているっぽい」 御門「そう思いますか」 龍麻「思うね。御門がそういう顔をして黙っている時は大抵俺にむかついてんだ」 御門「これは心外な。私は貴方に腹を立てた事など一度もありませんよ」 龍麻「しれっとそんな嘘つくなよー。余計怖いだろ」(実に嫌そうな顔をする龍麻) 御門「……………」 龍麻「……ほら。また黙り込んで」 御門「……ああ。すみません、少し考え事をしていました」 龍麻「何? 俺のこと?」 御門「ええ、まあ……。そうですね」 龍麻「……………」 御門「……………」 龍麻「ヘンなの。御門、何か言いたい事があるんじゃないのかよ? 黙ってないで何か言ったら?」 御門「……そうですね」 龍麻「そうですね、じゃないよ。何呆けてるんだよ? 何か今日の御門…本当、おかしいぞ」 御門「そんな事は私とて分かっています。貴方に言われる筋合いはありません」 龍麻「うっ…。ま、まあそういう口をきくのが普段の御門だ。それで? 話を元に戻すけど、俺に言いたい事があるなら言ってよ」 御門「忘れました」 龍麻「は?」 御門「ですから、忘れたと言っているのです」 龍麻「な、何…?」 御門「確かに私は龍麻さん、貴方の言う通り、貴方に何かを言う為にここへ来たのです。多忙な身を押してわざわざこの雨の中1人でね」 龍麻「そ、それはどうもご苦労様です」 御門「ですが、何だか貴方の顔を見たら、言いたい事や考えていた事が全部どこかへ行ってしまいました」 龍麻「何で……」 御門「さあ。ですが、どうせその言おうと思っていた事とやらも大した事ではないのでしょう」 龍麻「ええ…?」 御門「忘れてしまうくらいの事なのですから」 龍麻「ま、まあ…そうなのかもしれないけどね…」 御門「それよりも龍麻さん、身体の具合はどうなのです」 龍麻「え? 身体? 身体は何ともないよ。よくみんなそういう事心配してくれるけどさ、俺、元々健康体だもん。自分が病気だって意識もそもそもないしね」 御門「そうですか、それは何よりです。旅先では何が起きるか分かりませんからね。今から十分鍛えておく必要があると思いますよ」 龍麻「ああ、うん…。それは分かっているよ」 御門「……………」 龍麻「俺がちゃんとしないと…失くした心ってやつも取り返せないもんな」 御門「龍麻さん」 龍麻「ん…?」 御門「心とは、そもそも取り返すものなのでしょうか」 龍麻「え…?」 御門「失ったものを無理やり元に戻そうとしても、そこには必ず歪が生じますよ」 龍麻「……………」 御門「もっとも…私ははなから信じていませんけれどね。貴方が心を失くしたなどという事は」 龍麻「……失くしたよ」 御門「……………」 龍麻「俺、みんなの事も東京の事も、何とも思っていないもん。もうどうでもいいって思っているもん」 御門「そうですか」 龍麻「そ…そうですかって! 何でそんなフツーに平然として返すんだよッ! 俺、とんでもない事言ってるだろ! ちょっとは怒ったら!? 何だよ、いつもいつも何にも感じないみたいに」 御門「そう見えますか」 龍麻「ああ、見えるよ! 御門はいっつもそうだ。1人でいつも冷静で迷いがなくて。いつもいつも前だけ向いて歩いていられている! …そんな奴に、俺のこの気持ちなんて分からないよ…ッ!」 御門「………随分な言われようだ」 龍麻「ふん! むかついたんなら帰れば? 俺は全然構わないよ! そしたらゲームするしさ!」 御門「龍麻さん」 龍麻「何っ?」 御門「貴方はそうやって故意に私を怒らせようと、怒らせたいと思っているのかもしれませんが…」 龍麻「な、何言ってるんだよ、俺は別に―ッ」 御門「残念ながらとてもそんな気持ちにはなれませんよ。無理をしてご自分を殺そうとしている貴方が…私は愛しくて仕方がない」 龍麻「………ッ!」 御門「私が貴方に何を言いに来たのか…忘れたと言いましたね。それでも、こうして貴方と向かい合っていると…それだけでも、ここに来た価値は十分あったと思えます。そう思えるのです。……もっと早くに伺いたかった」 龍麻「……な、何だよ、それ……。俺…俺は分かんないよ、そんな事言われても…」 御門「いいのです、貴方は私の事など分からなくとも。貴方はご自分の事だけ考えていれば宜しいのです。私の事など考える必要はないのですよ」 以下、次号… |