「雨」
〜本日の訪問客・舞園さやか〜


テレビのアナウンサー「次のニュースです」

龍麻「ふわあ…さすがに徹夜でゲームは目が痛い…。喉も渇いたし、茶でも飲むか」(ゲームの電源を切り、傍にあったペットボトルに手を伸ばす龍麻)
テレビのアナウンサー「現在日本芸能界でNo.1とされるアイドル歌手の舞園さやかさん(16)が昨夜未明、歌番組の収録後、突然一枚の書き置きを残して姿を消してしまったという事が、一部芸能記者の話から判明致しました」
龍麻「ぶっ!?」
テレビのアナウンサー「詳しい事情は未だはっきりしておりませんが、行き先なども掴めていないという事から、舞園さんが所属する事務所では警察への捜索願いも考えていると…」
龍麻「さ、さやかちゃんが行方不明…っ!? だ、大事件じゃないか…ッ!」
テレビアナウンサー「……また関係者の話によると、舞園さんは毎日の多忙なスケジュールに心身共に疲れているとこぼす事もあり、舞園さんが所属する事務所では、こういった件も含めて本日緊急記者会見を都内某所で開く予定だと言う事です…」
龍麻「……す、すげえ。記者だらけ」(さやかの所属事務所付近を映した様子を見て)

さやか「あれだけいて私と龍麻さんの密会に気づかないなんて、情けなさ過ぎですよね」
龍麻「ん……?」(ふと自分の横に視線をやる龍麻)

さやか「おはようございますッ、龍麻さん!」(すとんと正座し、龍麻の横で微笑むさやか)
龍麻「……………」
さやか「すがすがしい朝ですねッ! 外、雨降っていて暗いですけど♪」
龍麻「……………」
さやか「タクシーでここまで来たんです。でも誰も私の事気づかないんですよ? さやかちょっとショック」

龍麻「さ、さやかちゃん!!」
さやか「はいッ!」(元気良く笑顔全開で)
龍麻「はい、じゃないよ…ッ! な、何してんだよ、こんな所で…ッ!」
さやか「何って…? 龍麻さんに会いに来たんですけど?

龍麻「だ、だから! そんな事いきなり勝手にしちゃ駄目じゃないか! ほ、ほらほらテレビ…って、もう終わっちゃったか! でも朝のニュースから大騒ぎだ! アイドル歌手、舞園さやかが謎の失踪って!!」
さやか「失踪…? 私、ちゃんとお手紙置いてきたんですけど」
龍麻「な、何て書いて来たの?(まさか俺の名前とか書いてんのかな・汗)」
さやか「『さやか、ちょっとデートしてきますっ♪』って…。明るく軽く書いてみたんですけど」
龍麻「……デートって……」(どっと疲れを感じる龍麻)

さやか「ふふッ、こういうのってちょっとドキドキしますよねッ。でもやってみると案外簡単でした」
龍麻「簡単じゃないよ。大変な事だよ。今日のスケジュールはどうなってるの」
さやか「龍麻さん…そんなお話するなんて、霧島君みたい」(ちょっと悲しそうな甘えた目線のさやか)←嘘っこ
龍麻「そういえば! その霧島にはここに来るって言ってきてんの? …って、まあ…アイツならもう気づいているだろうけど。全く、こんな大騒ぎになっちゃって…」←さすがにさやかの甘えモードには翻弄されない

さやか「多分、事務所がこの事を隠そうとする前に記者さんにバレちゃったんだと思います。いるじゃないですか、同じ事務所内でも人を陥れようとするヤな奴って」(密かにちっと舌打ち。毒さやか)

龍麻「……同じ事務所の誰かが芸能記者に情報を流しちゃったって事?」
さやか「ですね♪」(何故かスマイル)
龍麻「ふーん…。さやかちゃんにもそういう敵っているんだあ…」
さやか「いますよー。敵だらけですよ♪」
龍麻「何故それでそんな嬉しそうなんだ…(汗)」
さやか「でも大丈夫です。ごたごたした事は霧島君が何とかしてくれると思うし」
龍麻「あっ、そうだ。それでさっきの話だけど、霧島には―」
さやか「言うわけないじゃないですか。どうせ…バレてると思いますけど」(ここでようやく憂いたようにふっとため息をつくさやか)
龍麻「何で言ってこなかったの? アイツ、今頃さやかちゃんが行方不明って事で事務所の人たちからも色いろ責められてるんじゃない?」
さやか「霧島君は私のパートナーだからそんな事でへこたれないですよー」
龍麻「…まあ…それはそうかもしれないけど」
さやか「それより私の方が後で霧島君に叱られます。『よくも抜け駆けしてくれたね、さやかちゃん?』って、あの、私よりもよっぽどアイドル顔な笑顔で…」(←苦虫を噛み潰したような顔)
龍麻「さ、さやかちゃんと霧島って……」
さやか「はい?」
龍麻「仲良いんだよね…?」(時々2人の事がよく分からなくなる龍麻)
さやか「勿論ですッ! 霧島君は私の唯一無二の親友ですッ!」
龍麻「そうだよなあ…って、え? 親友…なの?」
さやか「はいッ、大親友ですッ! …霧島君がそう思っているかは分からないですけど」
龍麻「そ、そうだよ…。そんな事言ったらあいつショック受けるんじゃないかな…。さやかちゃんに『親友』なんて言われちゃったらさあ…」
さやか「え、そうでしょうか…? やっぱり…霧島君、私の事はただの『邪魔な敵』としか思ってくれてないんでしょうか」(すごく不安そうなさやか)
龍麻「は? いや、そういう事じゃなくてね…」
さやか「それは…確かに私も、時々あの顔であの性格の霧島君のこと、無性にひっぱたいてしまいたくなる事ありますけど…。陰で呪いのおまじないかけたりとか」
龍麻「……はい?」
さやか「でも霧島君も時々絶対私に何かかけてると思うんですッ。でもお互い、そういうのって何か全然効かないんですよね、ふふふッ」

龍麻「………あのう、さやかちゃんの話が俺には全然見えないんだけど(汗)」
さやか「あっ、そうです! そんな事より龍麻さん、具合が悪いって聞きました! 大丈夫なんですか? 私、それで龍麻さんの顔をどうしても見たくなって…」
龍麻「あ…心配してくれたんだ…。ご、ごめんな、それでこんな大騒ぎにまでなっちゃって…」
さやか「いいえ! 私は全然平気ですッ! 龍麻さんの大変さに比べたら、私なんて! だって私、毎日がとても楽しいんです! 私の歌でみんなが元気になってくれる…! 龍麻さんにもいつでも私の歌声を聞いてもらえる…! そんな今の境遇、私、とても恵まれているって思います!」
龍麻「さやかちゃん…」←もうだまされかけてる
さやか「……龍麻さん」(変わらず笑顔のさやか)
龍麻「ん?」
さやか「龍麻さん、さっき私にも敵がいるのかって言いましたよね」
龍麻「え…あ、ああ…」
さやか「龍麻さんにもいるんですか」

龍麻「え……」
さやか「敵」

龍麻「俺は………」(俯く龍麻)
さやか「……………」
龍麻「……別に……」
さやか「そうですかッ! 良かった!!」
龍麻「……ッ!?」(突然のさやかの大声にびっくりして顔を上げる龍麻)
さやか「女の子に意地を張る龍麻さんってとっても可愛いですッ。ふふ…私、そんな貴方が好きですッ!」
龍麻「さ、さやかちゃん…?」
さやか「龍麻さん。『敵』って、自分に危害を加える『他者』の事だけを指すのではないと思います。私は…そう、思います。だから私…本当は今日、龍麻さんに負けないでって気持ちを込めて、龍麻さんのためだけに歌いに来たんです! …だから霧島君も見逃してくれたんでしょうね」

龍麻「……。……よく…分からないけど…。でも、すごいね…。舞園さやか独占コンサート? ……贅沢」



以下、次号…







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