「雨」
〜本日の訪問客・比嘉焚実〜


比嘉「緋勇、久しぶり!」

龍麻「え…? うっわ、比嘉かあ〜。お前まで来るなんて思わなかったよ〜」
比嘉「何だよ、その反応はー。ひでえなあ、まるで俺が来たらいけないみたいじゃないか」
龍麻「そんな事はないけどさ。…それより比嘉君、その手にしている物は何?」
比嘉「ハハッ、ったく、分かってるくせにさ。ほら土産。三種の神器ならぬ、三種のケーキ」
龍麻「やったー!! 何、ショートケーキとチョコレートと…わーいモンブラン〜♪」
比嘉「ゲームばっかやってると疲れるだろ。やっぱそういう時は甘い物がいいと思って。それに緋勇は元々すっげえ甘党だし」
龍麻「さすが比嘉君、俺の事よく分かってるね。勿論、奢りなんだろ?」

比嘉「ああ、食えよ。バイト代出たばっかだしさ。まさか金取るわけないだろ?」
龍麻「へへへ…すげえ嬉しい。あ、でもお前の分ないの? どれか1個食う?」
比嘉「いいよいいよ。俺はそんなに好きじゃないから。お前全部食えよ」
龍麻「本当に? 悪いなあ…へへ。でもそうやって俺を餌付けしてどうしようってんだよ、比嘉君は〜」
比嘉「バーカ、何言ってんだよっ」
龍麻「ふふ…でもさ。ホントに久しぶりだな。あ、俺お茶淹れるな!」(立ち上がってキッチンへ向かう龍麻)
比嘉「あ。悪いな。でも緋勇、しばらく見ないうちに痩せたんじゃないか?」

龍麻「ええ〜? うーん、そっかなあ」
比嘉「痩せたよ。線とかすっげー細くなってる」
龍麻「どこ見て言ってんだ〜? な〜んかエロい〜比嘉君〜」
比嘉「な、なな何言ってんだよ…ッ! お、俺は見て感じたままをだなあっ」(赤面)

龍麻「冗談だよ」(けろりとして冷たいお茶を運んでくる龍麻)
比嘉「は!?」
龍麻「なーに焦ってんだよー。はは…ホント、比嘉は相変わらずだなあ」
比嘉「むっ…。何かそれって…良い意味で言ってんのか?」
龍麻「そうだけど。いただきます」(両手を合わせてからケーキをがっつく龍麻)

比嘉「……………」
龍麻「ばくばくばく」
比嘉「……………」
龍麻「ばくばくばく」
比嘉「……うまいか?」

龍麻「うん。最高」(そして再び食べる事に熱中する龍麻)
比嘉「……………」
龍麻「……ばくばく、ごくん。何?」
比嘉「は?」
龍麻「じっと見てるからさ」
比嘉「あ、いや…」(慌てて視線を逸らす比嘉)
龍麻「………そう?」
比嘉「………なあ、緋勇」
龍麻「嫌だよ」
比嘉「え?」
龍麻「何でもないんだろ。話す事なんかないんだろ。だったら余計な事言うなよ」
比嘉「な、何だよ…! 俺は…まだ何も言ってないし訊いてないじゃないかっ!」
龍麻「どうせロクな事じゃないんだろ。比嘉がそうやって言い淀む時って、大抵暗くて深刻な話なんだもん。聞きたくないよ」
比嘉「……別に俺だって好きで暗い話したいわけじゃないさ。けど、お前が大変そうだからさ」
龍麻「俺が?」
比嘉「そうだよ。さとみから色いろ情報流れてきて知ってるぞ。今お前がどんな大変な目に遭ってるかって事とか…でもそれを隠してこうやって普通を装っている事とか」
龍麻「別に…我慢なんかしてないけど」
比嘉「本当か?」
龍麻「本当だよ。だからこうやって、街が大変な事になっているのに、呑気に好きなゲームやって遊んでいるんだろうが。俺は勝手気ままに自由にやってるよ」
比嘉「……………」
龍麻「俺は何も変わってないよ。明日香学園にいた頃と同じ」
比嘉「なら…やっぱり辛いんじゃないか」
龍麻「え……」
比嘉「緋勇、俺たちの学校にいる時だって、時々すごく…辛そうな顔をしている時があった。それに…」

龍麻「……………」
比嘉「……………」
龍麻「何だよ」
比嘉「……………」
龍麻「言いかけて止まるな、シリアス小僧。それに俺が何だってんだよ!」
比嘉「煩いな! 俺だって好きでこんな事言いたいわけじゃないっ! こんな事・・・できる事なら言いたくないんだ!」
龍麻「だから何を言おうとしてんのかって訊いてんだよ!」
比嘉「俺は! いつだってお前とバカやってる友達同士でいたいって思ってんだよ! 親友なんておこがましい事は言うつもりないさ! お前はここで俺たちなんかよりもよっぽど大切で面白い仲間を見つけたんだろ! だから…だから俺は時々こうやってケーキ食べて喜んでる、能天気な喜ぶお前の顔見られればそれで良いって思ってたんだ!」
龍麻「……比嘉、何が言いたいのかよく分からない。何だっていうんだよ、一体…!」
比嘉「……お前は、時々不意にいなくなった」

龍麻「………?」
比嘉「俺たちといる時も…傍で笑っているのに、姿はあるのに、でも一緒にはいないって思う事があった。お前はいつもどこかで俺たちの間に壁を作って、距離を取って、一人どこか違う所を見ていたんだ」

龍麻「な…に、言ってるんだよ…?」
比嘉「でも俺…ちょっとでもお前の事分かりたいって思ってたんだ。それは今もそう思ってるんだ。だから…お前が大変だって聞いて、すごく…心配になったんだ」
龍麻「比嘉……」
比嘉「聞いてる。近いうち、今の仲間の誰かと、お前が抱えている問題を解決する為に旅に出るって。分かってる。お前を助けてやれるのは俺じゃないって」
龍麻「……………」
比嘉「……ごめん、つい熱くなっちまった。俺、自分で分かってる。俺、妬いているんだ。お前のことちゃんと護ってやれるお前の仲間たちに…俺は絶対敵わないから」
龍麻「何言ってんだよ…。俺は…」
比嘉「でも緋勇。俺はお前のこと友達だって思ってるんだからな! 俺だって…ちょっとは、お前の事理解しているつもりだぜ」

龍麻「だから勝手に1人で喋るな! ……バカ。俺だってお前のこと、思ってるんだよ。お前が迷惑だろうと…俺が普通とちょっと違っていたって…。俺はお前のこと親友だって…思っているんだから…」



以下、次号…







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