「雨」
〜本日の訪問客・比良坂紗夜〜


紗夜「龍麻さ〜んッ!」(勢いよくドアを開け、部屋に入ってくる紗夜)

龍麻「ああ、比良坂さん……って!? お、おわっ!」
紗夜「必殺★突撃ぶつかり攻撃〜ッ!」(いきなり龍麻にドーンと体当たりしてくる紗夜)
龍麻「ひっ…比良坂さん…ッ?」
紗夜「いったー…」(勢い込んで尻餅をつく紗夜)
龍麻「………(焦)??」
紗夜「えへへ…。ぶつかっちゃいました」
龍麻「いや…っていうか、自分から突っ込んできたって感じだったけど…?」

紗夜「いやッ! 龍麻さん、女の子に何てエッチな事言うんですかーッ!」
龍麻「へ? な…何が…?」
紗夜「私が龍麻さんに自分から『突っ込む』だなんて…! そ、そんなの…わ、私…きゃッ、恥ずかしいッ!」(両手で顔を隠していやいやをする紗夜)

龍麻「ぽかーん」
紗夜「……なんて事は置いておいてっ! 龍麻さんっ!!」
龍麻「は、はいっ?」
紗夜「大丈夫でしたか!? 皆さんの連日連夜の訪問…疲れているんじゃないですか? 私、それがずっと心配で心配で…」

龍麻「あ、ああ…うん。大丈夫だよ。もういい加減慣れてきたしね」
紗夜「慣れた?」
龍麻「うん。こうやって日ごとに違う人が来るってパターン。最初は戸惑っていちいち疲れたけど、今はどうって事ないよ」
紗夜「……それじゃあ、私が来ても迷惑じゃないけど、嬉しくもないって事ですか?」(ずずいっと)

龍麻「うっ…! い、いやあ…それはさあ…」
紗夜「龍麻さんっ!!」
龍麻「はいぃッ!」
紗夜「私…私、本当に龍麻さんの事が心配なんです…。だって龍麻さんは…私にとって…」
龍麻「ひ、比良坂さん…?」

紗夜「……………」
龍麻「…………?」
紗夜「……………」
龍麻「……あの?」
紗夜「…何か言う事ありますか?」(ちらっと龍麻の事を伺い見つつ)

龍麻「へ? い、いや…今比良坂さんこそ、俺の事呼ぶから何か言いたい事あるのかなあと…」
紗夜「いやいや! 龍麻さん、ひどい! そんな事、女の子の口から言わせないで下さいッ! 私が言いそうになるところを敢えて止めて龍麻さんが話してくれなきゃ!」
龍麻「え? え(汗)? な、何を言えばいいわけ?」
紗夜「そうですね…。たとえば『それ以上言うな、紗夜。俺にとっても紗夜は大切な存在なんだ』とか、『紗夜…来てくれて嬉しいよ。乾いた俺の心を潤してくれるのはもうお前だけだ』とか。そういうのがいいです」
龍麻「………そう、なんだ」
紗夜「龍麻さんはそういうの嫌ですか?」
龍麻「え? い、いやあ…。別に嫌じゃないけどね…」
紗夜「でも激しく引いてますよ、顔が」
龍麻「あ…あははははは……。だって比良坂さんが…比良坂さんこそ、一体どうしたの? 何か妙にテンション高いなあ。いつもと違うじゃない」
紗夜「龍麻さんから見たいつもの私って…どんな子なんですか?」
龍麻「え、うーん、そうだなあ。おしとやかで女の子らしい感じなんだけど、でも明るくて元気いっぱい、いつでも優しく笑ってる子って感じかな」
紗夜「……えへへ。何だか、それって。すごく褒めてくれてますね★」
龍麻「でも実際そう思ってるから」
紗夜「ホントですかッ!? えへへ…すごく…嬉しい…」
龍麻「そう?」
紗夜「はいッ、すごく! えへ…えへへへ…」
龍麻「………?」
紗夜「えへへへへへへへ〜」
龍麻「怖いよ、比良坂さん(汗)」
紗夜「…………だって」
龍麻「?」
紗夜「不安、だったから」
龍麻「比良坂さん……」

紗夜「龍麻さん。何処かへ行ってしまいそうだって…そう、感じていたんです。私、ずっとずっとそう感じていて…。今日来る時も、もう私が行く前に行ってしまっているんじゃないかって」

龍麻「何処へ……」
紗夜「遠い所へです。誰にも見つからない、遠い遠い所」
龍麻「……………」
紗夜「だから、確かめたかったんです。龍麻さんが、ここにいること」
龍麻「あ…だから体当たりしたの?」
紗夜「はい。それに……だから、訊きたかった。私のこと、ちゃんと覚えていてくれているかって」
龍麻「当たり前だろ…」
紗夜「……………」
龍麻「だから訊いたの? 自分の事どう思うか」
紗夜「はい」(にっこりと笑う紗夜)

龍麻「……バカ」
紗夜「え?」

龍麻「バカだなあ」
紗夜「……はい。私、バカなんです。すごく、バカです。バカみたいに…バカみたいにずっと、頭の中、全部全部龍麻さんの事ばっかりなんです」
龍麻「……………」
紗夜「こんな事言っても…龍麻さんには迷惑だと思いますけど…」
龍麻「うん。迷惑」
紗夜「はうっ!?」(計算外の台詞に仰け反る紗夜)
龍麻「あははははは! 引っかかった! 嘘だよ、迷惑じゃないよ。何かね…新鮮。そういう比良坂さん、初めて見たな。そうか、そうだったんだって感じ」
紗夜「……ひどい、龍麻さん。だって…この後きっとあの女性(ひと)も来るし…。私だって頑張らなきゃって…」

龍麻「あの女性? 誰それ? …まあ何かよく知らないけど、色々大変なんだね、女の子もさ」



以下、次号…







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