「雨」
〜本日の訪問客・秋月マサキ〜


秋月「こ、こんにちは…」

龍麻「秋月さん…? まさか1人でここに?」(慌てて玄関口を大きく開ける龍麻)
秋月「いえ…。表に芙蓉を待たせています。一緒に来ると言ったのですが…」
龍麻「何か深刻な話?」
秋月「あ…い、いいえ…そういうわけでは…」(どことなく伏し目がちに困った顔をするマサキ)
龍麻「………。ま、とにかく上がって下さい」(言って龍麻はマサキを抱き上げてソファまで運んだ)
秋月「す、すみません…ッ」(赤面)
龍麻「ううん。秋月家の当主様に失礼があったらいけないですからね。わざわざ来てくれたんだし、お茶でも飲んで行って下さい」

秋月「い、いいんですか…?」
龍麻「だって俺と話に来たんでしょう?」
秋月「え…ええ……」

龍麻「何だかよく分からないですけど。お客さんの登場にはもうホントに慣れきってるんですよ。毎日誰が来るんだろうって感じで…。ただ、秋月さんまで来るなんて」
秋月「意外…ですか」
龍麻「まあ…」
秋月「何故…です?」

龍麻「だって俺たちってあまり…というか、2人で話した事なんてありましたっけ? いつも芙蓉とか御門とか村雨とか…誰かいたじゃないですか?」
秋月「龍麻さん…!」
龍麻「え?」
秋月「そ、その…その話し方、やめてくれませんか」

龍麻「ん…?」
秋月「その敬語です」
龍麻「ああ…だって…」
秋月「僕の家の事なんて龍麻さんにとっては何の意味もないものでしょう? 僕の事など敬う必要などないでしょう? だから」
龍麻「……そうかもしれないけど」

秋月「なら…そんな他人行儀な口調はやめて下さい」
龍麻「なら秋月さんもそれやめる?」
秋月「え…?」
龍麻「敬語」
秋月「こ、これは…! だって貴方は…!」

龍麻「俺が黄龍だって事も、秋月さんにしてみたら何てことのない事でしょ。だったらそんな話し方はやめてよ」
秋月「……………」
龍麻「それとも、秋月さんにとっても俺ってやっぱり他とは違う存在なの」
秋月「……そうです」
龍麻「……そう言うんだ」
秋月「はい」
龍麻「特別扱いが嫌って気持ちは一緒かなと思ったんだけど」
秋月「龍麻さん。それでも僕にとって、貴方は特別な人です」
龍麻「……………」
秋月「他の人間とは、違います」
龍麻「……キツイなあ」
秋月「キツイ…ですか」
龍麻「《特別》って言葉は重いんだよ」
秋月「……ええ」
龍麻「俺ね、誰かに…自分の事そういう風に思われるの嫌なんだ」
秋月「何故です」
龍麻「………分からない?」
秋月「分かりたくないですね」
龍麻「ふっ…」
秋月「何がおかしいのです?」
龍麻「ん…いやあ…秋月さんって…怒った顔がちょっと可愛い」
秋月「な…っ!」(みるみる真っ赤になるマサキ)
龍麻「言っておくけど、からかってないからね」

秋月「か、からかってます…! 僕のことなど何とも思っていない貴方が…!」

龍麻「何?」
秋月「そういう台詞を軽々と言わないで下さい! 村雨じゃあるまいし!」
龍麻「え? あ…あははっ。村雨ってそういう事よく言うの?」
秋月「困った事があるとすぐ適当に誉めてきます」
龍麻「ふーん、必殺ごまかしの術ってとこかな?」
秋月「そうですよっ。それで全部都合の悪い事を隠してしまおうとするんです」
龍麻「でもあいつは適当に人を誉めるような奴じゃないと思うけど」
秋月「………じゃあ龍麻さんはどうなんですか」
龍麻「ん…」
秋月「さっきの台詞…からかってないって言いましたけど」

龍麻「ああ、本心だよ」
秋月「……………」

龍麻「秋月さんさあ…今日は俺と世間話をしに来たの?」
秋月「………はい」
龍麻「本当?」
秋月「駄目…ですか?」
龍麻「別に。でも俺たちってあまり2人だけで話した事ないでしょ? 秋月さんは忙しい人だしさ。一体どうしてわざわざやって来たのかなって。東京の街を早く元に戻せって俺を叱りに来た?」
秋月「まさか…僕はそんな偉そうな事を言える身じゃありませんから…」
龍麻「……じゃあ何で来たの?」
秋月「……ひどい人ですね。だからさっきも言ったでしょう。貴方は僕の特別な人だから、です。世間話がしたかったんです。だから来たんです。本当に……ただそれだけなんです」

龍麻「秋月さん…。うん、分かった。じゃあしようか、世間話。もっとも…俺と君との世間話なんて、きっとフツーの話にはならないんだろうけど、ね(笑)」



以下、次号…







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