「雨」
〜本日の訪問客・村雨祇孔〜


村雨「よォ、先生。シケた面してやがんなァ」
龍麻「……今日は村雨か」
村雨「フッ…。何だい、随分な言い様じゃねェかよ。先生の具合が悪いってンで、慌てて駆けつけてきたンだぜ?」
龍麻「白々しい奴だな。どこらへんが慌ててるんだよ」
村雨「ん…? そう見えないかい」
龍麻「見えないよ。遊びの帰りにフラっと立ち寄ったって感じかな」
村雨「オイオイ、随分と突っかかるじゃねェかよ。ご機嫌ナナメだな」
龍麻「別に」

村雨「まァでもよ、先生。たとえ俺がついででここに来たとしてもだ。先生にとっちゃあ、むしろそっちの方が気楽でいいンじゃねェかい」
龍麻「……まあ」
村雨「どいつもこいつも大騒ぎだぜ。その話は、先にここに来た連中からも聞いてるンだろ?」
龍麻「聞いてるよ」
村雨「ククッ……。相変わらずモテるねェ、先生は」
龍麻「……………」
村雨「………フッ、どうしたい。いつものように怒らないのかい」
龍麻「ん………」
村雨「いつもだったらもっと突っかかってくるだろうがよ」
龍麻「………うん」

村雨「………そんな気力もないってとこか」
龍麻「…別にそういうわけじゃない。ただ…面倒臭いんだ」
村雨「……………」(黙ったまま龍麻を見やる村雨)
龍麻「怒ったり悲しんだり…さ。そういうの、疲れるから」
村雨「そうか」

龍麻「だからもう、どうでもいいやって」
村雨「そうかい」
龍麻「村雨も……そんな俺を怒る?」
村雨「あァ?」
龍麻「今、街が大変な事になってるってのに…。俺、全然こっから動こうとしないし。うじうじとして、ゲームやってるだけだもんな。みんな大騒ぎなんだろ、それなのに……」

村雨「アイツ等が騒いでいるのは、別にこの街が危機に瀕しているからとか何とか、そんなことからじゃないさ」
龍麻「え…でも………」
村雨「アイツ等がぎゃあぎゃあ騒いでいるのはな…。先生、アンタがちっとも自分たちの相手をしてくれないからさ」
龍麻「…………」
村雨「だからちったあ、愛想ふりまいてやんな。そうすりゃ、連中だって満足するんだろうからよ」
龍麻「…………そんなの」
村雨「それも面倒かい?」
龍麻「………ああ、面倒だよ」
村雨「そうか」
龍麻「村雨は……村雨も、俺に愛想なんかふりまいてほしいか?」
村雨「……そうだな。それも面白いかもしれねェな」
龍麻「何でだよ…ッ。そんなの…意味のない事だろ。心が備わってない笑顔なんてふりまいたって意味ないだろ」
村雨「そうかねェ」
龍麻「そうだろ! 俺はみんなの事何とも思ってなくて、みんなに心配かけてるの分かっているけど、でも何もかもが面倒臭くて! そんな風に思ってるのに、ただ義理で笑ってあげてそれでみんなの気が済むなんて…そんなの、そんなわけないじゃないか!」
村雨「ところで先生よ」
龍麻「……ッ!? おい、村雨! お前、今の俺の話聞いていたのかッ!?」
村雨「ん? まァ、いいじゃねェかよ、そんな小難しい話は。それよりよ、外は雨が降っているンだが―」
龍麻「知ってるよ、そんな事! だからそれは全部俺のせいなんだろ!!」
村雨「おら、ガーガーわめくなって。誰もンな事言ってねェだろ? それより、外へ行こうぜ」
龍麻「………え?」
村雨「アンタ一体何日間、こんな薄暗い部屋で1人閉じこもってたんだ。いい加減、息も詰まるってもンだ。雨は降っているが、なあにそんなに大した降りでもねェ。ちっと外の空気でも吸いに行こうぜ」
龍麻「……別に行きたくない」
村雨「アンタの意思なんざ、どうでもいいのさ。俺がそう言ってンだから、言う事を聞きな」
龍麻「……! な、何だよ、それは、偉そうに! 大体……ッて、な、何だよ、村雨!? は、離せってば!!」(突然村雨に抱え上げられて仰天する龍麻)
村雨「暴れるなって。大人しくしてな、お姫様。今……連れ出してやるからよ」(暴れる龍麻を無視してスイスイと歩いて玄関へ向かう村雨)
龍麻「は、離せよ、離せってば!! 俺は外へなんか…ッ!」
村雨「おらよ、ドア開けるぜ」
龍麻「村雨……ッ」
村雨「……眩しいだろ」(扉を開いた瞬間、外の白い光に目を細める村雨。室内が暗かった為、そのギャップは激しいようだ)
龍麻「……ッ」(龍麻も村雨に抱えられたまま、片手を目に当てて光を厭う仕草をする)
村雨「雨は相変わらず降っているがよ。昼間はまあまあ明るいもンだ。新宿じゃあ、いつものごとく俺みたいに賭け事の好きな連中が路傍でバカやってるぜ。俺らに天気なんざ、関係ねェからな」
龍麻「……………」
村雨「街なんてもンはちっと御天道様の機嫌が悪くったって、そんなに急に変わったりはしねェよ。……人が変わらなきゃな」
龍麻「……………そんな事もないだろ。困るだろ、こんなにずっと降ってたら」
村雨「……そうだな」
龍麻「……………」
村雨「これが先生の心だってンなら…な」
龍麻「え………」
村雨「俺はな、先生。こんな街の事なんざ、どうでもいいんだぜ? アンタがいらないって思っているもンなら、消えちまってもいいさ。俺の知った事じゃねェしな」
龍麻「……村雨」
村雨「だが、アンタが消えるとあっちゃあ…話はまた別だ」
龍麻「………村雨、下ろして」
村雨「……………」(言う通りに龍麻を地面に降ろす村雨)
龍麻「……俺は消えたりはしないよ」
村雨「どうだかな。先生はいつだって危なっかしいからよ。……俺がついててやれたらいいんだが」
龍麻「よく言うよ。いつだって……独りでどこへでも行っちゃうくせに…さ」(それでもどことなく優し気な目をして笑う龍麻)




以下、次号…







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