ひーちゃんの外法旅行(18)




奈涸「龍麻君」
龍麻「わっ、び、びっくりした…! 奈涸さん、どうしてここに!?」
奈涸「君が人の言う事をきかないじゃじゃ馬だから、俺も動かざるを得なかったんだろう?」
龍麻「あ…も、もしかしてずっと…?」
奈涸「ずっと」(にっこり)
龍麻「…………(赤面)」
奈涸「まあ、天戒との事は翡翠には内緒にしておいてあげるよ」
龍麻「べ、別に俺は…ッ!」
奈涸「そんな事より。翡翠を探しに行くと行っても、一体何処へ行く気なんだ? 闇雲に動き回っても、またすれ違いになるだけじゃないか?」
龍麻「あ…う、うん……」
奈涸「1番安全なのは、この村に留まって彼が来るのを待つ事だと思うがね?」
龍麻「…………」
奈涸「それとも…君は他に何かしたい事があって村を飛び出したのかな…?」(探るような目で龍麻を伺い見る奈涸)
龍麻「……奈涸さん」
奈涸「奈涸」
龍麻「な、奈涸(汗)」
奈涸「何だい、龍麻君」
龍麻「…・・何か龍斗と似てるね、奈涸さんって」←また戻ってるし(笑)
奈涸「それは光栄。ところで今何を言おうとしたんだい」
龍麻「あ…。お、俺、今何の力もないけど…でも…どうしても…もうこれ以上、天戒たちに人殺しをさせたくないんだ」
奈涸「………」
龍麻「今…さっきの一隊とは別の一群がこの村に向かっているんだって…。そいつらが来たら、また天戒は戦うよ。村の人たちも」
奈涸「それはそうだろうな。この村の居場所を町の連中に知られるわけにはいかない。それにそいつらは襲撃者で殺戮者だ」
龍麻「分かっているよ、そんな事」
奈涸「でも?」
龍麻「俺……本当はゾッとしたんだ。村の人たちが天戒に歓声を送った時……」
奈涸「………」
龍麻「嫌だった。あの優しい村の人たちがあんな風に変わったのを見て、すごく気分が悪かった」
奈涸「さっき君は天戒には…自分には何が正しい事かなどは言えないと言っていたように思うが」
龍麻「……それでも」
奈涸「君の中では既に答えが出ていたというわけだな」
龍麻「天戒たちの事何も知らないくせに…俺、でしゃばりだ。それは分かってる。でも、俺は自分が嫌だから止めたい。それだけなんだ」
奈涸「まあ、好きにするといいさ。俺は別に止めはせんよ」
龍麻「うん……」
奈涸「それに天戒も君の想いは分かっていたさ」
龍麻「うん。そう思う」
奈涸「妬けるな」
龍麻「え?」
奈涸「ふっ…何でも。それより、どうやってその一隊を止めるつもりだ? 奴らが何処から潜んでやってくるかも分からないのに」
龍麻「分かるよ」
奈涸「ん……?」
龍麻「見つけた後、どうするかはまだ考えてないけど…。でも、とにかくその一隊がいる場所は分かる。何だか分からないけど、さっきから痛いくらいに頭に響く」
奈涸「…………」(眼を細めて龍麻を見やる奈涸)
龍麻「それに…翡翠が俺のところにどんどん向かっているのも……」
奈涸「おや……」
龍麻「光っているでしょ」(言って手首の数珠を掲げる龍麻)
奈涸「なるほど。共鳴しているようだね」
龍麻「俺が何処へ行っても翡翠はきっとこれを見て来てくれるから。だから俺は、ひとまずあの一隊の所に行く!」
奈涸「お供しよう」
龍麻「奈涸さん…?」
奈涸「言っただろう…? 君から離れ難いとね。それに…俺の本当の主も、どうやら君の翡翠と一緒に行動中のようだ。便乗させてもらうよ」


龍麻とほぼ同時期に、如月も自らの数珠がより激しく光を増す事に気づいていた。
それは互いの存在を強く求めて泣き叫ぶように、寂しい光を放っていた。また一方で、その願い故に力強く光を放っているようにも見て取れた。
如月は数珠が誘うままに歩を進めた。龍麻との距離はあと僅かに思えた。


龍斗「眩しいくらいだ、その光」(数珠に眼をやって言う龍斗)
如月「ああ。あと少しだ…」
龍斗「出会ったら、まずどうする?」
如月「何がだ?」
龍斗「久しぶりに会うんだろ。感動で抱きしめあって、口つっつけあったりするのか」
如月「黙れ」
龍斗「『うふふふふ…』の人もいるし、翡翠も色々大変だな」(異様に美里の物真似がうまい龍斗)
如月「黙れと言っているのが―」
龍斗「あ、村だ」(鬼哭村の入り口を差して)
如月「む…あそこが……」


龍麻と奈涸が去って行ったほんのすぐ後に、如月たちは鬼哭村に到着した!
先ほどの戦闘の余韻で、深夜とはいえ村はまだざわついている。何人かが龍斗の存在に気づいて頭を垂れたが、見知らぬ人間・如月に関心を向ける人間はいない。皆、一様に門の修復や見張りの増員などでばたばたしていた。
けれど、不意に。
如月は村の門前に立ち尽くして、こちらをじっと見据えている男の存在に気がついた。
赤い髪を肩まで垂らしたその人物は、毅然とした姿勢で鋭い眼光を如月に向けていた。雨に濡れる事は全く厭わないという風に。


如月「……………」
天戒「……………」
龍斗「天戒。ただいま」(黙る2人に呑気な声を出す龍斗)
天戒「ああ…。龍、ご苦労だったな」
龍斗「いや。とても楽しかったよ。ところで、どうやら龍麻がこちらに向かっているようなんだけど、まさか先に村に辿り着いているなんて事はないよな?」
天戒「龍麻なら来た」
龍斗「本当に」(目を丸くして驚く龍斗)
如月「それで龍麻は何処に」
天戒「…………」
如月「何処にいると訊いているんだ」
龍斗「そう突っかからないの、翡翠」
天戒「俺は九角天戒。名乗ってくれないか、翡翠」
如月「………如月翡翠だ」
天戒「如月か…。では、如月翡翠。これを受け取れ」(言って天戒は如月に手にしていた刀を投げた)
如月「……ッ!?」(反射的にそれを両手で抱え持つ如月)
龍斗「天戒?」
天戒「龍。疲れただろう。お前は屋敷に帰り、休むがいい」
龍斗「……嫌だよ。翡翠に何する気?」
天戒「…………」
如月「既に色々と知っているようなので言わせてもらうが…僕は飛水の人間だが、正直君の生き方に興味なんかない。この村の存在にどうこう口を挟む気もない。……龍麻の居場所を教えてくれないか。この村にいるのなら呼んで欲しい。ただその為に来たんだ」
天戒「龍麻を返して欲しくば、この俺と闘うのだな」
如月「何……」
龍斗「…………」
天戒「その剣を使うも自らの水技で闘うも、それはお前の自由だ。俺はこの剣で闘う」(言って自らの刀をすらりと抜く天戒)
如月「何なんだ……」
龍斗「まったく」
如月「貴様、どういうつもりだ。龍麻をどうした」
天戒「俺に勝てば教えてやろう……」
如月「…………」
龍斗「翡翠。やばくなったら助けてやるから、とりあえず付き合ってやれ」
如月「ふざけるな……」(かなり小さな声でつぶやく如月)
龍斗「何で俺を怒るんだよ」
如月「煩い。龍斗、間違っても手を出すなよ」
天戒「龍、下がっていろ」
龍斗「天戒、お前どうかしてるよ」(ため息をつく龍斗)
天戒「先刻承知の上だ」
如月「どいつもこいつも…! どこへ行っても、変わらないな…!」(瞬間、如月の周囲から水の柱が幾数本も現れ、天に伸びた)
天戒「面白い…! 来い、翡翠」(何やら楽しそうに笑う天戒)


再び、場面は龍麻と奈涸に戻る。
如月と龍斗たちが最初に見た侍たちの一群は、一時雨を凌ぐために足を止めていたものの、再び動き出して既に鬼哭村のすぐ先にまで到達していた。
しかしさすがに家来たちの足取りは重い。疲弊の色は濃く、中には下山をほのめかす声もちらほらと出ているほどであった。


龍麻「……あんなんじゃ、村に着いたって逆にあっという間に返り討ちだよ」
奈涸「だろうね。だが、頭が引き下がろうと言うまで退く事はできない。お殿様はどうやらぴんぴんしているようだし。さて、どうする?」
龍麻「……………」
奈涸「龍麻君? どうした?」
龍麻「まずい……」
奈涸「ん…ああ……」
異形の群れ「グギャ―――――――ッ!!」
侍A「う、うわっ!! 何だ、あの化け物はッ!!」
侍B「ぎゃあっ! で、でかい…!!」
異形の群れ「グギャ―――――――ッ!! グギャ―――――――ッ!!」
偉そうな侍「こ、こらお前たち! 何を怯んでおるのだ、こんなものは鬼どもが作った幻影だ! さっさと消してしまわぬか!!」
異形の群れ「グギャ―――――――ッ!!」
侍C「う、うわあ―ッ! に、逃げろ…ッ!!」
侍たち「わ―――ッ!!」
偉そうな侍「ま、待て、お前ら、主を置いて…! ひ、ひいいぃっ!!」
異形の群れ「グギャ―――――――ッ!!


突如現れた異形の群れに、既に疲れで戦意を喪失していた侍たちは主を護る事も忘れてちりじりに離散し始めた。
そんな人間たちを嘲笑うかのように、一部の異形は逃げる者たちを追う。また一方で違う異形たちの中には、動作が鈍く眼も悪いのか、ただめちゃくちゃに動き、周囲の木々や岩を壊しながら脈略なくウロウロしているものもある。自分に触れたものだけを攻撃している異形もあった。その光景はひどく不気味で、異様な雰囲気がその辺り一帯に広がっていた。


奈涸「……これで彼らが村に辿り着く事はなくなったわけだが」
龍麻「た、助けないと…!」
奈涸「逃げているからいいんじゃないか?」
龍麻「追いつかれるよ、あんな足じゃ。大体あれ…きっと、俺を狙って出てきたやつだ…」
奈涸「そうかもしれないが、君にあれらを倒せる《力》があるとは思えない」
龍麻「…………」
奈涸「言っておくが、俺は無駄な体力を削るのは嫌いだよ」
龍麻「一緒に戦ってくれないの?」
奈涸「君が危なくなったら助けるよ」←やる気ない奈涸さん
龍麻「わ、分かった…。俺、行く…!」(ぐっと決意して群れの中に飛び込もうとする龍麻)
風祭「こらー!! 龍麻ッ【蹴】!!」(背後からいきなり飛び蹴りの風祭)
龍麻「わっ……」(もんどり打って倒れる龍麻)
風祭「お前、こんな所で何やってんだよっ。
本当に山に戻って来てたとはなっ。村に戻ったら入り口の所でお前らの姿が見えたから追って来たんだ!」
奈涸「何だ、戻ってしまったのか。つまらない」
風祭「ふざけんなーッ!! おい、テメーッ!! 俺はお前に1番言いたい事が…」
龍麻「澳継!!」
風祭「わっ!!」
龍麻「お前、いい所に来てくれた!! な、手伝ってくれ、あれ倒すの!!」
風祭「あん? ……何だよ、またかよ……」(異形の群れを見てウンザリ気味の風祭)
龍麻「このままじゃ大変なんだ、何とかしないと。な、俺と一緒に戦ってくれ!!」
風祭「俺と一緒にって…お前、何にもできないだろうが。俺だけに戦わせるんだろ、どうせ」
龍麻「んな事ない! 今度は俺も戦うから! あ……!」
風祭「な、何だよ……?」
奈涸「………?」
龍麻「……あれなら出来そう……」
風祭「?? 何だ? 何言ってんだ?」
龍麻「リハビリ!」(がばりと風祭を見てイキイキとし始める龍麻)
風祭「リハ…? 何だ??」
龍麻「確かに俺しばらく《力》出せてなかったし…うまく出来るか分からないから…だから、まずは一緒に技出すの手伝って欲しいんだ…!」
風祭「だから何の事だよ…」
龍麻「澳継、言ってただろ! 龍斗と2人の方陣技持っているって!」
風祭「あん?」
龍麻「俺とやろ、それやってみよ!!」
風祭「あー!?」
奈涸「…………」
龍麻「俺、お前となら一緒に出来そう。な、やってみよ! 双龍螺旋脚!!」
風祭「バカか! あれはなー俺とたんたんの技なんだよ! 何でお前がそれできるんだよ!」
龍麻「できるんだよ!」
風祭「できねーよ!!」
龍麻「できるんだよー!!」
風祭「できない!!」
奈涸「まあ……」(がつんと風祭の頭を抑えて無理やり龍麻の方へ突き飛ばす奈涸)
風祭「わ…っぷ!」(勢い余って龍麻に寄りかかる風祭)
奈涸「面白いじゃないか。やってみろよ」
風祭「奈涸〜テメエ〜!!」
龍麻「よし、やろやろ! 行くぞ、澳継!」←問答無用
風祭「わーったよ! やりゃいんだろ、やりゃー!!」←ヤケクソ


訳も分からないままに、けれど何かに押されるように、風祭はふうと一呼吸置くと戦いの体勢を整えた。
それに併せて龍麻も風祭と向かい合い、大きく息を吐き出した。
そして時代を超えた陽と陰の龍が、ここに方陣技を繰り出す!


風祭「陰たるは、天昇る龍の爪…」
龍麻「陽たるは、星閃く龍の牙…」
風祭「伝えられし龍の技、見せてやるぜッ!!」
龍麻・風祭「秘奥義・双龍螺旋脚!!」



その時。
異形の出現によってざわついていた風と、激しい雨の降りがぴたりと止んだ。
その一瞬の静寂の後、2人から発せられた眩いばかりの光が辺り一帯に煌いた。
そして龍麻は……。




以下、次号………






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