《10》
気がつくと、そこは鬱蒼と茂る森…いや、山の中なのだろうか?目が覚めた時は既にその場に倒れていた。
ふらつきながらも何とか身体を起こそうとしたが、よろめいて見事に失敗。
ズッズーン!と、大きな音が辺りに響き渡り、近くにいた鳥たちは驚いて一斉に飛び立って行った。
鬼道衆一の巨漢は再び倒れ伏し、真っ青な空をぼーっと見上げた。


岩角「ハラ減ったど…(涙)」


しかしその時、不意に大きな黒い影が空腹で動けない岩角に覆い被さってきた。


???「どうした、おめ? どっか痛ぐしでるのが?」
岩角「……?? お前、誰だ?」
???「おでか。おではな、泰山て言うだ」(にっこり)
岩角「タイザン…」
泰山「そうだ。おめは何て言うだ?」
岩角「おで……」
泰山「名前だあ。おめの名前。分かるかあ?」
岩角「うん…分かる」
泰山「そっかあ。んじゃあ、ちゃあんと名乗れ。お互いにな、知り合おうと思ったら、まんず名前さ言い合うんだって、兄弟が教えでぐれだ」
岩角「兄弟?」
泰山「そうだあ。おでにとって、とってもとーっでも、大切な兄弟だあ」
岩角「ふうん…。おで…おで、岩角」
泰山「ガンカクかあ! 強そうな名前だなあ!」
岩角「うん…おで、すごく強い」
泰山「そっかあ。でも何でそうやって寝てるだ? どっか痛くしたんでねえのか?」
岩角「おで…」
泰山「ん?」
岩角「おで…おで、ハラ減って動けない(涙)」
泰山「ほえ…? ふ、ふわあ、そうか! そりゃ大変だ! 辛いなあ!」


泰山は驚いたような顔をして目を見開くと、慌てて背中に担いでいたカゴを下ろし、中からたくさんの魚を取り上げて岩角に見せた。それからにこにこしながらその場で焚き木を集め火をつけると、パチパチと良い音をさせながら魚を焼き、それらを岩角に食べさせてやった。
今日の自分の夕食だろうに、泰山は嫌な顔一つせず獲った全部の魚を岩角に食べさせたのだ。
岩角はばくばくとそれを夢中になって食べた。無理もない、御屋形様に【きのこの山】を取り上げられてから今まで、何も口にしていなかったのだから(大して経ってない)。


岩角「ふー。う、うまかったどー(涙)」
泰山「そっか。良がったなあ」
岩角「タイザンはおでの命の恩人だど。おで、すごく感謝してる」
泰山「そんなのいいんだ。困った時はお互い様だ。おでな、おでが困った時、御屋形様にいっぱいいっぱい助けてもらったんだ。だからおで、誰かが困ったら今度はおでがその人を助げでやるって…御屋形様と約束したんだ」
岩角「ふえ、御屋形様?」
泰山「そうだ! この世でいっちばん、偉いお方なんだあ!」
岩角「そっかあ。あのな、おでにも御屋形様いる。すごく強くてカッコいい御屋形様なんだ」
泰山「へえ、そうなのか! ガンカクにも御屋形様がいるのが!」
岩角「うん、いる! おでの御屋形様はな、困った奴がいてもそいつがいけないんだから、ほっとけばいいっておでに教えてくれた!」
泰山「へ…?」
岩角「『てめえの事はてめえで始末をつけやがれ!』って言ってた。でも御屋形様、確かにおでたちの事はほっとくけど、ひーちゃん様が困るとすぐ助けに行く。御屋形様はひーちゃん様だけはひーきするんだど」
泰山「それは良くねえなあ。家臣のおめたちはほっておくのか?」
岩角「うん。そんでメシ抜きでぶっ飛ばして殴り飛ばして刀振り回して追いかけるんだどー」
泰山「こ、怖ェ御屋形様だあ…」
岩角「うん♪ おで、そんな御屋形様が大好きなんだどー【愛】♪」
泰山「そ、そうかあ。ガンガクは偉ェなあ…」
岩角「タイザンも偉いど。おでを助けてくれた」
泰山「なんのなんの。なあ、今日はもう日が暮れるど。おでの小屋、この先ちょっと行った所にあるんだ。おめ、今日は御屋形様の所さ帰るのやめておでのとこ泊まらねか? 山の幸、御馳走してやるど」
岩角「本当が!? 行く行く、行くどー♪ どうせしばらくお屋敷には帰れないんだどー」
泰山「へ? 何でだ?」
岩角「んー。よく分からないけど、おで、任務をまっとうするまで帰れない」
泰山「任務? 何だ、それ?」
岩角「…………」
泰山「……はぅあっ!? そ、そっか、そげな大事な事は人には言っちゃあなんねえな! おで…おでも、御屋形様に命令された事、人には話せね。す、すまねなぁ…」
岩角「んー…忘れたど」
泰山「???」
岩角「おで、何したら良かったんだっけな?? うーんうーん???」
泰山「……忘れたのかあ」


似た者同士の運命や如何に!?(いやどうにもなりません)



以下次号……






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