《11》
気がつくと、そこはひんやりとした空気が逆に心地良い、綺麗に整えられた客室であった。
薄絹地の蒲団の感触に多少戸惑いながら、今までの事は夢だったのだろうかとしばし思う。
それでもそれが現実のものであると気づくのにそう時間はかからなかった。
次第にハッキリしてきた意識の中で、鬼道衆の紅一点は見慣れぬ天井を眺めながらつぶやいた。


水角「わらわは一体何処に飛ばされてしまったのかね…」


しかしその時、不意に大きな黒い影が未だ起き上がれないでいる水角に覆い被さってきた。


水角「ひ、ひ…!? な、何だえ!?」
???「……怯える事はない。これはガンリュウ。わらわの友だ……」
水角「へ、へ…?」


そこには、巨大な操り人形の腕に抱かれた格好で水角を見下ろす黒髪の美女がいた。
水角、ちょっぴりライバル意識爆発。


???「見慣れぬ顔じゃが…おぬし…この村の者かえ?」
水角「へ…? あ、あの(汗)?」(大体ここは何処だと訝っている水角)
???「わらわは村の外へは滅多に出ぬ故…村の人数が増えてもよくは分からぬ…。だがおぬしはわらわたちの家のすぐ傍で倒れておった。村人でない者があのような場所で寝ているというのもおかしな話だからの」
水角「え、えーと…よくは分からないんですがねえ。気がついたら飛ばされて気絶していたもんだから…」
???「ほう、飛ばされた? 誰に飛ばされたのだ?」
水角「あ、え、えーと。世にも恐ろしい菩薩眼の娘ッ子に…」(思い出してぶるりと震える水角)
???「………何?」(ぴくりと身体を揺らす美女)
水角「全く乱暴な女なんですよ。わらわたちを勝手に下僕扱い。『あたしの為に働いてきなさい!』ぽーん!!って。飛ばしちゃったんですよ。お陰で仲間たちとはみんなバラバラ…。あ、わらわの他に何か似たようなの落ちてませんでしたかねえ?」
???「…いや。落ちていたのはおぬしだけじゃ」
水角「はあ、そうですか。まあ、面倒看てくれて助かりましたわ。やっぱり遠い親戚より近くの他人ってねえ!」(しみじみ)
???「おぬし。何やら随分馴れ馴れしいな(汗)」
水角「え? あらいやだ。そうですねえ、あはは! 何だか分からないんですけどねえ、貴女様とは他人って感じがしないんですよう。それでついつい」
???「……そ、そうか。……」
水角「ほっほっほ。きっとお互い美人同士だからかしらね?」
???「美女か…。おぬし、その面は外せぬのか?」
水角「あら、これは外せません〜! 御屋形様に忠誠を誓っている印、鬼道衆としての誇りですからね。果たさないといけない任務もあるし!」(フンと胸を張る水角)
???「……おお、やはりおぬしも鬼道衆の一員であったか」(安堵の笑み)
水角「へ? というと、貴女様も…?」
雹「左様。わらわは鬼道衆が1人、雹じゃ。そして、こちらがガンリュウ…」


こうして水角はひょんな事から鬼道衆の1人、雹との出遭いを果たした。
水角は美里様に飛ばされたショックで多少身体が疲弊してしまったという事もあり、雹の勧めもあってその晩彼女の家に厄介になる事になった。
雹は普段は鬱陶しいから他人を家には入れないのだと語ったが、その割に水角には何故かとても優しかった。
お互いに何やら通じ合うものがあったらしい。
その夜は2人とガンリュウで飲めや歌えの大宴会!であった。


水角「でね…ひっく。まあ、御屋形様を崇拝はしているんですよ、あたしゃ。でも、やっぱり、男としての押しは弱いと思うわけ! わけっすよ! うい〜ひっく!」(酒瓶片手に語りまくり)
雹「お、押しが弱いとは…?」(お猪口を持ったまま固まって興味津々の雹姫)
水角「だからーっ。もう、さっきから教えてあげたでしょ。ひっく。御屋形様と〜ひーちゃん様との萌え萌え絡みの数々〜! それで…ういっく。なかなかくっつかないっての、おかしいと思わないかえ!?」
雹「そ、その…本当に御屋形様と龍様が…ち、ちち…」
水角「ちちくりあう」
雹「そ、そうだ…。そ、そのような事をしておるのか(汗)?」
水角「もうしまくり! 天下の往来でいちゃつきまくり! それなのに! それ…ひっく! 御屋形様ってば、わらわ達になかなかその決定的瞬間を〜見せてくれないのおぉぉぉ」(ガンリュウの傍らに縋って泣く水角)
ガンリュウ「…………(汗)」
雹「……け、決定的瞬間とは?」
水角「そりゃ勿論! ひーちゃん様のピーに御屋形様のピーをピーしてピーピーする事に決まってるじゃないのうぅ!」(自主規制入りました)
雹「………ぐらり【倒】」
ガンリュウ「……ッ【焦】!!!?」(がっしと雹を支えるガンリュウ)
水角「はーあ。いつになったらわらわ達の大願は成就するのかねえ。…あ。そだそだ〜ひっく。これえ…わらわ達の一番の力作〜」(すっと懐から何やら冊子を取り出し雹に渡す水角)
雹「な、何じゃこれは…?」(貧血気味に蒼褪めながら本を受け取る雹姫)
水角「うっふふ〜。雹ちゃんも〜。こ〜んな家にばっか閉じこもってないでえ。ネタを収拾しなきゃ〜♪ これ、わらわ達の真実ネタを基に作った同人誌第一号♪ お友達になった記念にあ・げ・る♪」
雹「………?」(ぱらりとページをめくる雹姫)
ガンリュウ「………ごくり」(何となく背後からそれを覗いている感じのガンリュウ)
水角「はー今夜は酒が美味いわ。江戸時代のお酒にありつけるなんて〜わらわってばラッキー♪」(完全に出来上がっている)
雹「……おい水角、一つ訊くが…。この御屋形様…何だか別の殿方のように見えるの? 龍様はそっくりだが…妙な物を着ておる」
水角「ん? あー洋服洋服。御屋形様、似てないのー? はー早く見てみたいのー♪ こっちの世界の御屋形様♪」
雹「そ、そうかこれが最近町で増えてきたとかいう洋装というものか…。ん? ところでこっちの世界の御屋形様というのは…?」(はたと思い立って顔を上げる雹姫)
水角「まーまー細かい事は気にしなくて良いわよー。どうせ言ったって信じてもらえないんだからー」
雹「ふ、ふむ…?」
水角「それより本! 読んで読んでー♪ これで雹ちゃんも今日から立派なやおい女だわよ。わらわと一緒に時代を超えた九主同人作家を目指そうぞ♪」
雹「……水角の話す言葉はわらわには何やら難しいわ…。だ、だが…どうにも逆らいきれぬ《力》を感じるぞ(汗)」
水角「人間、負の力に逆らうのは難しいって言うからねえ…。ま、わらわの場合、ひっく。負ってより邪って感じだけど♪」
雹「お、おお…。何だかこの御屋形様…男らしくて龍様には優しい…立派な殿方に描かれておるのう…(感嘆)」
水角「ぐふふ…でしょでしょ。実物はもっと素敵なお方なのよね…! はー萌えー」
雹「…………萌え」(意味も分からず水角の言葉を繰り返している雹姫)


その夜、すっかり酔っ払って寝入ってしまった水角の横で。
悶々として同じ本を繰り返し熟読する絶世の美女・雹姫の姿があったとさ……。
新・同人女王の誕生も近い…かも。



以下次号……






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