《12》 |
気がつくと、しんとした静寂に身を置いている自分がいた。 思い切り飛ばされた衝撃で身体の節々が痛む。それでも何とか目を開き、辺りの様子を伺った。 ここは何処だろう。自分はきちんと過去の世界へとやって来られたのだろうか? 次第にハッキリしてきた意識の中で、鬼道衆一の平凡男は暗闇の中で独りつぶやいた。 風角「まさか地獄に飛ばされたわけじゃねえよな…」 しかしその時、不意に不気味な黒い影が未だ起き上がれないでいる風角に覆い被さってきた。 風角「な…なな…!? だ、誰だ…ッ!?」 ???「……貴様こそ名乗るが良い。返答如何によっては五体満足で帰る事は罷りならぬぞ…」 風角「な、何…!?」 驚き、恐怖に押されてがばりと身体を起こそうとすると…何と身体中を鎖のようなもので縛られ、風角は身動きが取れなくなっていた! そして目の前には得体の知れない鳥のような面を被った黒ずくめの怪しさ全開の男?が…。 ???「名乗れ。何者か。お前のような者、この村にはおらぬはず…」 風角「あ、あわわわわ…【怯】! ななな何なんだあ…っ」 ???「……耳を持たぬか。ならば無用のその長物、切り落としてやるか…」 風角「わわわっ(泣)! まま待って! 待って下さいーっ! 言う、言いますッ! 俺は風角っ。怪しくも何ともないただの通りすがりの者ですーっ」 ???「ふ…通りすがりがこの村に辿りつけるはずがなかろう。幕府の狗か…」 風角「ば、幕府のっ!? ま、まさか、俺は九角家に仕える御屋形様だけの僕ーっ。あんな奴らに仕えるわけないでしょうっ」 ???「何……」 風角「本当ですー(涙)! 俺は鬼道衆が1人、風角っ。またの名を5人の中で1番の平平凡凡男っ。何の取り柄もない目立たないフツーの男なんですようっ(号泣)!!」(鎖をがちゃがちゃやって逆らいながら泣き喚く可哀想な風角) ???「………しかしお前のような鬼道衆は知らぬ……。この嵐王に一言もなく御屋形様がお前を仲間に入れたなど…信じ難い」 風角「へ…? お、御屋形様…?」 嵐王「左様…。お前は御屋形様の許しを得てこの村にいる者なのか」 風角「この村って…。じゃ、じゃあ、ここは…やっぱり江戸の町なのかっ!? 俺、ちゃんと過去に辿りつけてたのか!?」 嵐王「……? 過去…?」 風角「す、すっげー! やっぱすっげー! あの菩薩娘、やっぱ偉ぶるだけの事はあるなっ。本当にここが江戸時代で、俺の先祖が住んでる村で…! 御屋形様もこの地の何処かにいるのかー! うおー! 会いたい、お会いしたいよー!!」(がちゃがちゃと鎖をより一層揺らす風角) 嵐王「こ、こら…貴様、暴れるな…! 暴れると…!」 風角「うるせーっ! あのなあーあんた! 何者なのか知んねーけど早くこの鎖、解けよな! 言わば俺らは兄弟で同胞で! 同じ九角家に仕える仲間だぜっ。こんな事して、未来の子孫に傷でもついたらどーするよっ!?」 嵐王「だ、だからその未来だとか何だとか…貴様、何だと言うのだっ【怒】!」 風角「わーわーわーわー! すげーすげーよ、他のみんなは何処にいるんだー! わーわー!!」 嵐王「……聞いておらぬな……」 嵐王が浮かれ調子になる風角から大体の話を聞き出すのに、およそ数時間の時が要った。 しかし嵐王は風角の「未来からやってきた」という言葉にいたく興味を持ったようで、この時代の人間ならおよそ誰もが信じないであろう話にもいやに熱心に聞き入った。 風角は風角で、嵐王の作業場を物珍しげに眺めながら、図々しくも漁って頂戴した夕餉に腹鼓を打った。 風角「ふー食った食った。割かしいいもん食ってんじゃん。あんたらの村、今幕府と対峙してんじゃねーの?」 嵐王「そうだ…。これらは村の者たちが丹精込めて作った…」 風角「わーあれ何だ、嵐王! お前、結構マニアックなのな! すげーすげー珍しいっ【喜】」 嵐王「貴様…! 少しは人の話を聞かぬかっ【怒】!」 風角「えー聞いてるじゃん。ったく、小うるさいんだからなあ、いくら鬼道衆を取り仕切っている偉い奴だからって。嵐王、お前の子孫もな、あ、雷角って言うんだけど。ホント、お前にソックリ! そんなんじゃ家臣はついてこねーぞっ」 嵐王「ぎぐっ…。そ、そう思うか…?」←気にしてたらしい 風角「思う思う。まあ、あれだなー。御屋形様を想う気持ちってのはすげー良く分かるし、頑張ってるなーってのは伝わってくるんだけど。何か曲がった方向に行きがちなんだよな、お前らみたいなタイプって」 嵐王「そ、その…我が子孫も同じような…?」 風角「そうそう。雷角な! まだお前の子孫って決まったわけじゃないけど…だってお前、素顔見せてくれないし。でも絶対お前の子孫は雷角だと思う! 俺って事はないだろ。俺、お前と違ってインパクトそんなないし、いい加減だし」 嵐王「……その雷角という者は何処に。本当におぬしら、未来の鬼道衆なのか?」 風角「だから何度もそう言ってるだろー? 俺もこの素顔を見せれば誰の子孫かってお前がすぐに分かるとは思うけど。でもこの面を取るわけにはいかないから。俺たちはいつだって御屋形様の前でだけこの素顔を晒す。お前だってそうだろ?」 嵐王「む……そうだな」 風角「それにしてもここは何か寒いなー。な、今日はここに泊めてくれよ。そんでさ、明日御屋形様に会わせてくれよーへへへ、楽しみ〜」 嵐王「!!! な、何を言うておる! 貴様のような得体の知れぬ者と若を会わせられるものか!!」 風角「えー何でっ!! 俺、だから未来の鬼道衆って言ってるじゃん! お前も信じてくれたじゃん!!」 嵐王「た、確かに遠き未来ともなれば、時を戻る技が存在するようになったとしても不思議ではない…! おぬしの話も興味深い! しかし、それとこれとは話が別だ!」 風角「えーやだやだー! ぶーぶーぶーぶー。御屋形様に会いたいよー!」(床に寝転がってじたばた) 嵐王「黙れ! 騒ぐな(汗)!」 風角「だって嵐王が意地悪だから〜。ぶーぶーぶーぶー」 嵐王(……こ、こんなバカが未来の九角家の家臣とは…【涙】! 誰だ先祖は…風祭か?)←わんわんに対し大変失礼発言 鬼道衆を名乗る、ノリの軽すぎる男・風角に、鬼哭村一の堅物・嵐王は。 信じ難い気持ちを抱きながらも、しかし水角に惑わされた雹姫同様、何故か逆らい難いものを風角から感じ……。 彼は久々に「他人に振り回される」事を経験したのであった。 以下次号…… |