《13》
気がついてゆっくりと目を見開いた瞬間、まばゆいばかりの明るい光が飛び込んできた。
思わず、目が眩む。それでも額に手をかざし、辺りの様子を伺った。
ここは何処だろう。自分はきちんと過去の世界へとやって来られたのだろうか?
次第にハッキリしてきた意識の中で、鬼道衆のリーダー格は独りつぶやいた。


雷角「それにしてもここは…まさか天国に来てしまったわけじゃあるまいな…」←天国に行く気か


しかしその時、不意に明るい日差しと共に、何者かの影が未だ起き上がれないでいる雷角に覆い被さってきた。


雷角「む……?」
???「……ああ、良かった。気がついたのですね……」
雷角「むむむ…!?」


そのあまりに優しく静かな声に、雷角は驚いて反射的に上体を起こした。
普段そういう「穏やか系」の空気に慣れていないせいで、雷角はその優しい声に冷水からいきなり熱湯を浴びせ掛けられたような気分になってしまったのだった。(そんなバカな)
すると、驚き怯えたような雷角に対し、その優しい声を発した人物―牧師風の出で立ちをした細目の男―はすっと手を差しのべて相手を労わるような仕草を見せた。


???「ああ、まだ起き上がらない方が宜しいですよ。何があったのかは知りませんが、貴方は全身打撲でひどい怪我を負っているのですから」
雷角「こ、ここは…?」
???「……その問いにお答えする為には、まずは貴方の事を教えて頂かなければなりません」
雷角「ぬぬ…? わしの…?」
???「そうです…。貴方はこの村の住人ではない…。一体どのような目的でこちらにいらしたのですか?」
雷角「村?」
???「…………」
雷角「……わしはある偉大なお方の命を受け、崇高な目的を遂げる為にこの地に遣わされた者…。やすやすと己の身を明かすわけにはゆかぬ……」
???「………そうですか。ならば貴方にはここで死んでもらわねばなりませんね……」
雷角「我が名は雷角。鬼道衆が筆頭、雷の技を屈指して御屋形様に仕える下僕!」(即答)
???「鬼道衆…?」
雷角「左様っ! ですが最近ではめっきり善人キャラで通っており! 戦いからも足を洗い、時々ひーちゃん様にちょっかいを出す連中にかる〜い仕置きをするだけでして…!」(へこへこ)
???「………貴方のような者がいるなどと、誰からも聞いてはおりません。本当に御屋形様に仕える者なのですか?」
雷角「そうでっす! 間違いないでっす! だ、大体、このわしの偉そうな面! 鬼の面でしょ、これ!? ほ、ほらほら、雷の技も出してしまうぞーバリバリバリッ!」(技放出)
???「……やめて下さい。礼拝堂が壊れます【怒】」
雷角「はっ、やめます!」(即行)
???「……とにかく、貴方をこのまま見過ごすわけには参りません。御屋形様にご報告して…」
雷角「…!? そ、そういえばさっきも御屋形様の事を言っておったが! こ、ここはもしや…!? お、おい貴様! 貴様、名を名乗れ、すぐ名乗れやれ名乗れ! も、もしやわしは到着しているのか、御屋形様のご先祖様がおる場所に!?」(いきなり殺気だって男の胸倉を掴む雷角)
???「く…っ! な、何を…放しなさ…!」
雷角「ええい、黙れ黙れ! さっきから大人しくしておれば調子に乗りおって! 未来の鬼道衆が筆頭を何と心得ておるか! 過去の御屋形様とて貴様の無礼をお叱りになるに違いないぞ!」(そうか?)
???「な、何を…!」
雷角「うおー何処じゃ何処じゃ御屋形様ー! あとひーちゃん様ー!」
???「………(汗)。貴方は…本当に御屋形様や…それに龍斗師の事を…?」
雷角「!? 龍斗師!? おおう、ひーちゃん様のご先祖様じゃなー! 知っておるおる、知ってるも同然! ひーちゃん様とは家族も同然なのじゃーわしら鬼道衆は♪」
???「…………」
雷角「で、おぬしは何者じゃ? フン、そのようなしまりのない格好をしおって…。鬼道衆の一員なら、ほれ、このような戦闘服を着なければ駄目であろうがっ」
御神槌「……私の名前は御神槌」
雷角「あん?」
御神槌「……私は鬼だが…だが、迷ってもいる…。今の、自分に……」


雷角と御神槌がお互いの存在に慣れ、仲良く肩を並べて話すようになるのにそれほどの時間はかからなかった。
元々が聞き上手の御神槌、それに「とりあえず」鬼道衆の中では1番のまとも派路線で通っている雷角である。
そしてまた、雷角は「御神槌」という彼の名前に何とも表現し難い、遠い昔に忘れ去ってしまった記憶を呼び覚まされる気がしていた。


御神槌「……つまりはこういう事なのですね。貴方は今のこの時代から…遠く遠く離れた未来からやってきた…。そこでは貴方は未来の九角家当主・天童様というお方の右腕で、鬼道衆を束ねる存在であると…」
雷角「左様。出来の悪い部下が多くて、わしも御屋形様も大変なんじゃ。今回だって他の奴らは何処へ飛ばされてしまったものやら」
御神槌「…………」
雷角「おい、これ飲んでも良いか?」(出してもらった飲み物を飲み尽くし、御神槌のにまで手を出そうとしている雷角。お前は岩角か!)
御神槌「……あ、はい。どうぞ」
雷角「ふ…すまぬな。何せここに来るまでが大層しんどかったもので、さすがに身体が疲れておる」
御神槌「……しかしやはり俄には信じられません。貴方が遠い時代からやってきて…我らに敵対している者たちを倒しに来たなどと」
雷角「まあ、そうだろうとも。だが、これは夢でも何でもない、れっきとした事実なのじゃ。我らは我らの悲願を達成させる為、必ずや今の時代のおぬしらにとっても邪魔に違いない、【あの者】の抹殺を成し遂げる!」←戦いからは足を洗ったんじゃないのかよ
御神槌「……未来の鬼道衆が幕府を倒す為に立ち上がるとは…」
雷角「ん? 幕府??」
御神槌「彼らは今も…いえ、彼らの子孫たちになるわけですが…。今も、我々のような弱き者を無視し虐げながら…存在し続けているのですか…」
雷角「彼ら? あ、真神グループの事かの? そうじゃそうじゃ。未来の時代でもひーちゃん様を独り占めしまくっておる、わるーい奴らじゃ。この時代でもやっぱりそうなのか!」
御神槌「…………そうですか」
雷角「じゃが、安心せいっ。奴は我らが鬼道衆が抹殺するでの♪ つよーい後ろ盾もおる事だし。ついては、こっちの時代の御屋形様とひーちゃん様のラブラブシーンも見たいところじゃが…」
御神槌「…………」←まるで聞いてない
雷角「……? どうかしたか?」
御神槌「私は…いつでも、迷っているのです……」
雷角「何をじゃ?」
御神槌「…………」
雷角「………御神槌よ、何をそんなに悩んでおるのだ? おぬし、れっきとした鬼道衆の一員であろうっ。ならば御屋形様とひーちゃん様の恋路を邪魔する輩は全て一掃する! それを行うのに何のためらいがあると言うのだ?」
御神槌「……私は常に苦悩しているのです。この地で穏やかな空気に身を委ねながらも…私のこの胸の内には、闇よりも暗い憎しみの感情が絶えず蠢いている…。果たして私のこの感情と彼らの汚れた思想とは…一体どちらが罪深いものなのだろうかと」
雷角「む…? 何かよく分からん話じゃ…」
御神槌「教えて下さい、雷角殿っ。未来は…我らの未来は、一体どうなっているのでしょう? この村の者たちは、いえ全ての人々は平和に幸せな時を刻む事ができているのでしょうか!? 私たちのこの…行動によって…」
雷角「ん? おぬしらの行動って…何しておるのだ? やっぱこっちでも御屋形様とひーちゃん様をくっつける為に何か計画しておったのか?」
御神槌「………!」(縋る目。やはり雷角の声は全く届いていない)←割かし自己中
雷角「そうか…おぬしらも苦労しておったのだな…。だが今のところ、未来ではおぬしらのその苦労は報われておらぬぞ」
御神槌「な…っ!!」
雷角「だっての、あっちの世界では今外法は梧主オンリーサイトになって…って、おい御神槌? おーい御神槌、寝るなー」
御神槌「……ばったり(倒)」


やはりまるで通じ合っていなかった2人の会話。
御神槌は雷角の言葉を信じ、ますます未来に絶望的なものを感じてしばし塞ぎこんでしまうのだった。
その間、雷角が御神槌の代わりにミサを行ったとか何とか…真相は明らかではない。



以下次号……






戻る14へ