《14》 |
『 今日の俺は機嫌が悪い。 』 火邑は痛む腕を意識しながら、一人鬱々とした気分で山の中を歩いていた。 村にはいたくなかった。嵐王の所へさえ。奴の所へ行けばこの痛みを多少なりとも和らげてくれるだろう事が分かってはいたけれど。 それでも、今はそれすらしたくなかった。 何もかもをぶち壊してやりたい気分。 それというのも、妙な夢を見たせいだ。 妙な…何か…啓示のような、胡散臭い夢。 ???「今日お前は、内に秘めたもう一人のお前と出会うであろう……」 火邑「もう一人の…俺だァ?」 ???「偽る事のない本来のお前…。彼を見よ。そして彼に学ぶがよい……」 火邑「何を言っていやがる。俺が偽っているだと?」 ???「行くがよい…見るがよい…お前の本当の姿を……」 夢など見たのは何年ぶりだったろうか。それもあんなにハッキリとしたものは。 バカバカしいとは思いつつも、それでも気にはなった。 偽っていると言われた。得体の知れない、誰かに知った風に言われた。 むしゃくしゃしたが、それを全面的に否定できない自分に火邑は苛立たしさを感じていた。 火邑「くそ…っ。面白くもねえ…!」 しかし、火邑がそうつぶやいた時だった。前方から……。 シャウッ! シャウッ! ダンスダンスダンス…… 火邑「………?」 ダンス! ダンス! ロックンロールイエ〜……シャウッ! 火邑「何だぁ……?」 何やら怪しげな声とリズムに、火邑はぴたりと足を止めて一瞬身構えた。 殺気は感じない。 イエイエイエ〜ここは何処だぜイエ〜シャウッ! 火邑「…………」 声の主は楽しげに歌っているようだった。 その音のする方へ歩み寄っていくと、その歌声はどんどん大きくなっていき…。 また同時に、火邑は自分の「炎」の氣と同じものをそこから感じた。 火邑「まさか……」 火邑は逸る気持ちを抑えながら、声のする方へ更に歩みよった。 感じる。 自分と同じものを。熱い炎、そして赤い血潮を。 火邑「お、俺の本来の姿……?」(ごくりと唾を飲み込み、茂みをかきわけ…!) 炎角「イエーイ! イエイエ、ファイアホーンダーンスっ!!」(腰くねくね♪) 火邑、石化。 炎角「イエイエイエイ、迷子だからってくじけない! それが俺だぜ、ファイアーダンスっ! ダンダンダンス〜ダンダンス〜エッ!」(手足くねくね) 火邑「…………」 炎角「お? 侵入者、発見!」(火邑の存在に気づき、びしりと指を差す炎角) 火邑「…………」 炎角「誰だ誰だ誰だイエ! 俺のダンスに見惚れたか!?」(首くねくね) 火邑「…………」 炎角「怪しさ全開! 伺い見るぜっ! 名乗ってくれよ〜ヘイ、ボーイッ! イエ!」(びしいっ!) 火邑「………ふ、ふざけ………」(俯いたまま、ぴくぴくと肩を揺らしている火邑) 炎角「ん? 何だかイエ〜お前イエ! 仮面の下の♪ 俺の素顔に似てい―」 火邑「……ッ!?」 瞬間、火邑の頭の中で最大警戒警報が鳴り響いた。 言わせてはならない、その台詞を! 最後まで! 火邑「燃え尽きろォッ、業火―――――ッ!!」(ゴウーッ【炎】!!!) 炎角「ウワッチー!!」(どぴゅーんと燃やされながらふっ飛ばされた!!) 火邑「ハアハアハア……ッ(汗)!」 炎角「アーレー……」(炎角はキランと光ってお山の彼方へ消えていった……) 肩で荒く息をし、火邑は炎角が消えていった方向をしばし見やった。 全身は未だ炎の殺気で覆われている……が、何故だかそんな火邑の目はやや涙目であった。 そして……。 火邑「嘘だ―――――ッ【涙】!!」(だーっと走り去って行く火邑)←かわいそう ………炎の戦士・火邑に明日はあるのか。 そして我らが炎角の安否は如何に!?(きっと無事) 以下次号…… |