《16》
鬼道衆一の平凡男・風角は、今天にも昇るほどの嬉しさを味わっていた。
自分の目の前を歩いているこの人物。少し小柄ではあるが、この顔、この雰囲気。
間違いなく。


風角「憧れのひーちゃん様のご先祖〜ッ【愛】!!」(握りこぶしでガッツポーズ)


他の仲間たちは何をしているのだろうか。恐らく近くに飛ばされたのだとは思うが…。
何にしても、やはり普段の行いがものを言うのだな。この俺だけがひーちゃん様のご先祖のこんな近くに来られたのだから!
風角はうっきうきした気持ちを押し隠す事ができなかった。風角はめちゃくちゃ浮かれていた。
前方を龍斗と歩く九桐の不審そうな視線にもまるで気づかないほどに。


九桐「師匠」
龍斗「んー…」
九桐「師匠は本当にあいつが嵐王だと思っているのか?」
龍斗「何を言っている。どこからどう見ても嵐王じゃないか」
九桐「いや、どこからというのは…どうかと思うが(汗)。大体にして話し方や、ほれ、あの浮かれた様子。挙動不審な動き…。あの嵐王があんな態度を今まで取った事があったか?」
龍斗「あるある。あいつの素は元々あんな感じ」
九桐「は……?」
龍斗「あれが本来の嵐王のあるべき姿。いつもが偽りなだけだよ」
九桐「い、いや…(汗)。そ、そうなのか……?」
龍斗「うん♪」
九桐(し、しかし、本当にこんな怪しげな奴を若の所に連れて行って良いものか…。いや、まあ俺も師匠もいるのだから、いざとなればどうとでもなるが、だがしかし……」(悶々と考え込む案外苦労性な九桐)
ニセモノ嵐王(以下・風角)「あのー、ひーちゃん様〜♪」
龍斗「………ん、なにっ?」(あだ名で呼んでもらえたのが大層嬉しかったのか、ぴくりと反応を返す龍斗)
風角「ひーちゃん様は〜この村の長であらせられる御屋形様の〜何なんですか〜?」(ズバリ、直球ストレート・クエスチョン!)
龍斗「は?? 何…って…??」
九度「何なのとは何だ! 大体お前、その訊き方は…!」(はっと我に返ってむっとした顔を向ける九桐)
風角「だってひーちゃん様はこの村に馴染んでいるようだし〜。ここは何つっても鬼の棲む村っすよ。何で〜どうして〜? 過去のひーちゃん様は実はとっくに御屋形様だけのもの?」(←お前、バレてもいいのかってほど素が出まくりの風角)
九桐「……貴様、止まれ。やはり嵐王などではないな。何者だ!」(ちゃきんと槍を携えて風角に向き直る殺気立った九桐)
風角「う…わわわわっ(焦)! な、何を…お、俺は風の技の継承者・嵐王…!」
九桐「もう少しマシな嘘をつけ。貴様が嵐王であるはずがない。生憎だが俺は師匠よりも嵐王との付き合いは長い。その俺の目はごまかしきれんぞ」
龍斗「九桐」
九桐「師匠、止めるな。如何な師匠の言葉でもこれ以上この素性の知れぬ者をこの村にのさばらせておくわけにはいかん。それは若を護る使命を負ったこの俺の責任ってやつなんだ」
風角「ひーっ! ひ、ひーちゃん様ぁ〜!!」(勝ち目がない事を悟っているのか、完全に両手を挙げ降参風味の風角)
龍斗「九桐ってば」
九桐「嵐王をどうした。答えろ!」
龍斗「無視するな【蹴】」(どげしっっ!!)
九桐「ぐはぁっ!」(背後から龍斗に蹴りを入れられ倒れこむ九桐)
風角「…な…なな……っ!?」
龍斗「俺が呼んだらすぐ応えろ。それが弟子ってもんだろ」
九桐「ばったり(死)」
風角「す…すっげー! 一撃で! すげーぜ、さすがひーちゃん様っ【愛】! か、かーっこいいー【激愛連打】!!」(ぱちぱちと感嘆の拍手をする風角)
龍斗「なあ、嵐王」
風角「は…はいっ! 何でしょう、ひーちゃん様っ【愛】!」
龍斗「天戒がさ、お前を呼んだのって。あれを見せろって事だろ?」
風角「は……?」(きょっとーん)
龍斗「なあ…あれさ、天戒に見せる前に俺にも見せて」
風角「はあ…。あれって?」
龍斗「まあたまた。とぼけるな♪ もう出来てんだろ? いいじゃん、ちらっとだけ! な、いいだろ?」(ぴたりとくっついて肩を組んでくる龍斗)
風角「え…? え、えへへへへ…そ、そんなに密着されると照れまんがな、ひーちゃん様ぁ〜(照)♪」
龍斗「早く早く」
風角「え、でも何を見せればいいんでしょう」
龍斗「…………」
風角「ひーちゃん様が見せろと言うならもう、パンツでも同人誌でも何でも見せちゃうんですけど。でも俺、本当に何の事か分からないんです」
龍斗「………そうやってすぐ天戒と2人だけの内緒話にする」
風角「え!? い、いやいや、違いますよ! ホントですよ! ホントに見せたいんですけど、でも何の事か本当〜に分からないんです! な、何の事か教えてくだされば…!」(そうすればもう一度嵐王の家に戻って<それ>を取ってくる事も可能だと思っている風角)
龍斗「…………」(見る見る機嫌が悪くなる龍斗)
風角「……っ(焦)! ひ、ひーちゃん様、あの…っ」
九桐「う、うーん…(苦)」(蹴られたところをさすりながらむくりと起き上がる九桐)
龍斗「……九桐」
九桐「師匠、あのな(汗)。こんな時に不意打ちはやめてくれ。俺だってそうそう身がもたんよ」
龍斗「ごめん。あのな、こいつやっぱりニセモノだったよ」(あっさりー)
風角「なっ…!!!!」
九桐「は……?」
龍斗「こんな奴、知らない。嵐王じゃないみたいだ。ぶっ飛ばしちゃえば?」
風角「ひひひ、ひーちゃん様っ。そそそそんな…!!」
九桐「はっ…! そうか、師匠。やはりコイツはニセモノか!」(爽やかに嬉しそうな笑みを見せる九桐)
風角「びくうっ」
九桐「命運尽きたな。まったく師匠の気紛れにも困ったものだが…これで貴様を思う存分ぶちのめせるよ」
風角「ままま、待てっ! 俺はどこにでもいる善人な…」
九桐「問答無用。名も無きまま、死ぬがいい―」
龍斗「あ……」(もう興味をなくしたように、たたたと駆けて行く龍斗)
風角「はうあっ。ひーちゃんさ―!」

九桐「龍蔵院流奥義、龍刺ッ!」
風角「うぎゃあ―――――! そんな大技出しますか―――ッ(涙)!!」(きらきらと涙を散らしながら遠くの彼方に吹っ飛ばされました)
九度「……お前もまた、俺の技の糧に……も、ならんか(呆)」(あまりの弱さに拍子抜けの様子)


龍斗「天戒〜!」
天戒「ん…龍。何処へ行っていた。探したぞ」
龍斗「だって天戒、嵐王に用があると言っていただろう。俺、呼んできてやろうと思って行ったんだ」
天戒「ふ……。また何か企んでいるな?」(そうは言いつつも天戒の龍斗を見る目は優しげだ)
龍斗「違う。企んでいるのは天戒たちの方だ。いつも俺にだけ新しい式神見せてくれない」(ぶうと頬を膨らませる龍斗。やや甘えモード)
天戒「当たり前だ。お前に預けるとロクな事にならん。いい加減あいつを困らせるのはやめないか」
龍斗「あいつヘンだよ。ヘン過ぎ。おかし過ぎ。からかうと面白い」
天戒「まったく…。それで嵐王は何処だ? 呼びに行ったのだろう?」
龍斗「知らない。いなかった」
天戒「ん……?」
龍斗「ヘンな奴になってたから、九桐に処分させといた」←ひでえ…
天戒「………???」
龍斗「それより天戒、退屈だ。遊んでくれー」
天戒「こら、引っ張るな。俺は忙しいからお前の相手はしておれん。桔梗にでも遊んでもらえ」
龍斗「バカ、お前もたまには遊んだ方がいい。それに俺は天戒と遊びたいんだ」(ぐいぐいと袖口を引っ張る駄々ッ子龍斗。龍斗は天戒に対しては時々壊れ気味に甘えモード全開になるらしい)
天戒「………分かった分かった(苦笑)。少しだけだぞ」(そしてすぐに甘えさせちゃう天戒なのであった)←子煩悩


風角「どうせ…俺は真っ先に散る平凡男さ……(ばったり)」(山中の茂みの中にて)


5人のうち、早くも戦線離脱を余儀なくされた風角。残りの仲間たちは一体!?



以下次号……






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