《18》
現在、鬼哭村で一番不幸な男がここに一人…。
普段よりその豪胆さ、不敵さで他の追随を許さない彼は、しかし今、苦悩しきっていた。
そう、あの時あの山中で「妙なもの」を見てしまったばっかりに…。


火邑「ふう……」(村外れにある大きな岩の上で胡座をかき、頬杖をついてため息をついている火邑)
クリス「ヘイ、火邑!」(ひょいっと現れた明るいカウボーイ・クリス)
火邑「………んぁ?」
クリス「どうした? キミのその手で頬杖なんかついたら血がドバーッて出てしまうヨ?」(ってか、もう出てる)
火邑「ああ…ホントだな……」(頬にぐさりと刺していた手を離し、どくどくと流れる血を見つめる火邑)←重症です
クリス「Oh、元気ないネ。一体どうしたー? オレで良ければ相談に乗るよ」
火邑「ほっとけよ…。俺ァ、今誰とも話したくない気分なんだ…」
クリス「ん……そうなのか。それは悪い事したな」
火邑「…………」
クリス「それじゃあ少しでも気分が元に戻ったら、その時は声掛けてくれヨ? だってオレ達はトモダチ…だろ?」(にっこり)
火邑「クリス……」
クリス「それじゃあ、邪魔したネ。もう行くよ」
火邑「クリス…ちょ、ちょっと…待てや……」
クリス「………?」(呼び止められて振り返るクリス)
火邑「お、お前に…よ。ちょっと訊きたい事があるんだけどよ…」
クリス「ん? 何だい?」
火邑「お前には…その…テメエにも見えていない…所謂違う面ってのがあると思うか…(汗)?」
クリス「チガウ面…?」
火邑「ああ、そうだ! テメエ自身で認めちゃいない…けど、意外な一面ってやつが、不意に見えたりする事あるか?」
クリス「ああ…そりゃあ、あるネ」
火邑「何…ッ! そ、それはどういう…!」(上半身を乗り出して驚いた顔をする火邑)
クリス「オレは…いつでも笑顔でいたい、いつでも穏やかな心でいたいと願っている。だからいつもはそれを意識し、実際に実践しているつもりサ。けどね…時々…本当に時々だけど、自分自身でも信じられないクライ、黒くて邪悪な…自分がいる事があるんだヨ」
火邑「…………」
クリス「そういう時は…ちょっと参るネ」(寂しそうに笑うクリス)
火邑「いや…そういう面なら、結構羨ましいというか…。別に俺はそういうのあっても全然構わねェが…(汗)」
クリス「Why? 陰にこもると陰に捕らわれる。……結局この村の人たちの危うさは、そういうところにあると思うけど?」
火邑「あン?」
クリス「キミも含めて…ネ。だからオレは、ここではいつだって明るく軽く生きていたいと思ってル。ブラザーがこの村にいると言った時、だからオレは愛するブラザーと一緒に、ここで皆の力になりたいと思ったんだ」
火邑「……あァ、実際お前はよくやってくれてるんだろうよ……」
クリス「いや。でも、そんなオレでもその陰の氣に捕らわれる事があるんだ。結局はキミだってそういう事で悩んでいるんだろ?」
火邑「…………」
クリス「だけどね、俺は思うんだ。そういう面がある自分を否定だけしても…結局はそれに捕らわれてしまうだけだって」
火邑「んあ…?」
クリス「だからネ、火邑。もしキミの中にキミ自身が認めたくない一面があったとしても…」
火邑「な、何だよ…?」
クリス「それをある程度は許容する部分も必要なんじゃないかと思うよ」
火邑「バ、バカ言ってんじゃねえっ、俺はッ!!」
クリス「What?」
火邑「いや……、俺は……(苦)」
クリス「???」


火邑が黙りこくった事でクリスは訳が分からないという顔をしつつ、首をかしげた。
彼は一体何が言いたいのだろうか? いつだって自信に満ちた顔でその《力》を振るっている彼が。
己の中の知られざる部分に悩んでいるのだと思ったのだが…。(その通りですが)


???「ふんふんふん〜♪」


その時、不意に山の奥から何やら軽快な鼻歌が聞こえてきた。


???「ダンスダンスダンス〜♪ あんなくらいじゃ俺は死なない、ダンスダンスダンス〜♪」


クリス「……? 何だ……?」
火邑「!!!!!」(真っ青になって立ち上がり、森の方を見やる火邑)
クリス「ど、どうした…? 火邑?」
火邑「ま、まさか…俺はめいっぱい…めいっぱいぶん殴って……!」


???「イエイエイエ〜♪ 俺は不死身不死身不死身、ちょっとやそっとじゃ挫けない〜! ひーちゃん様のご先祖を〜この目で見るまで倒れない〜」←コワイ


クリスはその奇妙な歌にますます怪訝な顔をした。
その声に殺気はないので恐らく《悪いモノ》ではないだろうと、それは確信して思う。
けれど、違う意味で《危険なモノ》という雰囲気も感じないわけではなく……。


火邑「あ…あわわわわ……(汗)」
クリス「??? ヘイ、火邑! 一体どうした? 近づいてくるあの声の主…知り合いカ?」
火邑「な…!? んなわけねーッ!! お、俺があんなのの…! あれは俺とは無関係だーッ(叫)!!」
クリス「……じゃあ、どうしてそんなに怯えているんだ」
火邑「あ、あれは悪魔だ…。俺達を陥れようとしている、悪魔の声なんだ…!」
クリス「悪魔…ッ!?」
火邑「そうだ、悪魔だ! いいか、クリス…俺はこれまでテメエでもよっく分かっているってくらい、血に塗れ、地獄行きだろうって事もしてきたぜ。それこそ毎日な。それは認める。だが…だがなっ! <あんな>面が俺の中に潜んでいるって事だきゃあ、どんな事があったって認められねーんだよっ【怒】!」
クリス「火邑、何を…?」


???「ヘイヘイヘイ! ミュージックスターット! ダンスダンスダンス……」


クリス「…あそこから来る<何か>が、キミの見えざる一面なのか…?」(信じられないという顔をしつつも、真剣な顔で声のする方を見やるクリス)
火邑「あ…あわわ……ッ」
クリス「火邑?」
火邑「ぐわーっ!! お、俺に憑きまとうのはやめやがれーッ(涙)!!!」(叫びながらだーっと走って行ってしまう火邑)
クリス「お、おい火邑!? ど、どうしたんだ、一体!? Hey、火邑ーッ!!」


火邑が取り乱し去って行った方向を焦ったように目で追うクリス。
しかしそうこうしている間にも声は尚近づいてくる。


???「ふんふんふん〜。村はこっちこっちかな〜。それともあっちあっちかな〜?」


クリス「……特別害のある雰囲気は感じられないケド……」


???「うーんうーん、迷った迷った。どっちだどっちだ、こっちかなー?」


クリス「……ブラザーがよく言っていたな。どんな得体の知れぬものでも、ムヤミヤタラに手を出すのは良くないと。俺もそれを見習わないと」


しかし、クリスがまさにそう思った瞬間だった。
「奴」が…いや、現代の炎の鬼が姿を現したのだ。


炎角「ヘイヘイヘーイ! Oh、人発見! ここは何処だぜ何処だぜイエー!」
クリス「……………」
炎角「ひーちゃん様のご先祖様が〜にこりんしているスポットはここか〜? 俺の俺の俺の俺の俺のダンスを披露に来たぜーッ!」(びしいっとクリスに向かってダンスを決める炎角)


ガチャ。ちゃきん。(クリスは腰に巻いていたガンベルトからゆっくりとした動作ながら銃を取り出した)


炎角「んお??」


かちゃり。(装着完了)


クリス「Rest in pease…!!」(ドギューンッ!!)
炎角「ナーンデーッ!!」(どびゅーんっ【飛】!!)
クリス「……………」
炎角「アーレー………」(その声は木霊となって山々に響き、やがて消えた)
クリス「……ハッ! 気がついたら手が勝手に…ッ! お、俺は一体!? な、何だか無条件で攻撃してしまったヨ…(焦)!」


クリスの意識せざる暗黒面が解放されてしまったのだろうか…。
炎のダンス人・炎角は火邑に再ダメージを与えたものの、更に遠くの星となって消えた。
でもまだ生きてそうだけどね。



以下次号……






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