《19》 |
現在、鬼哭村で一番幸福に過ごしている男がここに一人…。 普段よりその大食い、考えのなさで他の追随を許さない彼は、さらに今、解放されまくっていた。 そう、あの時あの山中で「同類」と出会ったお陰で…! 岩角「泰山〜。見ろ、おで、今日はこの魚と茸! 獲ったど!」(小屋の前で薪割りをしている泰山にどたどたと走りよる岩角) 泰山「おお、いつもすげえけんど、今日はまた特別に凄いな、岩角!」 岩角「でへへへへへ…今日もまた御馳走だな」 泰山「んだ、御馳走だ。腕によりをかけて魚料理作るど」 岩角「わーい、楽しみだどー! 泰山は料理がとっても美味いんだどー!」 泰山「なあに、岩角が山の幸、川の幸、うまあぐ獲ってきてくでるお陰だあ。おで、すっごく助かってる」 岩角「助かってる?」 泰山「ああ。おで、今まで動物たちとここで仲良く暮らしてだ。あいつらとメシ一緒に食う事もあっだ。でも、こうやっておで以外の人間と仲良く暮らすの、何だが…久しぶりなんだあ」 岩角「何でだー? そういえばこの下の村にはいっぱい人いた。泰山のこと慕ってる子供らもいっぱいいた」 泰山「………」 岩角「それなのにどうじて泰山はここで一人で暮らしてるんだあ?」 泰山「おで……」 岩角「寂しくないのがあ?」 泰山「おで…寂しいって思う時もある。昔は…もっとむかあし…おでが色々な事忘れる前…おで、一人じゃなかったような気がするがら」 岩角「………??」 泰山「でも…おで、怖いんだあ。寂しいのより、いっぱいいっぱい怖いんだあ」 岩角「怖い?」 泰山「………んだ。村に下りればな。皆優しくしでぐれる。それ、おで分かっでる。御屋形様も良くしでくれでる。おでをここに住まわせてくれてるのも御屋形様だ。でも…おでは怖いんだあ…!」(ズシーンと斧を投げ捨てて頭を抱える泰山) 岩角「泰山、どうじだー? 頭、痛いのがあ?」(困ったようにうろうろする岩角)←らぶりー♪ 泰山「………だ、大丈夫だ。すまねな、おで、何だか辛気臭い話さじだ…」 岩角「シンキクサイ…って何だ?」 泰山「澳継がな。よく言うんだ。おではすぐに辛気臭い話するって。弱虫だって」 岩角「んん〜何だかよく分からないけど…おで、今澳継に嫌な気持ちしたど」(メラ…) 泰山「澳継はおでの友達だよ。あ、そうだあ、岩角にも会わせたいなあ」 岩角「ん〜? その泰山の友達にか?」 泰山「そうだ! あいつは時々ここらに来て特訓するんだ。強くなる為にって。御屋形様の為に。それは皆もそうだけどなあ」 岩角「ん…? んんん…?」(何やら首を捻って考え事をする岩角) 泰山「? どうかしたか、岩角」 岩角「おで…おでな、何か大切な事を忘れている気がするど」 泰山「大切な事?」 岩角「うん。ここで毎日美味しいものを食べたり美味しいものを探したりしているうちに、おで、どんどん何かを忘れてる」 泰山「……おでと同じなのかなあ」(哀しそうな顔をする泰山) 岩角「でも…ん〜何かそれを忘れるとすっごく怒られるような気がするど。御屋形様にも怒られるかもしれないどー」(ぎりぎり天童の存在だけは忘れていないらしい岩角) 泰山「そうかあ…。まあ、いいじゃねえが。おで、岩角が好きだ。おで、岩角にはいつまでもここにいて欲しいど!」 岩角「え〜いいのが〜?」 泰山「勿論だ! 何だか岩角はおでの兄弟みたいな気がするだでよ! 思い出すまでここにいるといいど!」 岩角「……そうだな!」 泰山「そうだ!」 そうして、本当にいいのか岩角! 山を下りないか岩角! …などという、作者の思惑とは裏腹に、岩角は優しい泰山にすっかり甘えて自堕落な生活を送る方を選んでしまった。 ……まあ、悪巧みより山で自給自足の生活している方が偉いんだけど。 しかし、この話はそんな企画ではないので、話は無理やり進行するのである。 突然。 ガサリと音がし、不意に小さな人影が突然岩角たちの目の前に現れた。 相手は走ってきたのだろうか、茂みから飛び出てくるまで2人の存在には気づかなかったのだろう、不意に視界に入った巨大な男たちにぎょっとした顔をした。 ???「わ…わわわっ…! な、何だあっ!?」 泰山「あ、澳継【喜】!」 風祭「へ…あ、た、泰山! テ、テメエ、コイツは何者だあっ!? こ、このお前と全く同じ体型した鬼面の奴はあっ!」 岩角「おでは鬼道衆が一人、岩角だどー」 風祭「……! 鬼道衆だと…!」 泰山「澳継〜。岩角はおでの友達なんだどー」 風祭「と、友達だあっ!? ……こら、泰山【蹴】!!」 泰山「い、痛いど!」 風祭「るせーっ! どういうつもりだ! お前、こんな得体の知れない奴、俺は知らないぞ!」 泰山「が、岩角はある日突然山に落っこちて来たんだど」 風祭「な、何だと…?」 岩角「おで、あんまり覚えてないけど…」 風祭「やい、テメエ! まずはその面を取れ! 顔を隠すなんざ、怪しすぎるってんだ! ある日突然落っこちて来ただあ!? んな事あるわけねーだろっ。テメエ、さては幕府の…!」 泰山「そ、そったら事ねえだよ、岩角は…」 風祭「テメエは黙ってろ! このドン臭い泰山に近づいて俺らの村の情報を得ようとしたのか!? 死ぬ覚悟はできてんだろうなっ!」 泰山「やめてくで、澳継! 本当に岩角は悪い奴じゃねえんだーっ」(ぐおおっ【抱き上げ】!!) 風祭「わ、こら離せ! やめろ泰山、持ち上げるんじゃねーっ(焦)!」 岩角「ぽかーん」 風祭「く、くそ、おい泰山! テメエ! 御屋形様の危険になるような事、御屋形様が許さない事をお前はやるってのか!? そんな事が許されるとでも思ってんのかよっ!!」 泰山「そ、そんなそんな…おでは……」 岩角「……泰山が困ってるどー【怒】。おで、お前が嫌いだどー」(ぬうぅん…と久々の戦闘モードになる岩角) 風祭「……へっ。とうとう正体を現しやがったな…!」 泰山「やめてけれ、岩角、澳継〜!!」 岩角「おで、やだどー。それに何か、コイツからは陰の龍の気配がするどー」 風祭「は…!?」 岩角「おでの…ううう…頭が痛いど…。でも確か…おでの御屋形様にとってとってもとーっても邪魔な奴に、陰の龍のキックする奴がいたような気がするどー」←でも彼の先祖は霜葉だよ、岩角 泰山「が、岩角…?」 岩角「おで…おでは、おでは…おでは……」 風祭「……何だコイツ……」 岩角「あーっ!! 思い出しだーッ!!」 そして突然、岩角は大声を上げ、風祭を持ち上げたままの泰山を見やった。 そうして興奮したようにうろうろし、焦ったように地団太を踏んで泰山に言った。 岩角「おで、仲間と一緒に来たんだど! 使命を果たす為に来たんだど!」 泰山「使命…?」 岩角「そうそう! おで、抹殺しなきゃいけない相手がいたんだど!」←そっちを思い出したなんて凄い 風祭「何だと……」 岩角「偉いお方に命令されたんだ! それやらないとおでたち殺されるから! 行かないといけないど!」 泰山「…………岩角」 岩角「おで、行くど! みんなを探すど! 山を下りるど!」 泰山「岩角、こ、殺さなきゃいけない相手って誰なんだあ…?」 岩角「それは言えないど! そういうのは口が裂けても言っちゃいけないんだって雷角が教えてくでた! 御屋形様も口の軽い奴は嫌いだっていつも言ってる!」 泰山「…………」 岩角「だから例え泰山でも教えてあげられないんだどー」 風祭「……おい、泰山。もういいだろ、下ろせ」 泰山「………う……」(黙って風祭を下ろす岩角) 風祭「……おい、テメエが山を下りられる事なんざねえんだよ」 岩角「嫌だど! おで、山を下りるど!」 風祭「テメエが危険な奴だって事が分かった以上…俺らが黙ってお前を行かせると思うかよ?」 岩角「駄目だど! おで、お前たちよりよっぽど危険な人から命令されてんだど!」(かなり必死) 風祭「うるせえっ! 行くぜ、泰山!」 泰山「……ううう。おで、おで、人殺ししたくない…岩角にもしてほじくない…」 風祭「泰山っ!!」 泰山「岩角、人殺しはよくないんだどー…おで、おで…っ」 風祭「もういい、俺がやるぜっ。くらえ…」 しかし。 そう言って風祭が岩角を攻撃しようとした時だった。 ???「神通ッ! つぶて嵐ッ!!」 岩角「うぎゃあーおーっ!!」(どっびゅーんと打撃をくらいながら遠い彼方へ飛ばされました) 風祭・泰山「……ッ!?」 岩角「お〜では〜何処へ飛ばされるんだど〜ど〜ど〜……」(声は木霊となり、やがて消えた) 突然、嵐のような風と石つぶてが、木の葉が、土が、岩角めがけて襲いかかり、そのままの勢いであの巨体を2人の前から連れ去ってしまったのである! 泰山「な、な…何だあ…?」 風祭「あの技は……!」 風祭がきょろきょろと辺りを見渡した時、しかし周囲は既にしんとなり、元の静けさに立ち返っていた。 嵐を起こした人物も、当然いない。 風祭はぎりと歯軋りした後、しかしふうと諦めたようになってため息をついた。 認めたくはないが。 山の主がああいう風に出てきて奴を飛ばしたのなら仕方がない。自分はこの事を御屋形様に報告するだけだ。 風祭「おい、泰山! お前も来るんだからな!」(デカイ泰山にジャンプして耳を引っ張る風祭) 泰山「痛テテ…痛いど、澳継〜」 風祭「全く、メンドーな事起こしやがって!」 ???「くっくくっ……」 ところで、この2人の様子をすぐ近くの木の上で観察していた男が一人。 風祭の警戒網をかいくぐり気配を消したその男は、実に楽しそうに手にした扇を口許に当てながら小さく笑った。 男は嵐を起こし、岩角を飛ばした方向を面白そうに見やる。 そうして一人、誰にも気づかれないようにつぶやくのだった。 們天丸「おちび、堪忍なッ。わい、山を愛するモンには甘いねん」 以下次号…… |