《20》 |
ジャーン! ジャジャーン〜! ジャジャ〜………(余韻)。 チャラリラチャラリラチャラリ〜ンッ。ジャ! ジャジャーン! 荘厳なパイプオルガンの音色が礼拝堂の中一帯に響き渡る…。(↑あれBGMのつもりかよ!) 一体いつからあんな代物がここに置かれるようになったのか、村人の中で知る者は一人もいない。 ただ、嵐王あたりが敬虔なクリスチャンの御神槌の為に用意してくれたのだろうと大勢の者は思っていた(しかし嵐王は未だ風角のせいで自宅に閉じ込められたままだったりする)。 この頃、村人たちはよく教会へ足を運ぶ。 最近の御神槌の教えは今までよりもより一層ありがたく、且つ刺激的なものであるともっぱらの評判であったから。 しかし、その御神槌の本当の正体は……。 村娘A「御神槌様〜。今日もありがとうございました!」 村娘B「御神槌様〜。これ、お祈りの後で食べて下さい。私が作ったんです〜」 村娘C「あ〜抜け駆け〜ズルーイッ」 御神槌「ふふ…皆さん、どうもありがとうございます。さあ、今日のお話はこれで終わりです。気を付けてお帰りなさい」 村娘「はーい! 御神槌様、また明日〜!」 御神槌「はい、また明日」(にっこり) 頬を染め、嬉しそうな顔をして村娘たちがぱたぱたと駆け去って行く。 御神槌は穏やかな笑顔のまま、礼拝堂の前でそんな彼女たちを見送った。 そうして、今日も1日村人たちの為に自分は何ができただろうかと思い返し、ゆっくりと帰路に着くのだった。 【御神槌の家】―鬼哭村の一角にて―。 御神槌「ただ今帰りましたよ」(ガラガラと引き戸を開けて、家の奥へ声をかける御神槌) ???「あ…お、お帰りなさい」(よろり…) 御神槌「ああ、起き上がらなくて結構ですよ。まだ無理をなさっていはいけません。あれ以来、熱がなかなか下がらない状態が続いているのですから」 ???「し、しかし…私が行かなくては朝や夕刻のお祈りもままならないでしょう…? みんな、困っていませんか」 御神槌「大丈夫ですよ。私がうまくやっていますから。貴方は無理をせず、とにかく横になられていれば宜しいのです」 ???「で、ですが雷角師…」 御神槌…???「しーっ」 寝床に伏していた者は外から戻って来た「御神槌」を「雷角師」と呼び、同時に自らのやつれた顔をゆらりと上げた。 何と! そこにいたのは憔悴しきってはいたが、それこそ正真正銘の御神槌であった。 ホンモノの御神槌は目の前の自分とそっくりな顔をした人物…雷角の事を心配そうに見つめた。 御神槌に化けた雷角…の方は、しかし至って落ち着いた様子で、そんな御神槌に人差し指を自らの口に当て、静かにするよう戒めた。 雷角「ここで私の名をめったに呼んではいけませんよ。私は今、貴方…御神槌で通っているのですから」 御神槌「し、しかし…皆さん、不審に思われてはいませんか?」 雷角「ふふ…心配ご無用。私と貴方の顔は、ほれこの通り、年齢こそ多少違えども全く同じなのです。ちょちょいのちょいと特殊メイクを施せば、鬼哭村にいる、ほれ御神槌くんにウリふたつ。バレる事などありません」(ぺりぺりと特殊パックをはがしながら言う雷角。どんなメイクだよ) 御神槌「……しかし毎日貴方に御勤めをして頂く事…気がひけてなりません。貴方はこの村の人間ではないのに…」 雷角「何を仰るのです。私と貴方は同じ一族ですよ。遠慮などなさる必要はありません。それよりも今はゆっくりと身体を休めて下さい」(にこにこー) 御神槌「………雷角さん……貴方、出会った当初から比べると随分話し方が変わりましたよね(汗)」 雷角「ふふ…いやあ…貴方に化けているうちに、すっかりこの話し方が板についてしまったのですよ」(ふっと鼻で笑い、前髪を振り払う仕草をする雷角) 御神槌「…………」(不安そうな顔) 雷角「ああ、そうそう。これから夕餉にしますから。待っていて下さいね。私のファンだという村の娘から美味しそうな差し入れも貰ってしまいましたしね。一緒にこれも出してあげましょうね」 御神槌「………すみません、ご迷惑おかけして」 雷角「らんらんらん♪」(楽しそうに鼻歌を歌い、部屋を出て行く雷角) 鬼道衆が一人・リーダー格の雷角は、今かなり浮かれていた。 御神槌と偶然の出会いをしたまではいいが、自分の先祖である(らしい)その彼は、惰弱な事に未来に絶望し寝たきりになってしまったのだ。 そのことにより最初こそ困った雷角だったが、この村の内情を知る上でも良い経験かと思い、彼は御神槌に成り代わって村のお祈りをする役を買って出た。 当初それは不安で、面倒で、自分にこの上もなく不釣合いなものだと思った。 思ったのだが。 ある日突然、彼は「目覚めて」しまったのである! 雷角「ぐふふふふ……。布教してやる…布教してやるぞ…! この村で神の名を騙り、御屋形様とひーちゃん様のめくるめく愛の軌跡を…もとい、奇跡をっ!!」(ごうっ!!)←闘志の炎 そう。 雷角は「神の教え」などという大層なお話は一切していなかった。 彼が毎朝毎夕、礼拝堂に集まる人々に聞かせる話は、同人娘たちが泣いて喜びそうな萌えどころ満載な単なるホモエロ話だったのだ! しかも! 顔が御神槌なので村娘たちの心も人気もまとめてゲット! モテまくって九主布教が出来て命の危険のない毎日! 最高過ぎる! 雷角は今、幸せの絶頂にいたのである。ちなみに任務は忘れかけている。 御神槌「はあ〜……」 一方、ホンモノの御神槌は、生命エネルギーを雷角に日々吸い取られているのか、衰弱の一途を辿っていた。 自分たちのやっている事が未来に何の影響も及ぼしていないと雷角によって聞かされた時のショック。 絶望。 立ち上がる気持ちになれなかった。彼はどちらかといえば嫌な事があると不貞寝して現実逃避するタイプだった。 毎日雷角がメシ作ってくれてお風呂も沸かしてくれて世話してくれるし、とりあえず生活に支障ないし。 しかし御神槌はこんな事でいいのだろうかとそろそろ思い始めていた(どうしようもないキャラになってる…)。 ???「おやおや、これはどういう事かな」 御神槌「誰です…ッ!?」 ???「俺だよ、御神槌君。天井裏から失礼する」(しゅたっ!といきなり天井から人影が…) 御神槌「……奈涸さん」 奈涸「ふ…久しぶりだね。どうした、身体の具合でも悪いのかい」 御神槌「あの、いつも言ってますよね。訪ねてくる時は表から入って来て下さいと。いくら忍者だからといって、いつもいつも天井裏から突然やって来られても困ります!」 奈涸「まあ、そう怒らないでくれ。これでも心配していたんだよ。最近顔を見なかったからね」 御神槌「え…っ!」 奈涸「表から入っても良かったが、そこでは君のニセモノが鼻歌交じりに食事の支度をしているし。邪魔をしても悪いと思った」 御神槌「な、奈涸さん…気づいて…?」 奈涸「気づかない村人たちの方がどうかしているよ。毎日あんな話をし続ける君を見ていて、よく誰も何も言わないものだと思っていたんだ。まァ、それも面白かったのでこの俺もしばらく見て見ぬフリをしていたがね」 御神槌「あんな話…??」 奈涸「しかしそろそろ引き上げさせない事には、桔梗たちも礼拝堂での噂を聞いて明日あたり様子を見に来ると言っていたからね。忠告に来てあげたんだよ。天戒の許可も得ずに見知らぬ男を村に入れたとあっては、如何な君でも何らかの処分は免れられまい?」 御神槌「………私は……罰は甘んじて受けるつもりです。元からそのつもりで……」(俯く御神槌) 奈涸「ほう…? しかしあれは実際何者なんだい」 御神槌「私にも…よく分かりません。でもきっとこの罪深き私を戒めるために神が遣わした天使なのだと思っています」 奈涸「………ぶっ」(思わず吹き出してしまった奈涸) 御神槌「私は…私は、一体どうしたら良いのか分からないのです…ッ」(肩を震わしてウケている奈涸には気づかずマイモードな御神槌) 奈涸「何がだい(嘲笑)」 御神槌「未来の話を聞きました…。私たちがやっている事は、この先の世の為になる事だと信じていたのに…」 奈涸「何の話か分からないが。君をそこまで苦しめているのなら、あの天使とやらも随分罪作りな奴だ。面白い話を聞かせてくれる愉快な面もあるので、見逃してやっても良いと思っていたが」 御神槌「……? そういえば先ほどもそのような話をされていましたよね。彼、礼拝堂でどのような話を村人たちにしているのです?」 奈涸「聞きたいのか?」(にやり) 御神槌「それは…勿論です。彼は倒れた私の代わりに毎日献身的に御勤めを果たして下さっています。そんな彼が村人たちにどのような救いの話を聞かせて下さっているのか…」 奈涸「ふっ、救いか…。ある意味救いようがなさ過ぎて、陰に篭もった村人連中には救いとなる話かもしれないがね」 御神槌「???」 奈涸「この俺が多少の脚色も交えて聞かせてやろう。君に化けた偽御神槌はな……」(御神槌に近づいてこっそりと耳打ちする、悪巧み全開の奈涸) それから小1時間後。 雷角「さあさ、できましたよ、夕餉の支度が。今日は格別に美味しくできたと思います」 御神槌「…………」(俯いたまま顔を上げない) 雷角「……? どうしました、まだ具合が悪いのですか。いけませんねえ、それじゃあ、尚更しっかり食べ…」 御神槌「………黙れ」 雷角「へ? どうしました?」 御神槌「その話し方…。この私を真似て、あんな……あんな、破廉恥な話を……!」 雷角「はあ……? どうなさったのです、一体? よく聞こえませんが」 御神槌「聞く必要などない」(すっくと立ち上がり、きっと顔を上げた。殺気全開モードである) 雷角「へ………」 御神槌「轟雷旋風輪ッ!!」 雷角「ウギャ―――――――ッ!!」 御神槌「………神の裁きを受けるが良い…ッ」(すっかり鬼モードな御神槌さんであった) 雷角「わしだってたまには色男に浸りたいんじゃ〜じゃ〜じゃ〜……」(木霊となって消えて行った) 奈涸「くくっ…。全く面白い……」 陰から一部始終を見ていた悪徳商人兼忍者・奈涸の手には、雹姫発行の絵巻物も握られていたとか何とか。 怒りの御神槌の部屋には雷角の骨片一つ残されていなかったという……。(死んでない) 以下次号…… |