《23》
ざわざわざわ。
ざわざわざわっ。ざざざーっ(焦)!
ひそひそ。こそこそ。


雷角「ううむ。確か蓬莱寺京梧が根城にしている龍泉寺とやらはここの通りを少し行った辺りだと思うのだが」
水角「早いところ始末をつけなきゃねっ。わらわ達の命が危ういわよっ」
風角「そ、そうだな! なるべく急ぎたいところだな!」
岩角「なあなあ、風角〜」
風角「ん、何だ岩角。またハラでも減ったのか? ったく、今はちょっと我慢しろよ。それどころじゃねえんだからよー」
岩角「違うどー。おで、ちょっと訊きたい事があるだけなんだどー」
風角「ん? 何だよ?」
岩角「おでだち〜何か周りの人たちにじろじろ見られている気がするんだどー」
風角「へ……」
岩角「何でだー?」


確かに岩角の言う通りである。
なるべく目立たないよう、事を荒立てないよう、道の端を歩きながら目的地へ向かっていた5人だが、先ほどから町民たちの視線がやけに痛いのである。
直接話しかけてくる者はいない。
むしろ彼らを見てこそこそひそひそ耳打ちする者は大勢いるが、大抵は彼らが近づくとさささと慌てて道を空ける。逃げる。
これは誰がどう見ても一種異様な雰囲気であった。


岩角「おで、何だか居心地が悪いどー。恥ずかしいどー」
風角「ええ〜? …ったく、らしくもねえ事言ってんじゃねえよ。気にするなって。いいか? 人間誰しも『自分は他人に見られてる』って不安に駆られる事はあるもんだ。けどな、実はそれってただの気のせいな事が多いんだ。大抵はだーれも、テメエの事なんか気づいてもいないぜって事が多いんだぞ?」
岩角「ふーん。ぞういうもんなのがあ?」
風角「そういうもんなの。だから気にするな気にするな」
水角「……でも確かにわらわ達、何だか目立っているような気がするねえ…。さっきから視線が痛いってのはわらわも思ってた事で…」
風角「おーいおいおい、どうしたんだよ、水角までえ。あ、分かった! あいつだよ、あいつ!」
水角「あいつ?」
風角「炎角だよ。みんなあいつの異様なステップに目を奪われてんじゃねえか?」
炎角「シャウッ! ダンスッ! オ? 俺を呼んだか呼んだかイエ?」(腰を振りながら最後尾でステップしている炎角)
水角「……あぁ、なーるほど!」(ぽんと手を叩く水角)
風角「な? 俺たちは慣れちまったから何とも思わなかったけど、確かにこの時代の人間たちにゃ、あのステップは気になるところじゃねえ?」
水角「そうだねえ。じゃあ、別にわらわ達がヘンに思われてるって事じゃなかったんだねえ!」
風角「そうそう! 気にするな気にするな!」
岩角「んん〜?」(納得しかねるように一人腕組をして首をかしげる岩角)
炎角「ダンスダンス! へいへいへい!」(構わず1人で踊り狂う炎角)
???「こらこらこら〜! 待っちやがれ、そこの5人衆〜!!」
一同「は?」


ところが突然背後から猛烈な勢いで駆けて来る足音と共にそんな声が5人に掛けられた。
それにより、鬼衆たちは一斉に振り返った。
するとそこには息せき切って駆けて来るいかにも間抜けそうな男が1人…。


???「こらこらこら〜! テ、テメエら真昼間からこんな大通りにその姿を晒しやがって! この岡引の与助が来たからにはもう容赦しねえぜッ! 大人しくお縄を頂戴しやがれっ!」
雷角「……何じゃコイツ?」
水角「岡引ってあの時代劇によく出てくる奴かねえ…」
岩角「弱そうだどー」
風角「炎角、お前やるか?」
炎角「ラジャー!」
与助「ななな何だコラアッ(焦)! やるのかッ! よ、よし、かかってこい! いいな、一人ずつだぞ、この卑怯な鬼道衆めッ!」
一同「はあ?」
雷角「こやつ…何故……」
風角「何で俺らが鬼道衆だって知ってんだ?」
水角「ホントにねえ。岩角、あんた理由をこいつから訊いておくれよ」
岩角「うん。分かったど!」(ぐおおおっ!)
与助「ぐわあっ!? て、てやんでえ、何するんでえっ。下ろせこの野郎ッ!!」
岩角「何でおでたちが鬼道衆だって分かったんだあ?」
与助「は、はあ? テ、テメエら、何を間の抜けた事言っていやがる! その鬼面! そりゃ、まさしく鬼道衆の証の鬼面じゃねえかッ!」
炎角「OH! なるほど納得!」(びしいっ)
水角「あ、そっか」
風角「なーんだあ…」
雷角「むう…うっかりしておったわい」
与助「分かったら下ろせ、この殺人者どもめッ! テメエらをお縄にして、後の仲間の居所も吐いてもらうぜ!」
雷角「それは困るぞ。わしらのせいで今の御屋形様がお困りになるのは避けねばならん」
水角「そうだね。そりゃ困るね」
風角「よし、岩角。そいつそのままやっちまえ」
岩角「分かったどー」
与助「ひ、ひ…!?」

???「よお、ちょっと待てよ」

一同「!!???」


しかし、鬼道衆たちが与助を力の限りやっつけようとした時だった。
不意に掛けられたその声に、5人はぴたりと動きを止めた。
そこには赤茶けた長い髪を一つに結わえた、悠々とした出で立ちの剣士が1人…。


???「5人がかりで1人をやるってか? 随分、楽しそうな事してるじゃねえかよ」
雷角「き、貴様は…ッ!」
水角「そのナマイキな言い方ッ!」
風角「そのナマイキな顔ッ!」
岩角「その登場の仕方〜!」
炎角「イエ! お前は俺らのシュ・ク・テ・キ!」(びしいっ)
???「………は?」


鬼道衆「蓬莱寺京梧ッ!!」


5人が一斉にポーズを決め、突然現れた剣士を指指すと。
殺気立った視線を急に浴びせられたその剣士は、手にした刀でぽんぽんと肩先を叩きながら首をかしげた。


京梧「まあ、そうだけどよ。何だァ? 俺、お前らと会った事あったか?」



以下次号……






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