第150話 魂の双子 

  その後も次々と遅い来るモンスター(全部くさった死体の群れ)を、龍麻たちは次々と倒していった!
 正確に言うと、倒しているのはすべて壬生なのだが…。

 龍麻は様子を見ている!!
 壬生の攻撃!!

「ピシャアアーーー!!」

 くさった死体のグループに大ダメージ!!
 くさった死体のグループを倒した!!
 大量の経験値を獲得!! 10ゴールドを手に入れた!!
 戦闘終了―・・・・。←これを永遠に繰り返している感じ

「壬生…本当に凄いね。疲れてない?」

 壬生の背後でただ突っ立っているだけの勇者・龍麻。一応最初は一緒に戦おうとしたのだが、いかんせん武闘スタイルの龍麻は自らの拳が武器であり、つまりはくさった死体たちを攻撃しようと思えば、素手で立ち向かわなければならない。あまり細かく描写したくはないが、くさった死体はくさっているので、内臓から何から飛び出ていたり、体液も流れまくりで、ドロドロのドロである(何)。おまけにモンスターなので毒持ちである。そのため、魔法で中・遠距離攻撃も可能な壬生の魔法に頼りきる戦闘スタイルにならざるを得なかったのだ。

「ごめんな、壬生…。触りたくないとか言っていないで、俺も戦わなくちゃ駄目だよな」

 戦闘を終え、先に進むたびに龍麻の罪悪感は増していく。己の無力さに劣等感もバリバリ上昇する。進軍は順調だが、何気に龍麻の精神的ダメージは大きかった。

「これくらい大したことないよ。龍麻は僕の後ろにいてくれればいいから」

 実際壬生は全く平気そうだ。
 それでも龍麻は申し訳ない気持ちを拭えない。

「でも…MPも壬生ばっかり減っちゃうし。あ、せめて俺、ホイミかけようか?」
「龍麻、本当に大丈夫だから。気にしないで」
「うう…でも」
「くさった死体に直接攻撃は避けた方がいい。毒を受けやすいし、物理攻撃だと奴等の粘膜に拳を取られる恐れもあるしね」
「うん…ドロドロが凄い…」
「ここのモンスターのレベルはさほど高くないようだし、僕ひとりでも大丈夫だよ」
「………」
「何?」

 まじまじと自分を見やる龍麻に不審なものを感じたのか、壬生は改まって龍麻を振り返りみた。気づけば2人は領主の元居城(今はサクマ組の根城)の目前まで近づいている。休んでいられる場所ではないが、龍麻の様子もおかしいので、壬生は≪レムオル≫を唱えると、「少し休憩しよう」と持ちかけた。

「今の魔法何?」

 突然のんびりとその場に腰を下ろし、龍麻にもそうするよう促す壬生に、龍麻が不思議そうに訊ねた。

「姿を消す魔法だよ。一時的に敵から僕たちの姿は認識されなくなる」
「凄い…。そんな魔法も使えるんだ…?」
「龍麻も修業すれば使えるようになるよ」
「……そうかなあ」

 龍麻は壬生の隣に自らも座りこむと、きゅっと膝をかかえて黙りこんだ。
 壬生はそんな龍麻を黙って見つめる。壬生はそうしているだけで体力が回復している!(マジか)
 しかし当の2人はそのことに気づいていない!!!

「そういえばさ、壬生って何歳なの?」
「え? 18だけど」
「えっ! じゃあ俺と同じ年だ!」
「そうなの? てっきり僕は―…」

 言いかけて壬生は口をつぐんだ。しかし龍麻にも容易に分かったのだろう、ぶうと頬を膨らませて壬生を睨みつける。

「もっと下に見えてたんだろ。どうせ俺は壬生と違って子どもっぽいよ」
「いや、そんなこと言っていないよ。でもごめん、龍麻の気分を悪くさせたのなら」
「でも仕方ないんだ。そう思われても仕方ない。俺はひとりじゃ何もできない弱い奴だし。一応、ちょっとは修業もしたつもりだけど、まだ全然。モンスターによってこんな風に戦えないことがあるなんてことも知らなかったし。いや戦おうと思えば戦えるんだろうけど…」
「くさった死体とは戦わなくていいよ、龍麻は。リビングデッドと何か因縁もあるみたいだし」
「でも城に入ってからも壬生の魔法に全部頼りきるわけにはいかないよ。俺も戦う」
「……うん、分かった」

 やや間はあったが壬生が頷くと、龍麻はここで初めて笑顔を見せた。

「壬生って、強いし優しいし、本当に凄いなぁ」
「何? 急に…」
「いや、急じゃなくて。初めて会った時から思っていたけど、冷静沈着だし、いろいろなことに詳しいし、魔法は使えるし。どこで修業したの? 何年くらい修業したらそんな風になれるの? 俺も壬生みたいになりたいよ!」
「……僕はそんな大した人間じゃないよ」
「そんなことないよ! 壬生って何か…うん、俺も人のことは言えないけど、何か、自分を下に見過ぎ! 俺の場合は事実だけど、壬生は違うじゃん!」
「いや…龍麻が自分を下に見過ぎというのはそうだと思うけど、僕が大したことないというのは事実だから」
「えー、もう! 事実じゃないよっ。現に俺より強いじゃん! そこまで卑屈になるとイヤミ!」
「龍麻だって、あんなにもいろいろな仲間から慕われて、勇者なんて重責を背負っているのに、自分は大したことないって、嫌味だと思うけど」
「俺の場合は成り行きでこうなっただけだよ! みんなが助けてくれるのも、俺の力じゃなくて、みんなが優しいから!」
「みんなが助けてくれるのは、龍麻がそうしたくなるだけの魅力的な人間だからだよ」
「そ、そんなこと」
「僕にはそういうものはないから」
「………」
「何だか、変な話になっちゃったね」

 黙りこむ龍麻に今度は壬生が場を取り繕うように少しだけ笑いかけると、真顔になっていた龍麻も無理に笑ってみせた。

「うん、そうだね。…おかしいな、こういう話がしたかったわけじゃないんだけどね。俺はただ壬生のこと尊敬しているって言いたかっただけなんだ」
「僕も龍麻のことを尊敬しているよ」
「え、えーっ、やめてくれよ、そういうの!」
「なら僕だってやめて欲しいよ」
「……ふふっ」
「ふ…」

 今度は龍麻もおかしくなって笑った。すると壬生も本当に可笑しそうに笑った。
 それが嬉しくて、龍麻は隣にいる壬生にわざと大げさに倒れ込んでぐりぐりと頭をこすりつけた。

「おかしいなぁ、何か壬生と俺が似ている気がしてきた!」

 そして思ったことを言ってみた。するとそれは「おかしい」考えのはずだったのに、思った以上にすんなりと龍麻の胸の中で落ち着き、まるで失われたパズルのピースがぴたりとはまるような、そんな不思議な感覚をも呼び起こした。
 だから龍麻は壬生を見上げ、さらに頭を過ぎった想いを告げてみた。

「変だけどさ…。変なんだけど、壬生と俺って、何か近い気がするというか。何か、あったかい感じがする」
「龍麻…?」
「それに、何だか壬生の考えていることが分かるというか…。いやっ、大それたことを言っていると思うけど! けど、俺たちって本当にどこか…似ていると思う。どこがどうとか言えないし、顔のカッコ良さとかスタイルとか全部壬生が上で全然似てないんだけどね、実際は! 強さも! ……でも、でも、何か……」
「龍麻」

 すると壬生も龍麻に向かい合い、龍麻の髪に触れながら真剣な眼差しで言った。

「僕も…こんな風に考えるのはおこがましいと思っていたけど、同じことを感じたよ。何だか不思議だね」
「本当? 壬生もそう思った?」
「うん。それに僕は、そのことがとても嬉しいんだ。……とても。こんな気持ち、初めてだよ」

 壬生がそう言うと同時、不意に壬生の手の甲が光を帯びた。
 2人がハッとしてそれに目を向けると、それはすぐにまた光を失ったけれど……。
 龍麻と壬生はその後も「あったかい」気持ちを抱いたまま、お互いを見つめやった。


 2人のHP・MPは全快した!!
 2人の絆が強くなり、彼らは方陣技≪双龍螺旋脚≫を覚えた!これは2人にしか使えない凄い必殺技である!!
 しかし2人はまだそのことに気づいていない!!!



 以下、次号…!!!



  《現在の龍麻…Lv23/HP180/MP135/GOLD100》


【つづく。】
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