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  クリスが屋敷に籠るようになってから、リシュリューはさらに帰りが早くなり、2人は共に要る時間が増えた。リシュリューはクリスが日中読んでいた本の話を聴き、クリスはリシュリューから街の様子など外の世界の話を聴いた。リシュリューとしては、クリスが外に出ていないのに、そういった話題を出すのはどうかと思わないでもなかったのだが、一方で、全てを遮断してしまうことにも気がひけて、表面的にはむしろ率先してそれらの話を持ち出した。
  クリスは嬉しそうだった。リシュリューに話をする時も、また、リシュリューの話を聴く時も。控えめな風ながら、常に笑顔だ。
  だからリシュリューも嬉しかったし、そうなると夜にクリスを抱く回数も増えたから、必然的に共に眠ることも増えた。



「クリス…嫌なら嫌だと言ってくれていいんだが…」
「何、でしょうか…?」

  クリスは荒く息を吐きながらリシュリューを振り返ろうと身じろいだ。が、それは叶わなかった。何故なら当のリシュリューが背後からがっしりクリスの身体を抱きこんでいたから。この夜もクリスはリシュリューに誘われるがまま、いつもの寝室で一夜を共にした。リシュリューは体力無尽蔵なところがあるため、一晩や二晩寝なくともどうということはないのだが、抱かれる方のクリスは無論堪ったものではない。行為が終わった後もしっとりと汗をかいたまま息を継ぎ、それでもリシュリューが話しかけてきたからと必死に応えようとしているが、その声もどことなく掠れていた。
  しかしリシュリューはクリスを放したくないし、もうまた抱きたいと思ってしまっている。
  だから思い立った今の勢いで、「言ってしまおう」と思った。

「これからは寝所を一緒にしたい」
「え?」
「こうして抱き合った日は勿論、そうでない日も共に眠りたいんだ。最近ではもう殆どそうしているようなものだったが……、正式にそうしてしまいたい。クリスの寝所にある物も全てこちらへ移して、ベッドは同じにしてもらえないか」
「はい」

 クリスは即答した。

「……クリス」

  何となくその返事を予測していたリシュリューではあるが、やや躊躇い、それから抱き込む腕にぎゅっと力を込めた。

「本当にいいのか? 今すぐ返事をしなくてもいいんだぞ、明日一日考えても――」
「いいえ、喜んで。僕もそうしたいと思っていました」
「……そうか。それなら良かった」

  では明日にもすぐにそうさせようとリシュリューは言い、クリスの項に口づけた。クリスはそれにくすぐったそうな反応を示して首を微かに竦めたが、顔が見えないまでも笑んだことは気配で分かった。
  別にクリスは嫌がってなどいない。だから何も悪いことは言っていないはずだ。
  そうは思うものの、リシュリューは今一度確かめるようにクリスの背に唇を当て、「本当にいいんだな?」と囁いた。

「僕はまたリシュリュー様を不安にさせているのですか」

 するとクリスがそっと訊き返してきた。リシュリューはハッとして目を開き、「いや、そんなことはない」とすぐ返したが、クリスはそれにふっと嘆息したようだった。

「クリス…?」
「あ、ごめんなさい。でも、それなら良かったです。リシュリュー様がもう一度確認されたので、本当は僕が嫌がっているのじゃないかと不安に思われたのかと」
「…嫌じゃないのか」
「嫌なわけありません。でもやっぱり、そんな風に仰るということは、僕がリシュリュー様を不安にさせているってことですよね」
「……違う。これは俺が勝手に心配しているだけだ。クリスは悪くない」
「リシュリュー様」

  遠慮がちに身じろいでいただけのクリスが、この時は強い意思をもって身体を揺らした。それでリシュリューも思わずといった体で腕の力を弱めたのだが、クリスはそれに乗じて身体を捻り、素早くリシュリューと面と向かった。そうして、大窓から漏れて来る月光のみの室内で、しかしはっきりと分かる明るい瞳を向けて言った。

「少しでもリシュリュー様のお傍にいたいです。リシュリュー様がそれをお許し下さるのなら」
「俺は…俺も、クリスとずっと一緒にいたい」
「僕もです」

  そうしてクリスは積極的にリシュリューの首筋に腕を回し、抱き着いてきた。リシュリューはされるがまま、しかし自らもクリスの背に手を添えて抱擁で返した。こうして抱きしめてしまうとクリスの顔はすっかり見えない。ただ、それでももう、リシュリューは構わないと思った。今この瞬間、この懐に在る存在がただ大切なのだ。



To be continued…