(30) 連休という事もあって、泳げない砂浜にも近場からドライブなどに立ち寄ったような人の影がちらほらと見受けられた。うさぎは創の姿を何度か振り返って確認しながらも、海が珍しいのか、あちこち走り回っては珍しい物を探してしゃがみ込んだりしていた。 雪也がそんなうさぎや創たちに遅れてその場に着くと、砂浜へ下りる階段の手前には那智が1人で立っていた。彼女は遠目に海岸線を眺め、いつもより白い顔をやや冷たい潮風にさらしていた。 「 桐野さん」 そんな那智は、雪也の姿を認めると薄く微笑んですぐに声をかけてきた。雪也は多少面食らった。 「 来たんですね」 「 あっ…は、はい…」 思えば旅行に来てから那智と口をきくのはこれが初めてだと雪也は思った。 何故なのかその理由はよく分からなかったが、那智はこの土地に来てからひどく情緒不安定で、雪也とまともに顔をあわせる事がなかった。昨日はこの土地唯一の観光名所だという寺で合流し、昼食も共に取りはしたが、その後は昼も夜も那智の姿を見ることはなかった。那智の顔は蒼褪めていて、憔悴していて、とても声をかけられる状況ではないと思った。 もっとも涼一の方はそんな那智に構わず、昼食時もどんどんと話しかけていたのだが。 「 剣さんはまだ叔父さんと?」 そんな事を考えながらぼうっとする雪也に、また那智が声をかけた。この町に来て3日目。那智もようやく落ち着いたという事なのだろうか。彼女は静かな表情で雪也のことを見つめていた。 雪也は慌てた。 「 あ…は、はい。那智さんたちの叔父さん、ずっと涼一とチェスやりたいって言ってたのにあいつが意地悪でやってあげてなかったから。さっき強引に捕まって渋々始めてました。…けど、あいつも満更でもないみたいだけど」 「 でも桐野さんがこちらに来ると知って悔しがっていたのじゃないですか」 「 えっ…。そ、そんな事…それに終わったら、後からすぐ来るって」 「 そうですか」 海から吹いてくる風のせいで乱れた髪の毛を、那智はゆっくりとした動作で押さえつけ、そのまま目を細めて再び前方の海岸線へと視線を移した。雪也はそんな那智の横顔を不思議そうに眺めたが、やはり黙っている事はできなくて思わず口を開いてしまった。 「 その…那智さんは、もう具合は良いんですか?」 「 ……はい。すみません」 「 い、いや! 別に謝らなくても…っ」 那智がこう訊かれて落ち込んだり謝ってきたりする事は予測がついていたのに、やはり言わなければ良かっただろうか雪也はすぐに後悔した。 しかし那智はそんな雪也の表情をちらと見てから、「いいえいいえ」と先走るようにかぶりを振った。 「 すみません。あ…っ。…す、すぐに謝ってしまうのは…わ、私の悪い癖だと創にもよく言われます…。そうではなくて…本当は…こういう時は、お礼を言うのが良いのですよね。…ありがとうございます」 「 あ…いや…」 「 私は桐野さんにそう言ってもらえて嬉しいのです。いらぬ心配を掛けてしまって、本当は申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいなのですが…。やはり、訊いてもらえて私は素直に嬉しいと思うのです…」 「 ………」 那智のたどただしいながらも誠意のこもった言葉に、雪也はただ押し黙った。 「 でも…本当に恥ずかしいです。みっともないです。桐野さんや剣さん…うさぎちゃんもいるのに、私、どうしても抑えられなくて…。どうにも駄目な時は駄目なのです。…ヘンな女だと思いましたよね」 「 そんな事…」 「 でも、怖い気持ちや不安な気持ちや…色々なことが頭に一気に集まってくると…もう訳が分からなくなるのです。そうなると、何だか昔あった嫌な出来事とかも全部一気に蘇ってきたりして…。本当、何なのでしょうね?」 那智は雪也の方は見ず、最後は自身を嘲るようにそう言い捨ててからふうと大きくため息をついた。それからまたぼうっとした目で目前の海を眺める。雪也はそんな那智に何と声をかけて良いのか、やはりよく分からなかった。こんな時、涼一ならきっと何を遠慮する事もなくズバズバと思った事を口にして、そのままの勢いで押し通してしまうのだろうと思う。 そして雪也がそんな風に那智の隣で所在なくしている時だった。 「 あ……」 雪也の持つ携帯が鳴った。 「 ………」 「 桐野さん?」 絶え間なく音を出している携帯電話に反応しているくせにそれを取ろうとしない雪也に、那智が不審の声をあげた。しかし雪也はただ手元の携帯を見つめたまま、微動だにしなかった。そして煩く鳴り響いていたそれはしばらくしてからぴたりと止まり、再びただの金属の固まりとなった。 「 あの…?」 那智の声に雪也ははっとして顔をあげた。 「 あ…家からなんですけど…無駄なんです」 雪也のその台詞に那智はますます不思議そうな顔をした。それで今度は雪也が自嘲するような顔を見せた。 「 母からなんです。自宅からだったり仕事場からだったり…。色々なんですけど、何だかしょっちゅうかけてきて。でも出ると切るんです。何も言わずに」 「 何故…なのでしょうか…」 「 あの人の考える事、俺には分からないです。…もうずっと」 那智に当たっても仕方がないのに、今彼女に向けて放った自分の声はひどく怒りに満ちたものだと、雪也はもう一方の冷静な頭で思った。 母の美奈子は雪也の今回の旅行をすんなりと許してはくれたが、「必ず毎日連絡すること」などの条件をつける事は忘れなかった。雪也はその約束を違える事なく、きちんと朝・昼・夜と電話を掛けているのだが、しかし母はその電話には一度たりとも出る事はなかった。その代わり、何を思ったか時間に関係なく雪也の携帯を鳴らし、そうして何を言うでもなく黙って切るという事を繰り返してきた。そんな母の態度が雪也は空恐ろしくもあり、また腹立たしくもあった。 「 桐野君」 その時、不意に石階段を登って創がやって来た。つい先刻までは波打ち際近くでうさぎと共に貝拾いをしていた創だったのだが、背後をちらと見てから「ちょっとマズイな」と言って苦笑した。 「 どうしたの?」 那智が訊くと、創はさり気ない所作でもう一度遠くにいる人の群れに視線を向けて素っ気ない態度で言った。 「 やっぱり連休だからこんな田舎でも海に来る人はいるよね。ほら、あそことか家族連れだろう? バーベキューとかやる気みたいだ。…あまり見せたくはないな、あいつに」 「 あ……」 雪也がはたとなって目線を砂浜へやると、先刻まではしつこいくらいに創の姿を確認しながら遊んでいたうさぎが、今はぼうと立ち尽くしたまま、自分の傍近くの家族連れを眺めやっていた。そんなうさぎの後ろ姿はどことなくとても寂しそうで、手にしたままの大きな貝殻も妙にむなしく見えた。 雪也は途端に不安な気持ちがした。 「 そういえば…うさぎのお母さんって具合悪いんだろ…? 大丈夫なの?」 「 どうだろうね。命の心配とかそういう点で言えば大丈夫なんじゃないかな。有名な医者にかかっているそうだから。でも心の病気の方はどうなのかな」 「 え……」 「 そっちが大丈夫じゃないから、うさぎを俺に預けたんだろうし」 「 あの……」 「 けど、どっちかっていうとあいつが大丈夫なのかという気もする。俺は」 そうして創は混乱する雪也を置いてきぼりにとんとんとそれだけを言うと、「うさぎ!」と振り返って大きな声を出した。うさぎはそんな創の声にぴくりと反応を返し、だだっと駆け出すと素直に雪也たちの方にやって来た。 「 帰ろう。叔母さんが芋をふかしてくれている」 創が言うと、うさぎは固い表情のまま、しかしこくりと頷いた。 その後、皆で夕食を摂っている間にも雪也の携帯は2度ほど着信音が鳴った。雪也が風呂から上がって客間に戻ってきた時も、1人部屋にいた涼一は「また鳴っていたぞ」と苛立ったように告げた。 「 電源切れよ」 涼一は更にそう言って「うぜえ…」と毒づきもした。雪也は荷物の傍に置いていた携帯に近づき、着信履歴を見つめた。番号は自宅のものだった。 「 ……何なんだよ。お袋さんが行っていいって言ったんだろ。何でそんなしつこく掛けてくるんだよ?」 「 ………分からないよ」 「 …おい、何処行く?」 自分に返答をしながらも再度部屋から出て行こうとする雪也に、涼一が咎めるような声を出した。そして雪也が手にしている携帯をちらと見て、涼一は押し殺したような小さい声ながらも、不快な表情を崩さずに言った。 「 また掛けに行くのかよ」 「 ………」 「 行くなよ」 「 ちょっと…掛けてみるだけだから」 「 どうせ出ないだろ」 「 ………」 雪也が何も言えずにいると、涼一は更にカッとなったようになって立ち上がった。そしてツカツカと傍に近づくと、そのままの勢いで雪也の手から携帯電話を取り上げた。 「 あっ…」 「 俺が預かっておいてやるよ」 「 りょ、涼一…」 「 掛けるな。知らんフリしていろ。いいだろ、家から離れている時くらい」 「 で、でも……」 「 お袋さんがお前から離れられないってだけじゃないだろ。お前だって親離れしろよ」 「 ……そんなんじゃないよ」 「 そうなんだよ。お前は自分で分かってないだけだ」 「 ……違う」 涼一の決め付けたような言い方に、雪也はズキンと胸が痛むのを感じた。だからだろうか、すぐに否定の言葉が口から飛び出た。 涼一はびくともしなかったのだけれど。 「 違わない」 そうして涼一は言いながら雪也から奪い取った携帯の電源をぴっと押して消してしまった。 「 涼一…」 「 涼一、じゃない。その非難するような目はやめろ。お前の為だろ」 「 だって…俺は……」 「 だって、じゃない。いいんだろ、お前だって。お袋から離れられて、今、清清してんだ ろ? そうじゃなきゃ…お前ら、一体どっちが必要としてんだよ!」 「 ……ッ!」 叩きつけるように言った涼一の最後の台詞に、雪也はより一層の痛みを感じて今度は完全に声を失った。 どちらが必要としているのか。 涼一は何が言いたいのだろうか。母・美奈子が息子である雪也に依存しているのではない、雪也 こそが美奈子に依存していると、そう言いたいのだろうか。雪也が美奈子から離れられないのだと。 そんなわけはない。 「 違う…」 あの人を必要とした事など、自分は一度としてない。 「 違うよ…!」 意地のように、頑なに雪也はそう思った。だから、涼一の事は見れなかったが、俯きながらも必死に否定の言葉を吐いた。 「 桐野」 その時不意に背後から声が掛かった。振り返るとうさぎが濡れた髪の毛をそのままに、大きなバスタオルを持ったまま立ち尽くしていた。うさぎは寝間着のボタンを一つはめただけで、その隙間から白い腹を見え隠れさせている、実にだらしない格好をしていた。風呂から上がってすぐにそのまま脱衣場を出てきたという感じだった。 「 ……何だよ、お前は。まさかまたここで寝る気かよ」 「 寝る」 涼一の嫌そうな言葉にもうさぎは平然としていた。そして手にしていたバスタオルをぐいと差し出すと、後は部屋の入口に立ち尽くす雪也を黙ってじっと見上げてきた。どうやら頭を拭いてくれと言っているようだった。 雪也が戸惑いながらも差し出されたタオルを受け取ると、案の上涼一が思い切り不機嫌な顔で声を荒げた。 「 こら! 自分の髪くらい自分で拭け! お前何様だよ! 家じゃ、使用人にでも拭かせていたか!」 「 そうだ」 「 なっ……」 あっさりとうさぎが肯定するもので、これには涼一も面食らった。しかしすぐに立ち直ると小ばかにするような顔をひらめかせてうさぎに近寄った。 「 ああそうかよ。つまりお前はいいトコのお嬢様なんだな。だからこんな我がままで訳分からんガキに育ったわけだ。けどな、寝間着のボタンも満足につけられないで、へそまで出して、それがお嬢のやる事か? いくらガキだって少しは恥じらいってものを持てよな」 「 うるさい!」 「 俺はお前の今後を思って言ってやってんだよ! 女のくせに―」 「 うるさい! 馬鹿!」 「 あ……」 うさぎが怒鳴ると同時にやった事に、声を出した雪也をはじめ、説教を開始しようとしていた涼一も思わず口を開けたままの状態でその場に固まってしまった。意表をつかれたという事もある。けれどそれ以上にうさぎのその所作が何やらひどく切羽詰まったものに感じられ、その迫力に押されてしまったからというのもあった。 「 お前……」 涼一が微かに声を出した。しかしうさぎはそれに対して急にしっかりとした意思の持った眼を向けると、ぎっと涼一を睨み据えて怒鳴った。 「 母様が! 望んでいたからやっていただけだ! こんな髪も! こんな呼び名も! 大嫌い! お前も大嫌い!」 「 うさ…!」 止めようとしたが、しかしうさぎはそれだけを叫ぶとそのままだっと駆け出して廊下の向こうへ消えてしまった。雪也と涼一はしばらく茫然としたままその場から動く事ができず、今起きた事にもすぐに反応できなかった。 「 ったく…何もよ…」 先に立ち直ったのはやはり涼一だった。苦虫を噛み潰したような顔をして、涼一は自らの髪の毛をぐしゃりとかきむしった。 「 脱ぐことはないだろうが。フツーに言えばいいだろ? …焦った」 「 うさぎ……やっぱり……」 薄々感じていた事とはいえ、実際にその「証拠」を間近で見せられると、何とも言えず妙な違和感だけが残った。 激昂したうさぎは2人の前でいきなり寝間着のズボンを下着ごとずり下ろすと、自らのまだ幼い、けれども間違いなく「男」であるという象徴をまざまざと見せつけたのだった。 うさぎは、「白い少女」ではなかった。 「 何なんだよ。あいつのお袋、息子を女装させるのが趣味なわけ? 最悪」 「 ……ッ」 涼一のその言葉に雪也は何も返す事ができなかった。傷口を抉られるような感覚に陥り、呼吸をするのも難しくなった。しかし苦しそうに胸に手をやると、涼一が気づいたようになってそんな雪也に怪訝な顔を向けた。 「 ……? どうかしたか、雪?」 「 な……」 何でもない、と言おうとして、けれど雪也はまた声を詰まらせた。瞬間、ドクンと頭の中に直接何かが響く音がして、同時にどっと冷たい汗が身体中から噴き出してきた。 「 おい…雪……」 「 ………」 いよいよ心配そうな声を出す涼一に、それでも雪也は返答できなかった。かと言ってその場に座り込む事もできず、雪也は自身でただ困惑した。 その時、廊下から誰かが近づく音がして、それに気づいたと同時に雪也に声が掛けられた。 「 桐野君、電話なんだけど」 部屋にやって来たのは創だった。うさぎが取り乱してこちらから駆けてきた事を知っているのだろう、尋常でない2人の様子に驚く風もなく、ただ創は無機的な顔のまま雪也に再度告げた。 「 家から。お母さんみたいだよ。ここの電話番号、教えていたんだ?」 「 な…? そうなのかよ、雪!」 怒ったような涼一の声すら遠くに聞こえたが、それでも必死にその場にとどまり、「うん」と雪也は頷けた。そして「母からの電話」という創の言葉で、次第に意識もはっきりと戻す事ができた。 「 ……留守電だったけど、連絡先は教えるって約束していたから…。叔母さんにここの番号聞いて入れておいたんだ」 「 馬鹿か!」 「 そう? 君は親に連絡してないの?」 「 煩ェな!」 創に乱暴にそう言い捨てる涼一をちらと見てから、雪也は電話の元へ行こうと足を動かした。思ったよりも動く。背後で創と涼一が何やら言い合いをしていたが、電話口へ近づくにつれてその声は全く聞こえなくなった。 電話は居間の入口の隅に置かれている長方形の木棚の上にあった。 雪也はよろよろとしながらも受話器を取り、「もしもし」と声を出した。その声は少し掠れていたかもしれなかった。 「 ………」 受話器の向こうからは荒い吐息だけが聞こえた。けれど雪也は電話口の向こうにいるのは間違いなく母だと思った。 「 もしもし、母さん?」 「 ………何よ」 最初に聞こえてきた母の声は、ひどくくぐもっていて良く聞こえなかった。雪也は必死に受話器を耳に押し当て、その声をよく聞こうと神経を研ぎ澄ませた。 「 もしもし? 何で母さん、電話に…」 「 あんた、何やってんの?」 「 え…?」 陰のこもったその濁った声に、雪也は一瞬声を詰まらせた。酔っている時の母だ。咄嗟にそう思った。 「 何やってんのって訊いているの」 「 何って……」 「 アタシが何度電話したと思っているの」 「 ……知っているよ。だから―」 「 帰って来なさいって合図でしょ。何でそれが分からないの?」 「 ………」 ぴしゃりとした物言いに返す言葉がなかった。 「 1人で勝手に訳の分からない家に上がりこんで。おまけに、護ちゃんならともかく、違う男と一緒なんでしょ? 大体誰よ、創って。それに涼一って男はどうなったわけ。まったくどうしようもない子だわ。何考えているのか分からない。護ちゃんも護ちゃんよ。電話したら、あんたが何処に行っているのかとか全然知らないじゃない。あんたが他の男と一緒だって教えてあげても平然としているし。おまけに訳の分からない説教までしたわよ、アタシに! このアタシに! アタシに…ッ! 何様のつもりだ、あのバカは!」 「 な、何言ってるんだよ…!」 護を罵倒するその言葉にさすがにカッとなって雪也は声を出した。しかしそれは母・美奈子の怒りを余計に誘っただけだった。 「 何じゃないよ。バカといやあ、お前もそうだ! アタシがどういう気持ちで今まであんたを育ててきたか分かるか? 面倒見てきたか分かるか? 1人で勝手に大きくなったような顔して、男ができたらハイ、サヨウナラって、そんな事が許されると思っているのか? そんな事…そんな事、絶対許さないよ! アタシから逃げられると…逃げようと思っているだろ、逃げる気だろ! アタシの、アタシの事…アタシを、アタシを、捨てる気か! え、えええ!? どうなんだ、はっきり言いな!」 「 ……ッ」 クラリと目眩を感じた。これ以上何も聞きたくない。心の中で完全に拒絶していた。 「 か……」 けれど雪也は一方で母の言葉を、自分を罵倒するその声を聞く為に、必死の思いで受話器を握り締め、それを耳に当て続けた。聞かなければ、聞いていなければと頑なに思った。 「 母さん…」 だが激昂している母の言葉はやがて人の物ではなくなり、次第にヒステリックな叫び、意味不明な音となって、最早雪也の元へは何も届かなくなってしまった。 どうしようもない吐き気だけが雪也を襲った。 ハヤク、カエッテコイ。 アタシヲ、ステルキカ! ただ。 目をつむっても聞こえてくるその2つの言葉だけは、雪也の胸にじんじんと響いていた。 |
To be continued… |