(9) 自分から誰かの温もりを求めた事がない。 誰かに自らの手を差し伸べて、もし拒絶されたらと思うと怖かった。手を払われて近づくなと言われて侮蔑の視線を向けられるのが嫌だった。 一番の拠り所にしていた姉に去られた時、友之はその思いをより一層強めた。 兄が去った時は…それとはまた別の感情が支配していたのだけれど。 「 友之……」 深夜、突然友之の寝床にやってきた沢海は、まるで縋るような声で何度も何度も名前を呼んだ。そしてその度に背後からキスをしてきた。 友之は頭の中が真っ白になった。 「 ひ…ん…っ」 抗議するようにうめき、友之は何度も身体を捩じらせてそんな沢海の所作から逃れようとした。けれど沢海はそれを許してくれなかった。 これだけ身じろいでいるのだから、友之が起きているという事にはもう気づいているはずだ。それでも沢海は強引な所作を繰り返してきた。 「 どうして……」 その時、微かに何かを問い質すような沢海の声が聞こえた。 「 ……?」 何を訊かれたのか分からずに、友之は眼をつむったまま眉を潜めた。けれど沢海はそんな友之には構わず、ついに片方の手を友之の寝間着の中に差し入れてきた。 「 やっ……」 沢海の手は意外にもひやりと冷たくて、腹にその手を当てられただけで友之は驚いて声を上げた。沢海はそれでも別段自分の動きを止める様子も見せず、友之の上着をたくし上げると更に腹から胸へと自らの手を動かしていった。そうしてゆっくりとなぞるように友之の素肌を撫でた。 「 拡……ッ」 たまらずに友之はようやく呼んだ。蚊の鳴くような声とはこういう事を言うのだろうが、それでも確かに沢海を呼ぶ声は出たと思った。 「 ……………」 けれど沢海は何の反応も示さなかった。 それどころか更に背後から身体を密着させてくると、まるで友之を追い詰めるようにぎゅっとその拘束を強め、身体を撫でる触手を更に大袈裟に動かし始めた。 「 ひろ……」 それで友之はもう一度呼ぼうと再び唇を開きかけた。まだ怖くて目を開く事はできなかったけれど。 しかしそんな相手にはやはり一切構わず、沢海は友之の胸の位置にまで手をもぐりこませると、その突起の部分に指をかけた。 「 ……!」 びくんとして友之は身体を震わせたが、沢海はそれで余計に触発されたようになり、そのままの勢いで友之の乳首を指でつまみ、何度もしつこく指を絡めた。そうして、同時に項へのキスも連続して行ってきた。 「 嫌…拡……」 恐ろしくて相手がしている事が信じられなくて、友之はただただパニックに陥った。けれどその心とは裏腹に、身体は思うように動かない。沢海に好い様にされるだけだった。 「 嫌……」 ただ言える事は、やめてほしいと言う事を訴える言葉だけで。 「 そんなに嫌いか……俺のこと」 その時、沢海が耳元でそう囁いてきた。それで友之はようやく目を開き、そんな沢海の方を振り返ろうとした。 けれど沢海はそれすら許してはくれなかった。 わざと首筋へのキスを続け、それから執拗に責めていた友之への愛撫を今度は下半身へと向けて行く。ズボンの中へと手を差し込み、そのまま友之の下着に触れた。 「 ひ……っ」 「 大丈夫だから……」 沢海は恐ろしいほど冷静な声で言った。 そうしてがくがくと身体を震わせている友之を背中から威圧し、抑えつけて、片手を友之の下着の中へ侵入させ、性器に触れてきた。 「 ……ッ!」 「 友之……」 沢海がしてきている事がただ信じられなかった。そして、自分の身体の熱が一気に上昇するのを友之は感じていた。 自分ですらそんな事をした経験がないのに、友之は沢海に性器に触られ撫でられ、そして握られて、今まで味わった事のない感覚を一気に与えられた。どうして良いか分からずに、頭がおかしくなる程妙な気持ちになって、友之は声にならない声でただ喘いだ。 「 いいよ…我慢しなくて……」 沢海が分かったような口調で友之の耳元で言ってきた。それから耳朶を噛まれて友之はそちらの刺激にもいちいち反応して身体を揺らした。そして沢海に与えられる愛撫に、友之の性器も徐々に頼りなげに勃ちあがり始め、外への開放を欲し始めた。 「 ひ…拡……っ」 恐怖が絶頂になり、友之は助けを求めるように呼んだ。 沢海は今度は応えてくれた。 「 何」 「 や…やめ……」 「 ここでやめたら友之が困るよ」 その言い方はひどく意地悪なものだった。そうして更にぎゅっと友之の性器を握りこんできて。 「 やぁ…ッ」 友之も遂に声を上げてしまった。背後でそれに満足したような声が聞こえてくる。 「 可愛いな……」 「 ………!」 言われたくない言葉なのに。 友之は自然と落ちる涙にはっとして、それからまたぶるぶると身体を震わせた。そして今にも発しそうになるのを必死にこらえる。 「 我慢しなくて良いんだよ、友之?」 「 う…う……」 沢海の台詞でどうしようもなく情けなくなり、友之は遂に嗚咽を漏らした。けれどとどめのように沢海に新たな刺激を与えられた時にはもう放ってしまっていた。 「 ……ッ!」 「 良かった? 友之?」 言われてまた一気に涙が溢れた。沢海の手に射精してしまった事も勿論ショックだったが、何よりこのいつも優しい同級生がしてきた事自体が友之にはショックだったのだ。 「 泣かないで……」 耳元でまた囁かれた時、友之はようやっと身体を動かす事ができた。一瞬、沢海の拘束の力が緩められたからだ。身じろいで、けれどすぐ後にまた声が聞こえた。 「 好きだよ……」 「 ………!」 それは本当に思いつめたような声で。 「 好きだ…友之のこと……」 「 ひ……」 「 だから…もう…俺………」 「 ひ……や……っ?」 不意に寝間着のズボンを下げられたのが友之には分かった。ぎくりとして再び暴れようとしたが、その瞬間、背後から抱きしめてくる沢海の性器がひどく上気して自分の身体に当たった。 「 やっ…!」 「 分かるか友之…お前だよ…お前が俺をこんなにしてるんだ…」 「 は、離し……!」 「 嫌だ……」 「 拡…ッ…」 恐ろしくて、けれどどうする事もできない。助けを求める声すらもう掠れてしまっていた。ただ訳も分からず、涙が出た。どうして沢海がこんな事をするのか、まだ分からない。先ほど言われた台詞の意味も理解できない。 ただ怖くて。 「 …っく……ひっ……」 混乱するまま、嗚咽を漏らした。がたがた震える身体も、止める事ができなかった。自分は一体今どんなみっともない格好でこの同級生に後ろを晒しているのか。考えただけで情けなくなって涙が出た。 「 ……泣かないでくれよ」 その時、再び沢海が言った。 「 頼むから」 ふと気がつくと沢海は上体を起こし、友之から顔を背けていた。その表情は、振り返っても泣きはらした自分の目には、よく見る事ができなかった。 「 ……本当……頼むから………」 それでも友之には分かった。 沢海は泣いているのだと思った。 |
To be continued… |