(2)



  次に姿を見つけたのは、サークル勧誘も大賑わいなオリエンテーションの時だった。新入生はその期間に様々な講義を体験しながら、各自で時間割を組む事になっていた。
  もっとも多くの学生たちのお目当ては、その間に先輩たちが大掛かりに展開する部活・サークルの勧誘を受ける事で、彼らはそこから自分が4年間居座る「居場所」を見つける事を望んでいた。
  既に高校の時の仲間たちとその「居座る場所」を定めていた涼一は、その空気に当てられながらも、どれにも興味の湧かない顔でキャンパス内を歩いていた。……が、歩を進める毎に掛けられる勧誘の声にさすがに辟易し、まだ立ち寄っていない図書館棟に足を向ける事にした。

  そこに、あの時の青年はいた。
「あ…あいつ」
  涼一は思わずそう口に出してしまったが、慌てて口を閉じた。外とは違って全くの静寂に満ちているそこで、自分の声はいやに響いたように思えた。
  ただ青年はそんな涼一の存在には全く気づいていないようだった。何か目当ての物があるというわけでもなさそうだが、ぼんやりとした様子ながらも立ち並ぶ書棚の列をゆっくりと読み進めていて、周囲にはまるで頓着がないようだ。

(やっぱり1人になりたくて来てんのかな、こういう所)
  心の中だけでそう思い、涼一は何となくその青年の後をつけた。
  声をかけようか。その事を迷っていた。
  あの時は何の躊躇いもなく気軽に何をしているのかなどと話しかけたが、明らかに相手は迷惑そうだった。涼一はそういう相手の反応などあまり気にせずどんどん押して仲良くなっていくタイプだったが、何故かこの青年にはそのいつもの方法でいっていいのか、少しだけ踏ん切りがつかないでいた。
(…と いうよりも、何で俺はあいつと話してみたいんだろ)
  そういう疑問もあった。
  勿論、誰とでも仲良くできる自信はあるけれど、向こうが望んでいないのに煩くつきまとう趣味はない。自分に対してそういう思いを抱く人間に会った事はなかったが、それでももしこの青年がそういう「話しかけてくれるな」というタイプの人間ならば、こうまでして自分が接近する理由はないだろうと思ったのだ。
(でも………)

  何か、話してみたい。

  涼一の中でそんな思いがただどうしようもなく強くなっていた。
  周りにいないタイプだからだろうか?
(よし、やっぱり話しかけよう!)
  けれどそう決意して更に接近した時。 尻ポケットに入れていた携帯が震えた。
  幸いバイブに切り替えていたので音は鳴らなかったが、突然のそれに涼一は完全に意表をつかれた。

「ったく…何だよ……」
  相手は藤堂からで、何処にいるのか早く来いという催促のメールだった。
  涼一はハアとため息をついてから、名残惜しそうに近くで書棚の本に目を向けている青年の横顔を見やった。


  今度会った時は、絶対に声をかけようと思った。



 
To be continued…



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